一発ネタ集(続き無し)   作:蟹男

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あの作品とfateがクロスしたら台無しになるな、という発想で生まれた物。


お前らちゃんと聖杯戦争しろよ

Chapter.1 擦り切れた過去

『最初の願い、か……そんな物はもうとっくに忘れてしまったよ。今はただ――』

 

夕暮れの街を、当ても無く彷徨い歩く。紅く照らされる家々を見つめていると懐かしさと共に寂しさが心に湧き上がって来るが、それらを振り切り人目の付かない所を目指してひたすらに進み続ける。……平凡な人生に未練など無い、帰る場所など何処にも無いし何より叶えなければいけない願いが有るのだ。それに――俺はもう、一人じゃない。

 

「何処へ行くのですか、マスター?」

 

「……さあな」

 

付き従う様に後ろを歩く女性から一つの問いが投げ掛けられる。酷く簡単に聞こえるその質問に俺はまともな返事を返す事も出来ず、思わず足を止めてしまった。姿も、声も、存在さえ不確かな彼女。それはきっと移ろい行く夕闇の所為だけでは無い、本来なら居る筈も無い人間を俺が無理矢理呼び出したからなのだろう。

 

サーヴァント――この戦いの鍵であり、聖杯戦争の象徴とも言える存在。俺はその中の一人であるアサシンを、心優しい少女を召喚したのだ。

 

「人が何処へ行くかなんて、誰にも分かりはしないさ。俺達は暗闇の中必死に明かりを探し、道を踏み外さない様少しずつ前に進む事しか出来ないんだよ」

 

後ろから聞こえてくる溜息。どうやら彼女を納得させる様な返答では無かったらしい。

 

「そーいう哲学的な話では無くて……単純に!今!何処へ向かって歩いているか聞いているんですよ!もうすっかり暗くなって来たじゃないですか!?呼ばれてからずっと歩きっぱなしで疲れましたよ……」

 

……ギャーギャーと騒ぎ立てるアサシンを無視して歩みを進める。向かう場所はハッキリしては居ないが、きっとどこかに俺達に相応しい場所が有る筈なのだ。

 

「一体何処に有るんですかその場所って!?早く帰りましょうよ!」

 

「勝手に内心を読むんじゃない、「」が付いていない所は口には出していないんだ。それに――帰れる場所なんてとっくに失くしてしまったさ」

 

「いやいや、私を呼び出した建物が有るでしょう?びる、っていうんでしたっけ。あまり新しくは無かったですけどこの際我慢しますし……」

 

「残念だが、それは不可能だ」

 

俺だって出来る事ならそうしたい。何せあそこはこの国に来てから初めて見つけた安住の地、思い入れは誰よりも深いのだ。しかし、

 

「お前を呼び出したりしていなければ、今もまだあの部屋に居る事は出来ただろうな……今となっては何の意味も無い事だが」

 

「わ、私の所為ですか?一体何が……も、もしかして敵の魔術師に嗅ぎ付けられたんじゃ――」

 

「いや、お前が悪い訳じゃ無いさ。きっといずれこうなる運命だったんだ」

 

日本という国は、優しさに満ち溢れている。だがその優しさは内に住む人にだけ向けられているのだ。俺の様な異邦人が生きていくのは本当に難しい。

 

「ゴメンなさいマスター、私にもっと力が有れば……」

 

「だから気にするな。――そもそも魔術師の所為じゃないし」

 

「え?」

 

「お前を呼び出した時、強い光が発生しただろう?あの時ついウッカリカーテンを閉め忘れていたんだ。それが原因で管理会社にバレたらしくてな、警察がやって来るのが見えたんだよ。何とかそこからは逃げ出せたが……今頃俺の荷物は押収されているだろうな」

 

別に誰に迷惑を掛けている訳でも無いのだから見逃してくれても良いと思うのだが。ただちょっと使われていないビルに勝手に入り込んで生活していただけなのに騒ぎ立てるなんて、本当にここの人間は心が狭い。

 

「要するに不法占拠がバレて逃げ出した、と。ハア……謝って損しました。そんな事しないで真っ当な方法で住居を探せばいいのに……」

 

「残念だがそれも不可能だ。俺はブラックリストに載っているらしくてな」

 

「え……ま、まさか人殺しとか――」

 

「いや、借りた金を返す為に別の所から借りてそれを返す為に別の所から――とやっていたらいつの間にか入っていたんだ」

 

最初はほんの出来心だったのだ。日本に来てすぐの俺はちょっと浮かれていて、ついつい遊び過ぎてしまったのである。最初に借りた金額は10万円、だが一度経験してしまうとリミッターは簡単に外れて行く。

 

「良くそんな状況で私の触媒を用意出来ましたね……」

 

「丁度使えそうな古びた本が手に入ったからな。安かったが効果は有ったらしい」

 

「一体どんな魔道書だったんですか?」

 

少しワクワクした様子で尋ねてくるアサシン。目を輝かせ興味津々といった様子で見てくる様は、見た目通り年頃の女の子みたいでとても可愛らしい。これからその期待をぶち壊さなければいけないと思うととても楽し――もとい、とても悲しくなってしまう。

 

「いや魔道書じゃ無くて普通の漫画だ。B○○K○FFという店で百円で――」

 

「ま、マスター!それは危険です!伏せる事が出来ている様で出来ていません!」

 

一体何を言っているのだろう?だが俺としてもこれ以上この事を話すのは良くない気がしてならない、残念だがここで切り上げる事にする。

 

「どうして私はこんな人に付いて行かなきゃいけないんだろ……それで今日は何処へ――って、まさか!」

 

「……お前が生きていた時代から時は大分流れた。同時にそれは文明の進化を意味する物でも有る、これからその一端を教えてやるよ――そう、段ボールの暖かさを」

 

目指す先は雨風が凌げてかつ目立たない場所、そういった所には必ず先輩方が居る。俺が探すのは彼らの姿だけで良い、弱い生き物は群れなくては生きていけないのだ。……初めて魔術を覚えた時の心など忘れて久しい、今の俺が願うのはたった一つ。

 

――452万飛んで17円、いや5040円だったか?とにかく借金を返済出来る金額を手にする事、それが俺の願いだ。

 

Chapter.2 聖地に潜む魔女

『令呪を持って命ず。ランサー、私を――』

 

差し込む日差しに瞼を焼かれ、耐え切れず仕方無しに目を覚ます。また一日が始まりを迎えたらしい。

 

「随分遅い目覚めですね、マスター。もう昼を過ぎていますよ?」

 

「……本来魔術師は闇に生きる物、こんな明るい時間に動くべきじゃ無いんだ」

 

体を起こし辺りを見回すと既に周りには誰一人居なくなっていた。思いの外ホームレスの人達は働き者なのである。

 

「この段ボールっていうのが暖かいのには驚きましたけど、幾ら何でも冬のこの時期にこれだけじゃ凍えちゃいますよ……」

 

「知らないのなら教えてやろう、アサシン。ホームレスの人はな――冬よりも秋口の方が凍死する人が多いんだ」

 

「そんな事はどうでも良い――いや、良くないのかな?とにかく、今日こそはちゃんとして下さいね!昨日は結局寝床を求めて歩き回っただけなんですから」

 

「分かっている、俺としてもこの戦い絶対に勝つ必要が有るからな」

 

決意を新たに仮の宿を後にし、自ら賑わう人の波の中へと入り込んでいく。これでも俺はそこそこ年季を積んで居るから戦闘力に自信はあるが、流石に英霊達と渡り合える程では無い。おまけに相棒はアサシン、真正面から戦ってしまえば簡単に敗北するのは明白だ。

 

つまり俺達がこの戦いを勝ち抜くには陰に潜み闇に紛れて先手必勝で敵を倒していく以外に方法は無い。その為には相手に見つけられずに姿を捉えなくてはならないのだ。……非常に難易度の高い方法だが、俺達の実力なら出来る可能性は十分に有る。こうして人混みに紛れてしまえばそう簡単に見つかる事は――

 

「そこの二人、ちょっと待ってもらおうか」

 

――見つかる事は無い筈だ。無いったら無いのだ!だからそう今声を掛けられたのも只の偶然できっと道を尋ねようとしているとかティッシュ配りだとかそんな感じの取るに足らない出来事に違いないのだから無視してすぐにこの場を離れて――

 

「待て、と言っているのだ。なあ――アサシンと、そのマスターよ」

 

「……ダメですよ、マスター。バレバレです」

 

「な、何故だ……!?どうやって俺達の姿を見つけだしたと――まさか、探索系の宝具か!?」

 

「いや、こんな時間まで眠りこけている人間が居たから珍しいと思って見ていたんだ。驚いたぞ、まさかそんな所に参加者が居るとは思はなかったからな」

 

クソ、何たる不運だ!まさかそんな偶然でピンチを迎えてしまうとは……だがまだ諦めてはいけない、一応数の面ではこちらが有利なのだ。相手の強さによってはこちらが勝つ可能性も――まあ、ゼロでは無いような気がしなくも無い。

 

取り敢えず情報を得る為に相手の姿を観察する。屈強な肉体に鋭い目付き、掌に出来ているマメは永い鍛錬による物だろうか。服装はタンクトップにつなぎ?ラフでは有るものの今の社会に溶け込める格好をしているが、明らかに現代に生きた英霊では無いだろう。恐らくはアサシンと同じ戦国の時代を戦い抜いた男、クラスはセイバーか或いは……ランサーに違いない。そうと分かれば話は簡単だ、俺は傍らに立つ相棒に声を掛け準備を整える。

 

「分かっているな、アサシン!こうなったからにはやる事はただ一つ、逃――」

 

「ああ、背を向けたりおかしな行動をしたら攻撃させて貰うぞ?我がマスターの命令とは反するが、姿を見られてしまったからには黙って返す訳にもいかないからな」

 

「――げたりするのは人として良くないな!折角相手がわざわざ来てくれたんだ、まずは話を聞くとしよう!」

 

アサシンが俺を見る目が嫌に冷たく感じられるが、形振り構ってなど居られない。せめて相手の真名が特定出来なくては勝負にすらならないだろう。二人で協力して更に情報を引き出さなくては……

 

「この馬鹿マスターは置いておくとして……一体どういうつもりですか?私達を見逃して貰えるのは有難いですけど、メリットが有る様には思えません。あなたは何を考えてそんな事を?」

 

「探ろうとしても無駄だ、何一つ教えるつもりは無い。戦っても負けるとは思わんが下手に話して対策を立てられたら面倒な事になりかね――」

 

「おーいユキー、そろそろ休憩終わりだぞー」

 

「…………すぐに戻るんで、先に行ってください」

 

中々自分の事を漏らそうとしないこの戦国武将と思われる相手の情報をくれたのは、急に現れた見ず知らずの一般人であった。目の前のサーヴァントと同じ様な格好をした男性は俺達の間に流れる剣呑な空気に気付く事も無くのんびりと近付いて来る。

 

「なあアサシン、名前の何処かにユキって付く武将は思い当たるか?」

 

「何人かは簡単に思い付きますがこれ程武勇に優れた相手となるとちょっと……」

 

「お?何だ兄ちゃんたち、ユキの、山中の奴の知り合いかい?もう少しで終わるから俺達の休憩所で待っていてくれよ」

 

「お願いします、もう話さないで下さい先輩……二人とも聞いていたな?少々時間は取らせる事になるだろうが言う通りにして貰おうか。嫌とは言わさんぞ」

 

怪しい。幾ら何でも怪しすぎる。こんな誘いに付いて行ってしまっては何を仕込まれるか分かった物じゃない。あるいは既に罠でも仕掛けられているのか?敵対する危険だが、受け入れるのはそれ以上のリスクが有る以上返事は決まっている。

 

「茶と煎餅位しか出せる物はねえけど好きに寛いでくれて良いから――」

 

「是非そうさせて下さい!さあ早く行きましょう!」

 

「お、おう……」

 

「もう嫌、このマスター……」

 

アサシンの悲しむ声が聞こえた気がするがきっと気のせいだろう。何をするにしてもまずは体にエネルギーを取り入れる事が大切だ、たとえ罠だとしても突っ込む勇気が必要だろう。何せ俺達は昨日から何も食べていないのだ。何故か声を掛けてくれた男性はちょっと引いていたが、俺はそんな事一切気にせず案内されたプレハブの中に入って行った。

 

「……ふう、やはり食事は大切だな。生きるための活力を与えてくれる」

 

「待たせたな――って、何だこの惨状は?」

 

そこに有った食べ物を片っ端から食べ尽くし、その光景を見て何かを感じたのかサービスで取ってくれた出前も完食した辺りでようやくあのサーヴァントがやって来た。幾らでも仕掛ける事が出来ただろうに何もしてこなかった所を考えるに、思った通りの武士道精神を持つ立派な人物であったらしい。きっと罠を仕掛ける様なセコイ真似はしてこないだろうと言う俺の読みは正解だった様だ。

 

「何か自分に都合の良い事を考えていそうな顔だな?まあいい、早速だが着いて来てくれ。我がマスターがお前達と会う事を望んでいるんだ」

 

「ほう、それはそれは……。一体今度はどんな風に歓迎してくれるつもりなんだ?返せる物など何も持っていないんだがな」

 

「もう分かっているだろう?我々はお前達と手を組みたいと思っているんだ……不本意では有るが、な」

 

「成程、流石の忠義心です。どうやら生前に聞いた勇名通りの人物のようですね。ねえ山中さん――それとも、ランサーとお呼びした方が宜しいですか?」

 

それには答えずランサーと思しき男は無言で背を向け歩き出す。否定しなかったという事は肯定と取ってもいいのだろうか?まあいい、戦わなくて済むと言うならそれに越した事は無い。俺達も彼に倣って黙って後を付いて行く事にした。

 

「着いたぞ、此処が我がマスターの住処だ」

 

「え、ええと……これが、ですか?」

 

「どうかしたかアサシン?良い建物じゃないか」

 

年季を感じる二階建て、取り囲むように朱色の階段が設置され家全体を取り囲んでいる。そして壁にはその存在を大きく主張するかのように文字が描かれている――松田ハイツ、と。

 

「……マスターがどうしても此処が良い、此処で無ければ戦い抜く事が出来ないと言うので渋々認めているのだ。本当ならもっとちゃんとした拠点を――」

 

「いや、俺は良い判断だと思うぞ?しっかりしているし風呂……は無いようだがこの立地なら物凄くお得じゃないか。まあ細かい事はさて置き上がらせて貰うぞ」

 

「ああ、この部屋だ」

 

202号室のドアを開けると、怪しげな雰囲気を持つ女性がこちらに背を向け何事か呟きながら作業をしていた。気付いていないという事は無いだろう、という事は俺達など眼中に無いか或いは手が離せない程重要な事をしているのか……

 

「あ、ランサーお帰りー。今手が離せないから後五分位待っていて、そしたらモンスター倒せるから」

 

……重要な事というのは人それぞれだからな、例え俺にとってどうでも良い事でも彼女にとっては非常に大事なのだろう。

 

「――良し、それじゃあ改めて……歓迎するよ、サーヴァントとそのマスターさん。あ、ランサーはもう良いよ?仕事に戻って構わないから」

 

「分かった。……願わくば、我がマスターに七難八苦を与えたまえ」

 

出て行く時に何か呟いていたようだが良く聞こえなかった。まあそれ程大した事では無いだろう、それより重要なのは目の前の女が護衛も付けずたった一人になっているという事だ。

 

「随分と勇敢なんですね、あなたは。それとも私達を舐めているんですか?自信と過信の違いをあなたに教えて差し上げ――」

 

「落ち着けアサシン。対話を望む相手を無下にする事は無いだろう?それにお前の思う通りこの状況は俺達にとって遥かに有利なんだ、まずは話を聞いてからでも構わないじゃないか。気に食わなかったらその時好きな様にすると良い」

 

「フフフ、やはり君は話が分かるね。それでこそ同盟の相手に相応しい」

 

「……一体俺達に何を望む?その対価は?」

 

まるで焦った様子も無くその女はクスクスと笑みを浮かべながら唐突に本題を切り出してきた。直接やり合うのが厳しい俺達にとっては有難い提案だが、その分向こうの狙いがまるで分からない。あのランサーも闇討ちなどは好んでいなさそうだ。

 

「まずは私が君に与えられる物をお教えしよう――衣食住、人間らしい生活、それと僅かばかりだがお小遣いだ。どうだい?」

 

「乗った」

 

「もうちょっと考えなさい馬鹿!あなたの目的は何なんです!?それに仕事もしていなさそうなのにそのお金は何処から来るんですか!?」

 

「もう少し仲良くなってから教えようと思っていたんだけどね、その二つは。まあ良いか、私はね――」

 

ごくり、と唾を飲み緊張している様子がアサシンから伺える。恐らく人となりを見極めようとしているのだろう。俺としては温かい食事と布団が有るだけでもう十分なのだが。

 

「この聖杯戦争を終わらせたくないんだよ、永遠にね」

 

「な――!?何故そんなにも争いを求めて……」

 

「今でも思い出せるよ、光の中現れたランサーが私に頭を垂れこう言ったんだ――我が名はランサー、汝の望みは何か?ってね。そして真っ先にこう言ったのさ――『令呪を持って命ず。ランサー、私を――養え』とね。もしもこの戦いが終わったら彼は還ってしまう、そうなったら誰が代わりにお金を稼いでくれるんだい?」

 

「あ、この人も駄目だ」

 

今日もまた日が暮れる。こうして聖杯戦争の二日目は昨日と同じ様に何事も無くに過ぎて行った――アサシンの頭痛を除いて。

 

Chapter.3 孤高の姫君

『たった一人でも良い、誰かが傍に居てくれればそれで――』

 

「またメールか……しつこいな、彼女も」

 

今日の俺の目覚めを出迎えたのは、不機嫌そうな家主の姿だった。これまで余裕たっぷりの姿しか見ていなかったからかその光景は随分と新鮮に俺の目に映っている。彼女には悪いが、人間らしい部分もちゃんと有るのだと確認出来て少し安心した。

 

「何だ、迷惑メールでも届いたのか?その位でカリカリしなくても……」

 

「君には関係無い――いや違うな、君にこそ確認して貰うべきか。これを見てよ」

 

ノートパソコンの画面をこちらに寄せ近付いて来る。ラフで無防備な格好をしている彼女から身を寄せられドキリとしてしまったのは内緒だ。全く、昨日から思っていたがあまりにも無防備過ぎやしないか?

 

まあそれもきっと俺を信頼しての事なのだろう。それを裏切るような真似はするべきじゃないし、したくない。余計な気持ちをどこかに追いやり表示されたメールの文章を読む。

 

「ええっと……所々無駄に大袈裟で読みにくいが、要するに面会したいって事か?そんなに沢山送られてくるなら一度会ってハッキリさせてしまえば良いだろうよ。まあちょっと高飛車で腹の立つ感じもするが」

 

「分かってくれるかい!?そうなんだ、この女と話していると凄くイラつくんだよ!態度は横柄だし素直じゃないし言い方は回りくどいし……ああ、すまない。ちょっと昔の事を思い出しちゃってね」

 

「まあ気にするな、誰にだってそう言う時は有る。それで?これが俺とどう――」

 

「只の嫌いな人間なら私だって相手にしないよ。問題はこの子がかなり腕の立つ魔術師で――今回の聖杯戦争の参加者だ、って事さ」

 

成程、それでわざわざ見せてきたのか。確かに俺にとっても重要な情報だ。今のやり取りだけで相手が年頃の女性で有る事は簡単に分かるし、プライドの高さも伝わって来る。

 

「だがウマが合わないというだけで拒絶してしまうのは少しやり過ぎじゃないか?向こうの情報も分からないし徒党を組んで攻めて来られたら勝ち目は低いんだ、アサシンは直接戦うと弱いからな」

 

「それは大丈夫だよ、口下手であがり症の彼女の性格を考えれば誰かと同盟を組めるとは思えないしね。多分一番仲が良い私からしてこのザマだもん。きっと呼び出したのも会話がロクに出来ないバーサーカー辺りさ」

 

「それなら尚の事こっちに引き込んでも良いんじゃないか?簡単に説得出来そうだし願いもどうせ友達が欲しいとかその程度だろうよ」

 

「……魅力的な提案だが、それは不可能だ。どうしても私はあの子を許せないんだ。そう、あの時の出来事を――」

 

瞳を閉じ、過去の思い出を振り返るランサーのマスター。そういえば名前を聞いていないと思ったが、今更だとかえって聞きにくいしどうせすぐ終わるのに考えるのも面倒だからこのままで良い事にする。

 

「彼女と初めて出会った居酒屋で行ったあの悪魔の様な行為を私は忘れない。そう――注文して出て来た唐揚げ全てにレモンを絞るというあの行いを」

 

「成程、それは仕方無い」

 

時々居るのだ――自分は人に気遣いが出来るのだと勘違いしている人間が。レモンだけでは無い、勝手に料理を取り分けたり軽いイジリに目くじらを立てて止めに入ってきたりとパターンは様々だ。料理なんて自分で取れるし俺は漬物が嫌いだから取っていないだけなんだ!一緒の皿に乗せられたら他のに汁が浸みて食えなくなるだろ!

 

いともたやすく行われるえげつない行為――それは、意外と身近に転がっている

 

Chapter.4 運命に弄ばれて

『願い事なんて有りはしない、戦いに興味なんてない。だけどそれがお前の助けになるのなら――』

 

「もうお話は終わりましたか?そのめーるっていうので手紙を出せるなんてすごい時代ですね……っとそれよりマスター、この部屋に誰かが近付いて来ています」

 

「ん?多分お隣の聖さん達じゃない?」

 

「……いえ、違います。足音からすると隣の部屋は通り過ぎたみたいですね」

 

「私に来客が有るとは思えないから、そうなると君達の関係者か或いは――」

 

敵、という事になるだろう。心臓が大きくそして素早く鼓動し始め、体の隅々にまで燃える様な熱い血が駆け巡って行く。まるで錆び付いたエンジンに久し振りに火を付けたかのようだ……こういう気分も悪くない。攻性魔術を使うのは久々だが、ランサーが外に出ている今泣き言は言っていられない。何としてもこの場は切り抜けて見せる――!

 

「来るぞ!二人共――」

 

「逃げられると思ってんのかこの野郎!往生際が悪いんじゃ!」

 

「――後ろに下がっているんだ!」

 

飛び出そうとするアサシンを手で制し、ドアを開け部屋に入り込んできた男に姿勢を下げながらも真っ直ぐに駆け寄る。目の前に到着した時には既に両膝が地面に着いていたがそれを気にしている暇は無い、勢いをそのままに両手、額と順番に接地させていく。これこそが日本に来て最初に覚えた技術にして最も多くの危機を乗り越えてきた行為だ。全身を低く保ったその姿勢のまま俺はその人物に向かって口を開く。

 

「すみません、返済はもう少し待って下さい!当てはちゃんと有りますから――」

 

「相変わらず見事だなぁー兄ちゃん。だけどよ、もう三回目だぜ?そう何度も何度も騙されてやる訳にはいかねえなぁ」

 

「今度こそ!今度こそ本当ですから!安定してお金を貰える目途も立ちましたし……」

 

「もしかしてあっちのお嬢さん方がパトロンか?お前――とうとうそんな物にまで手ェ出しやがったか!言ったよなぁ返済は待ってやるが人としてやっちゃいけねえ事は絶対手やるんじゃねえ、ってよ!どうやら少しお仕置きが必要だな……」

 

ば、馬鹿な!通用しないだと!?これまで幾度もピンチを救ってきた俺の最終奥義DO・GE・ZAが敗れる時が来るなんて……。こうなったらその上を行く技を考えなければならないが、これ以上って何だ?土下寝か?

 

体勢を変えようとしたその時、後ろから誰かが近付いて来る気配がした。見なくても分かる――間違い無くアサシンだ。これが絆という物なのだろう、彼女の気持ちが何処からか流れ込んできている気がする。その感情は怒り一色でその事実は俺に嬉しさと同時に焦りを感じさせた。

 

「誰だか知りせんがこんなのでも私のマスターです!指一本触れさせませんよ!」

 

「だ、駄目だアサシン!手を出すんじゃない!」

 

「大丈夫です!この程度の相手なら私一人でもッ!」

 

そう言って彼女は隠し持っていた短い刀を抜き逆手に構え近付いて行く。だが借金取りの男はそれを見ても堂々とした立ち姿を崩さず、むしろ表情は更に怒りの色を濃くし始めている。

 

突如として、光が満ち溢れたのはそんな時だった。

 

「問おう、貴方が私のマス――」

 

「やんのかゴラアッッ!!上等や、痛い目見せたろうやないかッッ!!」

 

「「「「ご、ゴメンなさい……」」」」

 

あまりの剣幕に俺は勿論勇ましく向かって行ったはずのアサシン、更には無関係を装っていた筈のランサーのマスターまでもが声を揃えて謝罪の言葉を口にしていた。きっと借金取りこそが現代の英霊なのだろう。あ、ちょっと漏れた。

 

「ちょ、ちょっと待って下さいよマスター。なんかおかしくないですか?」

 

「そう言えば……さっき「」が一つ多かった気がするな、数えてみるか」

 

まずは俺、アサシン、それからランサーのマスターにアーサー王、そして借金取り――

 

「うん、何処にもおかしい所は無いな」

 

「いやいやいや、明らかに一人おかしいの混ざってますよね!?何ですかアーサー王って!?」

 

「そりゃ当然誰かのサーヴァントだろう。俺では無いし彼女が二人目を呼ぶとも思えないから、そうなると残っているのは――」

 

「あ、あの……私のマスターはもしかして……」

 

「なんやようわからんが、詳しく聞かせて貰おうやないか。なあ兄ちゃん?隠し事はもう許さへんで?」

 

もう此処まで来ては誤魔化しようがない、俺は洗いざらい全てをぶちまけた。魔術の事も、聖杯の事も、それで借金を返そうとしている事も……。全てを聞き終えた彼は重々しく口を開いた。

 

「……つまりワシもその戦いに巻き込まれた、ッちゅう訳か。成程な」

 

「あ、あの……怒らないんですか?」

 

「ん?まあ兄ちゃんが相変わらず楽して儲けようと思っとるんは腹立つが、自力で返そうっていう気持ちが有るならまあ許しちゃる。コイツは今までずっと小金が入ったらギャンブルに注ぎ込んどったからな」

 

一斉に浴びせかけられる冷たい視線。違うんだ、あの時は完全に勝っていたんだ!最後の一レースで余計な事さえしなければ……!まあますます軽蔑されるだけなので口には出さないが。

 

「しゃあないな……ワシも協力したる。その代わり真っ当な仕事を探して二度と借金なんか作るんやないで?」

 

「え――あ、ありがとうございます!」

 

「まあセイバーが敵に回るよりはずっと良いか。よろしく頼むよ」

 

これで3組の同盟が完成した、ほぼ間違い無く負けは無いだろう。後は借金を返せる位まで働いて金を溜めればその先はランサーに養って貰える!真っ暗だった未来に一つの希望の光が差し込むのを感じた。同時にふと思う――

 

ここまで出て来た中で一番良い人が借金取りって……大丈夫かこれ?

 

Chapter.5 正統派魔術師(笑)

『ちょっと!今までこの欄では真面目にやってたじゃないですか!?どうして私の時だけこんな――え?めんどくさい?尺が無い?一体何の、ちょっまっ――』

 

私は本国から派遣された――

 

キング・クリムゾンッッ!面倒な事を飛ばして説明が終わったという結果に辿り着くッ!

 

――という訳で私は新たな聖杯が生まれたこの立川という街にやって来たのだ。まずは聖杯そのものの近くに居を構えるという女性の住居に向かうとしよう。

 

「ここがあのレディーのハウスね……」

 

目的の松田ハイツに辿り着き、私はそう呟いた。少々日本語が不自由で英語が混じってしまうがまあ仕方ない、それよりも早々に此処のマスターを始末するとしよう。どうやらランサーは出払っている様なので簡単な仕事ですね!

 

「準備は良いですか、アーチャー!行きますよ!」

 

深呼吸し、扉を一気に開け相手を確認するより早く名乗りを上げる。

 

「観念しなさい!アーチャーとそのマスターである私があなたを倒しに――」

 

「ノックもしないで入って来るんじゃねえッ!ぶち殺すぞッ!」

 

「ご、ゴメンなさい!出直してきます!」

 

名乗りの途中で不意打ち気味に一喝された私は、驚きのあまり部屋を飛び出してしまった。マズイマズイマズイ、あんなの相手に勝てる気がしない!だけどこのまま引き下がるのも……

 

「オウちょっと待てや、何や用有るんか?」

 

「ご、ゴメンなさーい!」

 

追い掛けて来た敵に背を向け必死に走り出す。今日の所はこれ以上戦えない、一刻も早くホテルに帰るとしよう。と、その前に。

 

「アーチャー、近くにコンビニは有りませんか?」

 

「え?まあ有るには有るが……」

 

それを聞いて私はホッと安堵の溜息を漏らす。このままマズイ、風邪を引いてしまうかもしれないし何より恥ずかしい。じっとりと濡れてしまった下着の替えを求めて私は最寄りのコンビニへと駆け込んだ。

 

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こうして出揃った5人のマスター(1名公欠)。戦いは繰り広げられていくが最後の一騎は姿を見せない。果たしてその正体は?そして新たに生まれた聖杯、その秘密とは?

 

全ての鍵は――

 

「ねえブッダー。私ちょっと手を怪我しちゃったんだけど……」

 

「ちょっとイエス、先に血を止めないと!あーあ、グラスにまで垂らしちゃって……」

 

――松田ハイツ201号室に有るのかもしれない。

 




オチに行くまでが長すぎる!
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