艦娘とかいう奴らが変態すぎる【一部完結】   作:キ鈴

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幸福型駆逐艦

 

 

 

 外から聞こえるホー、ホーという鳩の鳴き声とカーテンの隙間から差し込む朝日に眠りを妨害され目を覚ます。もぞもぞと芋虫のように動き枕元に置いてあるスマートフォンを掴み時刻を確認した。

 

「まだ5時かよ…」

 

 俺が家を出る6時30分までにはまだまだ時間がある。ここでもう一眠りといければよかったのだが生憎眠りの浅い俺にそれはできなかった。

 

「あんま早く起きると怒られるしな…」

 

 隣で眠る妻を見る。すやすやと気持ち良さそうに寝息を立てているが両腕でしっかりと俺の服を掴んでいた。まるで絶対に俺を逃がさないとでも言うように。

 

「何処にも行かねぇっての……」

 

 そう呟いたがその言葉には余りに信憑性がないなと自分で笑ってしまった。事実、俺は1度妻の前から何も言わず姿を消した前例があるのだ。信用がないのも仕方がない。

 

 優しく妻の手を引き剥がし寝室をあとにする。階段を下りリビングに入るとシ───ンと静まりかえった静寂が俺を迎えた。誰も居ないリビングは薄暗く聞こえるのはチッチッと1秒ごとに時間を刻むアナログ時計の音だけだった。いつもは騒がしい空間なだけに少し寂しさを感じる。まあ騒いでるのは妻と娘だけで俺と息子は大人しいものなのだが…。

 

 明かりをつけ台所へ向かい先日買ったばかりのコーヒーメーカーのスイッチを入れる。コーヒーメーカーはコポコポとなんだか間抜けな音を発しながらコーヒーを1滴ずつマグカップに落とし始めた。

 

「おはよう、父さん」

 

 声のした方を見るとパジャマを着た息子が目をこすりながら立っていた。

 

「おはようさん。どうした、起きるの早いじゃねーか」

 

「小春がひっついてきて眠れないんだ。暑くてしかたないよ」

 

 そう言いながら息子は俺の後ろの冷蔵庫から取り出した牛乳をガラスコップに注ぎリビングにあるソファに腰掛けた。

 

「お前等もう10歳になるんだろ?そろそろ別の部屋で寝たらどうだ?」

 

「もちろん僕だってそうしたいよ。けど小春が絶対に嫌って言うんだ」

 

 俺の息子と娘は双子の兄妹で一応息子の方が兄なのだが妹には頭が上がらないらしい。

 

「情けない、お前も男なら自分の意見を通すくらいしてみろ」

 

「無茶言わないでよ、小春は怒らせると怖いんだ。それに父さんだって母さんの尻に敷かれてるじゃないか」

 

 俺はコーヒーが注がれたマグカップを持って息子の座るソファの横へ腰掛けた。

 

「息子よ……母さんは怖いんだ」

 

「小春だって怖いよ」

 

 そう言うと俺と息子は同時に肩を縮こまらせちびちびと手に持つ飲み物を飲んだ。どうしてこんな情けない所ばかり似てしまったのだろうと少し悲しくなった。

 

「ちょっと」

 

 突然、リビングの入口の方から少し不機嫌そうな声が聞こえた。振り向くとそこには愛する妻が立っていた。

妻はパタパタと可愛らしいスリッパの音を立てながら俺の前までやってきた。隣を見るといつの間にか息子の姿はなくなっていた。あの野郎なんて逃げ足の速さだ。

 

「いつも起きるのが早いのよ、もう少し寝てなさいよ」

 

「悪りぃ、何か目が冴えちゃってな」

 

 ここだけ聞き取れば妻に無茶苦茶な言いがかりを付けられているように聞こえるがそう言う訳ではない。彼女にはいくつか譲れないポリシーというものが有りその中の一つに『妻は夫より早く起きて朝食の支度をする』というものがあるらしい。なので俺がいつも今日と同じように余りに早く起きる為彼女の睡眠時間も短くなってしまうのだ。

 

「別に気にせず寝てればいいのに」

 

「そうもいかないわよ」

 

 妻は先ほどまで息子がいた場所に座ると俺の持っていたマグカップを奪いコーヒーを啜った。偶然か狙ったのかは分からないが彼女が口をつけたのは俺が口をつけていた場所と同じ位置だった。

 

「ん」

 

 そう言って返されたマグカップを受け取る。別に夫婦なので今更間接キスなど気にする方がおかしいのだが何だが気恥ずかしくてマグカップを半回転させた……が凄く怖い目で睨まれたのでもう半回転させ妻と同じ場所に口を付けた。

 

 俺はリモコンでテレビの電源をつけた。早朝ということもあり放送されていたのはニュース番組だった。

 

『本日4/7は15年前に艦娘戦争が終戦した日です』

 

 ニュースキャスターが過去に起こった事件を口にした。あの大事件の終わった日のことを。

 

 15年前、国の英雄である艦娘同士の間で争いが起こった。初めは駆逐艦2人、軽巡1人、空母2人の計5人の戦いだった。だが争いは何日も続き争いを聞きつけた他の艦娘達まで集まり大戦争へと発展した。

 

 戦争の原因は不明、だが艦娘達は戦い続けた。

 

 一人また、一人と艦娘が傷ついた。彼女達に恩のある人類はなんとかその争いを鎮めようとしたが無力な人類にそれは叶わなかった。

 

 だが信じられないことにその争いをたった一人の青年が鎮めたのだ。

 

「おい、艦娘戦争から15年だってよ」

 

 俺は隣に座る妻にからかうように言う。

 

「分かってるわよ。確かにあの時は少しやりすぎたと思ってるわ。そもそも!さっさと決断しなかったあんたが悪いんだからね!」

 

 俺の脇腹を抓り唇を尖らせならが妻は応えた。

 

「……というか今日は他の日でもあるでしょ、分かってるんでしょうね」

 

 先ほど間接キスを避けた時と同じような鋭い目つきで睨まれる。だが今回は怖くなかった、彼女の欲している応えが分かっていたから。

 

「結婚15年記念日だろ?忘れたりしねぇよ」

 

「な、ならいいのよ」

 

 気恥ずかしくなったのか妻は俯き俺から目をそらしてしまった。会話の途切れたリビングをまた静寂が包み込んだ。聞こえるのは時計の針の音だけ。

 

 チク タク チク タク チク タク

 

 静寂のまま秒針は時間を刻み続ける。未だ妻は俺の隣で黙り俯いたままだ。だけど不思議と居心地の悪さは感じない、むしろもっとこの時間を堪能したいと思った。

 

 突如2階の子供部屋の方からドタバタと誰かが暴れる音が聞こえた。きっと目を覚ました娘に息子が襲われているのだろう。

 

 もうすぐ子供二人がこのリビングに降りてきていつものように騒がしい我が家になるのだろう。俺は家族団欒の騒がしい時間が好きだ。だけどこの妻との二人だけの時間が終わってしまうのが少し勿体なく感じ、最後に俺は妻に話しかけた。

 

「なぁ……俺と結婚して幸せだったか?」

 

 妻は顔を上げ驚いた表情を浮かべた。だけど直ぐに笑って

 

「馬鹿ね───幸せにきまってるじゃない」

 

 

 そう言って妻はまた照れくさそうに顔を背ける。そんな妻の動きに揺られ、チリン───と今も昔もまったく変わらないあの綺麗な鈴の音が我が家に響き渡った。

 

 

 

 

 

 

 







───後書き

ぶっちゃけた話、本作がここまで多くの人に読んでもらえるとは露ほども考えていませんでした。というか本作だけでなく『辞めさせない白露型』『クソ親父』『動画配信で食べていく』も同じで、どのくらいの人が読んでくれるんだろう、もしかしたら感想とか貰えるのかな───とドキドキしながら投稿したのを覚えています。

ハーメルンさんに登録してから約半年、ここまで書き続けることが出来たのは間違いなく読んでくださる皆さんのおかげです。御付き合いいただきマジ感謝です。

最後に、本作『艦娘とかいう奴ら変態すぎる』をここまで読んでくださり本当にありがとうございました!!






ps. 双子編とか始まりの提督編とか書き始めたらまた温かく見守ってやってください。
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