とある科学の《絶対零度》   作:魔王の後継者

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遅くなりました。
久々の更新です。


妹達≪シスターズ≫
14 マネーカード


夏休みも中盤にさしあたった8月10日。

夏の照りつける日差しに熱された灼熱の空気を身に纏いながら、蒼は一人で街路を歩いていた。

 

 

「あっつういーー……」

 

 

こんなにあの町は暑くなかったぞ……と愚痴をこぼしながらとぼとぼと歩く。

確かにこの町は暑い。

コンクリートで完全舗装された地面は直射日光を受けその熱を吸収し、大気に放出する。

その熱で暖められた空気が蒼の感じるこの暑さの原因の半分だ。

土の地面で、コンクリート舗装がほとんどされていない田舎町とは暑さが違って当然だろう。

そして感じている暑さの原因の半分以上の理由はその格好にあると言えるだろう。

真夏なのに長袖。

熱がこもらないような素材で作られてはいるものの、服は本来の熱を閉じ込め寒さを和らげる機能を発揮して暑さを増強し、蒼を苦しめていた。

蒼がこんな恰好をしているのにはもちろん理由がある。

単純に蒼は直射日光に弱いのだ。

学園都市最強クラスの能力者であるLEVEL5の一人の蒼だが、存外弱点は多いのだ。

 

ボーっと何を考えるでも無く蒼は歩いていた。

7月の内に夏季休暇の宿題を終え、何もやることもなかった蒼はなんとなくの感覚で出かけたのだがこれが良くなかった。

蒼は一人で出かけて当てもなく歩き続けて30分、見事に迷子になったのである。

何故にこの男は方向音痴を自覚している癖に路地裏の道などを通りショートカットしてみようなどと無謀なことを考えるのかなど彼に対してのツッコみたいところは満載だ。

そうして当てもなくただ直射日光を避けるようにして路地裏を歩く。

 

この暑さの中外に出るのは馬鹿のやることだったなあ……。

 

暑さにやられ、項垂れる。

とぼとぼと歩いていると、ふと思う。

 

あれ、こんなにも路地裏の道って人が多いものだっけ?

 

気づいたのは、人通りの多さ。

現在蒼が歩いているのは路地裏。

薄暗くて湿気も多く、監視カメラの死角にすらなっている様な場所。

到底普段から人通りがあるようになどとてもではないが思えないような場所だ。

だがすでに路地裏に入ってからもう5人とすれ違っている。

この路地の雰囲気からすると異様な多さの人通りだ。

すれ違ったのは小学生くらいの男児や、中学生くらいの女子、それに女子高生らしき二人組や、少々ガラの悪い男。

一見して彼らには共通点が無い様に見える。

だが、彼らに共通する点が一つだけある。

それは皆、足元を見ながら歩いていること。

皆一様に、何かを探すかのように下を見ながら歩いているのだ。

 

まさかみんなこのあたりで落とし物をしたわけでもあるまいに。

一体何をしているのやら。

 

そう思い、俺も下を見ながら歩いてみる。

 

何か意味のある行為なのだろうか。

流石にあるか、意味がなければ何人もこんなことはしないだろうしな。

 

軽い気持ちでそのまま歩いていくと、だんだん人通りが少なくなっていく。

いつの間にかより細い道に入り込んでいたみたいだ。

 

 

「ふむ……ここには人もいないな」

 

 

立ち止まって適当に周りを見回す。

かなり入り組んだ道に入り込んだみたいだ。

ふう、と軽くため息をつくと、ふと道の端にある室外機の下、そこからはみ出た白い封筒が目についた。

 

何でこんなものが……?

 

封筒を手に取り、裏も見て見るが、何も書いていない。

 

落とし主の手掛かりはなさそうだな。

まさか封を切って中身を見る訳にもいかないし、どうしたものか。

 

そんなことを考えながら封筒を手に持ってなんとなく持ち上げたりして見ると、封が空いていることに気づく。

もしかしなくても、最初から開いていたのだろう。

さて如何したものかと首をひねる。

 

……しょうがない、他に如何こうする事も無いし見るか、中身。

手掛かりを探すためだ、うん。

 

他に何もすることもないので、自己弁護をしながら中身を取り出してみる。

すると、中から出てきたのは金色のカード。

学園都市において最もメジャーなプリペイドカードの一つ。

マネーカードだ。

カードを摘み上げて顔の前に持ってくる。

 

……まさかの貴重品だよコレ。

というかアレだな。

コレだ、みんなが下見て歩いていた理由。

きっとみんなこれを探してたんだな。

何でそう思うかって?

だってこの封筒よく見たらもう一つあるもの。

ここから60m位離れた4つ先の室外機の下にも。

 

取り敢えず歩いてもう一つの封筒も広い、やはり封が空いていたので一応中身を確認してみると当然の様に中にマネーカードが入っていた。

どうせ置いたのは同じ人物だろうとあたりをつけてマネーカードを一つの封筒にまとめる。

さて如何したものかとボリボリ頭を掻きながらボーっと考えていると、曲がり角から人の声が聞こえてきた。

 

 

「……取り敢えず風紀委員(ジャッジメント)のとこに持ってくかな」

 

 

そう呟いてから封筒を上着のポケットの中に入れ、ズボンのポケットから携帯を取り出し、ルート検索アプリを起動する。

風紀委員(ジャッジメント)一七七支部へ向けて、先程と同じような重い足取りで歩き始めた。

 

 

 

 

 

 

 ● ○ ● ○ ● ○ ● ○ 

 

 

 

 

 

 

「こんにちは~」

 

 

風紀委員(ジャッジメント)一七七支部につくと、見知った顔が何人か座ってお茶をしていた。

ソファに座ってくつろいでいるのは御坂美琴。言わずと知れた常盤台のエース、超電磁砲(レールガン)だ。

対面にその後輩で空間移動能力者(テレポーター)の白井黒子が座り、蒼の妹である御桜和が二人にお茶汲みをしている。

 

何でそんなにくつろいでんのさ、アンタら。

 

そんな中でもパソコンに向かって仕事をしている真面目な子が初春飾利だ。

 

……今日は固法先輩はいないみたいだな。

 

 

「あれ、兄様どうなさったんですか? 」

 

「いや、ちょっとこんなものを拾ってな」

 

 

室内に入って挨拶した俺に軽く手を上げながら美琴が返事をし、黒子もこんにちはですの、と返してくる。

和が俺に用事を訊ねてきたので封筒を取り出しながらそう言う。

その封筒を見て和が少し疲れた様な表情を浮かべた。

 

 

「兄様も拾われたんですか? 」

 

「俺も、と言うことはやっぱり路地裏で下を見ながら歩いてたやつらはこれを探してたんだな」

 

 

封筒の中からマネーカードを2枚とも取り出しひらひらと指でつまむ。

そのままマネーカードを興味の薄そうな目で一瞥した後、ゆっくりとテーブルの上に置く。

カードに向けられていたわずかな興味はテーブルの上に置いた瞬間に霧散し、失った興味を補填するかのようにそれを美琴達へと向ける。

 

 

「それで、御坂達もマネーカード(これ)を拾われたんですか? 」

 

「あーうん、私と黒子がね。

買い物先にショートカットしようと思って裏道通った時に」

 

「なるほど」

 

 

裏道で拾ったのか。

携帯を取り出して地図アプリを起動する。

拾った場所を訪ねて地図アプリで見てみると監視カメラも設置されていないような細い道だった。

そのあと初春に話を聞くとここ数日第7学区のあちこちでマネーカードを拾ったという報告が上がっているらしい。

蒼や美琴達もその一人だということだ。

当然報告せずに猫糞(ネコババ)してるような奴もいるようで、たぶんさっき見たような積極的にマネーカードを探してるような輩であろうが、実際は報告の倍以上になりそうだということだ。

 

 

「でもそんな話、わたくし聞いていませんわよ? 」

 

 

話を聞いた黒子が初春に言う。

初春は特に表情を変えることなくこちらを向いて説明を始める。

 

 

「貨幣を故意に遺棄・破損する事は禁止されていますがマネーカードは対象外ですので特に通達はしていません」

 

 

なるほど、別にマネーカードをばら撒こうがどうしようがルール的には問題ないのか。

それで白井は知らなかったわけだな。ふむ。

それにしてもなんでまた、マネーカードなんかをばら撒いているのかね。

 

初春の話を聞きながら疑問に思う。

だが初春の話が続いているようなので思考を一旦打ち切って話を聞く。

 

 

「カードの金額はまちまちで下は千円くらいから上は五万円を超えるようなものまで、決まって人通りの少ない道に置かれています。

カード・封筒ともに指紋は出ていません」

 

 

いやほんと何を考えてるんだその人は。

いったいこれにいくら使ってるんだその人。

かなりの金額を使ってるだろう。

金持ちの道楽ならいいけど、こう、人通りの少ない道に決まって置かれているっていうのが気になるな。

なんと言うか、まるで監視カメラの死角に人の目による監視網を作っているかのような……

そんな感じだ。

 

初春の話をそこまで聞いたところで思った。

実に下世話な話ではあるが実際相当な金がかかっているであろうことは間違いなく事実だ。

何か厄介なことが絡んでなければよいが、と思う。

初春が話を続けるようなのでもう一度思考を打ち切る。

 

……意外と長いな、この話。

 

 

「ただ、もう結構噂が広がっているので宝探し感覚で裏道をうろつく人も多いみたいですね」

 

「噂になってたんですか……知らなかった」

 

「兄様はその手の噂に疎いですからね」

 

 

初春の言葉にボソリとつぶやくと横で和が一言いう。

黒子たちもああそれで……と言っているところを見るに、噂には疎いようである。

 

 

「それで、問題は無かったのですが、今度はカードを奪い合ったり武装無能力集団(スキルアウト)の縄張りに入り込んだ学生が絡まれたりで……」

 

「放っておく訳にもいかなくなってきたというわけです」

 

 

初春の話の最後を拾って和が話を締める。

黒子も難しい顔をしているところを見るとこれから彼女たちは忙しくなりそうだと蒼も思う。

黒子はため息をついて椅子から立ち上がると美琴に言う。

 

 

「お姉様、残念ですがデートはまた今度…………」

 

 

本当に名残惜しそうな表情でそう言う黒子に、美琴は笑顔で言う。

 

 

「ううん、私一人で行ってくるから気にしなくていいわよ」

 

 

本人は気を使わせないように言ったつもりかもしれないが、黒子は軽くダメージを受けていた。

美琴はじゃあね、と軽く挨拶を告げて部屋から出ていった。

それを見届けた蒼も、カップに注がれた紅茶をぐいっと飲み干し、立ち上がる。

 

 

「んじゃ、俺も帰りますね。

皆さん頑張ってください」

 

「あ、はい。ありがとうございます兄様」

 

「さようなら、蒼さん」

 

「お、お疲れさまです」

 

 

和、黒子、初春がそれぞれ別れのあいさつに対する返事をくれたのを聞き取ると扉を開けて外に出る。

そして青空を見上げて思う。

 

 

…………………暑いし、部屋帰って寝るかな。

 

 

思い立ったが吉日とでも言わんばかりに思考を即決し、寮に向けて歩き出す。

さすがに何度か来て風紀委員(ジャッジメント)一七七支部からの帰り道くらいは覚えているので今は携帯のアプリは使っていない。

寮に帰るまでの道すがら脇道があるたびにそこを覗き込んでみる。

噂になっているというのはやはり本当らしく、かなりの人がわき道に入っていっている。

 

…………宝探し気分、と初春は言っていたか。

 

初春の言っていた言葉を思い出しながら脇道に入っていく面々の表情を観察してみる。

すると、なんだか楽しそうな表情を浮かべているものが多いことに気が付く。

 

…………宝探し、か。

おそらく金が手に入って且つ探す過程を楽しめているこの状況はまさにその通りなのだろう。

彼らはそこに潜んでいる危険性、スキルアウト等には目を向けてはいないんだろうな。

 

そう思う。

楽しむのはいい。

悪いことなわけはない。

だが同時に楽しむだけで良い訳が無い、と蒼は思う。

ただ目の前のことを楽しむことだけに没頭していれば、気を付けていれば回避できた危険を回避できない。

だからこそ、そうはいつでも楽しみながら周囲より一歩引いているのだ。

危険に、誰より早く気付けるように。

 

そして、そうやって生きてきた蒼の勘が告げていた。

近いうちに、身近なところで何か不吉なことが起こる予感を。

 

 

 

 

 

 




第4話でしたー。今回から妹達≪シスターズ≫編です。
次回更新はいつかは分かりませんがきちんと更新しますのでよろしくお願いします。
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