ジメジミーを追い詰めたローズは、彼に手錠をかけた。
勿論此処で処刑しても良いが、やはり略式の刑よりは正規の刑を執行する方がスッキリする。そういう思考だった。
ジメジミーを連れて行こうとした時、高速の何かがローズの横に移動してきた。
それは少女だった。まるで穢れを知らないような無垢な少女。
それでありながら生物の雌としての在り方も両立した、そんな少女が其処に居た。
その時、仲間のリーガルが少女に向かって発砲したが、その少女が躱した為にジメジミーの腹部に弾丸は命中した。
誰もがジメジミーはもう助からないと理解した。ジメジミー自身もそれを理解したが故に己に迫りくる死に怯えていた。
そんなジメジミーの視界に映る少女は自分の惚れた女の面影が強く存在した。
それは当然の事でもある。彼が恋した女性と恋人の間に生まれた娘の姿形を、
研究員となった娘の父親である男の脳内から、化け物が捕食する時に抜き出した記憶を元に真似たものである。
尚、その元となった娘は一年前に既に病死している。
「血が出てる 死んでる? 食べて良い」
少女は化け物と呼ばれる一端を示す様に、その人差し指を触手の様に伸ばしてジメジミーの銃創に突き入れた。
そして、その肉を指先から啜って捕食した。
彼女こそ、数えきれない程の生命体の肉体と、複数の人間の思考能力を持つ不定形の体の格に、賢者の石を取り入れて完成した、
究極の生命体。国家の裏の上位プロジェクトの実験の完成結果であった。
死体喰いの正体はやはり『究極のキメラ』だったかと納得するローズ。
まあ、それはこの際どうでも良い。
大切なのは、『究極のキメラ』を確保した上に赤社の同志会を殲滅した。
今日もまた少し、国家の安寧に協力できたのだから。
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これは暫く前の話だ。
マルコーは逃げ出していた。彼は嘗て国家中枢の極秘事項を担う有能な研究員だった。
しかし、イシュヴァール人を使った幾つもの人体実験、
そして複数の人間の魂を等価交換して生み出される錬金術の秘奥『賢者の石』の生成。
それを実行した己の罪と、これからもその悪行に参加させられる恐怖から逃走していたのだ。
だが、罪の足跡は罰の牙を持って追いかけて来る。
国家の猟犬リーガルの隊員ローズはマルコーを見つけ出した。
「機密を盗み出して逃げ出した己の罪を自覚しているのか」
ローズにとって、国家の利益に貢献する事から逃げ出した事が罪であった。
それは、直ぐにマルコーにも伝わった。故に、もう従いたくないから見逃してくれと泣き言を返した。
だが、それではいそうですかという物わかりが良い隊員がリーガルに居る筈は無い。
国家への貢献という栄光を取り戻した上に、以前の罪に対する罰を免除すると言われているとマルコーにローズは伝えた。
だが、マルコーにとっての『罪』とは国家が許した所で消えるものでは無かった。
今でも彼を苛む記憶が彼自身を赦さない。
それでも、突きつけられた銃口はYES以外の答えを許さなかった。
一瞬の隙を突こうとしても、その隙事体が存在せず、
無理に隙を抉じ開けようとすれば、それを制するように銃口が首の近くを掠める状況でNoを突きつけられる訳も無かった。
挙句に、独り言のように、
「この村は医者が他にいないのか。もし唯一の医者がいなくなるのであれば、代わりの医者が必要かもしれないな。
…まあ、以前の医者が犯罪者として裁かれる様な危険な地域で無ければ、だが」
と呟かれては、大人しく従えば後任の医者を用意して貰えるという救いに縋る他無かった。
マルコーはローズの強さでは無く、その強さに勝てなかった自分の弱さを恨みながら連行された。