ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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謎の大神官の巻 (ルプガナ④)

 

身投げしようとしていたところを救われ、しかも人間を超えた力を与えたハーゴンを

裏切るかのように王子たちをこの大陸から送り出してしまった祈祷師の少女二人、

テイタニヤとディアマンテの前に邪教の大神官ハーゴンが現れた。最初の出会いとは

違ってハーゴンは眩しい光に包まれてはおらず、二人は初めてハーゴンを見た。

その姿にすっかり驚いてしまった二人は、自分たちに迫る危機すら二の次に、

 

 

「・・・まさか・・・あなたが!?あなたがハーゴン様・・・えっ、いや・・・」

 

「声は確かにあのときと同じだ。しかし・・・・・・」

 

ハーゴンの風貌によほど衝撃を受けたようだ。それがハーゴンであることは

疑っていないようだがしばらく固まったままだ。

 

 

「・・・・・・その話はいま大事ではないだろうに。それよりも君たちに

 確認したいことがあったんだ。なーに、ほんの少しの時間で終わるから」

 

二人は意識を戻された。ほんの少しで終わる・・・その僅かな時間で尋問と

処刑を終わらせるというつもりなのだろう。

 

「まあ、じゃあさっそく・・・。どうしてあの王子たちを助けたか、聞かせてもらおう」

 

 

怒っているような様子はない。しかし何かを間違えたら即座に自分たちの命を

奪うだろう。震えあがって言葉が出なくなっても当然のこの場面。ところが

若い二人の少女ははじめに深呼吸をし、互いの顔を見つめ合った後は

汗の一つすら流さず、息も乱れずに堂々と、背をまっすぐに伸ばし

ハーゴンの目をしっかりと見て話し始めた。

 

 

「・・・それが正しいこと、だと信じているからです。ただそれだけです」

 

「・・・・・・ふむ・・・・・・」

 

「わたしたちを立ち返らせてくれた彼を、そしてその仲間たちに、たとえあなたの

 命令であっても危害を加えることなどどうしてできるでしょうか。きっと彼らなら

 わたしたちのような窮状に誰も陥らせない未来をこの町に、いや世界中に

 もたらしてくれる・・・そう確信できたからです」

 

 

短い弁明だったが、二人の気持ちの全てがこもっていた。ハーゴンは二人が

話し終えてからしばらくはそのまま黙っていたが、突然彼女たちとの距離を

一気に詰めてきた。そして両手を静かに動かしたので二人は覚悟し、

さすがに恐怖の気持ちが少しだけ湧きあがった。

 

「・・・・・・!!」

 

 

ところが、ハーゴンは無表情に思えた顔をなんと穏やかな笑みに変化させ、

二人の身体を貫くものかと思われた両の手は優しくその頭に片方ずつ置かれた。

ぽん、ぽんと軽く撫でるかのようにした後、ハーゴンはまた一歩下がってから、

 

 

「・・・よくぞ言った。わたしはその言葉を待っていた!」

 

「・・・・・・へ?」 「はい?」

 

予期しない展開に情けない声が出てしまう二人に対し、ハーゴンは更に続けた。

 

「最初に出会ったときの君たちとは違い、確かな希望と強さがその瞳からは感じられる。

 何より自分たちのことだけを案じ思い悩んでいたのにいまはあの王子たちのこと、

 そして世界の他の人々のことまでも考えられるようになった・・・。わたしは

 これが見たかった。君たちは確かにもう心配は要らないようだ」

 

「・・・ハーゴン様・・・・・・」

 

「安心して行きなさい。そしてもう二度と何にも惑わされないようにしなさい」

 

 

くるっと背を向けてハーゴンは去っていこうとする。それを二人はすぐに呼び止め、

 

「お、お待ちください!ハーゴン様、わたしたちはあなたの命令に背いて・・・!

 その処罰をなされにきたのではなかったのですか!?」

 

ハーゴンが意外なことのように再び振り向いた。事は終わったつもりだったからだ。

 

「・・・命令に背いた・・・?いや、君たちはわたしの言う通りにしたではないか。

 だからいま幸福と安全を受けている・・・そうだろう?」

 

「いいえ、あなたは『勇者ロトの子孫たちの一人と接触せよ』と仰いました。

 確かにそこまでは果たしましたがあなたの真の指令は果たさずに・・・」

 

ハーゴンはここでようやく手を叩き、ああ、と小さく声を漏らした。

 

「・・・わかった、なるほど。君たちは彼らのうちの一人に近づけ、という

 わたしの言葉を、『密かに近づいてこれを殺せ』と解釈したわけだ。

 それなら気にしなくていい。わたしの言葉にあれ以上の意味はなかったんだ。

 誤解させていらない緊張を与えたのなら悪いことをしてしまった」

 

「・・・・・・・・・え、そうだったんですか?」

 

無理もないことだったが、二人が勝手に早とちりしてしまっただけだったようだ。

ほんとうにただ近づくだけでよかった。結果的に指示に正確に行動することにはなったが。

 

 

「・・・でも、君たちは三人のうちの・・・サマルトリアの王子だろう?

 彼と無事に密かに話をすることができ、わたしの読み通り素晴らしい収穫を

 得た。わたしが最初に約束した『真の救い』だ。いや、よかったよかった・・・」

 

今度こそ話は終わりと再び立ち去ろうとするハーゴンだったが、またしても

テイタニヤとディアマンテによってそれは妨げられた。しかも今度は両足を

片方ずつ抑えられ、動きが止まるとすぐに二人はハーゴンへの感謝の念、

加えてそのどんな賢人よりも上である知恵と深い愛情に感極まり地面に頭を伏し拝み、

 

「ああっ!!偉大なるハーゴン様!わたしたちの神!」

 

ハーゴンに崇拝を捧げようとしたが、それはすぐに制された。

 

 

「・・・頭を上げなさい。わたしは神ではないからだ。わたしには神のような

 力などない。この度だって元はと言えばわたしが君たちを追い込んだからだ」

 

「・・・・・・あなた様が・・・!?」

 

「そう、わたしが魔物たちを完璧に統制できていないせいでドラゴンの角の橋が

 壊され、君たちは人生を台無しにされた。だからこれはわたしの自己満足的な

 罪滅ぼしに過ぎない。そのわたしが感謝、まして賛美や崇拝などなぜ受けられると

 思うのか・・・さあ、君たちにはまだ一日の労働が残っているではないか。

 行きなさい。そしてわたしと会ったことは誰にも言わないように。もっとも、

 口にしたところで信じる者はいないだろう」

 

ドラゴンの角が魔物たちに襲われ、二人の家の商売、いや、家族そのものは崩壊した。

その責任は自分にあるのだとハーゴンは言う。自分は神ではないと宣言し、

彼女たちが自分への執着や崇敬の念を捨ててくれるようにした。

 

その狙いは半分だけ当たった。真に神であればこのような自らを否定する言葉を

吐くはずがないからだ。二人は崇拝の行為をやめて立ち上がった。だが、その

謙遜さや終始近づきやすい語り方は逆に二人を更に引き寄せてしまった。

 

 

「・・・で、では最後に!わたしたちの働いているお店に来ませんか!

 もう間もなく開きます。どうか寄っていってください!」

 

「わたしからもお願いします!あなたはわたしたちが真に救われることを

 望まれました。ですからその一部としてわたしたちの仕事ぶりもぜひ・・・」

 

二人が促してやまないので、その熱意に負けてハーゴンは共に行くことにした。

その道中、歩きながらテイタニヤはハーゴンに一つの質問をした。

 

「ハーゴン様、わたしたちをあのとき自害から救いその後再起させることだけが

 ご目的ならどうしてこの『モンスター人間』としての身体を与えてくださったの

 でしょうか。戦いの場に出すわけでもなく人並み外れた力を・・・」

 

「ん・・・そのことか。実はあのとき君たちの身体の内も外もかなり傷んでいた。

 ただ癒すだけでは足りない、そう感じたので大きく変えさせてもらった。

 でもこれにはけっこう体力を使うんだ。あれからしばらく顔を出せずにいたのは

 そのためだった。君たちがどうなったか心配だったが・・・いま安堵しているよ」

 

「・・・そんな貴重な体力を用いてまで・・・あなたはわたしたちに何の見返りも

 求められないのですね」

 

この一言に対してのハーゴンの返答、それは二人をなお一層驚かせるものだった。

 

 

「わたしは・・・父と母を知らない。ただ、生まれたときからこの身体を得ていた。

 つまりはただで受けたものだ。それを君たちにもただで分け与えるのは当然だろう」

 

 

二人がハーゴンの言葉に驚いてしまったのはただその慎み深さに感銘を受けていた

わけではなく、似たような言葉をつい昨日も聞いていたからだ。それも、

ハーゴンと敵対する正反対の立場にいる者の口によって。

 

「・・・・・・ふふ・・・あはは!」

 

「・・・?何かおかしいことを言ったかな?いま・・・」

 

「ああ、失礼。しかし・・・おかしいですよ。あなた様の、ただで受けたのだから

 ただで与えるというのは・・・あのサマルトリアの王子、テンポイントが

 すでにわたしたちに述べていたことだったもので」

 

「・・・・・・・・・え?」

 

「彼にも言いましたが・・・やはりあなた様と彼はどこか、いいえ、かなり似ているかと」

 

 

サマルトリアの王子と似ていると言われても喜んだらいいのか悲しんだらいいのか、

ハーゴンは困惑した。しかしそうまで言われると実際に会って話をしたみたくなる。

その気持ちまでアーサーと同じだったのだが、それを知る由はない。そうこう

しているうちに店に着いた。二人が戻りこの日の開店となったので、ハーゴンは

最初の客だった。さっそく一番いい席に通されると、カウンターの酒を指さし、

 

「・・・うん、まずはあれをもらおうかな。でも何だか少し値段が高いな・・・」

 

さすがに選んだ酒は違ったが、値切り交渉を始めようとするところまでアーサーと

同じなのかと二人は後ろで笑った。とはいえ偉大なる師に恥をかかせたくはないので、

 

「・・・ハーゴン様、わたしたちはまだこの店で働いて日が浅いので・・・」

 

店の主人に尋ねる前にこの場で断った。ハーゴンもアーサー同様本気ではなかったらしく、

 

「ははは、わかっているよ。さっき自分で見返りはいらないと言ったばかりだ」

 

余裕の対応で通常通りの値段で注文した。ここまでは昨日のアーサーと

全く同じと言っていいほど進んでいた。だがこの後、大きな違いが生じてしまった。

しばらくしてから二人が戻ってきた。そして白いカップを申しわけなさそうにして

テーブルに置いた。

 

「・・・この店では酒をこんなカップに入れて出すのか?・・・って・・・」

 

なんと、中身は温めたミルクだった。これはいったいどういうことなのか。

ハーゴンが二人に迫る前に彼女たちのほうがその理由を話し始めた。

 

 

「あの・・・わたしたちはあなた様が言われたお酒をお持ちしようとしたのです。

 ですが主人がそれはダメだと・・・・・・」

 

「あのような子どもにこんな強い酒を出すつもりなのかと怒られてしまいました。

 代わりにこれを持っていくように・・・というわけで。料理も子ども用の

 野菜が少なく魚の骨が抜いてあるものを用意し始めて・・・」

 

 

そう、ハーゴンの姿はアレンたち、更にはテイタニヤとディアマンテよりも一回り

幼く見える少女だった。声はそこまで女性的ではなく、髪は短めなのでもしかしたら

遠くから見れば少年と勘違いする者もいるだろう。それだけまだ女性というには幼いのだ。

 

「・・・・・・なるほど・・・・・・そうか、そういうことなのか・・・」

 

「どうしましょう。料理だけでも普通のものに変えるように・・・」

 

「いや・・・もういい。せっかく作ってもらっているんだ。そのままでいい」

 

頭を抱えるようにして二人を立ち去らせた。仕方なくホットミルクを飲むしかなかった。

 

 

 

(・・・これが生まれつきモンスター人間として生まれた者の弱点か。わたしは

 あの大魔王ゾーマの時代から生きているというのに、いまだ十歳かその程度としか

 思われないのだから。ゾーマをこの目で見たと言っても誰にも相手にされないだろう。

 ・・・・・・とはいえ、野菜少なめに骨抜きはラッキーだったな)

 

 

頭を抱えていた素振りは、つい頬が緩んでしまったのを隠すためでもあった。

子ども用の料理が来るまでの間、ハーゴンは窓のそばへ行き海を眺めていた。

人間の数倍の視力はすでに出航して時間がたった一隻の船をとらえている。

 

「・・・ロトの子孫たち・・・。以前から興味はあったが特にサマルトリアの

 テンポイント、アーサーか。なかなか面白そうな男じゃないか。

 いまはそのときではないが、いずれ彼とは会わなくてはならなくなった」

 

 

 

 

 

ついさっきまで自分たちがいた町に敵の総大将が来たなどとは夢にも思わない

アレンたちは初めての船旅を楽しんでいた。一国の王子、王女という立場上

互いの国へ向かう機会は幼いときから幾度もあったが船を利用したことは

一度も無く、陸路での旅しか経験したことがなかった。幸いなことに

船に酔ってしまう者は誰もいない。魔物が船に近づいてくることはあるが

滅多にこない。そのぶんドラゴンの角でも厄介な敵だったメドーサボールに加えて、

魔物化した『うみうし』が猛威を振るうので、油断はできない。陸に比べたら

まだましという程度だった。

 

「・・・なかなか強かったな、あの海牛野郎どもはよォ~・・・。ホイミを頼む!」

 

「うーん・・・これはベホイミのほうがいいんじゃないかな。セリアに頼もう」

 

アーサーに代わってセリアがアレンの手を取って回復呪文を唱えた。毒には

冒されていなかったが傷の痕が完全に癒えるのはもう少し時間が必要だろう。

 

「あれ以上大群で襲いかかられたらちょっと大変だったわね。でも

 わたしたちなら何とかなるわ。戦い慣れているわたしたちなら、だけど」

 

「確かに。ルプガナの町にも船が襲われて沈没して宝を失ったとかいう

 商人がいたね。訓練していない彼らが海に出られなくなったのもわかる」

 

海上ですら魔物たちが荒れ狂う様を目の当たりにして、この旅の緊急感を抱かせる。

もうあまり時間はないのではないか、という焦りも出てくる。

 

「海が完全にやつらに支配されたらいよいよ世界の終わりは加速するぜ」

 

「漁業も輸送もだめになったら小さな島々の人たちが最初に力尽きるわ。

 次第にそれは・・・・・・アーサー!急ぎましょう!」

 

船を操縦しているのはアーサーだ。二人の仲間は急かすが彼は落ち着いていた。

出せる速度には限界があるし、無理して進めば陸よりも危険で、魔物たちに

関係なく自滅する可能性もある。

 

「まあまあ、二人とも少し休んでいてよ。今は波が穏やかだから眠るにはいいよ」

 

魔物たちとの戦いの直後だからか興奮気味になっている二人にも冷静になるように

促した。魔物の気配も感じなくなり、しばらくは大きな戦いも起こらないだろう。

ベッドに向かった二人を見送り、アーサーは一人操縦を続けながら考える。

 

 

(・・・ハーゴンというのは相当のやり手のようだ。世界の征服に抜かりがない)

 

ハーゴンのやり方はアーサーも感心するほどで、いまのところ隙がない。

ムーンブルクのように魔物を積極的に排除する好戦的で自らに敵する国は

まるで見せしめのように滅ぼす。しかしいたずらに侵略はせずにその後

世界の他の国がどう動くか様子を見ているのだ。ローレシアとサマルトリアも

大々的には動いていない。こっそりとアレンとアーサーが旅立っただけだ。

世界のなかには力ある大国ムーンブルクが滅ぼされたと聞きすっかり恐れてしまい

戦う気持ちが完全に萎えたか、最悪邪教の仲間になった国だってあるかもしれない。

 

直接的に乗り込むだけでなく海を封じることで人々の生活に必要な物、特に食物を

断とうとする動きも注目に値する。やがて皆がもうどうしようもない、と感じ

絶望に満たされたとき、まさにそのときにハーゴンは公に姿を現すのだろう。

 

(ルプガナの二人のように・・・気持ちが弱くなったところに付け込む気だ。

 恐れてはならない、わたしの崇拝する神々に信仰を持ちなさい、と人々を

 邪教の信者にしてしまうはずだ。初めは優しく扱って心を掴むだろうけど・・・。

 皆が狂信的になったらもう間に合わない。都合の悪いことに目を向けずに

 彼らの神々とハーゴンを賛美し続け、それを倒そうとするぼくたちに

 敵対することになる。焦りは禁物だけれどのんびり船旅を満喫する

 わけにもいかないか。ハーゴン・・・その実力は未知数だが、魔王としては

 伝説の悪魔たちであるあのゾーマや竜王以上かもしれないな・・・)

 

「・・・あの二人は・・・無事だろうか。見逃されていればいいのだけれど・・・」

 

 

まさかハーゴンたちが客と店員として和やかに接しているとは思わずにアーサーは

彼女たちの身を案じていたが、いまはよそのことに気を遣う余裕などないことに

気がつくのはもう間もなくだった。

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