アメストリス絶対法   作:蕎麦饂飩

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化物を倒すのはいつだって人間だ。人間でなくては、いけないのだ!!


『アメストリス絶対法』計画原案

『アメストリス絶対法』計画――――

 

それは、個人ではなく法による独裁を成し遂げんとするレイブン中将が発案した計画であり、

アメストリスの裏で生まれ出でて、国民には知られていない闇のプランの一つである。

 

その他にも実行に至っていないだけで煮詰められている計画は幾つもある。

 

表ではショウ・タッカーの合成獣(キメラ)技術が限界とされているが、

国家では秘密裏にそれよりも遥かに高度なキメラ技術が存在する。

そして、場合によっては複数の人さえも原料として、

様々な生命体を一つの身体に押し込めた『究極のキメラ』を作るというクレミン准将に発案された『原初の海』計画。

 

錬金術の知識を裾野にも広げて、過剰評価した噂で価値を高めた賢者の石による不老不死等の様々な願いを餌に殺し合わせて、

強力な錬金術師を輩出させ、敗北した錬金術師やその縁者による犠牲を持って得た賢者の石を持たせて、

特別戦力、『騎士』としてアメストリスの戦力として、その戦力を保持した上で、

賢者の石の存在を周辺国にも仄めかす事で戦争の激化を生み、更に積極的に『紋』の完成を急ぐ、エジソン准将の発案した『十三騎士』計画。

 

その他にも実施されていないだけで、その準備が推し進められているアメストリスの暗部に当たる計画が幾つも存在する。

その何れもが非人道的な側面を持ち、だからこそ人間らしい欲望の産物とも言えた。

 

 

レイブン中将は、個人の武勇や知略に取り分けて優れた将でない事は自覚があった。

故に、特に上の者に対しては嫌われない生き方を今まで貫いてきた。

客観的には人当たりの良い、真面目で優しい男と評価もできるだろう。

だが、何かを失っても尚、自分自身に力があるという余裕に裏打ちされた強さ故の優しさと、

自分自身に誇れる物が無いから、せめて人に嫌われたくないからという弱さ故の優しさは違う。

 

前者は溢れ出る余裕のお裾分けの類であるが、後者は自分の僅かな食糧であるエビを犠牲にして魚を釣ろうという類の行動である。

前者と違って、見返りが無ければいずれ自分の底が付いてしまう。

所謂、優しい故に道を譲ってばかりで疲れてしまう人種だ。その実は他者から自分の道を護る力が無いから明け渡していただけである。

 

だからレイブンは周囲に愛想笑いを浮かべて自分が内心で見下される生き方に疲れてしまっていた。

だが、それでも彼は将官にまで上り詰めるだけのことはやって来た。それによって手に入れた力があった。

だから、自分の生き方を正当化する施策を考案した。

つまり、悪い事をしていなければ尊敬されて、人を押しのけて奪う悪人は弾きだされる社会の完成を。

そこに至るまでに、歪だが真っ直ぐな部下となる青年の姿がレイブンには存在したことは否定できない。

ただ、レイブンがその計画を志した本来の理由は何であれ、

その青年は、レイブンの在り方に、厳密にはその計画に共感を示し、彼の下で引き金を引き続けているのだ。

 

単独の個人で支配権を持つ独裁者キング・ブラッドレイにとって、さもすれば謀反と捉えかねられないこの計画は、

やれるものならやってみるがよいという、人間らしい欲望の挑戦を許容する節のある彼自身に黙認されていた。

未だ現状では発布する事は許されないが、明確に牙を向ける時までは様子を見てやろうと。

 

 

この計画の恐ろしい所は、全ての国民が法律に逆らう事を一切許されない監視国家へとアメストリスが変貌する事である。

究極のディストピア。法に逆らう事は許されず、極論すれば全ての自由に許可が必要となる。

まるでコンピューターの命令に従うロボットだけが存在する様な世界。

 

法律(コード)を知り尽くして順守する意思と能力を持つ者には何の問題も無い世界だが、

それを知らぬ者や、守る余裕の無い者には直ぐにエラーを発生させて、バグの発生源として駆除される、そんな世界。

生きる為に食料を盗むくらいなら、飢えて死ぬ事が当たり前の世界。

急いで運転する車両で速度違反を犯すくらいなら、遅れるのが当たり前。さりとて遅れても罰則が待っている世界。

人を弄って貶める事を代償に周囲を愉しませること等を禁止して、いじめられる側といじめる側が存在せず完全に対等に過ごす世界。

それは、ある意味優しさに満ちており、ある意味慈悲の無い世界。等価交換の起こらない固定化された社会。

 

それは、究極の秩序が支配する世界。

弱者が強者に奪われる事は無く、けれども弱者のままでは法を達成する事が出来ないと切り捨てられる世界。

弱者から奪いたてるのが、賢く強く美しい者では無く、ただ公正で公平で公然な社会になったというだけの世界。

全ての国民が法律を順守して、全ての国民が平等に法の下僕として縛られて定められる絶対世界。

全てに白と黒が定められて、曖昧な混沌が許されない世界。

ただ、正義の法を護っていれば、国民として絶対の安全が許される世界。

 

それが―――――――――――――、『アメストリス絶対法』計画。

 

 

鬱屈したレイブン中将の願いを形とした計画であり、正義と法律と親友であった男から全てを奪い返したい青年の希望である計画である。

その準備段階として制定されたのが、大総統府付き独立法務執行官――――通称『リーガル』。

法に背く者の喉笛を噛み砕く秩序の猟犬である。

 

彼等には法律に基づき、多大な権限が与えられており、

警察と検察と判事と死刑執行人を纏めた権利者である。彼らの言葉は法律であり、彼らの行いは法律なのだ。

故に、人の慈悲は無く、人の温情は存在しない。

 

彼らの正義は苛烈過ぎて人々には受け入れられていない。

故に、レイブン中将はその正義を受け入れざるを得ない状態に国民を追い込む計画を考えている最中だ。

人々にとって、現在リーガルは国家錬金術師が聖人に見える程、一部の者には忌み嫌われている。

だが、逆に熱狂的に受け入れる人々も多かった。

 

その土地の慣習や人間関係のパワーバランスを無視して、無遠慮に国家意思である法律を遂行する。

その地域において泣きを見ている人々にとっては、少なくとも猟犬の在り方は救いになったかも知れない。

 

だが、大多数の主流派には概ね、面倒くさい上に逆らうには恐ろしい存在である以上に、

一切の違反を許さない、人間らしい今まで続いてきた暮らしを冷たく切り裂く存在として、嫌われていた。

 

 

アメストリスにも国家の中枢とは違う意味で暗部となる部分が存在する。

過激な独裁に対する反発や、表に顔を出せない人々の集まりや、異民族のスラムや、犯罪集団。

有名どころでは『青の団』や『デビルズネスト』等が存在する。

今となっては、青の団については殆ど壊滅したも同じであるだろうが。

 

彼等は表に生きていくよりも裏の世界の方が利益が有ったり、生き方が楽であるからそうしたものも多いが、

境遇故に、その世界でしか生きていけないものだって少なくなかった。

水の濁りが一切無く清すぎれば、魚も住まず。餌となる微生物の食事となる濁りが無ければ、

餌を与えられる環境にない魚は生きていけない。

餌を与えて貰える人に飼われた魚だけが生きていける生け簀。それがレイブン達が目指す世界だった。

 

そして、レイブンにとって、その餌を撒く人物は叶う事なら自分でありたいという事は言うまでもないだろう。

だが、これらの考え方はこれから後もこの国に(国民)達が存在して初めて意義が出てくる。

 

 

国家の中枢の更に中枢にいる者達の意思は、国民を犠牲にした後に残る己達だけの不老不死。

明らかに、国家の中枢の更に中枢にいる者の中では異端に近い考え方だった。

レイブンは不老不死を諦めたのか、諦めたとすれば何が発端で目的なのか?

それを知る者は彼自身をおいて存在しない。

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