ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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一つの身体の巻 (航海)

 

夜の闇のなか、アレンたちの船は穏やかな波に身を任せゆっくりと進んでいた。

この日はアレン一人が起きて船の操縦と見張りをしていた。いつもならそれは

アーサーの役目なのだが、彼にも休息と睡眠は必要だ。船に関しては素人の

アレンもアーサーから最低限のやり方を教えてもらっていた。どうせ夜は

そんなに長い距離を動かさないのだから、緊急事態への対処がアレンの仕事だ。

 

「ちっ・・・夜は冷えるぜ。そのせいで眠くならねえのは助かるが・・・」

 

最後の一人が眠ってしまってはならないのは陸でも海でも同じだ。魔物から

身を守ることに関しては陸よりも危険性は低かったが、座礁や転覆、

海が荒れたり船自体が損傷して水が入ってきたら・・・などと、気にかけなくては

ならない事柄は依然として多いのだから、責任は重大だった。

 

 

「・・・ん・・・?鳥か!なかなか大きな・・・」

 

アレンはゆっくりと飛んできている二匹の鳥らしき物体を確認した。それは

船に向かって迫ってきて、姿がはっきりと見えるようになると、アレンも

ただの鳥ではないことを知り、そばに置いていた剣を手に取った。

 

「こいつら、魔物だったか!こんな夜遅くまでご苦労なことだぜ。しかし

 おれが相手というのは運の尽きだったな・・・容赦しないぜ!」

 

 

この魔物たちは『ホークマン』といい、鷹の顔と人の身体を持つ生き物だ。

なんとその手には剣を持っている。彼らが剣を手にしたのはやはり邪教の力が

魔物たちにも強く影響を与え始めたころであり、それ以来漁船や商船が

襲われているのもホークマンによるものだという報告が多かった。

 

ホークマンは身体能力も知能も海の魔物のなかではずば抜けて高く、人よりも

少しだけ鍛えられた体をしている漁師や兵士では対抗できない危険な魔物

だった。しかしアレンはそうではない。彼らの素早さよりも更に先を行き、

 

「一人対二人だ!これくらい卑怯だなんて言わせないぜ―――っ!!」

 

先制攻撃で自身のそばにいたほうのホークマンに力強く斬りかかる。剣を持つ

右腕ごと斬り飛ばし、早くも一匹仕留めたかと思われたが命を奪うまでには

至らず、突進してきたため僅かにダメージを負ってしまった。

 

「ガガ・・・ガアアアア―――――ッ!」

 

「・・・ぐっ!なかなかしぶといやつ!おれが一撃で倒せないなんて・・・」

 

しかし危険を顧みずにアレンに攻撃を与えた代償は大きい。今度は胴体の中心を

しっかりと斬りつけられた。急所を一閃され、即死だった。

 

「・・・・・・ガ」

 

「ヘッ!腕がなくなったところで降参して逃げちまえばこうはならなかったのに!

 自分の命を捨ててまでおれにかすり傷を与えたかったのか?どう考えたって

 代償に比べて得るものが少なすぎる・・・・・・」

 

 

もう倒した敵に構いすぎたのがいけなかった。背中に鋭い衝撃が走った。

 

 

「ぐはっ・・・!!そうだった・・・二匹いたんだった・・・!」

 

「ガァ―――――ッ!!」

 

視界から消えていたせいで警戒の外へといなくなっていたもう一匹のホークマンが

背後に回っていた。背中を斬られアレンはその場に倒れそうになるが踏みとどまり、

 

「・・・ちっ!くそ、くらえ!」

 

「ガーガッガ!」

 

鋼鉄の剣を振り回したが空を飛ぶホークマンに避けられ、逆に急降下からの

攻撃が襲いかかる。くちばしによって脇腹をえぐられた上に、剣で今度は

左足を斬られた。切断されるようなものではないが、その傷は深かった。

 

アレンはついに倒れこみ、この戦いが劣勢であることを知るようになった。

 

 

(・・・薄々不安に思っていたことが現実になっちまった!最近ぬるい戦いばかり

 していたツケだ!こいつは真剣にまずいぜ・・・!『泥人形』だの『バブーン』

 だの・・・あいつらが雑魚過ぎたのがいけないんだ!)

 

船での戦闘はそれほど激しくはならず、弛緩した時間が続いていた。また、

竜王の城、アレフガルド大陸・・・そもそも戦いすら起きなかった場所も

このところ多く、その竜王たちから気をつけるように言われていた大灯台でさえ

拍子抜けな展開が待っていたのだった。

 

 

 

 

『・・・おお、旅の人!何も言わずともこの爺にはわかっておりますぞ!

 紋章を探しにはるばる来たのでしょう!』

 

『ん・・・?ああ、その通りだが・・・あんたは何者だ?』

 

『ほっほっほ・・・そんなことはどうでもよいこと、ついてきなされ。

 紋章のある場所へ案内して差し上げましょう!』

 

大灯台に入ってすぐに老人がアレンたちを出迎え、求めていた紋章のところへ

道案内を始めた。ここまでわかりやすいと裏を怪しむのも当然で、

 

『・・・・・・なあ爺さん、あんたの真の狙いは何だ?早く言えよ』

 

『は、はて・・・何のことか・・・』

 

とぼけるような返答しかこなかったので、三人のなかでも彼しか気づかなかった

ことだが、アーサーは彼らの核心を突いて事を早く終わらせようとした。

 

『・・・その変装はばれているってことさ。お前は魔物、そうだろう?』

 

『・・・・・・・・・・・・』

 

『えっ!?そ、そうなの!?じゃあ罠ってことなのね!』

 

 

老人は黙ったまま四匹のグレムリンとなって正体を明かした。そのまま戦闘が

始まるものと思われたが、このグレムリン族は人の言葉が流暢に話せるのだ。

襲いかかる前に言葉を発してくることも予想は出来た。だがその内容は意外な

ものだった。

 

『・・・我らグレムリン族のなかでも竜王の城にいる『タウィー』・・・彼女が

 最も力ある者で、我らは四匹揃って力を合わせてようやく一人の人間に

 変身できるのだが彼女ならたった一匹でどんな姿にもなることができた』

 

『・・・・・・それがどうした?そいつならおれたちも会ってきたが・・・』

 

『タウィーは言っていた。世界を揺るがす者たちがこの地に現われしとき

 行動を起こすと。それが誰なのかは我らには理解できなかったが・・・

 そうか、お前たちのことだったのだな。ラダトームで起きた全てのことは

 この大灯台にも知らされている。彼女はどうなったんだ?』

 

 

三人が返答しないでいると、グレムリンたちはアレンたちに背を向けた。

 

『そうか・・・竜王の城には戻ってこなかったか。兄が殺されてからというもの

 竜王たちにも隠したまま計画を進めていたようだが・・・死んだか・・・』

 

『死んだとは限らないんじゃないかな。わざわざ置手紙を残していたんだ。

 無事だったとしてもどこかへ姿を消したと思うよ。ラダトームを

 滅ぼしたのは邪教の者たちだって話なんだし、真相はわからないままだ』

 

『・・・この灯台が誰も、竜王軍をも近づけさせなかったのは彼女が私たちに

 指示していたことなんだ。その大きな目的は紋章がラダトームに渡らないように

 するためだった。全てが終わった今、もう私たちが彼女の指令によって

 紋章を守り続ける必要もなくなった。さあ、ついてくるといい。それを

 手にするにふさわしい者たちに託す時が来たようだ』

 

 

結局最初の流れのままグレムリンたちに紋章のもとまで連れていかれると、

小さな宝箱が一つ。そのなかに紋章が眠っていることは明らかだった。

 

『このような形はしているが紋章は物ではなく心のしるし。その心に

 刻まれることになると言われているが・・・』

 

『まあ開けてみればわかるだろ!おりゃあ!』

 

 

アレンは構わず勢いよく宝箱を開けた。すると箱の中から眩しい光が放たれる。

アレンたちの手に刻まれたロトのアザからのものと似た、聖なる気が彼らを

包み込み、その光はやがて星の形となってアレンの心臓めがけて矢となった。

 

『おおおっ・・・!!おれの胸が・・・!?』

 

鎧や服を脱いで確かめてみたが、これまでと何ら変わらない。変化は何もない。

しかし見えない力で満たされていくのをアレンは感じ取っていた。

 

 

『大した筋肉ね。そういえばこうしてじっくり眺めるのは初めてだわ・・・』

 

『・・・そりゃあないだろうよ。というよりいつまで見てやがるんだよ!

 見た目には変化がないっていうのはもうわかったじゃねえか』

 

『あら、別にいいじゃない。あなたは男じゃないの、恥ずかしがるようなこと?

 特にここなんか凄いわ。お父様でもこんなに割れてなかったわ・・・・・・』

 

『お、おいっ!こら、やめろ!触るなっての!』

 

 

 

五つの紋章のうちの一つ、『星の紋章』をも戦わずして手に入れたとあっては、

アレンの戦いの勘が鈍ってしまっていたのも無理はなかった。

 

(しかも船の上だということもあって・・・これまで日課だった朝の稽古も

 やっていなかった。くそ・・・だが足はまだ動く!ここでやつを倒す!)

 

敵が飛行しているからか、船そのものはあまり揺れてはいなかった。アレンは

すでに倒したホークマンの死体を海へと放り捨てると、自分を翻弄する

残る一匹の動きを注意深く追う。背中、脇腹、それに足を痛めているので

戦いが長引く前に決着をつけなければならなかった。精神を集中させ、

 

「・・・・・・そこだ―――――っ!!」

 

「ガァ―――――――――ッ!!!」

 

敵が攻撃のために無防備になるほんの一瞬を狙い打ちした。もう少し遅れていたら

ホークマンの剣が先にアレンに届いていた。しかし早ければアレンの剣は

避けられていたか、命中しても致命傷にはならず手痛い反撃を受けていただろう。

会心の一撃ともいえるアレンの攻撃によって二匹目のホークマンも海に沈んでいった。

 

 

「ハァ――・・・ふぅ、危ねぇところだった・・・・・・」

 

 

傷つきながらもどうにか勝利を収め、汗と血を拭いながら力なく座り込んだ。

ところが、別の方角から鋭い角度で降下してくる一つの影があった。

 

「ゲゲ―――――ッ!!」

 

「・・・しまった・・・!!もう一匹・・・!?」

 

 

『バピラス』という翼を持つ竜の魔物が血の匂いを嗅ぎつけて飛びかかってきた。

今のアレンでは発見が早かったとしてもホークマンと同等かそれ以上の強さを誇る

この魔物に対処するのは難しかっただろう。なすすべなくバピラスの姿が大きくなるのを

まるで他人事のように力なく座り込みながら眺めているしかなかった。

 

「ゲゲ――――・・・ゲ・・・・・・」

 

自身の目の前でバピラスが突然倒れたことでアレンはようやく目に力が戻った。

その足の爪が寸前にまで迫っていたが、アレンに届く前にバピラスは倒れたのだ。

アレンが立ち上がると、二つの影が船の屋根付きの部屋から出て近づいてきていた。

 

「・・・・・・アーサー・・・それにセリアか・・・・・・?」

 

ところが、それはしびれくらげのヘリオスとルビーだった。二匹が持つ毒によって

バピラスの身体に痺れが走り、そのまま深い眠りに誘われたのだ。二匹は

全身を使ってバピラスを抱えると、アレンがホークマンに対してしたように

やはり海へと捨ててしまうのであった。

 

「お、お前らかよ・・・・・・だが・・・助かったぜ・・・・・・。

 来てくれなけりゃおれは・・・死んじまうところだった・・・・・・」

 

 

もう魔物の気配はない。疲労と安堵のせいでアレンは膝をつくとうつ伏せに倒れた。

しびれくらげたちが魔物の言葉で騒いでいるのもだんだんと遠くになっていった。

 

意識を失っていた間、アレンはなぜかとても心地よい気分になっていた。

何とも言えない優しい温もりに包まれ、ずっとこうしていたかったとまで思えた。

 

 

 

 

「・・・・・・ん・・・まだ夜か。そうか、おれは気を失っていたのか。

 何事も無くてよかった。ん・・・お前たちか、おれを見ていてくれたのは・・・」

 

アレンはしばらくしてから目を覚ました。柔らかい感覚に包まれている。

しびれくらげが身を挺して守っていてくれていたのかと思い目を開ける。

すると、彼のすぐそばにいたのは二匹のくらげではなく、一人の女性だった。

アレンの頭を膝にのせて座るその姿に、アレンは思わず飛び跳ねた。

 

 

「おっ・・・お前、セリア!いつの間に!?」

 

「・・・失礼な反応ね。あなたが眠っているうちに傷も治しておいたというのに。

 そんなにわたしに介抱されるのが嫌だったようね」

 

「い、いやいや、そうじゃない。びっくりしただけだ!寝ていたはずじゃ・・・」

 

 

あれほどの騒ぎになれば起きてしまうのも無理はないとアレンは自分で納得して

途中で口を閉ざした。それに傷ついた自分を見てしびれくらげたちがベホイミを

使えるセリアを呼びに行った可能性も高い。別に驚くことではなかった。

 

「・・・無理したわね。わたしたちを呼んでくれたらよかったのに・・・」

 

「起こしたくなかったんだよ。おれ一人でどうにかなると思っていたんだが・・・」

 

アレンは離れたところにそのままにされていた剣を拾いに行くと、まだ完全には

回復しきっていないのか、片膝をついてそのまま座った。

 

「やはりおれは勇者ロトどころか百年前の勇者ブライアンにも遠く及ばないって

 いうのがはっきり身に染みたぜ。三人いるんだからご先祖様の三倍強くなれると

 思っていたが・・・三人でやっと一人分の強さにしかならねえのかもしれないな」

 

「・・・一度危ない目に遭ったからってずいぶん弱気ね。あなたらしくもない。

 わたしは別にどちらでも構わないわ。ハーゴンと邪教の者たちを滅ぼし尽くすことが

 叶うのなら、昔の勇者様たちと比べて強いのか弱いのか、そこにこだわりなんてない」

 

この日は決してよい天気ではなかったが、夜空は二人にとって気持ちを穏やかにさせた。

ついさっきまで生命の危機にあったアレンも彼の窮地に大急ぎで駆けつけたセリアも

すでに遠い昔の出来事だったかのようにくつろぎながら真っ暗な海を漂っていた。

 

 

「・・・さっき眠っていたとき・・・おれは子どものときを思いだしたよ。

 母上に膝枕されて子守唄を聞きながら昼寝していた・・・いい気分だった」

 

アレンがふと呟いた。セリアもアレンにかつて父の面影を感じたことがあり、

彼の言葉にどう返したらいいのかと考えていたが、アレンのほうがこの雰囲気に

耐えられなかったようだ。すぐに歯を見せて笑ったかと思うと、

 

 

「でも母上はお前と違って裏表がないし怒りに任せて叫ぶこともしないしな。

 おれの気のせいだった。とんだ世迷い言を吐いちまった」

 

「・・・・・・あっそう。それは申し訳ないことをしたわ。あなたがもっと

 いい夢を見ていられるように傷を回復しないほうがよかったみたいね!」

 

 

セリアは右の手のひらでアレンの背中をバシッと叩いた。アレンは小さく呻き、

 

「・・・うげっ!まだ完全には傷が塞がってねえってのに・・・!」

 

「ふん。感謝の念が足りない男は痛い目にあって反省するべきなのよ」

 

 

実のところ二人ともこのやり取りを近頃は心の内で楽しんでいた。辛辣な言葉の

応酬も心底仲が悪いから、というわけではないのだ。たまにほんとうに怒りを

抱くときもあったが・・・。

 

「・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

しかし自分はともかく相手もこれを楽しんでいるとは考えていない。厄介にも

二人ともそう思っていた。自分のほうは半分は冗談や遊びが入ってはいるが

もしかしたら相手は心から自分を気にいらないのではないか、そんな不安を

アレンもセリアも抱いていたのだが、当然言い出せずにいた。

 

 

 

「・・・ところで、このままだともう少ししたら・・・」

 

「ああ、ローレシア大陸、それもローレシアの国だ。進路を変えるか」

 

アレンは地図を広げたが、セリアは手でそれを止めた。

 

「いいじゃない。行きましょう。最初に出てからずっと戻っていないのでしょう?

 きっとみんな心配しているわ。安心させてあげないと」

 

「・・・し、しかし・・・」

 

「わたしのことなら気にしなくても構わないわ。わたしも皆様に挨拶しないと」

 

 

アレンはセリアを旅の仲間としたときから、自身の故郷ローレシア、それにアーサーの

サマルトリアには極力戻らないと決めていた。帰る場所のない彼女に配慮しての

ことだったが、確かにムーンブルクの調査に向かうと言って国を出てからかなりの

時が過ぎてしまっていた。一度帰るのが筋だろう。

 

「・・・ああ。ならそうする。これから先、戦いはもっと激しくなる。

 もう帰れないかもしれないからな。ちゃんと顔を見ておくのもいいな」

 

「・・・・・・だめよ。あなたは帰らなきゃだめ。もし誰かが命を落とす必要が

 あるとしたらそれは行くあてのないこのわたしが・・・・・・」

 

 

「いいや、それは違うね。旅の途中でいなくなったことにして世界を

 気ままに旅するという夢を持つこのぼくのやることだ―――っ!」

 

二人の背後からアーサーが歩いてきた。一連のざわめきや船の揺れがあっては

彼が様子を見に出てきたのも驚くことではなかった。アレンを中央に、

その両隣にアーサーとセリアが座る形となった。

 

 

「話は聞こえていたよ。ローレシアへ向かおう。ぼくのサマルトリアは・・・

 どっちでもいいなぁ。行っても行かなくても・・・・・・」

 

「・・・だめだろ。お前はよくてもおれたちまでまともな神経してるのか疑われちまう」

 

「ええ。三人で行きましょう。これから先、旅の終わりまでずっとね」

 

 

新たな時代の勇者は三人で一人。誰か一人の身に起きたことでも皆で喜び、

皆で傷つく。たとえそれを表に出さなくとも、互いの思いの全てを打ち明けたりは

しないとしても、それでもどんな友よりも固く結ばれた、一つの身体だ。

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