ローズは聞き込みの為に旧・青の団の構成員の家庭を探して回り、虚偽の申告で捜査妨害を行うと厳罰に処すると告げて回った。
当然、その家庭の中には周囲に同類で済んでいる人々だけでなく、普通の地域で過去を隠すように身を狭くして生きている人々もいた。
故に、ローズの行為はこれ以上捜査が続けば、近所の人々に居たくない腹を探られることになるという脅迫でもあるのだが、
正義の為であれば仕方がない事だ。彼はそのように理解して行動を遂行していた。
強者の理論、冷たい正論を振りかざし、よくあるリーガル隊員として順調に人々に嫌われる様な捜査を続けるローズは、
新・青の団のアジトの一つを見つけた。旧・青の団の隠れ家をそのまま引き継いだものであった。
そこで構成員に最近なったばかりの少年達を見付けた。かつてローズが食い逃げで追いかけた少年達だった。
彼等は、父親が青の団の構成員として活動して、リーガルに処刑され、片親で貧しくなったが故に食い逃げなどで腹を満たしていた。
そして、窃盗の罰金刑で保護者として、彼らの母親は息子たちの所業を知らされた上に、多くも無い金銭を失い、
それによって倒れてしまった。
そこで、かつての青の団を継ごうとする、新しい組織のリーダー代行者に薬と栄養がある物を買えるだけの資金を与えられ、
その配下についた。
窃盗なら罰金刑で済んだが、国家反逆を目論んだ青の団の後継者を名乗る組織の構成員であれば、厳しく処さなければならない。
残念な事だった。苦しくなったからと犯罪に走る程度の自制心しかない者は、再犯率が高い。
それは解っていても、この世に罪が増える事はローズにとって好ましい事では無かった。
犯罪に走る位なら、纏めて飢えた方がマシではないかと問うローズに、少年達は無言で構えたナイフで答えた。
一切容赦も弁明を受ける事も無いという、いつもの口上を述べた後、
ローズはこれ以上犯罪が起きる事が永遠に、そして絶対に無い様にその芽を摘んだ。その手段は2回の発砲音が物語っていた。
ローズは未だに熱を持つ拳銃を構えたまま、そのアジトのボスである男のいる場所へと向かった。
その道中にいた少年構成員たちについては、既に処置済みである。
本部のボスが青の団が残していた資産を売り払って、幹部達に配布した金銭を使い、
少年達に囲まれて王様気分でいたチンピラに、
「公務執行妨害、窃盗罪、暴行罪、及びその教唆、そして国家反逆罪を以って有罪とする。
一切の申し開きや情緒酌量の余地は無い…とするところだが、本部の場所を正直に吐くなら一部の罪に対する罰を免除しよう」
そう告げて、銃口を男の喉元に突き付けた。
男にはもう手持ちの戦力は無い。目の前が真っ暗になりかけるも、男は身の保全の為に正直にボスの名前と居場所を吐いた。
ローズは男に公公務執行妨害、窃盗罪、暴行罪、及びその教唆の罪状に対する罰を免除すると告げた。
そして、引き金を引いた。チンピラはその頭を爆散させて汚い血をぶちまけた。
「残るは国家反逆罪。
判決――――――――――――死刑」
容赦の欠片も猟犬には存在しなかった。
ローズは仲間に死体などの処理をさせる為に連絡をした後、目的の場所までフルスロットルでジャスティスの唸り声を上げさせた。
そこは小さいながらもそれなりにお金がありそうな屋敷だった。
前、青の団の団長が善良な人々から奪い立てた金で立ち上げた御殿だとも言えた。
先程のアジトとは比べ物にならない数の少年兵と、僅かな大人たちが警護をしているとチンピラが言っていた。
ローズは、その屋敷の前にジャスティスを停止させると、確かに扉の前だけでもそれなりの数の警備がいた。
「――――
先程此処に来る前に装填していた特殊弾の名前を呟きながら、ローズは愛銃の引き金を引いた。
屋敷の扉の周辺を破壊して、入り口を大きく開ける様に爆発した錬金術の式が刻まれた特殊弾丸は、周囲の護衛を巻き込んで焼き払った。
国家反逆に加担した者に一切の温情は無い。
国家の猟犬は入り口であった穴を潜りながら、
「無駄な抵抗をして、これ以上罪を重ねるな。
尚、一切の情緒酌量、交渉、弁明は受け付けない。
それでは現在での罪状を告げる。国家反逆罪及び、その準備行動に関連する危険組織結成罪で判決――――――死刑」
個人の主観においては、死刑より上の罪状などない。
故に、犯罪者たちにはその言葉を聞いてこれ以上罪を重ねない様にしようと首を洗うつもりは無かった。
返答として、ローズに向けて一斉に銃弾や投げナイフが飛んでくる。
ローズはそれを躱しながら、公務執行妨害も追加だと話しながら拳銃で応戦する。
国家意思の代行者、大総統府付き独立法務執行官。その圧倒的戦力は個人であっても、犯罪者の集団に劣る事は無かった。
敵対者の一斉攻撃を躱したローズは、第二波が迫る寸前で目を瞑り、照明弾を使用。
突然の眩さに手元が狂った犯罪者達は互いに傷つけ合い、ローズはその悲鳴の発生源に向かって発砲した。
倒した机の裏に隠れて反撃してくる少年には、貫通弾を使用。
纏まっている大人達には散弾を選択した。
一切の淀み無く弾種を選択して、一切の躊躇無く撃鉄を起こす。
法という正義に狂う獣には、人の情けは存在しない。ただ無情に、冷徹に、残酷に正義を執行しながら、
立ち上がる者を全て射抜いて、ローズは二階へと階段を登っていった。
一階からにじり寄る悪鬼が階段を登り上がってドアを開ける寸前を狙って、二階にいた新・青の団の構成員達は扉に向けて発砲した。
だが、その扉の向こうには誰もいなかった。
ローズは階段からドアノブの鍵を徹甲弾で射抜いた後、圧縮空気を解放する際の暴風で扉を解放した。
そして狙い通りに敵は其処を狙ったのだ。
しかしそこには誰もいない。その逡巡を狙って転がる様にローズは二階へと転がり込んだ。
そして回転しながら入り口付近の銃を持った大柄な青年を発砲。
その弾種は遅刻式拡散弾。発砲して暫くしてから全方位に破片をばら撒いて爆発する特殊弾だ。
青年の首の横をすり抜けた銃弾を追う様に、ローズは青年に飛び掛かり、その身体を盾にした。
直後、爆発音。ローズは肉の壁越しに衝撃を知覚した。
その後、用済みになった盾を投げ捨てると、その周辺にいた者達を続けざまに撃ち抜いた。
そしてゆっくりと最奥にある椅子に座った高級そうな服を着た身なりの良い金髪の少女と、先程の破片が当たったのか、
その横で片腕で脇腹を抑えて、もう片方の腕で鞭を持っている眼帯を付けた赤髪の女の前へ歩いていくローズ。
少女と女は仲間を全員撃ち倒した青年を睨む。
女は怒りを隠す事無く告げた。
「ティンダロスのローズ。お前だな、バルドを、私の恋人を殺したのは、
この子の、ジュリエッタお嬢様のお父上を捕らえたのはっ!!」
それは事実であった。
彼女の恋人であり、彼女とは反対側の目の視力を失ったテロリストであるバルドに死刑を執行し、
そして青の団の頭領を捕らえたのは、ローズ・ジャスティその人だった。
加えて、この女は薄々感づいていながらも、少女には告げていない可能性ではあったが、
その想像通り、既にジュリエッタの父親はこの世には生きていない。拷問の末に獄死していた。
しかし、ローズは罪状なら既に告げたと、相手にすることなく女に向けて引き金を引こうとしたが、
弾が既に無かった。悲しく軽い引き金の音だけを告げる銃を持ったローズに、女はここぞとばかりに鞭を振るった。
機械鎧の腕の延長である女の鞭の精確さは、ローズの銃を弾き落とすほどの精度を持っていた。
だがローズは、慌てる様子は無かった。
勝利を確信した女に対して手を合わせた。
その直後、女は急激に身体を熱される感覚を感じた。その直後、恋人にも褒められた彼女の自慢である赤い髪より、更に赤い炎が彼女を包んだ。
これが、ローズの錬金術。師匠から学んだ知識を元に、秘術を受け継げなかった代わりに、
師匠とは別の結論で発火を可能にした。
対象範囲は広くは無いが、湿気があっても対象に熱のダメージだけは与えられる、空気の急圧縮を利用した発火現象。
瞬く間に焼き焦げた女は、せめて少女に飛び火しない様にと少し離れた所で、限界を迎えて動かなくなった。
焼き焦げた自分の世話をしてくれていた女性の死を目に焼き付けた少女は、
ローズを睨みつけると、座ったまま、
「私の生活は、汚い金に支えられてきたかもしれません。彼女も犯罪者かも知れません。
ですが、それでも父は私に優しかった。
彼女も姉の様に接してくれていました。私は、貴方を恨みます」
気丈にも、ローズにそう言い放った。
だが、リーガルにとっては彼女が名目上であれ、犯罪組織の最高責任者である。
故に、その罰は下さなければならない。
先程取り落とした銃の弾倉に、ポケットに入れていた銃弾を再度装填して少女に向けた。
リーンゴーン、リーンゴーン
その時、部屋に在った時計が日が変わるのを告げる音を鳴らした。
つまり、約束の時間だ。
これ以降、ローズは完全に沈黙して、後は他の組織に喰われるだけであろう、新・青の団に許可無く手を下す事は出来ない。
挙句に、新組織のこれまでの罪状は全て免除となる。
命令は絶対だ。これは仕方のない事なのだ。
ローズは、少女に執行すべき罰を置き忘れてきたと告げ、
その場から消えた。
後には、少女のすすり泣く声だけが、弾痕と焼け跡と死体達の眠る館に響いていた。