ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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希望の巻 (ムーンブルク)

 

ムーンペタの町を出て数日、二人はムーンブルク城があと少し、という地点まで

やって来ていた。魔物との戦いはあのマンドリルとの一戦のほかは危なげなく

乗り切ってきた。建前の理由であるムーンブルクの現状の確認を終わらせ、

二人がそれぞれ抱いている真の目的に向けての旅を早く始めたいと意気込んでいた。

 

「しかしどうなんだろう。ムーンブルクはやっぱりもう瓦礫の山なのかな」

 

「・・・・・・だろうな。でも確かめに行けるやつが他にいないって

 いうんだからおれたちの旅立ちの許しが出たんだ。もうすぐそこ

 なんだから、ちゃんと一回りしてから帰ろうぜ。手を抜くなよ」

 

「わかってるよ。でもよくここまで何事もなく来れたなぁ。ぼく一人じゃ

 どこかでやられてただろうな。アレンは一人でも平気だっただろうけど」

 

「そうか?おれも最初は一人でやってやるつもりだったがお前と合流して

 仲間の有難みが身に染みたよ。薬草と毒消し草だけが友達っていうんじゃ

 厳しすぎだ。それに野宿も二人いるから交代で寝られるし・・・」

 

これまでの旅を振り返りながら、よいことも悪いことも思い出してきたが、

 

「・・・おいおい、これで終わりじゃないだろ、おれたちの旅は。

 おれはハーゴンの邪教を壊滅させ、お前は世界中を旅して新たな

 楽園を見つける・・・こんなところで弱音を吐いてる場合じゃねえぞ」

 

「そうだった。ここはまだ通過点だ。ならさっさと調査を片づけて・・・」

 

「さっさと、じゃない。ちゃんとやるんだよ。って・・・話が戻ってやがる」

 

 

最近になってアレンは、アーサーが思っていたより真面目な人間ではないことに

気がついた。自分のほうがしっかりしているという自覚は思い上がりではない。

頭はいいのかもしれないが、世界の平和を願う心、正義感が足りていない。

 

「・・・まあ・・・真面目なやつが王の座を放り投げて旅に出るなんて

 言うわけないか。どこか飛んでなけりゃそんな発想には至らねえ」

 

「・・・・・・?どうしたのアレン?何か言った―――っ?」

 

「何でもねぇ!ひとり言だよ、ほら、早くムーンブルクに行こうぜ!」

 

 

アレンとアーサー、すっかり昔からの親友のように息の合った二人だった。

まだ完全なる信頼関係が築けているわけではないが、魔物に囲まれたとき

背中を預けるくらいはできる。それでも十分だろう。新たな時代を切り開く

二人の勇者の子孫が、ついに故郷から離れた土地への旅を完遂させた。

 

 

「やっと着いたぜ。とはいってもおれたちのよく知るムーンブルクじゃないけどな」

 

「・・・・・・話には聞いていたけど酷いね。これじゃもう生存者はいないよ」

 

魔物たちに破壊された城は僅かにもとの姿の面影を残してはいるが、

人の気配はなく、新たに住み着いていたのは異形の魔物たちだった。

 

「キングコブラにムカデに・・・あと気持ち悪いのも飛んでるな」

 

「あれは・・・ハエ?あんなのが群れていたらいやだなあ」

 

『リザードフライ』。不気味な飛行型の魔物だ。ただでさえコブラやムカデが

わらわらと湧いているのにますます気分を悪くさせる姿形だった。

しかもそのトカゲのようなハエのような緑色の身体を震わせて炎を出している。

 

「あれはギラだ!あんな見た目で魔法を使うのか!」

 

「だが知性は低いみたいだな。誰もいねえところに意味もなく炎だ。

 しかし武器を持った馬鹿は怖いぜ。あいつは要注意だな」

 

すでに幾度も目にし、戦い方もわかっている慣れた相手よりも初めての敵を

警戒し、ギラを撃たれる前に倒すべきと決めた。幸いにもこの魔物は体力が低く、

最後までリザードフライからは全く被弾せずに廃墟の城の探索を続けられた。

 

 

「宝物庫も荒らされているな。魔物どもが金の価値を知ってるわけはないが

 邪教の連中が資金の足しに全部奪いやがったか」

 

「だいたい予想通りだったね。でももっと悲惨だと思ってたよ。死体が散乱して

 酷い臭いがしていたりとか・・・。骨も肉も見当たらない」

 

「そうだな。ここにいる虫ども・・・よりはあのマンドリルのような大きな獣が

 餌として持って行っちまったのかもな。どっちがいいのかはおれにはわからねえが

 ずっとここに野晒しっていうよりは・・・・・・」

 

打ち殺された人々の死体が全くなかった。この時点でおかしいと気がつくべきだった。

休憩のため立ち止まっていると、突然の異臭が二人の鼻を襲った。同時に城の奥から

人の影がゆらゆらと近づいてくる。これが生きた人間でないことを二人は知っている。

 

 

「・・・!あのゾンビ・・・この城にもいたのか!くそ、しかも三匹かよ!

 そのへんをぶらぶら歩いていたやつは単独行動だったっていうのによォー!」

 

「それにこっちに向かってくる。戦うしかない!もしかしたらこの城が

 リビングデッドたちの住みか・・・なのか?」

 

アレンは鋼鉄の剣を構えた。せっかくの剣がリビングデッドたちの腐肉で

汚れるのは嫌だな、と思いながらも仕方なく迎え撃つ態勢をとった。

ところがアレンは気がついてしまった。リビングデッドたちの装備品に。

腕にこめていた力が抜けていくのを感じた。

 

 

「・・・・・・あ・・・ああ・・・そうか・・・・・・ここがやつらの巣・・・

 いや、家だった理由は・・・!このゾンビたちの正体は・・・・・・

 みんなムーンブルクの兵士や住人だ!貴族も店屋も奴隷も・・・・・・!」

 

「・・・ハーゴンに『再利用』されたってことか。死体がないわけだよ」

 

アレンはショックを受けた。邪教に身も心も染まった魔術師すら自身で

倒すのにはいまだ抵抗があり、いつもは後方にいるアーサーにその『始末』を

任せていたのに、今度は自分の知っているかもしれない人々が相手なのだ。

闘将ボーイである彼がハーゴンへの怒りすら沸かない。ただ青ざめるばかりだ。

 

(・・・くそっ・・・!しかもこいつらの目は・・・助けを求めている!)

 

リビングデッドとしてこの世をさまよう哀れな人々を前にアレンはどうすれば

いいのかわからなかった。格好悪いのを承知でアーサーに助けを仰ごうとしたが、

彼もまた別のリビングデッドたちに迫られていた。アーサーにとっても

何度も顔を合わせただろう人々だ。その所持品のせいで誰なのか特定

できてしまったリビングデッドもいる。

 

「・・・・・・逃げ場は・・・もうない・・・!囲まれたっ!」

 

 

ゾンビの群れに手出しできないうちに集団の数は増す一方だ。危機が迫っていた。

しかしアーサーはアレンと違い動けなかったわけではなかった。じっと

機会を待っていたのだ。そしてようやく顔を上げると、

 

「・・・・・・・・・よし、だいぶ集まったな。もういいか・・・」

 

「・・・!?おい、アーサー、それはどういう・・・」

 

「こういうことさ!・・・ギラッ!!」

 

普段よりも強くギラを唱え、目の前にいたリビングデッド目がけて放った。

ほとんど距離がなかったので、着弾すると激しく燃え上がった。

 

 

「グ・・・アガガガァ―――――ッ!!」

 

炎上し悶えるリビングデッドが苦しみのあまり駆け回る。次々と他の

ゾンビたちにぶつかり炎が燃え移っていった。あっという間に

この場に集まっていたゾンビの群れは皆腐肉を焼かれながら崩れていく。

それまでよりも鼻を覆いたくなる悪臭、ゾンビたちの叫び声・・・。

地獄絵図が展開され、アレンは声も出せずに立ちつくしていると、

 

 

「・・・さて、ぼくの役目は終わった。あとはきみがやるんだ」

 

 

このときのアーサーは返り血を一切浴びていなかったが、アレンの目には

これ以上なく冷酷で恐ろしい死刑執行人、いや死神にすら映った。

 

 

「ぼくのギラは本来これだけの数の相手を一気に焼き払えはしない。

 だけどこうすれば一気に炎が燃え広がった。新たなやり方を掴んだよ」

 

「・・・・・・ハァー、ハァー・・・お、お、お前はァ―――・・・」

 

「・・・アレン、きみもどうすべきかは・・・わかっているんだろう?

 もしきみが彼らだったらどうしてほしい?いま身体が燃えているから

 じゃない。あんな姿で不自然な命を与えられ操られていることを考えるんだ」

 

 

なぜリビングデッドたちは助けを求めているように見えたのか。

自分で死ぬことを許されなかった彼らは数か月以上も待ち続けていたのだ。

アレンは拳を握り締め、自らを奮い立たせる。そして鋼鉄の剣を手に、

 

「うおおおおおおおぉぉぉ―――――――っ!!!」

 

炎に包まれもはや虫の息のリビングデッドにとどめを刺した。あっさりと

首が地面に落ち、今度はもう起き上がってはこなかった。完全な死だ。

一体倒した後もアレンの攻撃は止まらない。ゾンビの群れを斬り刻み続けた。

アレンは心が張り裂けそうだったが、旅の始めに自らに誓った約束があった。

 

(何があろうと・・・おれは決して涙を流すものか!これくらいでは泣いたりしない!)

 

ムーンブルクの人々の生に、自分の手で終止符を打った。リビングデッドたちが

全て動かなくなったと思うと、今度は空中を漂う黒い煙がアレンの前にやってきた。

もちろんただの煙ではない。殺された人々の魂が魔物『スモーク』として

この世に縛りつけられているのだ。アレンはこの煙をもひたすら斬った。

実体がないはずなのに攻撃は通り、次々と消滅していった。二時間以上

戦い続け、やがてリビングデッドもスモークも消えてなくなっていた。

炎を恐れたか、キングコブラやそれ以外の魔物たちも逃げ去った。

気がつけば自分たちしかいなくなり、アレンはその場にがくっと座り込んだ。

 

 

「・・・・・・いくらローレシアやサマルトリアに全ての事実を報告するとは

 いえ・・・こんな出来事を持って帰るわけにはいかないよな」

 

「もちろんだよ。これはぼくらだけの秘密だ。きみだって早く忘れたいだろう」

 

「できることならそうしたいけどな。また夢に出てきそうだぜ・・・・・・ん?」

 

 

アレンはまたしても遠くに何かを発見した。人ではない。しかしどうやら

魔物でもない。恐る恐る近づいてみると、それは声を発していた。

 

「あ・・・あ・・・ハーゴンの軍勢が・・・・・・助けてくれぇ~・・・」

 

同じような言葉を繰り返しながら呻き続けていた。死にきれないでいる

人魂を目にし、アレンたちはびっくりしてひっくり返るような素振りを見せたが、

 

「ぎゃあ、火の玉!・・・な~んてな。今さらこんなの珍しくもなんともない」

 

「幽霊やゾンビ、スモークと戦ってきたんだ。襲ってこないだけ心が落ち着くよ」

 

 

アレンたちが語りかけても反応はなく、会話をしたりするのはできないようだ。

しかし彼らはこの世に何らかの強い未練を残し、魔物とされるのを踏みとどまった

者たちなのだ。同じような魂を見つけ彼らの言葉に耳を傾けると、

 

「ラーの鏡・・・ラーの鏡さえあれば・・・!ラーの鏡・・・・・・」

「ここから東の地・・・・・・四つの橋の見える地に毒の沼地がある・・・

 そこにラーの鏡が・・・。毒の沼地のなかにラーの鏡が・・・・・・」

 

『ラーの鏡』と呼ばれるものについて口にする魂が多かった。アレンたちの存在を

認識できていないにも関わらず、とにかく誰かに伝えなければという使命感、

そのために肉体を失い苦しみながらも荒れ果てた城を離れない彼らだった。

 

その鏡の存在はアレンたちも知っていた。実物を見たことはなかったが、

ムーンブルクで国宝として守られていた古代より伝わる伝説の品だった。

 

 

「ラーの鏡!おれはあの本を数え切れないくらい何度も細かいところまで

 繰り返し読んでいるから何章のどこに出てきたのかも言えるぜ!

 アーサー、お前はどうだ?」

 

「・・・・・・ちょっとわからないな。『勇者伝』の本のことだろう?

 確か勇者ロトが・・・・・・何のために使ったんだっけ?」

 

「・・・お前はもっと偉大な先祖様のことを学べ。いいか、その鏡は

 真の姿を明らかにする不思議な力を持っていたんだ。一国の王に化けて

 好き勝手振る舞っていた魔物の正体を映しだし、勇者ロトと仲間たちは

 その国に平和を取り戻し英雄となったんだ。ちゃんと覚えとけよ」

 

 

勇者ロト、そしてその子孫ブライアンの旅の記録が何者かによって

残されている書、『勇者伝』。その記述の正確さは当時を生きた人々の証言、

また地中や海、城や場合によっては民家から発見された証拠の品によって

証明されていた。数百年以上前のラーの鏡の奇跡を疑う者は僅かだった。

アレンたちもそれを実際に起きたこととして信じているが、

 

「でもムーンブルクにあるラーの鏡はよく似せた芸術品に過ぎないだろう?

 ロトの時代の職人が作ったから本物そっくりで昔からとても価値が高くて

 今はもう値段が付けられるものではなくなっているとは聞いたけど」

 

「ああ。もし傷一つでもつけたら杭に磔にされるだろうな。あれを守るためだけの

 警備の兵士が二人いたほどだ。だけどあくまで物は物だ。本物のラーの鏡とは

 全く違う、何の力も持たない・・・・・・」

 

あくまでムーンブルクのラーの鏡は飾られている壺や鎧と変わらないもの。

アレンもアーサーもその意見は一致していた。わざわざ命の危険を冒して

取りに行ってやる必要などない。そう思っていると玉座の前にやって来ていた。

そこにも人魂が一体。もしかしたら、と二人は近づいてみた。

 

「わしは・・・ムーンブルクの王。その魂だ・・・・・・」

 

予想通り、王の魂だった。意味はないのかもしれないが、二人は頭を下げ

敬意を表した。すると王は二人にとって重大な事実を語り始めた。

 

 

「我が娘セリアは・・・わしが殺された後・・・あの者・・・ハーゴンにより

 呪いをかけられ・・・・・・犬にされてしまった。おお、口惜しや・・・」

 

 

ハーゴンの呪いにより犬とされた王女。王は確かにそう言った。王女も殺された、

とは言っていない。アレンはすぐに王の魂を問い詰めるように迫った。

 

「・・・どういうことだ!?犬にだと?そんな話があるのか!?

 そしてその言い方だと・・・王女はどこかで生きているのか!」

 

「・・・・・・わしは・・・ムーンブルクの王。その魂だ・・・・・・」

 

しかし再び同じ言葉を繰り返すだけだ。アレンの問いに答えてはくれない。

 

「これ以上は無駄だよ、アレン。さっきまでの魂たちといっしょだ」

 

「・・・くそがっ!気になる話をするだけしておいて・・・!」

 

 

アレンが怒りに任せてすぐ横の瓦礫を殴りつけるとばらばらと崩れてしまった。

するとそこからまたしてもリビングデッドが現れた。こちらの姿を見つけると

よたよたとした歩き方で近づいてきた。二人はすぐに構えたが、

 

「・・・待て、こいつ・・・今までのやつとは違う。何というか・・・」

 

「うん。もう死んではいるんだろうけどまだ人間に近い!もしかしたら・・・」

 

二人は武器を下ろし会話を試みた。すると、外見通り知性もまだ残っていた

元兵士であろうそのリビングデッドはアレンたちに対し膝をついて話し始めた。

 

 

「・・・お・・・おお!こ、これは・・・・・・まさかあなた方が・・・!」

 

「おれたちのことがわかるのか!頼む、教えてくれ!セリア王女はどうなった!?」

 

アレンは兵士の目線まで自らしゃがみ込み、その必死さを露わにした。

兵士のほうも自分が事切れる前に伝えなければと力を振り絞った。

 

「・・・私は姫様を・・・お、お守りできませんでした。そのせいで姫様は

 呪いによって近くの町で犬に・・・!しかしいまの私では何も・・・!」

 

「・・・・・・そうか、生きているんだな。おれはどうすればいい?」

 

 

アレンの目に炎が宿るようだった。彼なら王女を救えるかもしれないと、

兵士は希望を抱いた。確たる意志を持つ生きた人間と操られし死体の違いだ。

 

「ラーの鏡・・・!他の者たちも口にしたかもしれませんがあの鏡さえあれば

 必ずや姫様の呪いは解け・・・元の可憐な姿に戻ることでしょう!」

 

「・・・お前たちの言い方・・・!あのラーの鏡には特別な力があるんだな!?

 場所はもう聞いた!四つの橋が見える毒の沼地の中!そいつを見つけて

 近くの町、つまりムーンペタに行けばいいってことなんだな!

 アーサー、すぐに行くぞ!一秒でも早くラーの鏡を見つけるんだ!」

 

「・・・・・・ローレル王子・・・なんと心強い。姫様を頼みましたぞ・・・・・・」

 

 

兵士はその場に倒れ動かなくなった。ゾンビとして再生することもなく

息絶えたようだ。アレンは彼のために短い祈りをささげると、

もうムーンブルクに留まるつもりはなかった。終わったはずの初恋が

動き始めた。再びセリアの顔を目にすることが、そして話すことが

できるチャンスがやってきたのだ。ラーの鏡目指して駆け出していた。

 

「・・・・・・・・・」

 

一方、アーサーは熱心さに満ちたアレンとは全く逆の様子だった。

あくまで冷静さを失わずに深く何かを考えていた。そして楽観的な

態度を見せず、これから先の苦難を覚悟していた。

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