顔に大きな傷を持つイシュヴァール人の男――――――通称:
彼は国家錬金術師を殺して回っている指名手配の連続殺人犯だった。
勿論、リーガル達にも見つけ次第
イシュヴァールとの紛争中、ある男が掴まった。
眼鏡をかけたイシュヴァール人は、ある資料を保持していた事から特別尋問が実行された。
特別尋問とは、対象者の一切の人権や生命を無視する事が出来る尋問。
簡単な言葉で言えば拷問である。指をペンチで挟み潰す、身体の一部を火で炙ったナイフで抉る。
場合によっては、共犯者としてその者の家族や親友をも同じ場所で執行される事もある。
それは、合法的に許された、非人道的な捜査であった。だが、合法であった。
未だ、
イシュヴァールの紛争で、その前身である治安維持特殊調査隊が設立された。
当時は立候補制で、主に前線では戦えない怪我を負った者達がその枠を埋めていた。
『紅蓮』の錬金術師や、
『双炎』と呼ばれた二人一組で『焔』を扱う錬金術師と、その補佐である彼の親友が華々しい成果を上げていた時、
敵のイシュヴァール人達の中に錬金術を使う男達の姿が確認された。
直ちにその事に対する調査が始まり、数人の男達と彼らの持つ資料が押収された。
だが、その中で中心人物だったとされる、資料の大部分を隠して逃亡した著者については誰も口を割らなかった。
が、治安維持特殊調査隊が遂にその逃亡者、メガネをかけた腕に入れ墨をした青年を捕らえた。
彼は拷問の末にさえ、彼の持つ知識と資料のありかを語らなかった。
だが、彼の目の前で数名のイシュヴァール人を拷問するのを見せると、少しだけ情報を小出しにした。
その後暫くして、
「時間は稼げた。後は任せた」
そう言って、メガネをかけた男は監視の目を欺いて自害した。
そして、今回指名手配されている男の両腕にある入れ墨は、イシュヴァールに存在した錬金術師の入れ墨に似ていた。
恐らく、表れた彼こそが自害した男の後継者で、残された資料の行方を知る者だと、リーガル達は追っていた。
彼には聞くべき事が多くあるので、必ず生かして捕らえろと言う命令も上層部から降りていた。
国家上層部の命令は法律にもある通り、絶対である。リーガル達には疑問は無かった。
両手両足に不完全な破壊の術式を刻んだ男、スカー。
彼は、復讐の為に、イシュヴァールで錬金術を学んでいた中心人物であった彼の兄が残した資料から独学で、両手両足に刻印を刻んだ。
独学故に制御が不完全で、術式を使用する度に不安定なひずみで時には内部の血管が破裂したりしてしまう事が時折起きるが、
その破壊力は歪により敵の相殺すらすり抜く凶悪さを手に入れていた。
イシュヴァールの武僧はアメストリスの一般的な軍人の十倍ほどの強さと言われる人間凶器である。
その両手両足に触れた者を破壊する力を刻んだともなれば、それは人間兵器と言っても過言では無かった。
既に、軍隊格闘の達人、バスク・グラン准将などが打ち取られた事からも、それは証明済みであった。
ある雨の日、『鋼』の錬金術師として有名なエドワード・エルリックがスカーに狙われた。
そして、そこに駆けつけて救助に向かったロイ・マスタングと、
エドワードを敢えて泳がしてスカーが釣れる事を狙っていたローズ・ジャスティが戦闘を開始した。
エドワードは既に義肢を破壊されており、戦闘には危険だとロイの部下達により避難していた。
ロイがスカーに狙われればそれをローズが牽制して、ローズに狙いが変わればロイがその隙にスカーに攻撃していた。
スカーの足がロイに対して鋭い蹴りを見舞ったとき、ロイとスカーの間の空気が急に乾いた上に膨張して、
その隙にロイは回避を取りつつ、そして――――
「――巻き込まれるなよ」
「二度目は無い。わざわざ声に出して、不用意に敵に情報を与えるなっ!!」
急に乾燥した空気が膨張した事を利用して、ロイはお得意の発火でスカーの左足から脇腹にかけてを焼いた。
「すげぇ。大佐達、恐いくらい
エドワードがそう驚くのも無理のない程、恐るべき連携能力であった。
声に出す必要も無いとローズが告げたように、合図だけでなく、アイコンタクトさえ必要ない二人。
どうして、あれほど嫌い合っている二人が此処まで共に戦えるのか、その質問は先手を打ったホークアイに阻まれた。
「…色々あるのよ、大人には」
その伏せ目は言葉以上の事を語っていた。
スカーは、ロイが攻撃間際にローズに忠告した言葉に警戒して距離を取ろうとした事で、被害は最小限に抑えられていた。
雨の火で発火が使えない筈の『焔』の錬金術師が、再びかつての戦場の様に猛威を振るえると知ったスカーは、
これ以上の戦闘はリーガル職員が増えるなど、不利でしかしかない事を悟り、地面を破壊して地下通路へと逃亡した。