アメストリス軍東方司令部勤務、ロイ・マスタング大佐は、身の内を様な焦がす激情に駆られていた。
その歩みは迷う事無く、ただ真っ直ぐに馴染みのある公園に向かっていく。
嘗て彼が休日にはそこで親友と夢を語らい、平日では時折そこで休憩をしては、
その親友に勤務時間にサボるとは何事だと、頭の固そうなお説教を受けた場所だった。
この辺りで留まっていて、それでいて特に仕事が無い時、
ロイには確信があった。
此処には、法に祈りを奉げる神父であり、冥府の主人に捕らえた獲物を奉げる猟犬であり、
彼の親友であった者がいる筈だと。
女々しい記憶を思考から叩き出し、憤怒を以ってロイが訪れた場所には、
嘗ての様に、ベンチに腰かけて、まるで崇高な神の言葉を尊ぶように、
その書に記された法の言葉を眺める者がいた。
ロイはその者の前まで勢いを止める事無く進み、襟首を掴み上げた。
「ロォォォーーーズッッ!! 何故だっ!!
何故あそこまで罪も無い人々を殺したっ!! 何故、あそこまで無慈悲に殺せたんだっ!!」
少女の頭に風穴を開け、老人の首を蹴り潰し。妊婦の前でその父親を焼き焦がした。
リオールの惨状を知ったロイは、その惨状を引き起こした中心であるリーガルの一人に絶叫した
「マスタング大佐、誤解をしないで欲しい。あくまで罪を犯したから罰を与えたんだ。
それに咎人に慈悲など不要だ」
「同じアメストリス人だぞっ!!」
まるでかつて彼らに国内の治安を乱したという名目で、『粛清』として多数の自国民を抹殺を正当化した軍上層部の様に、
罪人には容赦のない罰をと言うローズに思わず殴りかかったロイ。
だが、彼の持つ六法大全からはみ出す様に見えている金属製の栞を引き抜いたローズが、
ロイの首元に栞が変化した刃を向けた方が早かった。
「…イシュヴァールの英雄、ロイ・マスタング。
お前がそれを言うのか。もう忘れたのか?
嘗て同じアメストリス人となったイシュヴァール人を幾人となく殺しつくしたお前が。
肌の色も目の色が違えば割り切れても、同じ肌と眼の色のアメストリス人は殺せないか。
随分と勝手な事だ。今まで散々奪って来たくせにそれは無かった事にするつもりか?」
ロイはその言葉に答えきれなかった。
彼はその経験があったからこそ、今の野心に燃えるロイ・マスタングになったのだから。
弱き人々を救う為には、その頂上に駆けあがらなければならないと決心するに至ったのだから。
力が緩んだロイのその手をローズは振り払い、もうこれ以上元親友の顔も見たくないと背を向けた。
「もし、仮に僕が行った事が罪だとすれば、お前がやった事も変わらない罪だ。
だが、安心していい。僕が今回殺した事も、昔お前とやった事も合法だ。何の責任も罰則も無い」
そう言い捨てて去って行った嘗ての友の背中に、ロイは言えず仕舞いだった言葉を心の中で呟いた。
(私達にも、何時か裁きの時は来る。何時か、必ず裁きの時は来る)
翌日、ロイは己の部下達に聞いた。
「――もし、私が諸君らに、何の罪も無い数万の国民の命を奪えと命令したらどうする?」
その質問に彼の部下は一呼吸程、黙り込んだ後、
「大佐がそんな命令を出す訳無いでしょう」
と異口同音に断言した。
そんな部下達の想いを受けて、ロイは嘗ての親友とは己は違うという安心感と、
あの狂気の世界に親友を取り残してきたような罪悪感と、
その狂気の世界に生き続ける親友だった男との決別を心の中で噛み締めていた。