ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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起承転結Ⅱの巻 (竜王の城①)

アレフガルドを目指して船旅を続けるアレンたちは、彼らをその地へと導こうと

近づいてきた謎の二匹のしびれくらげ、ヘリオスとルビーを一時的な仲間に加え

目的地への正確な方角を進み、最短のルートを通ってついにそのときがきた。

 

「あれが・・・アレフガルド大陸だ!何事もなくたどり着けた」

 

「ほんとうに罠でも何でもなくわたしたちをここに連れてきたいってだけだったのね」

 

二匹の案内は完璧で、ラダトームまで歩いて数時間程度という場所に船を泊める

ことができた。しびれくらげを残して三人は船から降り、久々に大地に足をついた。

くらげたちはやや不満そうな様子だったが、アレンが強い口調で二匹に迫った。

 

「・・・いいか、お前たちはここで留守番だ。こんなところじゃあ誰も船なんて

 盗んだりしないだろうがもし変なやつが近づいたらその毒で眠らせろ。

 魔物たちならどうでもいいが人間相手なら間違っても殺すなよ。

 眠らせるだけにしておけ。わかったな!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そんな顔しないでよ。ラダトームでの用事が終わったらきみたちの行きたい場所には

 必ず行く。だからそれまでこの船のことを頼んだよ」

 

アーサーの言葉に嘘はないと判断したのか、二匹はふわふわと船の奥へ引っ込んだ。

やはりはじめに彼らを迎え入れたアーサーに一番懐いているようで、他の二人には

まだ警戒心を持っているのがわかる。アレンとセリアのほうもそれは同じで、

 

「・・・あんな魔物たち相手に約束を守る必要ってあるかしら?」

 

「とはいえアーサーとあいつらがいなかったらおれたちだけじゃここまで到底

 辿り着けていないからなァ・・・。しかしあいつらはおれたちをどこへ

 連れていきたかったんだか。アレフガルドであることには間違いなかったようだが」

 

もともとの魔物に対しての考えの違いから、アーサーのようにしびれくらげたちを

信用してはいない。人の住む町に魔物を連れて入るわけにはいかないので彼らを

置いていったこと、またほんとうに向かいたい場所とは違うところにアレンたちが

向かうことで抗議しているような素振りを見せられても交渉する気などなかった。

 

「不思議な話だが向こうはおれたちの言葉をわかっている。だから船では変なことも

 喋れなかったぜ。どこから情報が洩れるかわからないからな。しかもやつら、

 会話はできないっていうんだから不便で仕方がない・・・そう思わないか?」

 

「・・・そのことだけど・・・まあいいか、後で。まずはラダトームへ行こう」

 

 

三人の先祖である勇者ロトと子孫たちの伝説が語り継がれる町ラダトーム。

特にアレンはアレフガルドの地を歩くだけでも高揚を抑えられないでいた。

大魔王ゾーマから光を取り戻したロトと仲間たち、侵略者竜王を打ち倒した

ブライアンもここを歩いたかもしれない、と子どものように飛び跳ねてはしゃぐ。

 

「まったく・・・何歳なんだか。こんなのが世界の大国の次の国王とはね・・・」

 

セリアはアレンを仕方がないもののように言ったが、実は心のなかでは彼女も

恥や見た目を顧みずに全身で感動を表現したかった。それだけ二人にとって

勇者ロトは特別な存在だった。神や精霊ルビスと並ぶ位置にいる。

 

もちろんアーサーも偉大な先祖への敬意はアレンたちに劣らず持っている。

だが、いまの彼はそのせいで他が見えなくなったりはしない。他の二人の

思いがさまよっている間も彼だけは現在の状況を確認し、分析するのを怠らない。

 

(・・・魔物の気配はする。なのに襲ってこないのはなぜだ?決してぼくらより

 遥かに弱いから、という感じではない。群れを組んで襲えばぼくらを打ち倒す

 可能性だってありそうだ。なのに飛び出してこない。かといって逃げるわけでも

 なく・・・・・・。もっと観察する必要がありそうだな)

 

 

アレフガルドを歩いて一時間以上、魔物との戦闘は全くない。アーサーは一度

草むらに隠れていた凶暴そうな獣の魔物と目が合った。しかし戦いにはならず、

その魔物はただじっとアーサーたちを見ているだけだった。距離があったので

感情まで読み取ることはできなかったが、普通ではない事情がありそうだ。

 

(それともう一つ・・・そろそろ言ったほうがいいかな、こっちは)

 

アレンは前を行く二人を呼びとめ、皆で一度腰を下ろしてからその話をした。

 

 

「・・・もうじゅうぶんアレフガルドの空気も楽しめた頃だから聞きたいんだけど、

 きみたち、ほんとうにこれからラダトームに行くのかい?」

 

「ハァ?何を言ってやがる。おれはそれが楽しみで・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

アレンは今さら何を、という返答だったが、セリアは核心を突かれたような

顔をして黙っていた。確かに彼女はアレフガルドには期待を膨らませていたが、

崇敬してやまないロトゆかりの地であるというのにラダトームへ行きたいとは

言っていなかった。しばらく沈黙が続き、アレンもようやくその理由に気がついた。

 

「あ・・・あああっ!!そうだ!どうしておれはそんなことを忘れちまっていた!?」

 

「・・・わかったようだね。長い旅のせいだよ、仕方ないさ」

 

セリアが両国の都合でまだ見たこともないラダトームの第三王子と婚約していたという

数年前のアレンを絶望させた事柄を、はっきりといまアレンは思い出した。

ムーンブルクがあのようなことになったのでおそらくは婚約はなかった話に

なるだろうが、それでも正式に破棄されたとは誰も聞いていない。

 

「・・・だから行きたくないのよ。せっかく潰れた厄介なものがもう一度

 面倒なことになって戻ってきそうだもの。できれば寄りたくないの。

 もしあの約束がまだ死んでいないとして、向こうが撤回に応じてくれなかったら

 わたしの旅は終わってしまうかも・・・それはいや」

 

「それに関してはぼくはどうとも言えないね。でもアレン、きみは言っていたね。

 旅の途中でセリアが旅をやめたいとかどこかの男と共になることを望むのなら

 それで構わないと。いまの彼女はそうではないようだけど・・・・・・」

 

 

アレンは立ち上がった。そして来た道を戻り始めた。

 

「・・・・・・?」

 

「船に戻るぞ。ラダトームに行くのはやめた。さっさと帰って次の冒険のために準備だ」

 

 

アレンもセリアとの別れは望んでいないようだ。万が一にもその可能性があるのなら

幼いときからの憧れの地へ向かうのも躊躇いなく断念できた。また、かつての

自分を悩ませたセリアの婚約がなくなった可能性が高いということに関しては、

 

(・・・ちょっと前・・・少なくともあいつと会う前までのおれなら喜んでいた

 だろうな。しかしいま、あいつがどういう女かわかっちまったからなァ~。

 ラダトームに行かないのもセリアが他の男に取られるっていうよりかは

 大事な戦力が減るのを恐れて、だもんな。ああ、それ以外には・・・くそっ!)

 

あくまで心のなかで思っていることなのにいったい誰に言い訳しようと

しているのか、とアレンは自分の頭をぽかんと叩いた。後ろの二人には

その行為がさっぱり理解できず、虫でも追い払ったのか、と思われていた。

 

とはいえセリアの婚約がなくなったことを喜ぶべきではないとアレンは自らに

言い聞かせていた。それはムーンブルクが壊滅したからで、彼女の家族や友人たちが

打ち倒され、城は廃墟となり、それどころではなくなってしまったために

そうなった。だからアレンの本心は別として、たとえセリア本人が何を言おうが

婚約の破棄を残念なこととしなければならない。アレンは気持ちを引き締めた。

 

 

「・・・わたしとしては助かったけど本気で戻るのね。結局僅か数時間の滞在!

 あのくらげたちが喜ぶのは癪ね。でも、気が楽になったわ」

 

「せっかくだし船に戻ったら彼らの案内を再開してもらおう。ぼくたちを

 どこに連れていきたかったのかわかるだろう。ラダトーム以上に

 心躍る場所になるかはわからないけれど、楽しいところかもしれないしね」

 

やがて船が見えた。この帰り道の間もやはり魔物との戦闘は一度も無く、さすがに

アレンとセリアも異常な空気を察した。後が怖いので何事もないうちにこの場を

離れたほうがいいと自然と急ぎ足になっていた。

 

「あいつら不気味だな・・・まあいいか、もうすぐ船だ。アレフガルドともお別れだ」

 

「船はちゃんと無事みたい。また長い船旅の始まりね。大きな町でいろいろと

 仕入れておきたかったけれど、次の機会待ちってことに・・・」

 

 

ラダトームで旅のために必要な様々なものを手に入れたかったがあては外れた。

他の土地までどれだけかかるかわからないため、もう一回ルプガナに戻らなくては

いけなくなりそうだ。旅の計画の練り直しとなった。

 

「・・・おお、きみたちありがとう!思ったより早い旅になっちゃったよ。

 じゃあ次はきみたちの行きたいという場所に連れていってもらおうかな」

 

アーサーは船を守っていたしびれくらげたちに礼を言いながら船の操縦を

始めようとする。アレフガルドでの冒険はまだ続くようだ。

 

「おいおいアーサー、本気でこいつらの要求に応じるのか?」

 

「いいじゃないか、どうせ次の目的地は決まっていないんだしね。意外と

 楽しい場所に招待されるかもしれないよ」

 

「・・・地獄じゃなければいいけど・・・」

 

 

二匹のくらげがアーサーに触手で方角を示す。それはラダトームへ向かう方向と

同じで、このまま行くとラダトームにたどり着きそうだ。

 

「でもこいつらはラダトームにおれたちを導きたかったわけじゃないんだよな。

 だったらどこへ・・・?」

 

アレンたちは忘れていた。ラダトームのすぐそば、その目と鼻の先にも勇者ロト、

その子孫ブライアンの伝説が眠る地があったことを。近づくにつれてだんだんと

もしかしたら、と薄々感じるようになってはいた。

 

 

「・・・な~るほど・・・ここかァ~・・・。確かに面白い場所だぜ・・・」

 

それは魔の島、大魔王ゾーマ、そして数百年後に竜王がその居城とし、共に

勇者によって野望と共に滅んだ地だ。竜王が建てた城はいまだ残っていた。

 

「要するに・・・お前たちはこの城の主・・・竜王の子孫の使いだったのか!」

 

二匹のしびれくらげは右手をあげて、その通りだという意思を示した。ラダトームの

若大将と呼ばれたブライアンによって倒された竜王の子孫がまだ魔の島の城で

主として玉座に座っているのはアレンたちも知っていた。

 

 

「確かブライアン様たちがアレフガルドを去ってからだったな、ラダトームが

 残った魔物たちを攻撃して竜王の息子二人を処刑した。魔物の脅威もその

 おかげで完璧になくなったってわけだ。それだけじゃなく・・・」

 

「ええ。ブライアン様に倒された竜王の孫だけがあえて生かされて・・・

 それ以来アレフガルドの魔物たちはラダトームには逆らえない約束を

 押し付けられたって話だったわ。いい気味ね」

 

アレンとセリアはラダトームの戦いを肯定するように語り合ったがアーサーは、

 

「・・・どうかな。ぼくはあの戦いは間違いだったと思うよ」

 

「・・・・・・?」

 

「ラダトームがあの戦いを仕掛けたのは平和のためというよりは民衆の

 ご機嫌取りのためだったっていうじゃないか。無抵抗な魔物たちを虐殺し

 自分たちの政治の腐敗を覆い隠そうとしていたらしいけど失敗したみたいだ」

 

彼の言葉通り、ラダトームが成功を収めなかったことは明らかだった。その証拠が

アレフガルドの住民たちの大量移住だ。それによってローレシアをはじめとした

新しい国が栄え、ラダトームは衰えていったのだ。人々は王国を支持せずに、

ブライアンとその子どもたちが支配する地を選んだ。

 

 

「そうか、さっき歩いていたとき魔物たちが襲ってこなかったのも全ては

 ラダトームと結ばされた奴隷のような契約のためか。今度逆らえばいよいよ

 根絶やしにするぞ、と・・・そういうことなんだろう。きみたちの悔しさ、

 よくわかった。今でも狩りは続いているという話も聞いている」

 

二匹のしびれくらげはアーサーの手を取り、自分たちの思いをわかってくれたことに

感激しているかのように身体を激しく上下に振っていた。一方セリアはというと、

 

「・・・ふん、魔物との握手はあまり感心しないわ。いまこうしていっしょに

 船旅をしているだけでもかなり譲歩しているのに・・・」

 

不快極まりない、という彼女をアレンが手で制し、アーサーたちのもとへ近づいた。

 

「ま、おれもこいつと同じ意見だな。魔物と仲よくなるなんて間違っているぜ。

 ただ・・・困ったやつは見過ごせない『闘将ボーイ』としてのおれの魂が

 お前たちの力になりたいと言っている。案内を続けてもらおうか」

 

「・・・アレン、あなたまで・・・!あのおぞましい城のなかへ行くというの?」

 

「こいつらも城の魔物もおれたちに手出しは出来ねえよ。そういうルールなんだろ?

 それにもし何かしてきたらそのときはお前の待っていた展開になるぜ。竜王城の

 生き残りどもを一匹残らずバギの餌食にしちまってもいいってわけだ」

 

「ふーん・・・そういうことならまあいいわ。竜王の城の見学といきましょう。

 ブライアン様が伝説をつくった舞台をこの目で見るのも悪くないわね」

 

 

船を竜王城のすぐそばにつけた。かつてはとても船で近づける場所ではなかったが、

城主の力がそれまでの支配者とは比べ物にならないほど弱まってしまったせいか

今では普通の海と何ら変わらず、来るものを拒まない。

 

「これじゃあ幻の『虹のしずく』もいらないってわけか。ちょっと残念だな。

 見てみたかったな、空に橋が架かる奇跡を」

 

「・・・その虹のしずくを作るためには材料が必要だったじゃない。そんなものを

 探すだけ時間の無駄よ。こうして楽に上陸できたのだからそれでいいわ」

 

女にはロマンがわからないのかね、とアレンが両手を広げてアーサーに目配せした。

アーサーも苦笑いしながら小さくうなずき、くらげたちの後についていった。

竜王城の重い扉を二匹が何回か叩く。すると中から音を立てて開かれた。

 

 

「・・・よくいらっしゃいました、勇者ロトの末裔の皆様。歓迎いたします」

 

人の言葉を流暢に話す魔物が出迎えた。その姿にアレンたちは見覚えがあった。

 

「あ・・・!てめえはルプガナの町で娘さんを襲っていたグレムリン!こんなところで!」

 

町のなかに侵入して力のない町人を襲撃していた悪魔と同じだった。二匹組であったが

アレンたちは一匹仕留めそこなっていたのでそのときの生き残りだと錯覚した。

実際は彼らの気づかないところでもう一匹も息の根を止められていたのだがそれを

知ることなくルプガナを後にしていたので仕方のない反応だった。

 

「・・・いいえ、それは誤解です。私はもう何年もここを離れていませんから。ですが

 わたしと同族の仲間が二匹、どこかへ姿を消していました。日頃から彼らは

 人の肉が食べたいとか町を一思いに襲ってやりたいと愚痴をこぼしていましたが・・・」

 

人間に手出しできないアレフガルドから離れた地で好き勝手振舞いたかったのだろう。

魔物としての本能を抑えきれずにルプガナの地まで流れていったのだ。

 

「なるほど。あの二匹もアレフガルドから来ていたといえば説明がつく。人の言葉を

 使っていたからね。ここまで案内してくれたしびれくらげたちも喋ることは

 できなくとも理解はできている。そういうことだったのか」

 

「ええ。かつては高位の魔物であればさまざまな言葉が自然に使えたとのことですが、

 今ではどんな魔物でも人の言葉を覚えるように命令されています。百年前の

 不平等な条約にそれも含まれていたので」

 

かつて世界で大きな戦争が起きたとき、戦いに勝った国は負かした国の人々に

自らの国の言語を使うように強制したという。奴隷たちへの命令が速やかになるからだ。

いまアレンたちの住んでいる世界はよほどの田舎を除き一つの言語で統一されている。

だからそれは遥か大昔の出来事か、もしくは勇者ロトが現れた『上の世界』と呼ばれる

世界でのことだろう。他人事のように思えていたこの話がいまこの土地で

起きている、というのは彼らにとってちょっとした驚きだった。

 

 

「・・・おれはぜんぶわかったぜ。どうしてこのくらげたちがおれたちをこの城へ

 連れてきたのか。百年の恨みをおれたち相手に晴らそうってわけだ。ラダトームが

 どうしたかは関係ない。ブライアン様が竜王を倒したのがそもそもの始まりだ。

 だからその子孫であるおれたちを・・・ってことだろう?」

 

「・・・・・・いえ、そのようなわけではなく・・・。ただ現竜王様が

 あなた方にぜひ直接お会いしたいと。その理由は私にもわかりません。

 『竜王は城から出ないこと』と条約で定められておりますので。ですが

 竜王様があなた方をこの手で倒そうなどとしているなどとはとても・・・」

 

「まあいいわ。竜王のところに案内してもらうわ。もしアレンが言うようなことに

 なったらわたしたちが逆に竜王ごとこの城を廃墟にしてやるわ。ラダトームは

 むしろ甘かったということを思い知らせてやるもの。さあ、行きましょう」

 

魔物の根絶やしを願うセリアはむしろそうなることを望んでいるかのような低い声で

グレムリンを恐れさせる。しびれくらげや他の城に住む魔物たちもこれからどうなって

しまうのだろうと不安になっていた。彼らの主である竜王に託すしかなかった。

 

 

 

「・・・なかなか強そうじゃねえか・・・。まともに戦えば苦労しそうだぜ、こりゃ」

 

「彼らは『サーベルウルフ』という種族です。その攻撃力はこの城でも一、二を

 争います。私たちが戦いを許されているのはあくまで侵入者からの防衛のみ。

 そのときは彼らの一撃必殺の牙と爪が大いに頼もしい限りです」

 

「うっ・・・!メドーサボール!?いや、ちょっと違うわね・・・」

 

「『ゴーゴンヘッド』。先ほどのサーベルウルフが攻めならこちらは守りを担当します。

 その防御力は魔法も剣も簡単には通しませんよ。幻を見せ狙いが定まらなくなる

 呪文であるマヌーサも使ってまさに完璧といって差し支えないでしょう」

 

アレンたちはこの城の魔物のレベルの高さに圧倒されていた。最初から激しい戦いが

予想される洞窟や塔に入るときは当然警戒して突入するが、今回は戦意のない相手だ。

魔物たちも力のない種族ばかりであるか、すっかり元気を失っているのだろうとばかり

思っていたので、先ほどまでの優越感は吹き飛んでしまっていた。高圧的な態度を

示すとしても、それは動揺を隠すためのものに過ぎなかった。

 

「・・・おおっ!キングコブラだ!洗礼のための洞窟では怖かったなぁ。

 いや、それよりももっと強そうだ。まともに戦えばまずいかもしれないね」

 

「そうでしょうそうでしょう。あれはキングコブラよりも更に強い毒を持つ

 『バシリスク』なのですから!攻撃力だってサーベルウルフと同じほどは

 あります!迂闊に手を出さないほうがいいですよ、あっという間に餌食です」

 

どれだけアレンたちが隠しても察したのだろうか、グレムリンがだんだんと

自信と誇りを取り戻したかのような口調になり、誇示するように現在の

竜王軍の精鋭たちを紹介する。アレンとセリアはすっかり面白くなくなってしまう。

 

「ふん・・・気に入らないわね、あの態度。頭にくるわ」

 

「でもここで戦いになったら・・・負けるぜ、おれたちが。悔しいが大人しく

 しているしかないだろうよ。こっちがへんな真似をしなきゃいいだけなんだしよ」

 

 

後ろで歯ぎしりしているアレンたちをよそに、アーサーは案内役のグレムリンと

話を続けていた。ほとんどはグレムリンによる竜王城の紹介と自慢を静かに

聞くだけだったが、一通り聞いてから口を開いた。

 

「・・・ここは素晴らしい場所だ。一つの国家、それ以上かもしれない。

 だからこそ疑問がある。これだけの魔物たちを集めているからこそ、だ」

 

「・・・はて、それは・・・?何でもお答えしましょう」

 

「これなら不利な立場を覆すためのラダトームを攻めに戦いに向かっても

 勝利できるかもしれない。なのにどうしていまの状況に甘んじているのか。

 そこがどうにも不思議でわからなくてね」

 

アレンとセリアもまさにそう思っていた。これだけ強さと賢さを兼ね揃えた

強力な魔物たちの軍隊であればラダトームとの決戦を仕掛けても勝機はある。

ラダトームの兵がどれほどの規模であるかがまだわからないので断言は

できないが、彼らの故郷、ローレシアやムーンブルクであっても苦戦は免れない。

ならば竜王軍が思い切った行動に出てもおかしくはないのだ。

 

アーサーの質問にグレムリンは一瞬だけ顔を歪め、何かを堪えているように見えたが

すぐに元通りの穏やかな様子に戻った。言葉も丁寧なままだった。

 

「・・・ええ、そのことですが、それは現在の竜王様が・・・・・・。

 おや、話していたら到着しましたよ、その竜王様の王座の間に」

 

 

アレンたちの血筋と因縁の深い竜王の子孫とついに対面の時がやってきた。

彼が何を思ってアレンたちを招いたのかわからないため、いつ大きな竜が

炎を吐いてきてもいいように戦いを始める構えを崩さなかった。

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