ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

15 / 79
試験の巻 (王女セリア②)

アレンたちとの同行を迫るムーンブルクの王女セリア。アレンはいまだに

渋い顔のまま何も言わないが、アーサーのほうはとうとう折れたようだ。

 

「・・・仕方ない。そこまでやる気なら一緒に来てもらおうかな」

 

「話がわかる人でありがたいわ。これから共に力を合わせて・・・」

 

ちょっと待て、と抗議に入ろうとするアレンだったが、アーサーは

それを制した。彼の気持ちはわかっている。かといってセリアの思いも

無視できない。皆が納得のいく答えを見いだせる方法があった。

 

 

「・・・しかし王女。条件はある。まず初めに、これからぼくたちは『仲間』だ。

 だからもう敬語は使わない。まあ、アレンはとっくにやめていたようだけど」

 

「そんなこと?それなら構わないわ。私も求めた覚えはないし」

 

「ならよし。そしてもう一つ・・・こっちが大事だ。まだきみはぼくらの

 正式な仲間じゃない。まずは『試用期間』、お試しの時間を経てからだ」

 

「・・・・・・試用期間?何だそりゃ。おれは聞いたことがないな」

 

 

仲間ではあるが『お試し』とはどういうことなのか。アーサーは二人に対し

説明を始めた。

 

「ぼくの城では料理人、庭師、兵士まで・・・志願者たちにはみんな一定の

 さっき言った試用期間を設ける。その間にその人の能力や人間性を

 確認する。まあそんなに高い基準はないからたいてい正式に採用するけどね。

 稀に不合格だった場合もあるけど、そのときは働いていた日にちの分だけ

 賃金を支払って終わり、さ。簡単なテストなんだよ」

 

「・・・なるほど。難癖つけてわたしを連れていかないつもりかしら」

 

「違うよ。むしろきみのほうにぼくたちを試してもらうんだ。ぼくたちとなんか

 旅をしたくないと思ったら早めに言ってもらいたい。実際、労働者たちにも

 サマルトリアの城の雰囲気や仕事の環境を確認してもらう。それで自分には

 向かないと思ってこの期間のうちにやめちゃう人のほうがぼくたちのほうから

 雇わないと決めることより多いんだ」

 

共に数日、町の外で共に過ごしたり魔物たちとの戦いをしているうちに

セリアに今のやる気があるのか、アーサーが言いたいのはそこだった。

危険で苦しい戦いの日々、また男二人のところにひとり女性であるということ、

自分たちよりもセリアが『やっぱりやめる』と言い出す可能性が高いと

アーサーは暗に突き付けているのだ。それに乗っかるようにアレンも、

 

「そうだぜ、やめるなら今のうちだと思うぜ!なんせ一度町から出たら

 ムカデやコブラが汚い体液まき散らして襲ってきやがるんだからな――っ!

 臭い獣やゾンビまで出てくる!大人しくローレシアにいたほうがいいぜ!」

 

セリアは深く目を閉じた。いま彼らに言われていることは決して意地悪ではない。

しかし見下された、誇りを傷つけられたと、彼女にはそう感じた。

お前にはできっこない、と甘く見られていることに逆に炎が燃え上がった。

 

 

(・・・ふふ・・・栄華を誇るムーンブルクの王女であったわたしがいまや

 そのへんの労働者と同じ扱い、落ちるところまで落ちたものね。だけど・・・)

 

再び両の瞳を大きく開けると、そこには確かな闘志が宿っていた。

 

「いいわ!あなたたちの挑戦、受けて立つわ!アーサー、あなたの計算を

 打ち砕き、そっちの馬鹿男の鼻を折ってみせる!」

 

「・・・おい!馬鹿男っておれのことか!?またその棒でおれの鼻を・・・」

 

「そういう意味じゃないわ。だから馬鹿なのよ。それはいいとして・・・

 絶対にあなたたちを認めさせてわたしは夢を叶える!お父様や城の

 人たちの無念を晴らして・・・美しいグリーングラスを復活させるという!」

 

王女の気迫にアレンもすっかり何も言えなくなり、ひとまずの仲間入りを

認めざるをえなかった。一方、アーサーはすでに町を出るつもりのようだ。

 

「・・・どこへ行くの?」

 

「まずは町の北へ行こう。言ったとおり、魔物との戦いだ」

 

 

ムーンペタの南西などはアレンたちがマンドリルといわば『友好条約』を

結んだため、マンドリルはもちろん他の魔物たちも人間を襲うことは

ほとんどなくなり、魔物との戦いを経験するためには北側がよかった。

何があってもすぐに町に戻れるように、あまり長い距離は移動しなかった。

 

「緊張や恐れは全くないわ。早く憎き魔物たちを倒したいって気持ちが

 強すぎて抑えなくちゃいけないほどだわ」

 

「ほーん・・・。おっ、話をすればお待ちかねの魔物出現だぜ。

 お前さんにとっては記念すべき初の命をかけた戦闘ってわけだ」

 

キングコブラが一匹、なかなかの速さで地を這って向かってくる。

アレンたちにとってはもう敵でもない相手ではあるが、すぐには

動かずに、セリアがどう出るかを注視していた。あえて本来なら楽勝できる

戦いの舞台を選び、彼女のやり方を確かめる。

 

(さーて、こいつはどうするかな?場合によってはこれが最初で最後の

 戦いになるかもしれないがな・・・)

 

 

これはセリアの試験なのだ。彼女もそれはわかっている。

初めての戦い、目の前からは憎き魔物が敵意を抱いて迫ってきている。

 

「・・・・・・この場合なら・・・こうするのが正解じゃないのかしら?」

 

セリアは『何もしなかった』。いや、厳密にはその場に留まって防御の

構えをして身を守っている。攻撃を躱すため、もしくは深い傷にならないために。

 

「こんな魔物一匹、あなたならその鋼鉄の剣で一撃!わたしが手を出す必要なし!」

 

「・・・そーいう考えかよ・・・ま、その通りなんだけどな!」

 

アレンの一振りでキングコブラは真っ二つ。セリアの言葉の通りとなった。

 

 

「どうせあなたがすぐに片づけられる相手ならわたしは何もせずに

 万が一のために備えるのがベストでしょう?」

 

「・・・・・・ああ。もし感情に身を任せてナイフ片手に突っ込んでいったら

 おれからすればその時点で失格だったな。そんなやつ命がいくらあっても

 足りねえ。ひとまずはこれでいい」

 

ムーンブルクを滅ぼされた復讐に燃える彼女だったが、怒りのあまり我を忘れる

ほどではないようだ。これからずっとそうだとは限らないが。

 

「いくらその聖なるナイフを持っているからってお前さんの非力な攻撃じゃ

 役に立たない。大人しくそうしていればいいんだよ」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

セリアはただ機会を待った。自らの真の実力を見せつけるときを。

守られているだけではついていく意味がない。魔物たちを、ハーゴンを

倒すために自分が必要だと認めさせるそのとき、それは意外と早くやってきた。

 

「あれ・・・まずいねアレン、よろいムカデがあんなに群れで・・・」

 

「ちっ、ここは全力で戦うか。おれの攻撃とお前のギラで一匹ずつ

 潰していくしかない!」

 

今日は戦い自体に苦労はしないはずと思われていたが、大量のムカデと遭遇し

思わぬ展開になっていた。だが、戦闘は一瞬で終わることになる。

戦いに向けて構えるアレンとアーサーを押しのけてセリアが先頭に立った。

 

 

「・・・お、おい!何してる!?いまは試験だなんてやってる場合じゃあ・・・」

 

アレンの言葉には答えずに彼女は自分の手に魔力を集めていた。そして、

 

 

「・・・聖なる刃よ、邪悪なる魔物を斬り刻め・・・!」

 

セリアを中心として風が起こり、やがてそれは大きな竜巻のようなものとなる。

 

「くらえ――――っ!バギ―――――っ!!」

 

 

それは『バギ』という呪文だった。詠唱が終わると竜巻の刃がムカデたちを

一匹残らず襲い、切れ味鋭く斬り刻んでいった。激しい轟音と共に

風が吹き荒れ、しばらくしてから止むと、ムカデたちの無残な残骸があった。

 

 

「・・・・・・す、すごい!あんな威力の竜巻をあれほど広範囲に!」

 

「ふふ・・・わたしのバギのほうがあなたのギラより全てにおいて上!

 それだけじゃないわ。もう一つわたしの魔力の高さの証明をしてあげる。

 ちょっと手を出してみなさい。ほんの少しどこかで擦りむいたのかしら」

 

言われるがままにアーサーは右手を差し出す。確かに小さな傷があった。

セリアがまたも呪文を唱えようとしているので、アーサーはそれをホイミだと

思い込んでいたが、やはり彼女の比類なき素質を味わうことになった。

 

「・・・これは・・・!ホイミじゃない!もともとこんな傷はホイミすら

 使うほどじゃないけど、ホイミよりも傷が塞がるのが早い、それがわかる!

 癒しの力に満たされて力が満ちてくるようだ!何をしたんだ!?」

 

「今のは『ベホイミ』よ。どうかしらね、わかったかしら?わたしの力は」

 

 

アーサーは自分の主力として使っていた二つの魔法のいずれをも彼女に

軽々と超えていかれた衝撃を味わっていた。まさかこれほどまでとは。

戦力としてはもしかしたら自分より役に立つのではないかと思わされた。

 

 

「・・・ああ。文句なしだ。しかしきみが入ると困ったことになるな」

 

「あら、どうして?」

 

「ぼくの立場がなくなっちゃうよ。きみのかわりにムーンペタの町で一人

 犬になるしかなさそうだ。だから仲間になるのはやめてくれよ、うっ、うっ・・・」

 

 

わざとらしい泣き真似をしてから、なーんてね、と顔を上げて笑い始めた。

 

「あっはっはっは」 「うふふ・・・あははは!」

 

セリアもつられて共になって笑った。まさに上機嫌といった感じだ。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

ただ一人、アレンだけは輪に加わらず、顔つきも明るくなかった。

 

 

 

結局この日は最後まで大きな問題はなく、夕方には町に戻って宿に入った。

セリアもまた偉大な勇者たちの子孫として『本物』であることを明らかにした。

バギとベホイミ、その二つの呪文がアレンたちの戦闘を大きく変え、彼女自身も

大きな手応えをつかんで一日目を終了した。夜が更けてからアレンとアーサーは

自分たちの部屋で酒を飲み始めた。残念ながら今日は空きが少なく、二人は

一つの部屋に泊まっていた。

 

「ふ―――っ、お疲れ。で、さっそくだがあいつについてのお前の意見を聞きたい」

 

「うん、いいと思う。あの魔法の腕前は凄い。とっさの判断力もあるようだ。

 問題ないよ・・・・・・戦力としては」

 

「そうか・・・そう考えるか。戦力としては、か」

 

どこか含みのある言い方。アレンは早々に自分の本心を語り始めた。

 

 

「おれは・・・やっぱり反対だ。あいつをいっしょに連れていきたくない。

 今日は相手もザコばかりだったから何事も起きなかったがやがて敵の攻撃が

 激しくなれば絶対に傷つく。身体だけじゃない、心もだ!すでに深い傷を

 受けているあいつにこれ以上苦しんでほしくないんだよ。やっぱり女は

 おれたち男の帰りを待っていてくれたほうがいい」

 

「そんなこと言ったら怒るんじゃない?弱いもの扱いするな、女だからって

 見下げるなって。昔の勇者の仲間たちのことをまた引き合いに出されるよ」

 

「・・・世間の風潮や昔の前例は関係ない。あくまでおれがそうしたいだけだ。

 あいつの本性を知って薄らぎはしたがそれでも初恋の相手だったやつだ。

 おれたちの旅についてくる限り絶対に幸福にはなれないだろうから・・・

 どうにかしてやめさせたいんだ。ムーンブルクはもうないがまだやり直せる」

 

 

アレンはセリアをローレシアに残したいという気持ちに変わりはなかった。

しかし無理にそうしたところで彼女は納得しない。それならばと一人で

旅に出るかもしれない。そうなればアレンたちに同行する以上に危険で、

まず命を落とすだろう。彼女の意志で自らの手によるかたき討ちを諦めさせ、

アレンとアーサーに託すという考えに至らせなければならないのだ。

 

 

「そこでおれにいい考えがある。残酷だしあいつにとっておれは悪人に

 なるだろうが構わない。心底嫌われ恨まれたとしても・・・」

 

「どういうことだ?まさか彼女に手を出して言うことを聞かせるつもりか?」

 

「そんなわけあるか!女を殴ったり寝ているところを襲ったりなんて

 絶対にするもんかよ。明日のやり方のことを言っているんだ、おれは」

 

二人はそれから、セリアが自分で旅を断念するという決定を下せるように

するために話し合ったがその結論は、自分たちが特別なことをしなくても

そうなる、というものだった。明日の太陽が沈むころには決着しているだろう、と。

 

「・・・・・・じゃあ、そういうことで。そろそろ寝ようか」

 

「ああ。おれたちのほうが先にへたばったらアホだからな。また明日」

 

 

 

翌日、再び三人はムーンペタの町を出た。また町の北側に向かったが、

 

「昨日の戦いでお前さんの力はよくわかった。そこで・・・今日は遠出だ。

 ちょっと先の魔物相手にも通用するかじっくり見させてもらうぜ」

 

「わかったわ。わたしもハーゴンの城を目指すならもっと戦いの場数が

 必要だし、いろんな相手と戦えるのは歓迎よ」

 

アレンからすれば、そんなことが目的ではない。ただ遠出するだけだ。

アレンとアーサーが普段よりも少しだけ早く歩き、セリアが後ろからついていく。

魔物たちを警戒するという名目で時には走ったり、決して足を止めなかった。

動きを止めたら魔物に囲まれるからと、とにかく駆け足を続けた。

 

「囲まれたら囲まれたでいいじゃない。わたしのバギで蹴散らすだけよ」

 

「いや、だめだ。仲間を次々に呼ぶやつもいるし、いずれその呪文が効かない

 種類の魔物だって出てくる。そのとき機敏に動けないとあっさり死ぬよ?」

 

「・・・死ぬことが怖かったらあなたたちと共に行くだなんて言わないわ。

 でも目的を果たせずに無駄に命を散らすのは確かに嫌ね。ま、重い鎧や盾をあなたたちが

持っているぶんわたしのほうが早く動けるとは思うけど」

 

確かにセリアのほうが急な魔物の襲撃への反応が速く、素早かった。

しかしそれは短い時間、瞬間的な話だ。彼女はまだ気がついていなかったが、

アレンたちはいずれ彼女の足が鈍るだろうとすでにわかっていた。

 

 

時刻は昼過ぎ、ムーンペタを出てもう五、六時間は過ぎたころだった。

 

 

「・・・ふう・・・昨日よりも戦いが激しい気がするわ。どうかしら、

 このあたりで一休みというのは。景色もなかなかだしいいんじゃない?」

 

「さっき休憩したばかりだろ。それにこんな景色はここからしばらく

 見飽きるほど堪能できるぜ。時間が勿体ねえから先を急ぐぞ」

 

「だってさ」

 

「・・・・・・そう。わたしとしては前で戦ってくれているあなたたちを

 気遣っての提案だったのだけれど。なら行きましょう」

 

「・・・・・・」 「・・・・・・」

 

 

その会話があってから二十分もしないうちに、セリアは今度は果樹を見つけると

そちらに向かっていき、アレンたちを呼びつけた。

 

「お二人とも!この実は甘くてとてもおいしいのよ!こっちに来て!

 ちょうどいい日影があるからあなたたちも一度食べてごらんなさい!」

 

「・・・腹は減ってないんだが・・・まあいいか。行くよ」

 

強引に勧めてくる彼女の勢いに負けて二人はその木から赤い実をとる。

見た目は普通だ、と話し合っていると、張本人であるセリアが果実に

目もくれず草むらのほうへと一人歩き始めてしまった。

 

「・・・おい、どこへ行くんだよ。おれたちはこいつを食べたことがないんだぜ」

 

「それなら平気よ。食べられないところはないから。それよりもあなた、

 この状況で女性が一人でいなくなるときに理由を問い詰めたりしないでほしいわ」

 

「・・・ああ、用を足すのか。なるほど、この実はその口実ってわけか。

 別に遠慮しないではっきり言ってもらったほうがおれは・・・」

 

「・・・・・・呆れた。まあいいわ、ちょっと行ってくるから」

 

セリアはアレンたちの見えないやや遠いところに姿を消した。

 

 

「・・・あんなに警戒しなくたって覗いたりするかっての。

 とはいえいまは・・・そういう問題じゃないみたいだけどな」

 

「いよいよ限界のようだ。引導を渡すのは・・・そうか、きみがやるか」

 

 

彼女との旅もおそらくここまでだろうと二人は荷物の整理を始めていた。

セリアは隠しきれていると思っていたが、アレンたちには筒抜けだった。

その彼女は離れた草むらにいたが、最初から用を足してなどいなかった。

 

「・・・・・・っつ・・・・・・」

 

セリアの足は腫れていた。これまで経験したことがない足への酷使のせいか、

知らないうちに怪我をした部分が悪化したのか、魔物の毒か・・・。

痛みが増しているのでとうとう騙し騙し前をいく二人についていくのも

厳しくなり、気づかれないよう密かにベホイミを唱えたり毒消し草を

使用して回復を図ったがその痛みはすぐに癒えることはなかった。

 

「どうして・・・!腫れはおさまっていくのに・・・・・・」

 

 

 

「・・・そいつは薬草でしっかりと時間をかけなきゃ治らないぜ。

 呪文の力で表面だけ治しても何の解決にもならない。お前さんの足では

 おれたちについてこれない・・・その証明なんだからな」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

アレンが後ろに立っていた。ついに証拠を見られてしまった。

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。