響き渡るサイレンと共に、軍部の応援に先駆けて
彼らの目的の中には勿論スカーの捕縛もある。だが、スカーを手引きしている者がいる可能性を考慮して、
その者達諸共、捕縛、または処刑する事が目的だ。
「…行かなくていいのか?」
ロイは目を合わせる事無く、その場に残ったローズにそう問いかけた。
ローズもまた、目を元親友の方に向ける事無く、
「余計な御世話だ」
そう切り捨てた。
既に修復不可能な落とされた橋は、かつて繋がっていた崖同士を繋ぎ合わせる事はもう無い。
ローズはホークアイに視線を向けたが、俯いて目を逸らす彼女を視認すると、
その視線を正面に戻し、歩いてその場を去った。
暫くして
「…どうして、こうなったのかしら」
エンジンの唸り声が聞こえなくなった後、
ローズにとってはその理由の一つである女性の呟きだけがその場に残った。
―――――――◆◎†――――――――
それから暫くして、大総統府付き独立法務執行官ローズ・ジャスティはとある現場へと向かっていた。
ゼリー状の生物の目撃情報があったためだ。
ゼリー状の生命体『ファーストマザー』、通称ファーストは都市伝説の怪物では無い。
クレミン准将が計画したあらゆる生命体と、複数の人間を一つの身体に押し込める『原初の海』計画により発生した、
『究極のキメラ』だ。
夜間に不定形の身体を押し込めたケースを破って研究員を取り込むように食い殺して逃走した。
出来る限り速やかかつ秘密裏に回収。不可能ならば
それと並行して、ローズは現在幾つかの犯罪組織を壊滅させようと動いている。
『青の団』の構成員の子息が、血が悪かったのか育てられ方が悪かったのか立ち上げた『新・青の団』――――通称アホの団。
構成員、特に末端が若すぎる為に、域がっただけの粗雑な犯罪が多い事からこう呼ばれている。
または、社会的弱者達が現状の世界に不満を持って立ち上げたらしい、詳細不明の『
だが、アホの団は途中でストップが入った。
犯罪者本人はともかく、その影響を確実に受けているだろう家族自体には表面的には罪状は無い。
勿論、逃亡中の者を匿っていたり、その為に虚偽の証言をした場合は別だが、基本的な連帯責任は存在しない。
とするも、現実的には恨まれている犯罪者の家族には、その家族を周囲から護る恐い人である犯罪者本人がいなくなれば、
今まで被害を受けてきた者や、その血族が生きていると都合の悪い者に狙われる可能性は否定できない。
だが、その表面上の今までの部分では犯罪者の家族は無実であっても、
現実的には犯罪者の親を持つ人間の犯罪率は、そうでない者と比べて高い傾向がある事は否定できない。
故に、危険があるなら合法的にその家族も犯罪者として扱えるように、その理由づくりとして、
犯罪者の子供は犯罪者という風潮が作れる新・青の団を泳がせて、その被害を国民達に周知させようという流れである。
その事前準備として、被害状況をバラ撒く為のメディアは着々と国家が裏で押さえつつある。
例えば、一見地味な放送しか流さないラジオ局があった。
だが、そのラジオ局の職員にはメディアの自由を胸に秘めた人員が多かった。
『イシュヴァールの真実』等、様々な禁書指定を受けた本が職場に置いてあった事からもそれは明らかだった。
その他にも、かつて国家反逆者となり、リーガルの隊員によって処刑されたアイザック・マクドゥーガルの調査など、
国家の民としてあまりにお上に不都合な事をやって来た。
故に、風紀取締りとして責任者達が拘束され、国家から監視員を兼ねた新たな責任者が配属された。
国民に指向性無くばら蒔かれる公共の電波で、国家に都合が悪い意思を持つ者達が放送を流すなど、思想教育において余りにも悪すぎる。
これは、国家の秩序を護る為に必要な処置であり、
いずれ来る愛国心を醸成したり、国家の命令を国民に速やかに流すためには必要な手段であった。
だが、実のところ、ローズにとって犯罪者の子供は犯罪者になる確率が高いから、最初から犯罪者として扱うという流れは都合が悪かった。
苗字こそ違うが、彼自身の父親が、実は国家から大罪の指定を受けて銃殺刑になっていたからだ。
故に、上官であるレイブンに打診した。新・青の団を壊滅する事を中止する前に、数日の猶予が欲しいと。
それに対して、レイブンは猶予を与えた。指定された日の夜の12時までは捜査と
そしてそれ以降はこれまでの新・青の団の罪状については全て見逃すと。
だからこそ、ローズは新・青の団を壊滅する事を最優先と定めて、ジャスティスのエンジンを最大で回して夜の道を走って行った。
そのエンジン音を聞きつけて、路地裏から不思議そうにその姿を見送る無表情の少女の様な何かがいた事には、誰も気が付く事は無かった。