ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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第二章
ロンリー・ナイトの巻 (三人での冒険)


 

「よし、出発だ!はじめに話した通りの隊列と戦術を崩すなよ?」

 

「了解。アレンが先頭で魔物たちを斬り刻んでいくやり方はそのままに

 ぼくらが後方支援だ。セリア、きみも熱くなる気持ちを抑えるんだ」

 

三人で新たなる旅立ち。アレンが一番前に立ち、皆の強固な盾、また剣となる。

アーサーとセリアにも呪文による攻撃手段があるが、魔力をむやみやたらに

放出していては長旅には耐えられない。基本的には後ろからアレンを支える。

 

「・・・わかっているわ。目的はあくまでハーゴン、わたしの城を滅ぼした

 悪魔。やつのもとにたどり着くまではくだらないことで足踏みできないものね。

 あなたたちの指示に従うわ」

 

 

(・・・やけに素直だな。お前何かあいつに言ったのか?)

 

(ぼくは何もしていないよ。今日の食べ物も変わったところはなかったはずだし・・・)

 

セリアがアレンたちの予想に反し大人しくしていたことには理由があった。

二人が話していた事柄をこっそりと聞き、彼らに対する認識を改めていたからだ。

 

 

 

『・・・アーサー、すまないが・・・ムーンブルクの調査の報告のために

 ローレシア、それにお前のサマルトリアに帰るのは先延ばしにしてほしい』

 

『ん・・・?それはどうして?まずいことでも思い出して帰りたくなくなったのかい?』

 

『そうじゃねえよ。ローレシアにサマルトリアはおれたちにとっての故郷だろ。

 だから戻ったら家族や友だち、知り合いが大勢出迎えてくれるのは確実だ。

 そのとき・・・帰れる家を失ったセリアにいらない悲しみと寂しさを与えることに

 なるかもしれない。しばらくは帰らずに先を目指したいんだ』

 

『・・・そういうことか。ならわかった。闘将でありながら優しいきみらしい』

 

『あともう一つ、歩く速度をこれまでよりも少し落とすぞ。いいな?』

 

 

 

同行するだけでも大きな譲歩なのに自分のことをこんなに気遣ってくれている。

アレンへの熱い思いと信頼感に満たされつつあったセリアだったのだが、

 

「・・・ところであいつの水浴びのときも誰か見張りがいるよなァ。

 魔物とか野盗に完全に無防備になっちゃうんだからな。そのときに仮に

 見えちゃったとしてもそれは仕方のないことだと思わねえか~っ?

 だってそうしなきゃ命が危ないんだからよォ~っ!」

 

「・・・・・・・・・よくも悪くも真っすぐだな、きみは」

 

 

(・・・やっぱり気のせいね。あの男はそのときの感情や欲望に

 流されているに過ぎない単細胞な生物だわ。わたしが何とかしないと)

 

あっさりと消し飛んだ。いざというときの舵取りは自分がやろうと考え始めた。

 

 

「まあ冗談は抜きにしていっしょに旅をする以上はある程度覚悟してもらわないと

 困るぜ。恥ずかしがってその結果殺されたなんてはめになったら馬鹿らしいぞ」

 

「そこは安心して。そんなものを気にする気は全くないわ。憎きハーゴンの邪教を

 滅ぼすためなら裸どころか骨がむき出しになろうが構わないもの」

 

そう言うとセリアは水場へと歩いて行き、自らの服に手をかけた。

これから水浴びをしようというつもりらしい。アレンは慌てて、

 

「お・・・おい!おれはああは言ったが何も自分から見せろだなんて・・・」

 

「ふん・・・わたしだってそんな趣味はないわ。こうすればいいだけの話よ!」

 

 

セリアは抑え気味にバギの呪文を唱えた。魔物たちに恨みを叩きこむときよりは

威力が弱いが、アレンたちの視界を完全に妨げるほどの風が生み出されていた。

 

「これなら魔物たちも、それにどこかの覗き男も近づけないでしょう?」

 

呪文による仕切りの先で得意気に語るセリア。それに対しアーサーは、

 

「確かにこれはいいね!それなら今度は浴槽に見立てた入れ物に水をためるといいよ。

 それからぼくのギラで温めたら温水に入ってのんびり疲れを落とせるからね――っ!」

 

「じゃあ今度はそうしようかしら!そのときはお願いするわね―――っ!」

 

アレンはその会話に両手を広げて不快感を露わにしながらその場に腰を落とした。

 

「ちっ・・・!魔法が使えないおれへの当てつけかよ。せっかくの呪文と魔力を

 くだらないことに使いやがって・・・。やっぱりセリア、あいつは

 とんでもない女だぜ。ほんのちょっぴり残っていたあいつへの恋心は

 もう完全にすっ飛んじまったよ。おれの理想像から完璧に外れた・・・。

 だから別に今日あいつがお前とばかり話していたからって落ち込んじゃいねえぞ」

 

「・・・まだ彼女の正式な加入の初日じゃないか。明日からは・・・」

 

「気にするなよ。せいぜいお前が話し相手になってやんな。あいつにしても

 おれよりもお前のほうがいいんだろうよ」

 

可憐な乙女、グリーングラスの上で踊る儚いセリアのイメージはもはやない。

まあこのほうが気楽でいいか、とアレンは自分に言い聞かせ再び立ち上がった。

変に意識する女性と旅をするくらいなら、どこか苦手で嫌な女であるほうが

遠慮なく接することができる。あくまで同じ偉大な先祖を持つ旅の仲間だ。

 

「・・・終わったわよ―――っ、あなたたちもやるならさっさとしなさい」

 

水浴びを終え、また衣服を身にしたセリアの姿はやはり美しかった。

アレンは首をぶんぶんと振りながら一心に邪念を捨てようと必死になった。

 

 

 

三人全員が汚れを落としたところでこの日はここでキャンプとすることにした。

前日にアレンが言ったように、セリアを案じて普段よりも歩いた距離は短かった。

二人は何も言わないが、セリアも彼らの配慮はわかっている。だから自分にも

できること、役に立てるところを探した。

 

「・・・まさかあなたたち、そのままそのお肉を食べるつもりじゃあ・・・」

 

「ああ?何か悪いか?ちゃんと焼いてんだから大丈夫だろ」

 

「ちょっと貸しなさい!食べやすいようにしてあげるから!」

 

ナイフを取り出すと、アレンたちの肉を綺麗に、食べやすい大きさにカット

して皿に乗せていく。それから鮮やかな色をした小さな果実を上においた。

 

「どう?同じお肉でもずいぶんおいしそうに見えるでしょう?」

 

「・・・確かに!食事の時間の楽しみが何倍にもなったよ、ありがとう!」

 

ちょっとした工夫で、ただ腹を満たすための食事が変わった。男二人だけでは

どうにもこういう発想には至らない。物足りないと思いつつもそのままだった。

 

「いつの間に皿なんて用意してやがったんだ。他の荷物の邪魔になったらどこかで

 捨ててもらうからな。それにそのナイフ、戦いのときのナイフじゃねえだろうな?」

 

「そんなはずないでしょう。何を口にしても平気そうなあなただけならそれでも

 構わないとしてわたしたちも食べるのだから、ちゃんと料理用のナイフよ」

 

「・・・・・・この女は・・・・・・。もう深く関わらんほうがいいかもな・・・」

 

アレンは素直になれずにいたが、内心はアーサーと同じだった。これから先も

セリアがいれば、食材と安全な水を欠かさない限り食べる時間が喜びを

もたらすものになると弾んだ気持ちになっていた。

 

 

「で、まだまだ遠いのか?その『風の塔』は」

 

「ええ。明日明後日では到着は厳しいでしょうね。でもあの塔には必ず

 行かなくてはならない!ムーンブルクの言い伝えがそう教えているわ」

 

風の塔と呼ばれる、ム-ンペタからもムーンブルクからも離れた地に

そびえ立つ塔。かつてはムーンブルクの兵が魔物や周辺諸国の侵攻を

見張るための物見の塔であったのだが、世が平和になるにつれて

利用されなくなり、もはや人は誰もいないとされている。

 

「もう魔物たちの住みかだろうね。それでも足を踏み入れる理由って・・・」

 

「あの塔に昔から眠る『風のマント』を手に入れるためよ。世界に危機が

 やってきたときそのマントが事態を切り開くと聞かされてきた。これから

 未知の土地へ旅をするのだから、必ずどこかで役に立つはずだわ」

 

 

風のマントと呼ばれる幻の宝を得ることが目的だ。これ以上先に進めないと

思ったとき、そのマントが道なきところに道をもたらすのだという。

どのような外見なのか、どんな奇跡を見せてくれるのか全ては謎に包まれている。

 

「風のマントとやらがどれほどのモンなのかは知らねえが・・・魔物どもの

 巣窟だっていうのならぶっつぶしてやるまでだ!」

 

「ええ。一匹残らずこの世から消し去ってやるわ」

 

魔物たちへの憎悪を露わにする二人は早くも風の塔の魔物根絶へのやる気に

満ちていたが、アーサーだけは違う。魔物であっても戦意がないと思ったら

戦闘を回避しようとする彼は、他の二人とは根本的に考え方が異なっている。

 

 

「あまり魔物を無駄に倒しすぎるのも考えものだよ。いらない恨みを買うからね。

 報復の連鎖ってやつだよ。セリアの気持ちはわかるけど、邪教の中核に

 狙いを定め、不必要な戦いは避けるべきだと思うよ」

 

当然いい反応が返ってくるはずがない。もともと三人で出発する前に長旅なのだから

不要な戦闘はしないと決めていたはずが、実際には過剰なほど敵を屠っていた。

アレンは魔物を絶対悪と考える義の心から、セリアは復讐と怒りから。

彼らとよい関係にある、いわば例外のマンドリルたちを除けば、どんな相手にも

容赦なく、完全なる勝利を目指して戦ってきたのだ。セリアからすればマンドリルとの

友好条約すら納得できるものではないが、彼らがムーンブルク城を襲った魔物では

ないこと、人に害のないことを説明しどうにか渋々の了承を得た。

 

「・・・あなたが効率派で無駄なことをしたくないっていうのはわかったわ。

 でもそんなことではいつか痛い目を見るでしょうね。そもそもその甘い考えで

 よくこの男と今まで大きな衝突もなく付き合ってこられたわね。わたしと同じ、

 魔物に対しては何の情も持たずに打ち倒すという信念を持つ彼と・・・」

 

「互いにちょっとずつ譲歩しているからさ。そうだろ、アレン?」

 

一時的に席を外していたアレンが戻ってきて、火を囲んで会話をしている

アーサーとセリアの間に勢いよく座り、話の輪に加わった。

 

「ああ。おれだって魔物どもを絶滅させてやりたい気持ちはある。でも

 きりがないからな。ほんとうはもっと徹底的に戦いたいが・・・」

 

普段は馬が合わないアレンとセリアだが、このことに関しては意見が一致する。

そんな彼らの血気盛んな思考を危惧したアーサーは、一呼吸入れてから、

 

 

「・・・さっきの話に戻ろう。報復は報復を生むと。それは誰にも逃れられない。

 あの百年前の勇者ブライアンでもそうだったのだから。アレフガルドの

 地を竜王の魔の手から救い出し、ぼくたちの国の開祖でもある勇者ですら」

 

「・・・・・・・・・?」

 

「ブライアン様・・・どうしていまその名前が出てくるんだ?確かにあのお方は

 早くに病気で亡くなったということだが・・・その病は戦いが原因だったのか?」

 

唐突に出された英雄の名に、意味をわかっていない二人はぽかんとするばかり。

それでもアーサーは続ける。偉大な勇者の隠された最期を。

 

 

「ブライアン様の三人の子どものうち・・・ぼくたちの国サマルトリアの礎を

 築いたトップガンという次男、実はその方だけは知っていたんだ。母親の

 ローラ様が病に倒れ息を引き取る寸前にこぼした言葉を聞き逃さなかったらしい。

 『ブライアンは病ではなく・・・復讐にやってきた竜王の娘に命を奪われた』と」

 

「・・・そんな話・・・聞いたことねえぞ。勇者伝にも書かれていない」

 

「だから人相手だろうが獣相手だろうが不必要な戦いはやめなさいと言ったそうだ。

 サマルトリアがあまり軍を強化しないのはそれが関係しているんだろうね。

 もっとも、ぼくは古い隠された資料を漁ってこの真実を知ることができただけで、

 父さんや国の要人たちは誰も知らないから、無意識のうちにそうなっているのさ」

 

 

そこまで聞いたところでセリアが立ち上がり、簡易式の天幕のもとへと去ろうとする。

彼らは三人となったことで、屋根付きの寝床を手に入れていた。誰かしらは外で

見張っていなければならないが、これまでよりも深い休息がとれる。

まだ話は終わっていなかったが、セリアはもう眠るつもりで焚き火を後にした。

 

「・・・どうしたんだ?眠くなっちまったのか?」

 

「いいえ、その話にこれ以上聞く価値を見いだせなかっただけ。とても真実とは

 思えないわ。アーサー、あなたみたいな賢い人間でもそんな程度の低い

 嘘の記録を信じてしまうのね。誰かがねつ造した作り話よ」

 

「・・・・・・まあそこの判断は人それぞれだ。大事なのは教訓だ」

 

「教訓?それならはっきりしたわ。不必要に魔物たちの恨みを買わないようにって

 あなたは言いたいのでしょうけどわたしの結論は違う。仮にその話が事実の

 歴史だったとしたら、ブライアン様の失敗はむしろ魔物を、竜王の娘とやらを

 生かしておいたことよ。早い段階でやつらを殺しつくしていればよかった。

 ブライアン様はむしろ生ぬるかったのよ。わたしは違う!徹底的な滅びを

 魔物たちに与える!報復なんてできないほどに世界から絶ってやる!」

 

セリアは興奮が収まると、でもわたしはそもそもその話を信じていない、とだけ

言い残してから天幕のなかへと入っていった。アレンも続くように腰を上げた。

 

「・・・あまりあいつを刺激しないほうがいいぜ。あと、このおれもな。

 敬愛しているブライアン様がそんな惨めな最期を遂げたなんて話は

 二度とするなよ。お前が何を信じるかは勝手だがな・・・」

 

今日はアーサーが夜通し見張りをすることになっていたのでアレンもまた

天幕へ姿を消す。残されたアーサーは一人、こっそり荷物のなかに仕込んでいた

酒を取り出し、静かに飲み始めた。禁酒を宣言したアレンのために、こうして

一人になったときを待ってから飲むことにしていた。

 

「・・・ふう。アレンには悪いけどやっぱりうまいな。一日の締めの一杯は」

 

二人に去っていかれたことで落胆しているかと思いきや、本人はむしろ満足気、

しかも一仕事やりきったように酒を楽しんでいた。三人でわいわいと

盛り上がっていた一日の最後、この一人の時間に寂しさを感じてはいなかった。

 

 

(・・・勇者ブライアンの晩年の悲劇は事実のはずだ。でも突然言われたって

 信じられないのは仕方ないよね。それよりも、これであの二人の距離が

 もっと縮まった・・・そっちに意義がある)

 

 

アレンは気にしていない、これでいいと言ってはいたものの、セリアがこの日

アーサーの近くにいることが多かったのを引きずっていたように見えた。

これまでの己の言動が原因とはいえ、アレンはどこか拗ねていた。

 

(これで明日からはアレンのほうにも近づくようになるだろう。偉大な先祖様を

 ダシに使っちゃったのは反省だけど、どうせ誰にもわかりはしないしいいか。

 あの二人が親密になってくれればぼくの計画もやりやすくなる・・・)

 

アーサーの計画、この旅に乗じてサマルトリアを飛び出して未知の土地を

渡り歩く気楽な旅人になることだった。この世界にまだ先人たちが目指した

楽園は残っているのか自分の目で確かめてみたかった。平和や復讐のために

この世を蝕む邪教を滅ぼすことが最終目標ではないところも、他の二人と

大きく異なっている。責任感や使命感に欠けていることは彼自身も認めている。

 

(・・・ふふふ、歴史に残る勇者とその仲間たちはぼくのことをどう思って

 いるのやら。世界の危機を利用しようとしている不届き者とでも怒っているかな)

 

 

酒を飲み終えて立ち上がると、彼は夜の見張りをする準備に入り、武器である

鉄の槍を持った。何回か軽く振って手に慣らしてから、ゆっくりと歩き始めた。

 

 

 

翌日の早朝にアレンとセリアは天幕から出てきた。欠伸をしたり背伸びをしたり、

どうやらゆっくり休むことができたようだ。

 

「お前のおかげで野宿なのにこんなにも熟睡できたぜ。今日の夜はおれがやるからな」

 

「よく眠れたようで何よりだよ。軽く朝食をとったら出発かな?」

 

「そうね、じゃあわたしがそのパンをうまく使って何かつくるわ」

 

誰も昨日の夜のことには触れない。気まずいからではなく、もう気にしていないから。

あの程度で翌日まで引きずるようではこれからが思いやられるだけだからだ。

勇者の末裔三人の旅は、全く理想通りにはいかなくても、上々のスタートを切った。

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