アメストリス絶対法   作:蕎麦饂飩

2 / 23
弁明無視、強制執行ジャッジメント

大総統府付き独立法務執行官――――通称『リーガル』

 

彼らには法の解釈から執行に至るまであらゆる権限が大総統の名前で承認されている。

彼等は、検察官にして裁判長。―――そして刑の執行者。

 

度重なる犯罪を制御する為に、大総統の手足の延長となり、

秩序に従わぬ者に『正当な私刑』を執行する法の番犬である。

 

非常に厳しい選定条件を乗り越えなければその役職につく事が出来ない代わりに、

彼らの発言や行動は常に国家の法律と同じ位置に値している。

生きたアメストリス六法大全だ。

 

これは、そんなリーガルの一人、ローズ・ジャスティの物語である。

 

 

 

彼はリーガルにも関わらず、その実の両親が定かでは無い。

少なくとも軍のデータベースには残っていなかった。

就任に至るまでに、三等親に遡り犯罪履歴を調査されるリーガルには極めて異例の事だった。

だが、それには政治的な圧力が動いていた可能性があるとも言われている。

彼は、嘗ての内乱でとある名家の後継者と目されている男を、

反乱者イシュヴァール人を逃がそうとした罪を強く咎めた。

 

そのことにより、その名家の発言力が政界の場において減少した。

それが都合が良かった人々、例えばレイブン中将などによって、彼は推薦を受けるに至った。

これがローズ・ジャスティが栄光への切符を掴んだ理由だとされている。

 

彼は今日もリーガルに支給された機械式二輪車を駆使しながら、担当地区をくまなく駆け回り、

この世の悪を摘発して回っている。

 

つい先ほども、金も無く建物の軒下で雨風を凌いでいる浮浪者達に、

アメストリス刑法第51条の浮浪罪に抵触するとして、自ら出頭して罰金を払う様に命じていたところだった。

 

彼らには住む所が無いからそこに暮らしているのだが、

町に住み、税金を払う真っ当な市民(・・・・・・)の治安と地域の景観を損ねるという理由で、

更に言ってしまえば、リーガルがそう判断したという極論がまかり通る。

 

平たく言えばスーパーエリートである警察官のような存在で、人々から好かれる類の職業では無かった。

国家の安寧の為の嫌われ者である。

 

 

 

 

今もローズは正義の法を執行している所だった。

妹と共に食い逃げを働いた少年を、特殊な機密動力炉を持つ機械式二輪車で執拗に追い詰めながら警告する。

 

「これ以上逃走を続けるなら、『執行権』の行使で攻撃を実施する。

尚、この攻撃における反論や抵抗は許されず、それによる障害は保険の適用にはならない。

再度警告する。これ以上続けるというのなら――――」

 

彼は白色で錬成陣を書いた黒い手袋に包まれた拳に握った物体(・・)を、少年の方に向けた。

リーガルにはあらゆる法規の超越が合法と看做される。

故に、極めて横暴に言ってしまえば執行中のリーガルによる殺人は殺人と看做されない。

 

ローズの錬金術は、所謂『酸素』の術式に集中している。

過去に彼の親友が行った無謀な錬金術の実験を危険だと判断して、

無理矢理介入した結果、失ったものが身体に響くが、

その対価として黒色の手袋に刻まれた錬成陣が無くても錬成を行使できる。

ただ、その手袋は只のフェイクや保険として適応されているものでは無い。

 

ローズは複数の錬成を同時に行使できる。

その為に、彼は錬成陣のある装備を幾つも所持している。

 

例えば今まさに彼が手にしている拳銃など様々な物が在るが、そのどれもが特別な高級品(オーダーメイド)だ。

 

 

「またアンタか。止めろっ、やり過ぎだっ!!」

 

 

そんな彼の前に、一人の少年と巨大な鎧が立ち塞がった。

 

 

「エドワード・エルリック及び、アルフォンス・エルリック。

また君達か。

邪魔をするのなら公務執行妨害だと認識させてもらうが、構わないね」

 

 

ローズはその回答として、目の前に壁が構築されたことを確認すると機械式二輪車を更に加速させた。

そして、――――――跳び上がった。

 

空を翔る様に跳ね上がった機械式二輪車、通称ジャスティスは装甲が厚く非常に馬力がある超重量の車体でありながら、

その一切不明の動力炉により、今の様な大跳躍をこなす事が出来る。

無論、操作技量には相当のものが求められるが。

 

驚愕するエルリック兄弟を飛び越えたローズは、彼らに後で処置をするからその場に留まる様にと告げて少年達を追跡して、

あっと言う間に追いついてしまった。

彼らの横をすり抜ける様に超えて、急カーブと停止によるドリフト染みた動きでジャスティスを停止させると、

銃を向けながら、下車した後に彼らの方へと歩いていき、その手に手錠を嵌めた。

 

 

「アメストリス刑法第22条窃盗罪、及びそれに纏わる逃走の罪で逮捕する。

後で、地域の警察が此処に来る。大人しく罪を償うと良い」

 

彼はそう言い捨てて、次の現場へと向かっていった。

 

 

強力な錬金術師やその他の技能に優れた人材でありながら、各銃火器の扱いにも精通するリーガル。

だが彼らの最大の武器はその能力でも、あるいはジャスティスでもない。

彼らがいつ如何なる時も携行している、アメストリス六法大全である。




でも、待てと言われてそのまま待っている犯罪者もいないんですよねぇ。
  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。