ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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起承転結の巻 (しびれくらげ)

 

アーサーの操縦する船は順調にラダトームへ向けて進んでいるかに思えたが、

事件は突然に起きた。アーサーに休むように言われたアレンとセリアは

それぞれのベッドに向かっていたが、そのセリアのほうで事件が起きた。

 

「さすがは小型の船では港町でも最良のもの!思ったより全然揺れないし快適ね。

 歩かなくてもよくなったしこれからいい旅になりそうね・・・」

 

魔物との戦いは大歓迎だが、それ以外の余計な消耗や過酷な徒歩の旅から解放されて

晴れやかな気分で腕を伸ばして歩いていたが、ふと視線を足元にやると・・・。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・!こ、こいつ・・・!いつの間に船のなかへ!」

 

 

これまでの海上での戦闘は全て飛びかかってきたり船に上がろうとする魔物を

撃退するものだった。船に乗り込まれそこで戦闘ということになったら

せっかくのルプガナ一の立派な船もあっという間に激しい損傷によって

使い物にならなくなってしまうだろう。それがいま、魔物に侵入されていたのだ。

 

「・・・これはまずいわ・・・・・・」

 

自分一人しかいない。セリア一人でどうにかしなければいけない。ただ倒す

だけではなく、船を傷つけないような戦い方が求められた。好戦的な彼女でも

今回ばかりは厳しい表情を浮かべた・・・のは僅か一瞬だった。

 

「な~んて、このわたしが本気でそう思っているとでも?まずいのはそっちよ!

 たった一匹で乗り込んできて、どうやら自殺志願のようね!」

 

そこにいたのはくらげが一匹。見るからに弱そうで、身体も全然大きくない。

これなら非力な自分でもナイフだけでこの魔物を仕留められる。船を危なくする

バギの呪文を使うまでもない、セリアは明らかにこのくらげを見下していた。

 

「・・・さーて、じゃあやっちゃいましょうか。わたしはあいつらのように武器の

 扱いにはまだ不慣れだから一撃で、というのは難しいかもしれないわ。

 だから何回もナイフで攻撃することになるけれど・・・ま、我慢してよね!」

 

手に持った聖なるナイフ以上に鋭い目つきでくらげに向かっていく。対する

くらげのほうは何本もある触手を振り回していたが、それは反撃というよりは

何かを弁明しているように見えた。攻撃を待ってほしいというつもりなのか。

 

「残念だけどわたしにはあなたたちの言葉も気持ちもわからないわ!覚悟!」

 

セリアはナイフを突き刺すかのように放つ。しかし間一髪のところで身をかわされて

しまった。その際、くらげの触手のうちの一本にかするように触れてしまった。

 

「ちっ!わざわざやってきたわりには逃げ回るなんて何がしたいのよ!知性のない

 魔物のやることはほんとうに支離滅裂ね。でもこれが二度続くとは・・・」

 

次こそ胴体にナイフを当ててやろうとセリアは再度攻撃を仕掛けようとした。だが、

 

「・・・に、二度続くとは・・・思わないこと・・・・・・ね・・・・・・」

 

セリアはしっかり握っていたナイフを落とし、そのままうつ伏せに倒れてしまった。

いま戦っていたこの魔物は『しびれくらげ』という特殊な毒を持つ魔物だった。

セリアが触れた触手は眠りをもたらす毒を持ち、彼女は意識を失ってしまった。

 

「・・・・・・・・・」

 

倒れた彼女をしばらく眺めていたしびれくらげがやがて徐々に近づいていく。

そして何本もの触手がうねうねと動き始めた。

 

 

 

「・・・おい、何か騒いでなかったか?どうしたってんだ・・・」

 

アレンがセリアのもとに足を運んだ。すると、そこには倒れているセリアが、

そして彼女を覆うように触手を這わせているしびれくらげがいた。アレンは

急激に頭に血が上っていくのを感じた。激しい怒りを抱きながら剣を抜いた。

 

 

「ウオオオオオ―――――ッ!てめえこのくらげ野郎がぁ―――――っ!!

 その汚ねえ足も目玉も斬り刻んで海の魚の餌にしてやるぜ――――――!!」

 

激しく突進していったせいで船が大きく揺れたがいまの彼には知ったことではない。

尋常ではない殺意を受けてくらげは大慌てでセリアを開放して海へと飛び込んだ。

 

「コラァッッ!!待ちやがれ!!クソ野郎め、戻ってきやがれェ――――!!」

 

「アレン!きみが待てって!こんなところで暴れられたら沈没だ!落ち着いて!」

 

この異常事態にアーサーも駆けつけ、どうにかアレンの動きを後ろから制止させる。

そうしなければ彼は憎き敵を追って海へ飛び込みかねない勢いだった。

アーサーに体は押さえられても心は全く収まらず、顔は真っ赤になっていた。

 

 

「いきなりどうしたんだ、落ち着け!あんなくらげ放っておくんだ!」

 

「うるせえ!見逃すわけにいくか!あの野郎はセリアを!汚らしい何本もの

 触手で襲って強姦しようとしたんだぞ!絶対にここで殺す!」

 

「・・・・・・は?強姦?」

 

「ああ、確かに見た!もしおれが間に合わなかったらセリアは餌食だった!

 きっと口では言えないようなことをされて・・・汚される寸前だったんだ!」

 

アレンは海を注意深く見つめてしびれくらげがまだどこかにいないか探していた。

その彼に対し、アーサーは頭を掻きながら静かに話を始めた。

 

 

「・・・アレン、もしもだよ、さっきのくらげ・・・いや、『泥人形』でも

 マンドリルとかでもいいか。きみの目の前で熟睡していたとしよう。

 それはメスで、しかもその種族で一番の美人とされる個体だ。きみはどうする?

 相手が起きないのをいいことに襲うかい?それはしないまでも色っぽいとか

 思ったり・・・するかな?」

 

「何言ってんだお前、するわけねえだろ。バカか?どう間違ったらあんな魔物ども

 相手に興奮するんだよ。それよりお前も手伝え、屑くらげを見つけるんだ!」

 

「・・・いや・・・だったらくらげのほうだって同じだと思ってね。

 触手を伸ばしていたのはともかく、まさかきみの言うようなことはないだろうに。

 人間相手に欲情したり子孫を残そうなんて考えないよ」

 

「・・・・・・・・・言われてみりゃあ~・・・まあ・・・そうだな。

 だがセリアを襲ったことには間違いない、必ずいま仕留めてやるぞ!」

 

一応納得はしたようだがまだ怒りは消え去っていない。セリアも眠ったままだ。

下ばかり見ていたので首が痛くなる前にアレンは一度海から目を離すことにした。

すると、探していたあのしびれくらげが船に戻ってきていた。しかも、

 

 

「・・・・・・」 「・・・・・・」

 

「てめえコラァ―――――ッ!二匹いるのかァ―――!仲間を呼んだな!?」

 

しびれくらげは増えていた。アレンの気迫を恐れて援軍を連れてきたのか。

先ほどセリアと戦ったと思われるほうのくらげは新たに登場したくらげの

背に隠れていて、明らかに恐怖しているのがわかる。

 

 

「よーし、二匹まとめてやってやるぜ。もっと仲間がいるならそいつらもさっさと

 呼んでこい、全員始末してやる。だがわからねえな、そんなにおれが怖いのなら

 とっとと逃げちまえばよかったものを。そこが命取りになるってわからねえのか?」

 

この展開にアレンも疑問に思った。これまでの冒険の際、アーサーが殺意がないと

判断した敵を逃がしてしまったり、自分たちの姿を見た途端に歴然とした実力の差を

認めて逃げていったものはいる。そんな魔物たちは当然、二度と戻ってこない。

助かりたいから去っていったのに、またのこのこと姿を現すなどありえないのだ。

 

「・・・・・・うん、不自然だ。よし、ちょっとやってみよう、あのときのように!」

 

「・・・本気かよ。あれはまだ可能性はあったが今回はそれより数倍も何を考えているか

 わかりっこないくらげだぜ?ま、むこうはじーっとしているから猶予はあるな。

 襲ってくるようだったら斬ってやればいいだけの話だからな」

 

アーサーが言ったあのとき、とはマンドリルとの戦闘のときのことだ。言葉が通じる

相手ではないが何とか意志を通わせることはできないかと試してみたところ奇跡的に

うまくいき、その個体だけではなく辺り一帯のマンドリルとの戦いを回避できた。

この何か訳ありのしびれくらげ相手にもそれができるかアーサーは試みを始めた。

 

 

「きみたちはいったいどうして船に来た。ぼくたちを襲うのが目的じゃないのか?

 人間を食べてしまおうとかぼくたちに倒された魔物の復讐とかじゃないんだな?」

 

「・・・・・・!」 「・・・・・・!!」

 

くらげたちはもちろん一言も答えない。しかし全身をばたばたと動かせている。

表情は変わらないので何を考えているか全く理解できないのはそのままだったが

二匹のしびれくらげにアーサーの言葉の意味が伝わっているのはわかる。

 

「・・・人間の言葉がわかるのか?もしそうなら一番右の足をあげてくれ」

 

驚くことに二匹とも右の足をあげてみせた。アーサーの質問に答えている。

 

「おおっ・・・こいつら!これは凄いぜ・・・一方通行だが会話ができる!」

 

「じゃあ次の質問・・・そこに倒れているぼくらの仲間について・・・だ。

 たぶん彼女のほうから戦いを仕掛けたんだろうけれど・・・間違いないね?」

 

後ろにいたしびれくらげが右の足をあげる。肯定と否定のみの受け答えしか

できないが、それでもアーサーの読みを確信に変えるには十分だ。

 

「じゃあやはりこれは正当な防衛、もしくは偶然こうなったというわけになる。

 ならその後はどうなんだ?彼・・・アレンの話では無数の触手で彼女を包んで

 襲いかかろうとしていたとか。どういう目的だったんだ?」

 

初めての複雑な答えを求める質問。これは答えようがないだろう、とアレンは

へらへらと笑っていたがアーサーのほうは、おそらくいけると睨んでいた。

そしてそれは同時に、しびれくらげたちを完全に信頼した証でもあった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・あっ!!こいつらとうとう本性を現しやがったか・・・!?」

 

しびれくらげがアレンを激怒させたときと同じように複数の触手を伸ばし、

いまだ眠っているセリアに向けた。アレンは慌てて剣を構えるが、

 

「・・・まあ待ちなよ。もし彼らにセリアに害を加える気があるならとっくに

 それはできていたはずだろう?きみやぼくが来る前にその命を奪うことも。

 わざわざぼくに促されるようにしてこうしたってことは・・・」

 

「・・・ってことは・・・?」

 

 

何本もの触手がうつ伏せになっていたセリアを優しく包み込むと、くるっと仰向けの

状態にした。そしてそのうちの一本を首のあたりに触れさせてから丁寧に降ろした。

直後、セリアは顔を上下左右に小さく振りながら目をこすり、腕を伸ばして目を開けた。

 

「ふぁ~あ・・・。すごいよく寝られた気がするわ。いい眠りだった・・・・・・」

 

あくびをしながらのんびりと昼寝を終えたかのようにゆっくりと起き上がった。

目がしっかりと開き、頭も冴えを取り戻してきたところで、視界には

渋い顔をしているアレンといつも通りのアーサー、そして二匹のしびれくらげがいた。

 

 

「ああ―――っ!!思いだした!わたしはそいつに!何やってるのよあなたたち!

 どうして魔物と肩を並べてわたしのほうを呑気に見ているの!早く戦いなさい!

 その触手に気をつけなきゃいけないわ、眠たくなる毒があるのだから油断すると

 永遠の眠りに・・・!」

 

「・・・起きて早々すまねえがお前さんに聞きたいことがある。このくらげだが・・・

 こいつから襲ってきたのか?昏睡攻撃とやらもどういう風にやってきたんだ?」

 

「いえ、わたしが先制したわ。攻撃は避けられて・・・あ、そういえばそのとき

 ちょっとだけ触ってしまった・・・そのせいだったのかしら」

 

アレンとアーサーもこれで状況を把握した。無理もないことではあるが、セリアが

船にいただけのしびれくらげに一方的に襲い掛かり不可抗力の反撃をくらっただけだった。

 

 

「・・・相変わらずてめえは見境なく突っこみやがって・・・熱くなってんのを

 冷ませって言われたばっかりだろうに。でもくらげ、お前のほうも非はあるぜ。

 おれたちの船に乗り込んできたらそりゃあ攻撃されても文句は言えないぜ?

 いま寝坊女のこいつを起こしてくれたから敵じゃないっていうのはわかったがな」

 

「偶然この船に迷い込んだのか?だったら早く逃げちゃえばよかったのに。

 それとも・・・最初からぼくたちに用があったから来た・・・とか?」

 

二匹のくらげは一番右の手を高く上げた。アレンたちもすっかり驚いてしまった。

そしてくらげたちは揃って同じ方向へその手を伸ばす。それはアレンたちがいま

目指している方角であり、実のところ、その大陸へ導くために二匹はやってきたのだ。

 

 

「・・・アレフガルド・・・!どういうわけかは知らないけれどぼくたちを

 連れていきたいらしい。彼らの個人的なお願いなのか、もしかすると背後に

 彼らを遣わした別の力ある者がいるのか・・・」

 

「罠かもしれないってことよね。あえてさっきわたしを攻撃しなかったことで

 安心させておいて後で三人まとめて葬ろうって魂胆・・・ありえるわ」

 

「・・・・・・う~ん・・・・・・」

 

様々な可能性が考えられたが、最後は旅のリーダーであるアレンが決断を下す

こととなり、アレンはそんなに悩むこともせずに答えを出した。

 

「罠だっていってもよォ―――・・・最初からアレフガルドに行くのは

 決まってたことなんだから今さら変えることもないんじゃないか?

 こいつらが案内してくれるなら逆に歓迎だろうよ。背後にこの辺りの魔物の

 ボスがいるっていうのなら・・・」

 

「あえて乗ってやるっていうのも手ね。悪くないじゃない。いいわね」

 

 

アレンとセリアが共にしびれくらげを受け入れる気になったようだ。アーサーは

最初から彼らに友好的だったので、これで決まりだ。そのアーサーは二匹との

握手までも試みていて、眠り毒を含む手に触れないように注意していた。

 

「・・・アレン、どうやらこっちはオスで・・・はじめにセリアと出会ったほうは

 メスのようだ。きみの言っていたようなことはますますなかったよ、これで。

 それにしてもあのときのきみはまさに闘将ボーイ、いや、それ以上の気迫だった。

 自分の大切な人が襲われているとなると当然なんだろうけども」

 

「・・・・・・まあ・・・そうだな。たとえあんな女でも大切な『仲間』だろうが。

 もしお前があんな状態になっていても同じように助けに行くに決まってるぜ。

 しかしオスとメス・・・か。どこまでの付き合いになるかは知らねえが

 名前くらい決めてやったほうがいいだろうよ。そうだなあ・・・」

 

アレンは話題を強引に逸らし、二匹のしびれくらげを呼ぶための名前を命名する。

 

「決めたぜ!そっちのオスのほうが『ヘリオス』、メスは『ルビー』だ!どうだ?

 おれが将来子どもが生まれたときにつけようと思っていた自慢の名前だぜ!」

 

堂々と二匹の呼び名を決定した。自信の名前だったが、セリアの視線は微妙なもので、

 

 

「・・・何だよ、その目は。言いたいことがあったらいつもみたいにハッキリ言えよ。

 センスがないとか文句をつけたそうな顔じゃねえか。早くしろよ」

 

「いいえ・・・別にそんなことは思っていないわ。いい名前じゃない。だけど、

 ほんとうにいいのかしら、と思ったのよ。仮にも将来あなたの子どもに

 名付けようと温めていたものをこんなところであっさりと使ってしまって。

 後先考えない何ともあなたらしい・・・やっぱりここが足りないわね」

 

頭をトントン、と指で叩き、アレンの足りないとされる部分を教えるセリア。

嘲笑うかのように彼の失策を責めたてる。アレン自身も浅墓さに気がつき、

 

 

(しまったぁあ~っ!あの場の勢いと話題を紛らわせるために急いでつい・・・!

 これでもうこの名前は使えなくなっちまった!もしおれの子にこの名前を

 つけちまったら事あるごとにくらげの間抜け面が浮かんできちまう!)

 

「ふふふ・・・ま、あなたの妻になってその子どもを残そうとする物好きな

 女性がいれば、の話ですけれど!でもお金と権力でどうにかするのかしら、

 世界でも有数の大国ローレシアの王子様は」

 

「くそォォ~っ・・・・・・いつか痛い目に遭わせてやるからな~っ・・・」

 

 

セリアが捕らわれているかに思えたときのあのアレンを見てしまえば、どう間違っても

彼がセリアに何かできるだなんて誰も考えすらしないだろう。しかし幸か不幸か

そのセリアは眠ってしまっていたせいで自らを守ろうとした彼の勇ましさを

知ることはいまのところなかった。

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