アメストリス絶対法   作:蕎麦饂飩

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金銀洞窟袋ノ鼠

「おはようございます、エドワードさん」

 

「やあ、ヨキ中尉。昨日の火事は酷かったですね。鐘の音で起こされてしまいましたよ」

 

 

「ええ、ええ、それは申し訳ございません。

ご覧のとおり、自分の煙草の不始末も出来ない様な頭無しが多い地方でして…」

 

ヨキの屋敷の玄関前で爽やかに挨拶するエドワード。

彼にゴマを擦るヨキは、酷く低姿勢の猫撫で声で、ナチュラルに炭鉱夫達に責任を押し付けたヨキ。

その白々しさに内心でイライラしつつも、友好的な仮面を張り付けたまま、エドワードは会話を続けた。

 

「それでですね、昨日言っていた中央への口利きの件なのですが、

偶々顔見知りの大総統府の本部で勤務するエリートの方がこのユースウェルに来ていたのを知りまして、

折角などで、是非ヨキ中尉とお知り合いになって貰いたいと思いまして…」

 

「それは、本当ですかっ!? ああ、ありがたやありがたやぁ~」

 

昨日渡した賄賂が、いきなり今日になって成果を発揮するとは思わなかったヨキは喜んだ。

しかも中央(セントラル)のエリートだと言うのだから将来性もある話だった。

 

「それでは、此処に呼びますね」

 

よし、これで出世街道を鰻登りどころか、滝登りだと喜んだヨキの待ち望んだ人物がやって来た。

 

エドワードの後ろから、白銀の衣装に身を包んだ青年が歩いてきた。

 

「大総統府付き独立法務執行官ローズ・ジャスティだ。

ヨキ、お前を贈賄罪及び、脱税、偽証、脅迫、殺人示唆、放火並びにその他六犯の罪で逮捕する。

贈賄とそれに関する偽証については、東部方面軍司令部にて七件、先日にこの地域の軍の分屯地で三十六件を確認した。

既に彼らは処分済みで、自白の供述書を記入している」

 

ヨキは思わずエドワードを見たが、年若い国家錬金術師は悪びれた様子も無い。

成程、確かにローズは中央勤務のエリート。ヨキの見立ては間違っていなかったし、

エドワードも何一つ嘘はついていない。

 

「尚、それらの資金源となった炭鉱の経営権等については一先ず国が差押えとする。

但し、その後罰金が支払われたならば直ぐに、個人資産として返却しよう。

結論から言えば、引き続き事業を続行可能だ」

 

差し押さえという言葉で、勝利したかと思ったが、返却されるなら結局、経営権はヨキのままだ。

何時もの様に、最後に余計な事を付け加える交渉のセンスの欠片も無いローズにエルリック兄弟は若干呆れた。

 

 

「…勿論、稼いだ端から賄賂につぎ込んだ分の罰金を払う余裕があればの話だが。

既に判明しているだけで、大層な額になっている。

残念だ。それだけ賄賂を払う資産があるなら、しかりと納税義務を果たすべきであった。

所で、六法大全551ページに記述されてあるアメストリス刑法第五十七条収賄・贈賄の罰金は、

果たして幾らだったかな、答えてくれエドワード・エルリック」

 

「……収賄は受け取った総額の1.5倍」

 

態々、エドワードに聞いてくるあたり、嫌な性格をしているとエルリック兄弟は本気で思った。

こんな事ばかりしているからリーガルはますます嫌われていくんだろうな、と。

この地域では絶賛嫌われ者仲間である国家錬金術師の自身を振り返ることなく。

 

 

「そう、正解だ。やはり法律を学ぶという事は素晴らしいだろう、エドワード君。

補足をすれば、贈賄に関しても同額の罰金が課せられる。

 

ヨキ、先程エドワード君が言ったように、この国の法律では賄賂が起きた場合には、

先ずはその資産を元の持ち主に返す。その上で総額の半分の額をそれぞれ罰金として国に治めるという形になる。

収賄した者、贈賄した者は賄賂の半額を失い、国家が賄賂の総額と同額を接収する。

つまり、形式上では罪を償った上で、今まで払い込んだ賄賂の総額の半分が帰ってくると言う訳だ。

今後は脱税や贈賄をせず経営をするといい」

 

ヨキの顔色が徐々に回復した。

世の中は強い者が動かしている。弱者には世の中を動かす力が無い。

故に強い者が有利な仕組みになっている。ある意味、世の中を動かす労力と能力への報酬とも呼べるかもしれない。

『力』――それには、権力、武力、そして資金力等が含まれる。

 

つまり、金を持っているヨキには賄賂が無効になった代わりに、その半分だけでも回収が出来て、

今後ものうのうと炭鉱夫達の犠牲の上に裕福な暮らしができる。そういう事だった。

勧善懲悪に一番近い職にありながら、性質は程遠い国家の狗の在り方に、

エルリック兄弟だけでなく、彼らが事前にローズに集めておくようにと言われて集めた炭鉱夫達も、

やはりお偉い役人かという失望の色を隠さない。

 

 

しかし、己が正しい正義であると自認するローズにはそれらの視線は全く気になるものでは無かった。

寧ろ、気にする性格であればここまで友達がいなさそうな男にはなっていない。

 

 

 

「今説明したのは罰金刑の部分だけだ。故意による有人の家屋に対する放火又はその示唆は重罪だと把握しているか?

殺人を示唆した事を事実と含めれば、極刑という結論を否定できない。

さて、昨日の火事について問おう。故意によるものか、偶然家の近くに石炭と新聞紙が置いてあり、

煙草の火で着火したものなのか、どちらだ?」

 

 

それは一種の脅迫であった。だが、それを告げた本人には何の自覚も無い。

 

「ぐ…偶然です…偶々落とした煙草で火が付いてしまいました」

 

ヨキの部下が耐えきれずそう答えた。

周囲のギャラリーは口々にアレは放火だと騒ぎ立てるが、ローズはヨキの部下の自白の言葉を調書に記録した。

ヨキは放火…もとい失火の事実が言質を取られた事に気が付き、再び真っ青になった。

 

「この時点での判決を下そう。

少なくとも15年以下の懲役だ。抵抗するのなら此処で射殺する。大人しく裁きを受けるが良い。尚、弁明も交渉も認めない。

ああ、先程の話に戻るが、罰金の払い方はそこのエルリック兄弟に聞いても良いし、

今、地方裁判所でお前から賄賂を受け取った罰金を払っている者達にでも聞けばいい。

受け取った賄賂を使い込み、罰金を払って一文無しになった上に公職追放で職を失う事になった彼らにな」

 

ヨキの顔は先程も随分と血の気が引いていたが、人間は此処までなるのかという程更に顔が青褪めていた。

 

 

「彼等の多くは罰金刑と公職追放以外の沙汰は無く終わった。

もしかしたら明日にでもこの炭鉱で働きに来るかもしれないな。

勿論、彼等の中には懲役の者もいる。顔見知りと同じ房に入れる様に口をきいておこうか?

互いに犯罪を犯してでも利益を追求する無為さについて語り合えるように」

 

経営者として残っても、刑務所の中の囚人としても碌な未来が待っていない事が容易にヨキには想像できた。

そして、罪は裁き、悪は挫くが、窮地のヨキを救おうとする類の善性は目の前のリーガルは持ち合わせてい無さそうな事も。

 

だが、更にローズの追及は続く。

 

「所で、失火疑いと贈賄以外にも脅迫や殺人未遂等という話も聞いている。

それらは残念な事に現行犯では無いので証拠か証人が必要だ。

さて、今この周りには証人になり得るかもしれない炭鉱夫達が待機してくれている。

果たして彼らはその証言をするかどうか、その事で処分を決定しよう」

 

 

ヨキは恐る恐る今まで自分が散々虐げてきた人々の顔を見る。彼らの証言次第では死刑が執行される。

彼等は皆、腕を組んで恐ろしげに笑って、

 

 

「そりゃあ、アンタ次第だな」

 

 

 

 

 

そう答えた、先程家を失ったばかりの炭鉱夫の親方に、

ヨキは深々と頭を下げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

その後、炭鉱は国営となり、回収された賄賂の一部は炭鉱夫達への臨時ボーナスとして支払われた。

ヨキが連行された後、先日の放火…もとい失火で焼け落ちたが、エルリック兄弟が錬金術で再建した、

炭鉱夫の元締めであるホーリングの店で、勝利の祝杯が挙げられていた。

エドワードが無理矢理酒を飲まされそうになったところで、

未成年の飲酒に関する法律と手錠を持ち出した法律屋が空気を冷やしたりもしたが、何だかんだで宴は盛り上がった。

 

炭鉱夫達に見送られながらユースウェルを立つ汽車に乗ったエルリック兄弟。

エドワードは往きと同様に、バイクを車内に乗せて読書をしている同乗者に話しかけた。

 

 

「…ありがとな。正直、真っ当な方法で解決が出来るとは思って無かった」

 

話しかけられた青年は、本を開いたまま視線だけをエルリックに向けると、

 

「礼を言われる筋合いはない。僕はあるべき正義を執行しただけだ。

それに、真っ当な方法以外での解決法なんて存在しない。

 

…ああそう言えば、君はまだ収賄罪の罰金を払っていなかったな。到着駅の最寄りの裁判所で手続きをしたまえ。

罰金は破産による免除対象にならないので忘れず払う様に」

 

そう言って再び法の番犬は読書を再開した。

エルリック兄弟は、やはりコイツは、今まで友達なんかいなさそうだと思った。

それと、本人には嫌味のつもりは無いのだろうが、嫌味にしか聞こえない事を言う口振りが、何処かの大佐に似ているとも。

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