――始まりは、16歳の誕生日
「良くぞ参った、勇者よ!お主にはこれから――」
王様が話をしている。きっと父さんを褒め称えたり僕を勇気付ける言葉を与えたりしてくれているのだろう。……だけど、それらの言葉が殆ど耳に入って来ない。それも当然だ、何故なら――
「……という訳だ、む?どうした、ボーっとして。ちゃんと聞いておったか?」
「え?は、はい!勿論です!王様の言葉を聞き逃すわけありませんよ……」
僕は今、この国を治める国王と向き合っているのだ。嘘を付くのはあまり好きではないが相手の機嫌を損ねるわけにはいかない。普通の大人でもたった一人で城に呼び出され一国の元首と会う事になったら、例えそれが慶事でも物凄く緊張するだろう。まして僕はやっと子供から脱却し始めた位の年頃なのだから、これまでの人生の中で最大の恐怖と混乱の中に有る事は想像に難くない筈だ。
「そうは見えぬが……もしかして、具合でも悪いのか?」
「い、いえ。全くそんな事は――」
「そうか!分かったぞ!」
どうやらこの王様は話が分かる人らしい。武装した兵士に取り囲まれ玉座の前に立たされる事がどれだけ相手にプレッシャーを与えるのかを理解して――
「旅立ちの時が近くなったせいで残される家族の事が不安なのだな!大丈夫だ、心配はいらん!城の兵士達がこの辺りの治安をしっかりと守っておるからな」
「…………そうですか、良かったです」
訂正、この王様には僕の気持ちなど分からない様だ。場所を変えてくれ!と叫び出しそうになるが、自分より遥かに屈強で立派な装備に身を包む人達に囲まれている事を思い出しぐっと我慢する。どう考えてもあの人達が行った方が良いと思うのだが……まあ彼らにも生活が有るから仕方無いのだろう。きっと代わりに立派な装備と支度金を――
「それでは勇者よ、餞別としてこんぼうと50Gを与えよう。遠慮せずに受け取ってくれたまえ!」
「え?」
「どうした、遠慮せずとも良いぞ。儂としても出来る限りのサポートをしてやりたいと思っているのだからな。それと一人で旅をするのは辛かろう、ルイーダの酒場で仲間を集めてから行くのが良いであろうな。では行けい、勇者よ!」
「…………はい、行ってきます」
幾ら何でもそれは無いだろ、と思ったが昨日まで一介の町民に過ぎなかった僕には何も言い返せずその場を後にした。兵士の皆さんでさえ気の毒そうにしていた事が印象的だが、それなら誰か付いて来てくれるかせめて装備を交換してくれたら良いのに。だが結局彼らも只の役人に過ぎないからトップの言う事には逆らえないのだろう。本当に、独裁政権という物は恐ろしい。
ふと思う。あの王様は本気で僕に魔王を倒させる心算が有るのだろうか?特に被害も聞かないからもっと体が成長してからでも遅くないだろうし、或いは今より更に昔に呼び出して訓練を積ませてくれるとか出来る事は色々有る筈だ。なのに現実は16歳でレベル1、しかもまだ成人まで何年も有ると言うのに法律で禁止されている筈の酒場に行けとまで言われる始末。王様が積極的に犯罪を助長する国とは一体……。
ふと、口減らしと言う言葉が頭に浮かんだ。……いや、そんな事無いよね?父さんも蛮族みたいな恰好をしていたし、母さんからは他人の家の箪笥を荒らす練習とかさせられたけど……。大丈夫な筈だ、勇者だから許されるって母さんも言ってたし。さあ、酒場に行こう!まだ16歳だけど!
――新たな仲間と出会い勇者は旅を始める
「あ、あの……勇者です」
「ああ、どうも……戦士です」
「私は僧侶をしています、宜しくお願します……」
「……遊び人、です」
当然と言えば当然だが、酒場に居る人間は皆大人の人ばかりだった。すでに完成している仲間の輪を崩す事もその中に入り込む事もちょっと遠慮したかったので一人の人を集めたが、結果として物凄く余所余所しい雰囲気になってしまった。これからこの人達と一緒にやって行くのか……気が重い。
――仲間達と力を合わせモンスターと戦い
「えっと……戦士さんは僧侶さんを守りながら戦って貰えますか?」
「あ、はい。分かりました」
「いえ、私は大丈夫ですので気にせず敵と戦って下さい」
「あ、そうですか……。じゃあすいませんけどそっちのスライムを――」
三人でモンスターの群れと戦っている最中、後ろから声が掛けられる。
「すみません、遊び人なんかやってるせいでお役に立てなくて……。これでも最年長なのに情けないですよ」
「いや、僕みたいな人間に付いて来てくれるだけでも有難いですよ。年上の人に指示するのも心苦しいですし……」
「お気になさらず。仕事ですのでお好きな様に命令して下さい」
辛い。これだったら一人で旅してた方がマシだった様な気がする。だけど今更クビです、なんて伝えるのも嫌だ……。
――時には争い
「えっと……報酬は四等分で……」
「え、皆同じなんですか?」
戦士さんが後ろの方をチラリと見る。その視線の先では遊び人さんが非常に申し訳なさそうにしていた。
「あ、いえ。私は結構ですよ、何のお役にも立てませんでしたし……」
「す、すみません。そう意味では無かったんですが……」
「と、取り敢えず今は事前に取り決めもしていませんでしたし四等分で良いんじゃないですか?」
僧侶さんがその場を丸く収める提案をしてくれた。……その事には感謝しているが、あの人だって大して今の戦いで役に立っていなかった事も気付いている。それを口に出す勇気は僕には無いけれど。
――時には親睦を深め
「暇ですね、モンスターも出ませんし。……そう言えば、戦士さんはどうしてこの仕事に就いたんですか?」
「いや、私は孤児でロクに教育も受けられなかったので他に選択肢が……」
「あ、そ、そうだったんですか。すみません……」
少しぐらい仲良くなりたいと思ったのだが、いきなり地雷を踏み抜いてしまったらしい。居た堪れない空気が訪れる。このままではいけない、何とかしなければ!
「そ、僧侶さんは!?美人だし周りの人が放って置かなかったんじゃ――」
「恋人は居たんですが、その……私はどうやら浮気相手だったみたいで。失恋のショックからついヤケになって――」
「遊び人さん!遊び人さんは以前は何をしていたんですか!?」
「普通にね、商家で働いていたんですけどね……横領の濡れ衣を着せられてクビになったんですよ。結局そこは潰れてしまいましたけど、その前科が有る所為で商人には成れず他の経験も無いしこの年で力仕事も出来ないので仕方無く遊び人に……」
誰か助けて……。
――強力な敵を倒して行く
「良く来たな、勇者!俺の名はカンダタ――あの、どうしてお前らそんなテンション低いんだ?ケンカでもしたのか?」
「い、いえ。何時もこんな感じですけど……」
「大変だな、ボウズ……。可哀想だから王冠は返してやるよ、ホラ」
「あ、有難う御座います」
戦わなくて済んだのは嬉しいが、盗賊の人に心配されるのは凄く複雑な気分だ。格好は変だけど、これまで出会った中で一番この人がまともだったと言うのも悲しい。
「それじゃ失礼します……」
「辛かったら何時でも言えよ、俺に出来る事なら何でもするからよ」
涙が零れそうだ。思わず付いて来てくれ!と言いそうになったが、必死な形相でこちらを見る遊び人さんの顔を見てどうにかその言葉を飲み込む。……レベルは13、相変わらず役に立つ姿はまだ見る事が出来ていない。
――戦え、勇者!バラモスやその先に待ち受ける強大な敵を倒すその日まで!作中でそれ程時間は経たないだろうからどうにかして一回り位上の人達(戦士28歳、僧侶26歳、遊び人34歳)と素早く打ち解けるか、完全に仕事だけの付き合いとして割り切って少しの間だけ我慢して旅を続けるんだ――!
恐らく最終的にゾーマを倒す事は出来るが、最後まで敬語のまま。そんなパーティ。