とある科学の《絶対零度》   作:魔王の後継者

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08 柔能く剛を制す。

うあー。眠い。

昨日の夜じゃなくて朝にトレーニングはするべきだったかな……。

なぜ維持トレーニングだけで止めておかなかったんだ……。バカですか俺は……。

いや、しかし、ホント眠い……。

 

ふぁ、とあくびをしながら歩く。

もう昼前なのだが全然眠気がとれない。

まあ、週に四、五日は何もなしに眠いのだが。

 

レベルアッパーの調査の約束してなかったら部屋で寝てたのにな……。

 

 

「どうしました?兄様?」

 

「眠いんだ」

 

 

和の問に即答し、そのまま歩く。

くそー。約束してなければなー。

今頃布団の中で夢見心地だったはずなのになー。

ぼーっとしながら歩いているとふと、和が立ち止まる。

……ん?和は何を見てるんだ?

 

 

「……佐天さん?」

 

 

和の視線の先を追うとどこか虚ろな目をした佐天が見える。ふらふらとしていて少し足取りが危ない。

昨日は言い過ぎましたかね?……まあ、良いですか。

さっと視線を切って前へ進む。

 

 

「……兄様」

 

 

何だよ。言わなきゃ俺は何もしないよ。慈善家じゃあないですからね。

あの様子じゃ心配になるのは分かりますけど。

すると、俺の考えを読みとったのか和は頬を膨らませる。

 

 

「私は追いかけます」

 

 

そう言い、佐天の消えた方へ走っていく和。

……あー、もう。やっぱこうなりますか。

 

 

「しょうがないか……」

 

 

そして、俺は二人のあとを追った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

…………これはこれは、また何とも言えない状況ですねえ。

佐天と和のあとを追った先でもめている複数の人に出くわした。正確にはその状況を見ている佐天を俺たちが見ているという状況が正しいのですが。

……聞こえてくる会話から察するにレベルアッパーの取引現場、しかも交渉決裂したところだろうか。

不良とおぼわしき男の蹴りが太めの男性の腹に入る。

 

 

「…………ッ!」

 

 

思わず飛び出そうとする和を右手で制し様子を見る。

男達に見つかり足早に去ろうとする佐天の足が止まる。

…………さて、どうします?佐天。

 

 

 

 

少し迷ったあと佐天は振り返り男達に向かい合う。

そして、男達に向かって言った。

 

 

「もっ もうやめなさいよ!」

 

 

佐天の言葉に男達の動きが止まる。

 

 

「その人ケガしてるし、す……すぐに警備員(アンチスキル)がくるんだから」

 

 

震えながら佐天がそう言い切る。

 

……よく言った!よく言いきったな佐天!

 

 

ふるえる佐天に男の一人が近づく。

そして佐天の横の壁に蹴りを入れ、佐天を脅す。

 

 

「今何つった?」

 

 

おびえた様子の佐天に男が次の言葉を紡ぐ。

 

 

「ガキが生意気言うじゃねーか。何の力もねえ非力な奴にゴチャゴチャ指図する権利はねーんだよ」

 

 

………………

ちょっとイラッとするな今の言葉。

 

 

「…………ハイ、ストーップ。ソコまでですよ」

 

風紀委員(ジャッジメント)です」

 

 

俺と和の登場に男達と佐天が驚く。

しかし驚いた表情を男達が見せたのは一瞬で、次の瞬間には油断した表情を見せる。

 

 

「何かと思えばガキが二人ばっかし増えただけじゃねーか」

 

 

外見だけで相手を判断しやがって。そう言いながら近づいてくる男の足を払い、バランスを崩した男をそのまま地面へと叩きつけた。

 

 

「「!」」

 

 

一瞬で地面に叩きつけられ気を失う男を見て残りの二人が驚く。

気を失った男を一瞥し残りの二人へ視線を向ける。

 

 

「一応忠告しておきますが、向かってくるなら叩いて潰す」

 

 

低く鋭い声が響く。

それを聞いて一人の男がぴくりと眉を動かす。

そして腕を動かすとふわりと鉄パイプが持ち上がる。念動能力者(テレキネシスト)か。

 

 

「言ってくれるな。どうやら能力者のようだが、ガキのくせにその鼻につく高慢ちきな態度イラつくぜ。……その高く伸びた鼻ヘシ折ってやるぜっ!!」

 

 

…………まだ能力使って無いんだけどな……。

そう思いながらそれを避けようとすると横から和が前にでる。

ん?何を……?

 

 

「せい!」

 

 

和に触れた物体が全て跳ね返る。……ああ、そう言えば反射能力だったか。

まっすぐは跳ね返さなかったようで鉄パイプは男に当たらず落ちる。

そして驚いて唖然としている男の鳩尾に正拳突きを叩き込む。

鳩尾に正拳突きを食らった男が倒れ残りは一人となる。

 

しかし、妙だな……。

何で仲間を全員倒されたのにこいつはこんなにも余裕綽々でいられるんだろうか?

 

 

「カカカカカッ、おもしれー能力だなぁ。そっちの男の能力はわかんねーがそっちの女の能力は反射か」

 

 

そう言ってニヤニヤとした表情を浮かべる。

いやな感じがしますね~。

 

 

「俺がやる。下がってな。あと警備員(アンチスキル)に連絡頼んだ」

 

「いや、兄様一応一般人何ですけど……」

 

 

今そんなこと気にするな、と思いながら構える。

するとふと、視線の先に心配そうに見つめる佐天が見える。

 

 

「そう言えば佐天、君は無能力者に価値がないとかって思ってるみたいですけど」

 

 

その言葉に佐天が肩を震わせる。

 

 

「そんな訳ないですからね」

 

「!」

 

 

佐天が面食らったように顔を上げる。

 

 

「そもそも能力者ってこの学園都市で能力開発を受けた人間しかいないわけで、もし能力を持たない者に価値が無いなら学園都市の外にいる人たちは全員価値がないってことになりますよ?そもそも警備員(アンチスキル)だって能力持ってるわけじゃないんですし能力使わなくたって能力者と渡り合う術はありますよ」

 

 

え?と話を理解しきれていないのか困り顔になる佐天。

 

 

「んまあ、言うは易し、行うに難し、です。とりあえずまず能力を使わずに彼を完封してみますか」

 

 

俺のその言葉に反応する男。

 

 

「能力を使わずに完封だ?なめてんのか?」

 

「……いや、別に?」

 

 

実際、なめてかかることは出来ない。

相手の能力がわかっている訳ではないし恐らくあの余裕はその能力からきているものだ。

そこそこ強力な能力だと見て間違いないだろう。

とりあえずまず能力が何かを理解しないとな。

 

 

「まあ、良いか。まずテメエからボコボコにしてやるよ!」

 

 

そう言って蹴りを出してくる。

その蹴りを左手でガードしようとした瞬間、悪寒が走る。

 

 

「っ!」

 

 

蹴りが当たる直前後ろにとんで回避する。

蹴りが微かに腹を掠りヒヤリとする。

 

……おかしいな?完全に回避したはず何だが目測でも狂ったか?

いや、違うな。狂ったんじゃない。狂わされたのか。

回避することに気を取られて十分な確認を怠ってしまったが一瞬あの男の脚がおかしな方向に曲がっているように見えた。どういう能力だ?遠近感を狂わせる、とは違うような気がするな。

 

表情が変わり少し戸惑った様子の蒼に気を良くしたのか男が追撃してくる。

 

……これを見極めて能力に仮説を立てるか。

 

蹴りの軌道を予測しガードの体制をたてる。

そして蹴りが襲ってくる。

蹴りの軌道を見逃さないように注視していると気づく。

 

……やはり脚がおかしな方向に曲がって見える!

つまり、コイツの能力は…………!

 

先ほどと同じように直感がこのままではまずいと告げる。

とっさにガードを落とすとその上に蹴りがたたき込まれる。

 

 

「…………ッ!」

 

 

ガードには成功したもののダメージが響く。

しかし、分かった。こいつの能力は光をねじ曲げ本来と違う点に焦点を結び、虚像を見せる能力だ。

遠近感が狂うわけだな。近接戦ならまだましか。遠距離からの射撃なんて絶対当たらないぞコレ。

 

 

「……ああ?どうしたよ?」

 

 

にやにやしながら男が聞いてくる。

今の俺の表情が焦っている様にでも見えているのだろう。

 

 

「何でもないですよ。ただあなたの能力のタネが分かっただけですよ」

 

 

男の表情が怪訝なものに変わる。

 

 

「へえ?言ってみろよ。答え合わせしてやんぜ?」

 

 

……さっきからそのニヤニヤした表情がうっとうしいな。

男に張り付いたニヤニヤとした笑みを見て少し苛立ちながら自身の考えを告げる。

 

 

「焦点。光をねじ曲げる事によって別位置に焦点を結び、虚像を見せる。それがあなたの能力だ」

 

 

それを聞いてぴゅう、と口笛を男が吹く。

 

 

「すげえな、こんな少しの間で答えまでたどり着いちまうとはな。けどよぉ、それが分かったからって何になんだ?」

 

 

男がそう言う。

それを聞いて蒼はため息をついて()()()()()

 

 

「あ?どうしたよ。あきらめちまったのかぁ?」

 

「違いますよ。役に立たないから視覚は切り離した。それだけです」

 

 

男の挑発を適当に流す。

視覚的情報を補うために感覚を鋭くし、聴覚、触覚を中心にして周囲の情報をかき集める。

相手の息づかい、空気の振動、あらゆる情報から相手の位置を予想する。

相手が地を蹴る音が聞こえる。そして、風を切る金属の音。

 

 

「危ない!」

 

 

佐天の声が響く。

問題ない。どういう軌道で相手が迫ってきているかは把握できている。

次の瞬間、ビュッと鋭い風切り音が頬の横をかすめる。

そしてそのまま残った相手の腕をつかみ、懐に潜り込み重心の下に入り込み持ち上げる。

背負いそのまま投げる。そして自身の上を通る瞬間引き手を離し相手を投げ飛ばした。

 

 

「ぐあ!」

 

 

そして背中から落ち頭が地面に打ち付けられる前に地面と頭の間に足を差し込んだ。

 

 

「……ふぅ。危なかった」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●○●

 

到着した警備員(アンチスキル)に男達の身柄を和が受け渡しとりあえず一件落着となった。事情を聞くとかで和は警備員(アンチスキル)の詰め所に向かった。

 

そんなわけで今は佐天と二人な訳なのですが……

 

 

「………………」

 

「………………」

 

 

会話が滞っております。

非常に気まずい状態です。

へるぷみー。

 

 

「えと、あの、」

 

「ん?何か?」

 

 

佐天が話しかけてきて膠着が崩れる。

 

 

「す、すごかったです」

 

「……そうですか。んで、まだ能力がなければ何も出来ないとか価値が無いとかって思ってる?」

 

「……いえ、多分、もう大丈夫です」

 

 

多分、ね……

少しかみ合っていない会話の中、思う。

 

今回で佐天の意識から能力者の絶対的優位の価値観が完全に崩せたとは到底思えない。

能力を使っていなかったとは言え結局俺は高位能力者なのだ。つきあいも浅い。

しかしもうこれ以上に俺が佐天にしてやれることは何もない。

短いつきあいとはいえ佐天が高位の能力に憧れているのは分かっている。

その佐天に高位能力者の俺がレベルアッパーを使うな、と言うのは間違っているように感じるのだ。勿論、頭ではその考えこそが間違っていて今すぐ止めてやるべきだ、そうわかっているのだ。

しかしそれでも、佐天にレベルアッパーを使わせたくないと思っていても、止めない。止められない。ただ使わないようにそういう方向に示唆をするだけ。

ただ使ってしまわないように彼女の心を信じるだけ。それだけしか、出来ない。

 

 

「蒼さんも、レベルアッパーは使っちゃだめだって思いますか?」

 

 

突然の佐天の問いに面食らう。

今考えていたことを見透かされていたかのようなタイミングだったからだ。

 

 

「……良い悪いじゃないでしょう。副作用で意識を失ってしまうことはほぼ確定的ですし、しかも手に入れることが出来た力も限定的でレベルアッパーによってもたらされただけの虚偽の能力。勧めることは到底出来ませんね」

 

 

俺の答えに佐天はため息をつく。

そしてポツリ、ポツリ、と語り出す。

 

 

「学園都市に来る人って大方が能力者になりたくって来るわけじゃないですか」

 

「まあ、そうでしょうね」

 

 

実際学園都市に住む学生の大半は能力者に憧れてこの街に来たのだろう。

俺がこの街に来る前にいた町の子供達も能力者に対する憧れは少なからず持っていた。

 

 

「私も能力者になりたくってこの街に来て能力者になるんだーとか思ってて、でも最初の身体検査(システムスキャン)の結果はレベル0。あなたに全く才能はありません。そう言われちゃって」

 

 

確かに学園都市の学生の約50%はレベル0なのだ。佐天の身に起こったことはこの街では珍しくもない、二人に一人は起きている悲劇なのである。

そして世界で最も科学が発達しているこの学園都市でさえ能力の開発には才能に大きく左右されているというのが能力開発の現状なのである。

 

 

「で、そこでレベルアッパー、なんていかにもなものが出てきて、最初は私でも能力者になれる夢のようなアイテムだって思ったけど、やっぱり得体の知れないモノは怖かったし、苦労して手に入れるはずの能力を楽しててに入れようって言うのがほめられたことじゃないのは分かります。分かりますけど…………ッ」

 

 

話をしている佐天の手に力が入る。

 

 

「…………けど、やっぱり生まれ持った才能の差は受け入れなきゃいけないってことなんですか!?」

 

 

佐天の真剣な問い。

眼差しから本気度が伺える。

だからこちらも真剣に答える。

 

 

「分からない。その問いの答えは俺には分からない。その問いに対してもともと高位能力者の俺が答えて良いものだとは思えないし、確かに今の能力開発は才能に依存している部分は大きいだろう。でも、先のことはいっさい分からないし、科学の進歩は著しい。それはこの学園都市も例外じゃないのだから将来的には誰もが高位能力者になっているかも知れない。でもそれは誰にも分からないことだから俺の答えは分からない、だよ」

 

「………………」

 

「ごめんな、曖昧な答えで」

 

 

黙りこくってしまった佐天に謝る。

しばらく黙って下を向いていた佐天だがすっと顔を上げる。

立ち上がってこちらを向く。

 

 

「えと、ありがとうございました」

 

「…………うん」

 

 

そして右手を差し出してくる。

その右手には音楽プレーヤーが握られていた。

 

 

「レベルアッパーです」

 

「良いのか?」

 

 

俺の問いに佐天は笑って、

 

 

「私には必要ないですから」

 

 

そう答えた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




にゃんぱすー

のんのんびよりに萌えている作者です。お久しぶりです。
今回はボリュームアップでお送りしております。過去最大。
誤字脱字、意見、感想などあったら書いてくれるとうれしいです。

でわでわ、あでゅー!


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