リオールの街。嘗てレト神の名前を使ってコーネロが支配しかけていた町。
その野望は犬の様に法律に忠実な一人の青年と、少年たちによって破られた…ハズだった。
今、この街は二分にされて争っていた。
コーネロの死はあの日、町中に響き渡った放送で民衆の知る所となった。
そして新聞にもコーネロがリーガルの構成員に射殺されたと載った。
にも拘らず、その三日後、何事も無かったかの様に死んだはずのコーネロは手を振りながらリオールを闊歩していた。
これこそを奇跡の復活だと崇めたてる者、新聞に載せられたコーネロの悪行を信じる者の二つに別たれた。
コーネロを信じる者は嫌われ者の国家の狗の陰謀でコーネロ様は殺されたことになったが、
錬金術にも為し得ない奇跡の復活を為し得た。
仮にコーネロ様が元々殺されていなかったとしても、それはそれでこの町をリーガル達が欺いたと主張。
元々リーガルという集団が国民に良く思われていない事も相まって、彼らの勢力の方が多かった。
現在は、一夜だけ死んだ恋人に逢えたという、ロゼという少女が先頭に立って旗を持ち、
勢力を更に拡大していっている。
つまり、コーネロが嘗て彼の側近達に言った通りに、国の大盗りが始まったのだ。
これを受けて東方軍だけでは対処できないと、中央の軍も導入された。
コーネロを信じる者、信じない者、そして軍隊。この三つの勢力が争い始めてリオールの大地は人々の血を吸い始めた。
「被害は一向に収まる様子はありませんが、我々はどのタイミングで鎮圧すればよいのですか?」
混沌に定めの境界線を加えようとする若き秩序の狗の問いに、
彼等リーガルに指揮権を持つ男、――――――レイブン中将が出した答えは、『待て』だった。
忠犬は目の前で獲物が誘っている時でさえ、主人に忠実だ。
目の前で方向性の無い我欲同士が互いを喰らい合う時でさえ、忠犬は忠犬であった。
軍事国家であるアメストリスでは、大総統、又はその委任を受けた者の命令による超越は法で認められている。
つまり、この場合レイブンが許可をした事が法であり、禁止する事もまた法であった。
ローズの中では中央軍の指揮や補給に多くの不備が見受けられ、それにより紛争が長引く事、
罪を犯す者が増え、罪の重さがその者自身を超える重量になっていく所も見受けられた。
だが、彼は国家の飼い犬。民衆に揶揄される大総統府に尻尾を振るペットに過ぎない。
そして、ついにその時は来た。
彼らの飼い主から『Go』が出たのだ。
この『Go』の意味は敢えて語るまでも無い。
治安を乱す反逆者に対して、リオール中にラジオジャックによる一斉放送が行われた。
「大総統府付き独立法務執行官だ。教祖コーネロ、叉はそれを騙る者をアメストリス刑法第一条に則り死刑と断定する。
また、それに与する者も一切の例外無く同様のものとする。
これは決定事項だ。交渉も陳情も抵抗も一切受け付けない。
繰り返す。大総統府付き独立法務執行官だ――――――」
その放送の後、コーネロについたリオールの住民は只の民間人であるにも拘らず、
同じアメストリス人の者達により躊躇無く無慈悲にその躯を晒した。
解き放たれた猟犬は、怯えながら逃げる獲物達に一切の慈悲を与えず追い続ける。
獣に人の言葉は通じず、人に獣の言葉は通じない。
獣が従うのは飼い主、そして彼らの聖書にだけである。
イシュヴァールの狂信者、レト教の狂信者と同様に、法律という神に祈りを奉げる狂信者。
それが大総統府付き独立法務執行官――――通称リーガルだ。
味方や無関係の者には一切誤射をしない正確無比な
猟犬達は大地を赤く赤く染めて行った。
その様を見ながら、妖艶な美女と先程までコーネロ教主であった者、そして忠犬である猛獣に『Go』を出したレイブンは語り合う。
「何度繰り返しても学ぶことを知らない。…人間は愚かで悲しい生き物だわ」
「ああ、本当にそうだよな」
「だからこそ私達が永遠の命を手にして導いてやらねばならん」
軍事大国アメストリス。この国の秩序と平和は黒い血に濡れている。