アメストリス絶対法   作:蕎麦饂飩

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砲火後ティータイム

「やりすぎたな」

 

「許可の範囲内で行動しました」

 

互いに言葉をかわすのは、レイブン中将とローズ大総統府付き独立法務執行官。

彼らは上司と部下の関係であり、上司が案件に対する許容範囲として認めた部分を、

最大限に使い切った部下が、自分はルール違反はしていませんからと言い張っている場面である。

 

もし、上司が部下の性格と能力を理解して許可を出したのでも無く、

もし部下が屁理屈ばかりを述べて仕事が出来ない権利だけを欲する無能なら、彼はとっくに此処には居なかっただろう。

だが、それらの前提があるから彼らはコーヒーとロールケーキを前にしながらこの会話をしている訳である。

 

レイブン中将に娘がいたら彼に嫁がせようとしたのではないかと思える程に、彼らの仲は良い。

少なくとも周囲はそう認識している。そして実際にレイブン中将に娘がいるから性質が悪い。

尚、錬金術の師匠の娘を懸想しているから無理だと、以前にローズは断っている。

 

彼等は理想を共有していることがそもそもの絆の発端だが、それ以外にも彼らを結び付ける要素はある。

レイブン中将の命をローズは救った事がある。あくまでローズは当然の事だと思っているが、

レイブン中将が、大総統(ホムンクルス)に従順な狗で在り続ける事に疑問を持った原因の一つでもある。

人間の国が、人間以外の者の牧場である事に、牧場主が家畜の頭領である自分達にどれだけ恩恵を本気で確約するかという事に。

尚、レイブンの最大戦力の集団は従順な狗ばかりであるが。

 

「ところで、クレミンの件だが」

 

「クレミン准将の…、ああ、脱走した実験体の件ですね。

その件で失脚に追い込まれるのですか?」

 

 

暴走した部下を咎める様な冗談から一転、今後の方針に会話を切り替えた二人の空気は急激に変化した。

 

 

 

「いや、大総統も大きな処罰は加えない様だから、私も突かないでおこうと思う」

 

「そうですか、解りました」

 

 

クレミンのローズは即答した。

 

「おや? 疑問には思わない……だろうね、基本的に命令に疑問は挟まない男だというのは理解していたよ」

 

「ご理解頂き光栄です」

 

 

「だが、それでは聞かれれば話そうと思っていた此方側としては欲求不満になってしまう。

だから聞いて欲しい。

聞いたか? お前が潰した青の団の後継者たちのアジト。死体は残っていなかったらしい。

代わりに、粘液か皮膚か良く判らない何かが付着していたと聞いた。

どうもクレミンの奴は、ワザと逃がさせたようだ。最終実験らしい。

奴め、処罰も恐れず大した奴だ」

 

「その様子だと在庫の量産が出来るまでは実験体の処分は止めた方が良いでしょうか」

 

 

 

「ああ、今のところは一名の職員を除いて生きた人間は捕食されていないらしい。

だからこちらとしては死体損壊罪と一名の殺害は事後的に許可する。

そうしなければ、危険物(化け物)の所持者(クレミン)が責任を問われることになる」

 

国家という全体の為なら、数人の犠牲は仕方がない事だ。

故人が欲望のままにそれを実施すれば、犯罪だが、国家が為せば、それは政策となる。

国民が皆、1の材料で10を作り上げる有能ばかりであれば、政治家も誰も犠牲にする事無く、皆を幸せにする方法を考える事も出来る。

だが、国民の中には5の材料で1しか為せない者も多く、そういう人物も含めて国家を運営するには、

何かを犠牲にしたり、大きな成果を上げられない様な政策しか出せない事を、政治家達に責任を問うのは酷だろう。

底辺層を上層部が救わないのは、救えないのは、上層部の対極判断能力の低さでは無く、底辺層自身の能力の低さに起因する。

それは、アリの軍隊で恐竜を倒せと言うような事だ。ライオンの群れでシマウマを倒せと言うのとは余りにも違い過ぎる。

それに国家を救う義務はあっても、全ての国民を救う義務は政治家には無い。

 

その事実をレイブンは良く理解していた。

だが、一方で強者であるライオンが、弱者であるシマウマに対して、保護して独占すべき食料としか視線を向けない事にも憤りを感じていた。

だから、彼はシマウマの群れの中にライオンが力ある長として振る舞う社会から、

シマウマの王こそが、その頂点に立ち、シマウマ達を従える社会を作ろうと考えた。

無論、ライオン以外の外敵からシマウマを護れる力は無くなるが、その時は足が遅い個体を切り捨ててでも、

必死に走って逃げればよい。それは群れ(国家)の維持には必要な事だからだ。

レイブンの目指す社会はそういう社会であった。

どんな理由があっても、どんな手段を使っても、アメストリスと言う国は、アメストリスの人間の為だけに在るべきなのだから。

 

 

「そして此方としても、プランVを他の者が行ってくれるなら、労力を割かなくて済む」

 

「プランV…ですか?」

 

 

「ああ、いや、こちらの話だ。気にしなくていい」

 

レイブンに止めろと言われれば、止めるし、気にするなと言われれば気にする事は無い。

ローズは国家の忠犬である。

 

「解りました。では引き続き赤者の同士会を殲滅します。占拠した地域の人質もいますが、如何されますか?」

 

「…あの集団を放置するなら、他の集団の方がまだ見込みがある。構わん、潰せ。

それと、テロリストの盾として協力する者が、国家の邪魔になるなら人質も犯罪者として扱って構わない。…解かるな」

 

 

「了解です。数日の内に壊滅させましょう。

最近は国を切り取って、自分達で運営できると自惚れるテロリストが多くて困ったものですね」

 

「仕方ない。まあ、彼等を利用して、精々正義の味方として目立ってくれたまえ。後々の役に立つ」

 

 

リーガルの存在感をもっと国内に浸透させなければならない。恐ろしい犯罪に対抗する切り札である苛烈な正義。

その重要性と必然性を深めなければならない。そう口に出す事無く、心の中で付け加えたレイブンは、

ため息を吐いた後、コーヒーのおかわりを注文した。

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