ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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愛は儚く・・・の巻 (サマルトリアⅡ②)

 

サマルトリアの王女サマンサの部屋に取り残されていたアレンとセリアだったが、

しばらくするとサマルトリア王から再度玉座の間に来るようにとの言葉が届いた。

もう話すことはないのに、と思いつつやってくると、そこには立派な盾があった。

アレンはその盾の正体がすぐにわかった。偉大なる紋章が刻まれているからだ。

 

「・・・その盾は!あのブライアン様でも見つけられなかった『ロトの盾』!

 もはやこの世にないと言い伝えられていたのに・・・」

 

「サマルトリアで十数年前に別件の調査活動をしていたときに偶然発見

 されたものだ。残念ながら我が息子には扱えなかったためいまだ

 存在自体を隠していたのだ。邪教の者たちに狙われる恐れがあったからだ。

 さあ、ローレル王子、そなたならこの盾を使いこなせるのではないか?」

 

アレンがロトの盾を自らの手で持った。すると、これだけ重いはずの盾が

軽々と持ち上がり、しかもこれまでのどの盾よりも『しっくり』ときた。

初めて手にした盾なのに、長年の相棒であるかのような安心感があった。

 

 

「おお、ロトの盾のほうがそなたを選んだ!やはりそなたこそが勇者たちの

 正統な後継者であったか!何となくそんな気はしていたが・・・」

 

自分の息子ではなくアレンがその者であったことに少しばかりの寂しさと無念を

感じていた王だったが、アレンは全く違う考えだった。

 

「いいえ・・・それは違います、王。私たちは三人で一人、つまり三人そろって

 勇者ロト、ブライアンの意志と力を継いで戦うのです。アーサーも立派に

 ロトの剣を使いこなしていますし、セリアは重い武器や防具は持てなくとも

 その魔法力はこの地上において比類のない実力者でありますから」

 

「・・・そうか、ならば三人でこの世界に平和をもたらしてくれい!」

 

 

三人ともこのサマルトリアですぐにレベルアップができる、とアーサーが

話していた通り、アレンもロトの盾を手に入れたことで守備を固めることに

成功した。三人の先頭に立つ彼はまさに仲間たちの盾であるので、身の守りを

強化することは攻撃力を磨くよりも大事だった。

 

 

 

アレンがロトの盾を手にしたのと同時刻、サマルトリアの兄妹は中庭にいた。

様々な遊びを楽しんだ後、静かなところで二人座っていた。

 

「・・・おにいちゃん、わたし、またいい子で待ってるからね」

 

「おっ・・・珍しいな、いっしょに来たいと言うと思ったよ」

 

「わたしはここでおにいちゃんのおてつだいをして、ずっと待ってる。

 帰ってきたらこんどはふたりで旅にいこうね。あ、そうだ、おにいちゃんに

 わたすものがあったんだ。いまもってくるから・・・」

 

サマンサが駆け出していって視界から消えたのを確認すると、アーサーは

近くに控えていたカブラヤとガビーを呼びつけた。

 

「・・・お呼びでしょうか、テンポイント様」

 

「カブラヤさん、あなたに重要なお願いがある。しっかり聞いてくれ」

 

妹と接していたときとは違い、表情と声は真剣で、彼の言葉に

耳を傾けようとするカブラヤとガビーのほうが緊張するほどだった。

 

 

「ぼくたちは遅くとも明日の朝には発つ。もしかしたらぼくはもうここには

 帰らないかもしれない。命を落とすことになる可能性がある」

 

「・・・そのような縁起でもないことは口にもされないようになさってください」

 

「いいから聞いてくれ。そのときはカブラヤさん、あなたがサマンサを妻として

 このサマルトリアの王、つまりカブラヤオー(王)となってほしいんだ。

 あなたは父上からの信頼もある。そしてぼくもあなたを城のなかで一番

 頼りにしている。次の王としてサマルトリアを導いてほしい」

 

アーサーは、たとえ戦いに命を散らすことにはならなくとも、旅の終わりに

サマルトリアに帰るつもりはなかった。彼の願いである『真の旅』を

始める気でいたからだ。世界地図にも載せられていないまだ見ぬ土地を目指し、

この世に楽園のような場所があるのかを確かめたかったのだ。最初に

サマルトリアを出てからいまに至るまで、彼の変わらぬ夢だった。

 

「とても難しい、厳しいことなのはわかっている。でもあなたにしか頼めない」

 

「・・・・・・し、しかし・・・・・・」

 

カブラヤはガビーのほうを見ながら明らかに困っている様子だった。そんな彼を

ガビーは安心させるように優しい声で、

 

「いいのよ。あたしのことは気にしないで。王になれるなんてすごいじゃない。

 そもそも、王子が無事に帰ってきたらこんな話はもともとない話になるんだから

 いまから余計なことを考えないで落ち着きなさい」

 

「・・・・・・・・・すまない。おれは・・・・・・」

 

 

カブラヤとガビー、サマルトリア王と王子からの信頼も厚いこの二人の男女は

愛し合っていた。幼いときから同じところで育ち、将来を誓い合っていた。

ところがある日、ガビーは子どもを産むことができない身体だということが

わかり、二人は普通の幸せを捨ててこの国のために命を捧げる誓いを立てた。

それなのにいま、アーサーは二人にとって残酷ともいえる頼みをしたのだ。

 

「・・・・・・私たちのことは構いません。全てあなたの言う通りに致します。

 ですがテンポイント様、もしあなたが戻られないということ、それは

 サマンサ様への裏切りであると・・・それをお忘れになりませぬよう」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

「あなたのご命令通りサマンサ様を守り、またそのお世話をさせていただきました。

 やはりあなたでなければサマンサ様に真の幸福と笑顔を与えることはできない、

 私たちはそう進言させていただきます」

 

 

彼らが話し終えようかといったところでサマンサが戻ってきた。彼女が

アーサーに手渡した残りの呪文の書は、これから彼が使いこなそうとしていた

『トラマナ』、そして『ベギラマ』の呪文に関してのものだった。

これで最初から正しいやり方で呪文の効力を最大限発揮できる。

 

「・・・これはすごいな。よくやったよ。えらいな、サマンサ」

 

「えへへ~っ・・・もっとなでて~」

 

サマンサの頭を撫でると、その顔は蕩けていた。アーサーはそれを続けながら、

 

「お二人もありがとう。サマンサだけの力でできるものじゃない。

 この量に内容の濃さ、相当協力してくれたと・・・」

 

「いいえ、私たちは少々お手伝いをしただけで・・・・・・」

 

サマルトリアの城でも特に際立った実力の持ち主だったカブラヤとテスコ・ガビー。

剣の腕も魔法を扱うことにおいても優れていて、サマンサの身の安全を守るには

これ以上ない二人だった。これで彼は安心して故国を去っていくことができる。

 

「・・・・・・・・・ぼくがいなくなった後のことは・・・任せた」

 

「・・・?おにいちゃん、何か言った?」

 

「いいや、何も。それよりもういい時間だ。寒くなってきた。城のなかに入ろう」

 

 

 

この日はサマルトリア城で一夜を過ごし、朝になったら新しい旅の始まりだ。

用意された寝室に向かう前にアレンとセリアは地図を見ながら計画を立てていた。

 

「ならアーサーの新しいルーラでローレシアに向かって、それからまずは

 船で南へ行く・・・それでいいのね?」

 

「ああ。おれたちの国と友好関係にある『デルコンダル』へ行ってみよう。

 おれたち三人は誰も実際に行ったことはないがたまにその国の噂は

 聞こえてくる。ラダトームのときみたいなことにはならないだろうよ」

 

「ラダトームといえば・・・もう一度アレフガルドに行く必要も出てきたわね。

 あの後王様は言っていたわ、あなたの持つロトのしるしがあれば聖なるほこらで

 『ロトのかぶと』が手に入るという言い伝えがあると。デルコンダルでの

 情報収集が終わったらそちらに向かうべきね。ま、兜ともなればたぶん

 あなたくらいしか装備できないでしょうから後回しでも構いはしないけれど。

 重要性、ということでいうなら下から数えたほうが早いのではないかしら」

 

「・・・相変わらずの物の言い方だぜ。いいじゃねぇか。おれだって観光気分

 じゃないんだ、そんなに時間はかからないだろ。アーサーのルーラがうまくいけば

 旅はこれまでに比べてめちゃくちゃ早く、楽になるんだからな・・・」

 

 

アーサーの名を口にしたところで、アレンは呆れたようにため息をつくと、

 

「そのアーサーは今いねえけどな。サマンサ王女と同じ部屋で寝るとかで

 早々に引っ張られていっちまったもんな。ほんとうにあの王女は

 お兄ちゃんっ子なんだな。毎度来るたびに微笑ましくなるぜ」

 

アレンは笑いながらそう言ったが、セリアは深刻な顔をしながら返した。

 

「・・・微笑ましい?あなたの目は節穴か、もしくは腐っているか、かしらね。

 わたしは一種の恐ろしさを感じたわ。あの歳でおにいちゃんと結婚したいって

 本気で言っているのよ。危ないわよ、あの子」

 

「そうかぁ?何回も言うがサマンサ王女は心はまだ五、六歳って言われているぜ。

 それくらいならおかしくないだろ。お前だってお父様と結婚したーいとか

 言ってた年ごろじゃねーか?どこにでもある話だろうに」

 

「・・・・・・・・・違うのよ、あれは・・・いや、やめておきましょう。

 わたしの思い過ごしだろうが女の勘が当たろうが・・・明日からの旅には

 おそらく何の関係もないことなのだから・・・この話は終わりましょう」

 

セリアは自らサマルトリアの兄妹の話題を打ち切った。これ以上関わりを

持たないほうが賢明だと判断したからだ。その後もしばらく二人は雑談を続け、

そろそろ明日に備えて互いの寝室に向かうか、となったところでアレンが言った。

 

 

「・・・セリア、何だか最近おれたちの周りで結婚とか将来とかそんな話が

 やけに多い気がするよなァ。お前もそう思わないか?」

 

「ええ、確かにそうね。デルコンダルではそうではないと願いたいわ」

 

「まあな。お前の言う通り、いまは娶ったり嫁いだりしている時じゃないからな。

 でも旅が無事に終わったらそうじゃないぜ。考えておかなくちゃいけねえ。

 お前はその・・・ちゃんと考えているのか?そのあたりのことは。

 い、いや、別に話したくなけりゃあ言わなくてもいいんだが・・・・・・」

 

アレンは出来ればセリアが将来どうするかを知りたいと思っていた。ここのところ

自分以外と彼女を結ぼうとする話があまりにも何度も続いていた。彼女のことなど

初恋の相手ではあったがいまはもうそんな対象ではない、と自分のなかで強がりを

言っていたアレンであったが、焦りや苛立ちは抑えられなかった。

その彼に対し、セリアは一瞬遠くを見たかと思うとすぐに元通りの視線に戻り、

 

「・・・わたしは自分の宿命と結ばれることにしたわ。この生涯を

 ルビス様より与えられた使命、それにわたし自身が果たすべきことに」

 

「・・・・・・どういう意味なんだ」

 

「もう結婚とかそういうのは今だけじゃなくて将来も結構ってことよ。

 ラダトームのときは寛大な資金援助もあるかもと思って気持ちは傾いたし、

 このサマルトリアもきっと大きな助けになってくれるはず。でもやっぱり

 自由が奪われてほんとうにやりたいことができなくなるというのに変わりはない」

 

あくまで自分の力を中心としたムーンブルクの復興を目指し、そのためには

嫁いで母になる、そんな暇はないのだ。常に忙しく働き続けなければならない。

そのような意味で彼女は自分の宿命と結ばれる、と言ったのだ。

 

 

「・・・・・・そうか。お前が決めたことならおれは何も言わない。だが一つ、

 余計なお世話なんだろうが・・・意地になるな、それは覚えておいてほしい」

 

「・・・意地に?わたしは・・・」

 

「少しでも気が変わったらいつでも歩みを翻したっていいってことだ。一回

 決めたからって死ぬまでそうしなきゃいけないって決まりはないんだからよ」

 

「あら、闘将ボーイと呼ばれるあなたらしくもない意見ね。でもここは

 ありがたくその忠告、いただいておこうかしら。そしてあなたにそのまま

 返しましょう。あなたこそ意地を張らずに柔軟でありなさい、とね」

 

 

話し合いは結局平行線のまま終わり、二人は何とも言えない気持ちのまま

互いの寝室に向かった。最初に抱いた己の気持ちを無理に貫いたまま突っ走り

痛い目に遭いかねないことは二人とも日頃から自覚していたうえ、また相手も

その可能性があると心配していた事柄だった。三人のなかで唯一柔軟な男

アーサーがこの場にはいなかったが、彼の必要性を改めて認識した。

 

 

 

翌朝の早い時刻、三人の出発の時が来た。あまり派手な見送りをすれば

もしかするとどこかに潜んでいる邪教の信者がよくないことをもたらす

危険があったので、彼らはひっそりとサマルトリアを出ることになり、

サマンサ王女だけが三人を、というよりアーサーを見送りに出てきた。

 

「おにいちゃん、がんばってね。またすぐにかえってくるよね?」

 

「・・・・・・ああ。新しくなったルーラの呪文もあるし、必ずね」

 

アーサーは自分の言葉とは裏腹に、もはや生きてサマンサの顔を見ることは

ないだろうと思っていた。よほどのことがない限りサマルトリアに戻りはしない。

この冒険が終わったら彼はまだ見ぬ土地へと帰らない旅へ出るつもりだったからだ。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

サマンサは目を閉じて顔を前に出していた。兄に口づけをねだっているのだ。

それを見たアレンは一度目の旅立ちのときにサマンサがアーサーに対して

成人した恋人のような熱く深い口づけをしていたのを思いだした。

 

「・・・あっ!!そうか、セリア、お前が昨日言っていたことって・・・!」

 

「やっとわかったみたいね。あの妹の危ない気持ちを。ま、アーサーが

 それに応じるはずもないから少しは安心できるけど・・・」

 

 

アーサーはしばらく動かずに立ったままで、待っていたサマンサも次第に

落ち込みながら背伸びをやめて目を開けた。その姿を哀れに思ったのか、

それともこれが永遠の別れになるだろうという気持ちからか、彼は

妹の身体を自分の側に引き寄せ、その口に軽く自らの唇を重ねた。

 

「・・・・・・これで満足したか?じゃあ、行って・・・」

 

「・・・お、おにいちゃん・・・。おにいちゃ~ん!」

 

「お、おい・・・!うっ!」

 

途端に笑顔になったサマンサは離れようとするアーサーに無理やり抱きつき、

やはり前回と同じように吸い付くような口づけを始めた。その力が

あまりにも強いので、引き剥がそうにもそれはできなかった。

 

「・・・・・・どうする?助けに行ってやるか?」

 

「やめておきましょう。邪魔したらとても大変なことに襲われるって

 予感がするわ。わたしの予感はだいたい当たるってわかったでしょう?」

 

「ああ・・・そうだな。見ないでおいてやるっていうのが一番あいつのためか」

 

アレンとセリアはその場から距離を置き、兄妹の長いひと時から目を逸らしていた。

ようやく解放されて二人のもとにやってきたアーサーの顔は涎だらけだった。

 

「・・・・・・じゃあ・・・行くか、ローレシアに・・・だいじょうぶか?」

 

「・・・うん。ルーラを唱えることには問題はないよ・・・」

 

へとへとになっていたアーサーだったが、ルーラの呪文は正しく発動し、

デルコンダルの国を目指す三人の次なる旅が始まった。

 

 

「確かデルコンダルもローレシアと同じく軍が強いと聞いている。あくまで魔物への

 対抗手段としてであって人の住む他国を攻めるわけでないから安心だけども」

 

「おれも話は聞いているぜ。そいつらと訓練をしたら強くなれるかもな」

 

サマルトリアで簡易的な強化に成功した三人だが、基礎的な魔法力が足りずに

バギの更なる進化を断念せざるをえなかったセリアをはじめ、やはり三人とも

地力の強化もこの先のことを考えたならば欠かせないという結論になっていた。

 

そのためには魔物たちとの戦いにより経験を積むのが一番だが、魔物の棲み処を

襲撃したり害のない相手を一方的に狩っていてはラダトームのやっていることと

同じであるため、魔物の被害に苦しむ土地を探し、そこで修行をすればよいのでは

ないかと意見はまとまった。実害を与える魔物であれば倒したとしても

良心の咎めもない。獰猛で殺意をむき出しに襲ってくるならばなおのこと

いい経験が積めるだろう。その分危険は増すが、それを恐れていては

そもそもこのようないつ死んでもおかしくない冒険になど出ていない。

 

 

「デルコンダルの王族はブライアン様と共に竜王と戦った人の子孫だったと

 思ったけれど・・・詳しいことはムーンブルクには聞かされていなかったわ」

 

「そうか・・・いまの王はおれたちよりほんの少し年上だというのはおれも

 知っているんだが、直接会ったことがないからな。しかし竜王城の

 ホクトボーイにしても、世界には若い王が多いな。おれがもし無事に

 王になれるとしてもまだまだ先の話だ。ちょっとした焦りを感じるぜ」

 

「まあまあ、アレン・・・」

 

人は人、自分は自分なのだから、とアレンを励まそうとしたアーサーだったが、

そのアーサーは将来王になるべき男であるのにその立場を放棄してしまおうと

しているのだ。背負うはずの使命も二つとない故郷も、更には自らに期待する父も

溢れるほどの愛をぶつけてくる妹も後にする決意でいる自分がアレンに対し

何を言ったところで無責任でふさわしくないだろう、と黙っていることにした。

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