アメストリス絶対法   作:蕎麦饂飩

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レイズン・弱肉強食

弱者の為の弱者による弱者の国家の設立を標榜する『赤社の同志会』(アーカーシャ)

彼らの活動は、ネズミも集団になればネコを食い殺すという合言葉を胸に、様々な犯罪行為に手を染め、

何時か来たる国家の為の下準備を行っていた。

 

だが、この組織には少々残念な事がある。

構成員が弱者の集まりであり、弱者は群れようが弱者には変わりなく、ネズミの群れはネコを倒せても、

恐竜相手には纏まった餌に過ぎないという事だ。

 

 

 

マアン・ビキーヌは必死に逃げ出していた。後ろからは獰猛な猟犬が追いかけてきているからだ。

勿論、獰猛な猛犬と言うのは、大総統府付き独立法務執行官――――通称『リーガル』の事である。

 

マアン・ビキーヌは組織の資金源確保の為に、ある宝石店を襲い、ある顧客を装った仲間二人を人質にした振りをして、

貴金属や宝石を奪い逃走した。

 

強盗を行わなければ自分達には到底買えないような高級車に乗っているカップルがいたので、

マアンは憂さ晴らしも兼ねて、カップルに発砲して女の方が怪我をした為に止まった所で、二人を引きずりおろして強奪。

 

今まで良い思いをしてきたお金持ちには当然の報いよ。マアンはそう吐き捨てて仲間達と車で逃走していた。

宝石だけでなく、今後の足となる車まで手に入れた。これで組織の中の発言力は上昇する。マアンは少し気分がノっていた。

 

しかし、途中からその様子は変わった。

 

徐々に近づいてくるサイレン音。そして機械式二輪特有の排気音(エグゾースト)

見間違える筈も無い白と銀で彩られた制服。国家の正義を騙る冷徹なギロチン、リーガルのお出ましだった。

 

 

「大総統府付き独立法務執行官のローズ・ジャスティだ。

反国家組織への所属、及び強盗罪で有罪と断定する。判決は死刑。

一切の交渉、弁明、抵抗は許可しない」

 

そう言ったが否や発砲。後部座席にいた人質役の一人とタイヤの一つが撃ち抜かれた。

マアンはパニックになり、パンクして緩み出した一輪を無視してアクセルを更に踏んだ。

それによって逃げ遅れた老婆が衝突したが、マアンにそれを気にする余裕はない。

どうせ掴まってしまえば死刑なのだ。今まで自分を下に見下してきた人々の一人が死のうと知った事では無い。

マアンはそう考えた。いや、それ位しか考える余裕が無かった。

だが、運転中に余計な事を考えていたからだろうか、それともタイヤの一つが外れかけてブレ始めていたからだろうか?

後ろからの銃弾を避ける為にカーブしようとした事で、車は大きく転倒した。

 

マアンがショックで意識を手放し、再び取り戻すとその手には手錠がかけられていた。

この後、既に下された罪状から訪れる結末を想像した彼女は、不細工な泣き顔で絶叫した。

 

 

 

 

ローズは人質役の情報を宝石店の店主から聞き出した際に、脳内のデータベースから、その人質がテロリストの仲間であると気が付いていた。

故に、容赦の無い発砲だった。

気絶したマアンを確保して、仲間二人を車内から引きずり出そうとした時に、その内の一人が既にいない事を理解した。

その上、逃走した方の仲間はアーカーシャのボスでもあった。

 

 

再び捜索を始めたローズだったが、そこからの捜査は意外にも難航した。

つい先ほど取り逃がしたばかりの犯人を見失うなど、余りにも勿体無かった。

だから彼は仲間を呼び寄せた。

 

サイレン音が徐々に周囲から集まってくる。これは強者の群れだ。

これで弱者が群れて強者を打ち倒すという幻想は粉々にぶち壊された。

 

だが、アーカーシャの本拠地に近付いたリーガル達は思わぬ困難にぶち当たった。

周囲の住民に対し、

 

 

「我々は大総統府付き独立法務執行官だ。現在赤社の同志会壊滅作戦を実行中だ。

周辺住民は我等のあらゆる要求に従順に従い、積極的に事件解決に協力せよ。拒否権は存在しない。

尚、赤社の同志会の構成員を匿ったものは同様に有罪とする。

また、人質となった者は彼らの協力者として同様に執行対象とする。

赤社の同志会よ、お前達は国家反逆罪で死刑が確定している。大人しく投降しろ。さもなくば反撃への準備と看做す。

これ以上罪を重ねる事無く大人しく刑を受けるが良い。尚、弁明も情緒酌量も交渉も認めない。

繰り返す――――――」

 

その様に丁寧に説明したにも関わらず、住民たちは家に籠ってドアに鍵をかけているままだ。

住居の屋上からリーガルを狙撃しようとしたテロリストを発見した隊員の一人が、家の中に逃げ込もうとしたが、

鍵がかかっており失敗。仕方なく鍵を銃で破壊して内側に逃げ込んだが、

その家の住人が、

 

「勘弁してくれ…、この地域に住んでいて明確に彼らに敵対したらわしらも無事ではすまん」

 

と、その家を盾に応戦しようとしたリーガル隊員に懇願染みた苦情を突きつけた。

だが、

 

「テロリストに敵対して殺される事は犯罪では無い。理解しろ」

 

そう言ってその隊員は取り合わなかった。その結果その家で狙撃手と数発の応酬を行って倒す間に、老人の孫が流れ弾に当たったが、

それはリーガル達にとって仕方がない事だった。

 

他のリーガルは、アーカーシャの構成員が数人逃げ込んだ建物に対して、

一分以内に逃げない住民はテロリストの協力者であると通告の後に、

建物ごと爆破する処置を取った。

だが、それもリーガルに許可された行動の一つであるために、仲間からは批難は無い。

精々、爆破前に通信機の音を遮断しろという内容くらいであった。

 

 

彼等は国家に忠誠を誓うが、国民の奴隷では無い。故に国民へ一々配慮はしないのだ。

そんな獣の様な集団であるリーガル最強の戦士、ローズは他の隊員以上に冷徹であると名が通っていた。

 

最初に錬成で作り上げた拡声器で一斉放送で、何時もの文面を告げたから、後は従わない方が悪いという論法で、投降の意志が無い者は、

武器を向けていなくても、赤子を抱いていても、彼の中のデータベースに赤社の同志会の構成員と情報のある人物は容赦なく処刑していく。

 

そうやって、遂にアーカーシャのボスの所に辿り着いた。

この組織のボスは眼鏡をかけた小太りの男だった。

彼はその容姿とどんくささ、そして頭の回転と物覚えの悪さから生きづらい生活を過ごしてきた。

されど、周囲は優しくは無い。彼に優しかった女性もいたが、この男が惚れるとはその女性は思っていなかった様だ。

その女性は誰にでも親切なだけだったのである。結局その女性は小太りの男、ジメジミー・ハッドフェースが嫌いな、

所謂リア充全開な男が好きだと、最近愛を打ち明けたと、その様にジメジミーのどもりながらの告白を断り、男と婚約した。

 

結局、その女性は恋人と結婚式をする事は無かった。ジメジミーがその前に殺したからである。

自分と対極にある様な男と出来ちゃった婚をして、娘と夫と共に結婚式を挙げる初恋の女性を見たくなかったからだ。

その時、タガが外れたジメジミーは社会に不満がある仲間を集めて、弱い者が認められる国家を作ろうと夢見たのである。

その夢から無理矢理醒めさせられた上に、現実と共に銃口を突きつけられて彼は悟った。…正確には思い出した。

何処までいっても負け組は負け組なのだと。

思えば、学生時代からずっと負け組として生きてきた。

だから、アウトローとはいえ組織の長になって舞い上がってしまっていたが、冷静に考えれば当たり前の事だった。

子供達の社会で勝ち組になれなかった人間が、大人になって勝ち組になれるハズなんてあり得なかったのだ…。

 

結局の所、社会の無能な上に犯罪者気質の者達を集めて、リーガルと言うゴミ収集会社に派遣を依頼した以上の事は、

彼らは社会に影響を及ぼす事は無かった。

 

世界に救いは無い。人の世に熱は無く、人間に光は無い。

だからこそ、猟犬達は白銀と硝煙で闇を祓い、悪を裁き続けるのだ。

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