リリカルらっきょ Es ist Hilfe für Sie.―貴方に救いを― 作:うるしき
こちらをリメイクした作品となります。
以前読んで頂いていた方も初めての方も
少しでも、楽しんで頂けたらと思います。
それでは、どうぞ。
救済願望 プロローグ
――それでも、貴方の夢は生き続けるわ――
願ったのは二人の幸せな未来。
―――そこにオレが居ないのは、
酷く悲しいけれど。
だけど、その言葉を聞いたときに
確かにオレは、
ほんの少し救われたんだ。
全部無駄じゃなかったんだなってさ。
「―――あ、約束守れなかったな」
少年と交わした一つの約束。
それは本当に些細な約束だったけれど
彼には大切な約束で。
もしかしたらそれが彼にとって、たった一つの心残りかもしれない。
「あぁ…、死にたくないなぁ」
満足気な顔をしつつも、何処か寂しげに呟いた言葉を最後に、暗闇のセカイに漂っていた彼は
プツリと、その意識を途切れさせた。
―魔法少女リリカルなのは Es ist Hilfe fur Sie.
始まるぜ―
救済願望 プロローグ
―――♪―――♪
まるで画用紙に黒をぶちまけたかのような空の下、彼は無邪気に何処かで聞いた歌を
口ずさんでいた。
ちょっと跳ねてみたりして、
くるりと一回転。それに合わせて
紺の着流しの裾がふわりと。
「―――はは」
気分は最高、どんどんと高揚していって
気付けば走り出していた。
視界に入るもの全てが彼にとって新鮮で、
胸の鼓動は速くなって。
こんなに気分がいいのはいつぶりだろ、と
彼は笑みを零した。
ここ――海鳴市の街路樹が立ち並ぶ道路。
すれ違う人々はそんな彼をみて頬を緩ませる。
だって、あんなにも彼は幸せそうで
楽しそうなのだから。
無邪気に、口ずさむ歌にリズムを乗せて。
テンポよく走り抜ける彼の視界は、
横に流れていく背景など気にも留めていない。
時折、彼に声を掛ける茶髪や金髪の人がいるも、彼は気付いてないのか通り過ぎて。
「―――へぇ」
はた、と足を止めた。
特別な何かを視たわけじゃない。
ただ、ふわりと夜風に乗って匂いが
彼に届いただけ。
口角をほんの少し吊り上げた。
ぞくぞくと背筋に刺激が走り、彼の本能を
目覚めさせる匂い。
今日は最高(サイアク)な日だな、
そう語る彼は確かに機嫌が良さそうだった。
匂いは見知らぬ路地裏から漂ってきているらしい。そう当たりをつけて歩き出す。
一歩、また一歩と足を進める度に香る濃厚な匂い。
光すらない闇のセカイ。
まるでブラックホールみたいなセカイ。
歩を進める彼を吸い込もうとしているようで。
ピチャリ、踏み締めたアスファルトからそんな音がした。
――雨なんて降ってなかったけどな――
込み上げる笑みを堪えるように、彼は嘯いた。
水気を帯びた足音は、路地裏に響き渡っていて、彼の存在に気付いた何かの動きを感じとる。
「鼠にしちゃあ、―――大きすぎるよな」
“―――”
「あぁ―――、安心しろ。オレは同類だから」
“―――”
「逃げるなよ? 逃げたら追いかけたくなる」
からからと可笑しそうに笑う彼。
光が一切立ち入らない路地裏(セカイ)の中でも、彼は自身が歩く道の上が何なのか
気づいているのだろう。
咽びそうな程、濃厚な鉄の匂い。
彼が履いている編み上げブーツの底は、
元の色が分からないほど
赤黒く染まっていた。
着流しの裾回りが染め物のように
斑点がポツリポツリと。
うっすらと見え始めたセカイの中、
踊るように進んでいく。
幼子が雨の日に、歌を歌ってステップを
踏んでいるように。
世界に、光が舞い込んできた。
彼の姿を照らす月光はスポットライトのようで。
舞台の主役が進む度に光も大きさを拡大させる。
そこで初めて、彼はセカイの色を認識した。
赤、赤、朱、緋、紅。
真っ赤な血の池が広がっていた。
「よぉ、逢いたかったぜ―――
―――殺人鬼」
池の中心に向かって彼――両儀 織《リョウギ シキ》は、暗闇でも映える蒼い眼で語りかけた。