此処はアメストリス中央の大総統府。
国家中枢部によるロイ・マスタング及び、彼の率いる部下達による反逆罪の指定から端を為し、
北方のブリッグズ兵の乱入等もあり、かつてない混沌の渦の中にある。
銃声と悲鳴、怒声と破壊音が先程から止む事は無く、正気と狂気が撞着しながら同期する。
互いの信じるものを貫く為、己の未来を護る為、其々が其々の正義と想いを以って激突する。
その中には嘗て友だった者を撃たなくてはならない者も居れば、
遇った事も話したことも無い者にその命を散らされる者も居た。
目まぐるしく加速する死と鉄血の祭典の中、絵画の様に時が静止した様な場所があった。
敵と味方が入り乱れた荒れ狂う戦火の中、二人の何処かよく似た青年が互いに銃を向けている。
周囲の銃声を気に留める事無く、互いは互いだけをその同じ色の瞳に宿していた。
一人は紛争でイシュヴァール人を焼き尽くした英雄、ロイ・マスタング。野心溢れるアメストリス軍の大佐であり、
一人は内なる乱れを粛正する法の守護者ローズ・ジャスティ。国家に忠義を尽くすアメストリス軍の大佐であった。
彼等は同じ師を仰ぎ、同じ女性を好きになり、同じ路を進み、――――そして決別した嘗ての親友同士。
折り重なった瓦礫の上に立った青年が、もう一人に強い口調で咆哮する。
「ローズッッ!! そこを退けっ、私の邪魔をするなっ!!
どうしても、退けないというのかっ!!」
「僕には此処を退く必要も義務も無い。
その様な事はアメストリス六法大全の何処にも記述されてはいないからね」
ロイ・マスタングに吠えられた青年、ローズ・ジャスティは鏡写しの様にロイに銃を向けながら、
空いた手で彼がいつも携帯しているアメストリスの法が記されたアメストリス六法大全、
――――通称、六法を手に携え言葉を返した。
――止まった時が、動き出す。
「ならば、貴様を倒してでも私は進むっ!!」
ロイは、右手で向けた銃をブラフにして、
左手で嘗てイシュヴァール戦で猛威を振るった発火の術式を起動させようとして、不発に終わった。
ロイは気が付けば、己の周囲の空気中の酸素が全て失われている事を息苦しさで理解した。
ロイは心の何処かで相手を過小評価して侮っていたことを後悔した。
恐らく師匠から秘儀こそ受け継がなかったものの、独自に酸素の操作について学んだのだろうとロイは辺りを付けた。
そんな彼の目の前の青年は、ロイに殺意を剥き出しにして責める。
「悲しい、悔しい、そして憎い。
またなのか、また僕を殺そうとするのか、ロイ・マスタング。
お前は何時だってそうだ。あの時も、あの時だってそうだった。
僕と同じ路に入ってきては、何時だって僕を押しのけて進もうとする。
師匠の信頼も、リザの心も、華々しい戦果も…、お前は何時だって、何時だって僕から奪っていく」
それは逆恨みでもあった。だが、事実でもあった。
ロイはローズが欲しいものを全て手に入れていた。
「……僕達には同じ血が流れているというのに…」
そう言って悔しそうに噛み締めるローズ。
その口からは血が溢れ出ていた。彼の持病…、厳密にはあるものを失った事による後天的な、そして継続的な吐血だ。
ロイにもその原因となる出来事に心当たりはあった。
それもまた、ロイがローズから奪った物の一つであったからだ。
だが今、ロイはその事でなく、ローズが言い捨てた事にこそ意識を奪われていた。
「…どういうことだ、私達は――――」
そう問うロイを嘲笑い、その言葉に応える事無く、一方的な宣告をローズは告げた。
「聞いていなかったのか…。まあいいさ。
ロイ・マスタング、判決を下す。
国家に反逆した罪で…有罪。
反逆を防ごうとした者に障害を負わせた罪で…有罪。
大総統夫人を誘拐した罪で…有罪。
国家の機密に意図して無断で抵触した罪で…有罪。
イシュヴァールの引き金を引いた父親の罪を、その絶望を知らず、のうのうと生かされてきた罪で…有罪。
血の繋がったこの世に只一人の弟を殺そうとした罪で……有罪。
判決――――――――死刑」
憎しみか悲しみか、其れとも愛情か…、
どれともつかない表情で、泣きそうな顔を手に持った六法大全で抑えながら、
法の番人は、嘗ての親友にその引き金を引いた。