艦娘とかいう奴らが変態すぎる【一部完結】   作:キ鈴

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ショタコン型練巡:鹿島①

「いただきます」「いただきます」

 

「はい、召し上がれ」

 

 春のあけぼの。顔を洗いさっぱりとした僕と妹は共に食卓に着く。今朝のメニューは白米、味付け海苔、ウインナーに目玉焼き、そして昨晩の残りのお味噌汁だ。

 

 醤油派の僕は目玉焼きに三滴、ついでにウインナーにも一滴醤油をたらしそれにかぶりつく、するとパリッという音とともに僕の口内を肉汁が埋めつくした。僕はそこにすかさず白米を一口咀嚼する。うん、今日も母さんの作る朝食は美味しい。

 

「クソ兄貴、さっきも言ったけど外に出たら気をつけるのよ?」

 

 隣に座る妹、小春は僕が口を付けたウインナーを奪い去りながら意味の分からないことを言う。兄としてやられっぱなしではいられない僕は彼女の食器から食べかけのウインナーを奪い口に放りこんだ。しかし妹は何故か満足げだ。

 

「気をつけるって一体何にさ」

 

「変態によ」

 

「抽象的かつ非日常的で何を言いたいのかさっぱり分かんないんだけど……」

 

「なんでよ!変態に気をつけなさいって言ってるのよ!普通わかるでしょ!?最近は物騒なんだから!」

 

 どうやら小春は僕が不審者に目をつけられて誘拐でもされると思っているらしい。だけど僕だって一応は男でそして兄としての矜持がある、頼りないかもしれないが妹にそんな心配をされるのは遺憾だ。

 

「僕より自分の心配をしなよ。小春は女の子なんだから」

 

「……なに?あんた私の心配をしてるわけ?」

 

「まあ、そうだけど。双子とはいえ一応兄だし」

 

「兄……ね。まぁいいわ。でもやっぱり気をつけるのはあんたよ。クソ兄貴は変態を寄せつけやすい体質なんだから」

 

 小春は味噌汁を啜りながらまた訳の分からないことを言う。変態を寄せつけやすい体質ってなんだ。類は友を呼ぶ、言外に僕が変態だとでもいいたいのか。ブラコンの君にだけは言われたくはない。

 

「特に年中スク水の変態、ショタコンの変態、腐った変態、強姦魔の変態、ドSな変態、盗撮魔の変態を見かけたら直ぐに逃げなさい」

 

「嫌に具体的だし変態のバリエーションが多いわでお兄ちゃん困惑だよ……」

 

 そもそもそれは見かけても変態かどうか判断できないのでは?年中スク水の変態は直ぐに分かるが他のは気づける自信がない。なんだよショタコンに強姦魔な変態って、腐った変態に至っては想像すらできない。この街はいつからそんな大変なことになっているんだ。

 

「ご馳走様でした」

 

 僕のツッコミを無視し、小春は両手を合わせて完食の挨拶をしていた。相変わらず食べるのが早い。小春は食器を流しに持って行きながら僕に釘をさす。

 

「髪のセットしてくるわ。先に学校に行ったら許さないからね」

 

 小春はそう言い残して洗面台に向かっていった。

 

 小春の背中が見えなくなると僕は急いで残っていた目玉焼き、白米、味噌汁をろくに味わいもせず胃に流しこむ。

 

「ご馳走様でした」

 

 妹に倣うわけではないが僕も流し台に食器を運んだ。そして息を潜める。抜き足差し足忍び足、小春に気取られないよう足音を殺しながら玄関に向かう。

 

 幸運にも小春に気づかれることなく玄関に辿り着いた僕は昨晩用意しておいたランドセルを背負い、音をたてないように玄関の扉を開けた。

 

「……いってきます」

 

 誰にも聞こえないような小さな声でそう呟き、僕は一人で家を出た。

 

 一人で外に出るのは何年ぶりだろうか。

 

 僕は今日から小学五年生。心を許し合える親友はできるだろうか?妹は兄離れしてくれるだろうか?可愛い女の子と親しくなれるだろうか?

 

 そんな期待と夢に胸を膨らませていた。

 

 

 

□□□

 

 

 

 一人で歩く通学路はとにかく気楽だった。

 

 いつもは小春と手を繋いで歩いていたから彼女の歩幅に合わせなくてはいけなかった。けれど今はその必要も無い。

 

 

 何時も通ってるいる通学路だというのに一人で歩くと言うだけでまるで違う景色に感じられる。

 

 本質的に僕は一人が好きな人間なんだ。誤解の無いよう言っておくと、人と一緒にいるのが苦痛なわけでも、妹のことが嫌いなわけでもない。ただ、一日のうちに数時間、こんな風に一人でいる時間が僕には必要なのだ。僕にとっては言わば食事や睡眠のようなものだ。

 

 人によっては常に誰かと一緒にいたいという人がいるというのも知っている。だけど僕はどうしようもなく一人でいる時間が好きなのだ。何にも縛られず、気を使わず、ぶらりぶらりと歩きたいのだ。

 

 現在の時刻は7時過ぎくらい、いつもより30分早く家をでた。遠回りをしながらゆっくりと登校しよう。

 

 そもそも小春がいつまで経っても兄離れ出来ないのは僕にも責任の一端があるのかもしれない。彼女がいくら駄々をこねようと時には厳しく突き放す必要があったのだ。いくら僕達が兄妹だとしても……いや、兄妹だからこそだ。この先の未来、10年後には僕達は別々の道を歩まなくてはならないのだから。

 

 そういう意味で今日小春に黙って家を出たのは正解だった。これを機に彼女には兄離れをしてもらおう。……してくれるかな……学校で会ったら怒られそうだな……怖いな……。いや、兄である僕が妹に怯えてちゃだめだ。小春のためにも兄離れしろとハッキリと言ってやらなくちゃ。きっと彼女だって分かってくれる。

 

「それにしてもいい天気だ」

 

 気持ちを切り替えて僕は住宅街の一本道を進む。四月になったばかりの空は爽やかに晴れ渡り、誰の家ともしれない庭に生えている木々が風になびかれカサカサと揺れていた。

 

 いつもなら妹に掴まれている腕を僕は目を瞑ると共に太陽に掲げて伸びをした。全身の緊張が解れていくようだ。昨晩夜更かししたこともあり、春の陽気に温められた僕を眠気が襲いはじめた。

 

 僕は伸びをやめると目を瞑ったまま前にすすんだ。障害物もない一本道だし何かにぶつかることはないだろう。

 

「あいたっ」

 

っと思ったが僅かに三歩進んだだけで何かにぶつかった。おかしい、流石に三歩進んだだけでぶつかるような物はなかったはずだ。僕は目を開けて前方を確認する。

 

 目を開けると二本の太ももがコンクリートから生えていた。ちがう、僕が小さいから至近距離だと太ももしか見えないだけだ。僕は三歩下がって少し首を上に向ける。

 

「提督さん、大丈夫ですか?」

 

 そこにはお姉さんが立っていた。銀色の髪に人形のような日本人離れした整った顔立ち、だけど着ている服は某有名コンビニエンスストアの青と白の縦ストライプといった妙に親近感を覚える格好だ。だれだろう、この辺じゃ見かけない人だ。

 

「ごめんなさい。次からはちゃんと前を見て歩くようにします。それでは」

 

 僕は頭を下げてお姉さんの横を通り過ぎようとした、だけどお姉さんは僕の肩をつかみ引き留める。なんだろう、カツアゲでもされるのだろうか。

 

「ちょっちょっと待ってください。少しだけお姉さんとお話ししてくださいませんか?ほら!お菓子もありますよ!」

 

「……知らない人からお菓子を貰うなと母さんと妹にきつく言われてますので」

 

「くっ、流石は曙ちゃん。息子さんの教育は抜かりないということですか」

 

 銀髪のローソンお姉さんは悔しそうに歯噛みをしながらそんなことを言った。それにしても曙ちゃん?それは僕の母さんの名前だ、母さんを知っているのだろうか?

 

「お姉さんは母さんの知り合いなんですか?」

 

「そうですよ。因みに貴方のお父様とも面識があります」

 

「……あなたでしたか」

 

「……?何がですか?」

 

「父さんの浮気相手です」

 

「えっ!?」

 

 半年前、我が家では父さんが浮気をしているのではないかという疑惑が浮上した。母さんがどこから仕入れた情報かは分からないがタレコミがあったらしい。父さん本人は否定したがあの時の母さんはとても怒り、父さんを数日間監禁したほどだ。あの時の母さんの怒りようときたら……僕は結婚しても絶対に浮気はしないようにしようと10歳にして決意するほどだった。

 

「何故そう思うんですか?そもそもお義父さま浮気したんですか……」

 

「根拠はあります。父さんはしがないエンジニア会社の社員です。お姉さんのような若くて綺麗な女性と接点なんてある筈がありません。なのにお姉さんは父さんを知っている……つまりそういうことですよね?」

 

「フフっ、やけに大人びていると思いましたがやっぱりまだ可愛いらしいですね。その推理は外れです」

 

「違いましたか」

 

「はい、この制服を見てもらえば分かる通り、私はロー○ンさんでアルバイトをしています。貴方のお義父さまはそこのお客様でした。お義父さまは昔、毎日のように私のいるコンビニに来て下着を購入し、私は店員としてお会計をする。それだけの関係でした」

 

「それはそれでおかしいです……」

 

 うちの父さんはなにやってるんだ……なぜ毎日下着を買いにコンビニへ……やっばり浮気かもしれない。

 

「それに貴方のお義父さまが引き起こした『艦娘戦争』私はあの戦いにも参加していません」

 

 艦娘戦争……15年前に提督である父さんを取り合って艦娘さん達が戦ったという……結果、『駆逐艦:曙』である母さんが勝利して父さんと結婚したのだと聞いている。

 

「艦娘戦争……ということはお姉さんも艦娘なんですか?」

 

「はい、練習巡洋艦、鹿島です。提督さんよろしくお願いしますね。フフっ」

 

「よろしくは……できないです。ごめんなさい」

 

 僕がそう答えると鹿島さんはとても悲しそうな表情を浮かべ、僕の心に罪悪感を突き刺した。

 

「どうしてそんな悲しいことを言うんですか?鹿島のことお嫌いですか?」

 

「父さんと妹にいつも言われてるんです『艦娘を見たら直ぐに逃げろ。あいつらは変態だから捕まればめちゃくちゃにされるぞ』って。だから僕は今から逃げないといけないんです」

 

「変態って……酷い言われようですね。提督さん、私、そんな風に見えますか?」

 

「見えませんね。普通のお姉さんです」

 

「そうですよね?確かに115年分の性欲が発散できず理性を失ってしまった艦娘は大勢います。不知火さんなどは強姦型駆逐艦……通称強姦娘(ごうかんむす)と揶揄されるほどです。ですが、そうでない艦娘もいるんですよ?貴方のお母さんだって変態さんではないでしょう?」

 

「……確かにそうですね」

 

「ですからそんな風に言われては私も傷つきます。それも貴方、提督さんから言われたのでは尚のことです」

 

 確かにそうだ、父さんや小春から艦娘は例外なく変態だと聞いていたが僕は経験としてそれを知っていた訳ではない。ただなんとなく、いわれるがままにそう認識していただけだ。現に目の前の鹿島さんは普通だ、それに何かされたわけでもない。なのに変態扱いは失礼すぎる。

 

「すみません。先入観に囚われていました」

 

「分かって貰えたならいいんです。ただ……鹿島のお願いを一つだけ聞いて貰えませんか?」

 

「僕にできることなら……」

 

 小学5年生の僕に何ができるかは分からないけどごめんなさいの意味として鹿島さんのお願いを聞くことにした。

 

「やった!」

 

 鹿島さんは嬉しそうに両手を合わせて軽くジャンプした。瞬間、微かなブルーベリーのような香りが漂った。うん、やっぱりこんなに綺麗でいい匂いのする人が変態なわけがない。やっぱり父さんと小春の言うことは当てにならない。

 

「お願いなんですけど……」

 

 鹿島さんは両手の指を合わせてモジモジ顔を赤らめながらいう。

 

「提督さんの包○おちん○んの皮を……剥かせてもらいたいなって」

 

僕は全速力でその場から走り去った。






・痴漢型軽巡:阿賀野型
・ストーカー型空母:一航戦及び五抗戦
・強姦型駆逐艦:不知火、潮、
・盗撮型重巡:青葉、衣笠さん
・腐敗型軽巡:夕張
・白百合型軽巡:由良
・女王型海防艦:佐渡さま
・ショタコン型戦艦/練巡:榛名、長門、鹿島
・束縛型潜水艦:伊168
・ブラコン型駆逐艦:曙


評価にて点数を付けてもらえると嬉しく思います。

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