ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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第一章
新しい勇者アレンの巻 (ローレシア・リリザ)


 

父の命令に逆らいローレシアから旅立つこの国の王子、ローレル。密かな出発の

つもりであったが、父も城の者たちも彼の動きはわかっていた。しかし公には

見送りに行かず、代わりに彼の三人の弟たちのうち二人がやってきた。

 

「・・・お前たちか。わかっているとは思うが・・・おれはしばらく帰らない」

 

「そうですか。では留守の間は私たちにお任せを、アレン兄さま」

 

ローレルの三人の弟は全員彼とは一つ違い、つまり三つ子だった。その三人では

一番上の者とされている次男、『バージ』は兄のことを『アレン』と呼んだ。

そもそもローレルとはこの国の国王の名であり、やがて襲名されることになるのを

周りの者が前倒ししてそう呼んでいるだけだ。それまではアレンという名が

与えられている。もし彼に何かが起きたなら、バージが『ローレル』とされるのだ。

 

決して不仲ではなかったが、意識していないわけがない。旅の最中での不幸を

願っているとまではいかないが、何も思っていないはずはないのだ。

 

 

「しかし兄さんはツイているね。もし世界を脅かすハーゴンの教団を壊滅させて

 平和を取り戻したら勇者ロトやブライアンと同じように永久に語り継がれるん

 だろうな。オレの名前は『ラッキー』だけど・・・ほんとうにラッキーなのは

 兄さんだね。オレたちももう少し大きくなっていればなぁ」

 

バージの次に母の腹から取られたラッキーが羨ましそうに語っている。とはいえ

ローレルはわかっている。もし適齢に達していたとしても彼らには危険な旅に

出る実力も度胸も足りていないということは。そんな彼らを責めはしない。

もともといま自分が城を出ることは褒められた行為ではないのだ。だから

三男ラッキーのうわべだけの言葉を非難しなかった。とはいえ、

 

「・・・いや、ラッキーなのはお前たちかもな。おれがどこかで野垂れ死ぬか

 魔物に食われたりしたら王の座はお前たちのうちのどちらかの物なんだから」

 

二人をどきっとさせるような一言を吐くと、荷物を手にした。いよいよ出発の

ときとなったが、最後に一つ、この場にいない末の弟に関して触れた。

 

 

「やっぱりあいつはいないか。まだ自分の部屋にこもって震えてやがるのか?」

 

「そのようですね。体の傷は癒えたようですが・・・心のほうが・・・」

 

「ふん、自業自得だろ。お前たち、あいつにはもっと厳しく接して構わないぞ。

 世の中ではあいつに同情する声もあるようだがおれはちっともかわいそうだとは

 思わない。恐怖で髪の毛が真っ白になろうが、それだけのことをやっちまったんだ」

 

ローレルが忌々しく語るその末弟の名は『プレス・トウコウ』。彼はしばらく前から

療養しており、一歩も表に出てこない。だがその原因は全て彼自身にあった。

 

「・・・トウコウから兄さんに伝言があるよ。サマルトリアには気をつけろって」

 

「当たり前だろうが!何様だあの野郎は。そもそもおれは入れるのか?サマルトリアに」

 

 

 

それは数か月前だった。ローレシアとサマルトリアの王族同士が集まり

互いの交友を深める機会があったのだが、そのときプレス・トウコウは

暴挙に出た。一人で草むらに座っていたサマルトリアの王女サマンサ、

彼女を人気のないところに誘い込み乱暴しようとしたのだ。

 

トウコウが言うには、『彼女のほうが欲情的で自分を誘っているように見えた』

とのことだが、結局それは未遂に終わった。ちょうど事件を目撃した

サマルトリアの誰かによって抑えられ、しかも半殺しにされたのだ。

それが誰だったのかはいまだにわからないままだが、トウコウは重傷だった。

回復呪文と最高の医療によってどうにか普通に生活ができるまでに身体は

癒えたものの死の寸前まで痛めつけられたことで精神的な病を患った。

 

プレス・トウコウの行おうとしたことは論外だが、サマルトリア側の人間の対応も

過剰で、やりすぎだったという声が出ていた。また、サマンサ王女のほうから

誘ったのではないかという推察も出始め、両国の間で大きな問題になってしまった。

どちらが悪いのか、誰が責任をとるべきか、民衆の間でも議論となった。

 

 

この出来事はローレルにとって『警告』となった。彼も女性に目がない。

自分も気をつけなければ同じ過ちを犯してしまうかも、という教訓だ。

弟たちに別れを告げ今度こそ城を出ようとすると、ひっそりと一人の女性が

立っているのに気がついた。それはローレルの母だった。

 

「・・・・・・母上、そのような場所で何を?誰かを待っておられるのですか?」

 

「・・・アレン、あなたを待っていたのですよ。ついに冒険の旅に出るのですね。

 きっとあなたは大きな目的を成し遂げるまで帰らないつもりなのでしょう。

 そのあなたに母からささやかな贈り物を・・・・・・」

 

ローレルの母が彼にそっと手渡したのは、『キメラの翼』だった。旅の途中で

危機に陥ったときでもその翼を天高く放れば人の住む地へ一瞬で帰還できる。

 

「あなたの熱き心は誇らしく思います。ですが意地にならないように。

 いつでも戻ってきていいのですよ。戻ることもまた勇気なのですから」

 

「・・・ありがたく頂戴します。使うことはないとは思いますが、

 母上の心遣いと温もりを確かめるために大切に持っておりますから・・・」

 

 

 

ローレル、つまりアレンの旅はついに始まった。ローレシアを離れた彼は

ただの一人の旅人の少年アレンだ。『トウショウ・ボーイ』としての生き方を

守り続けたとしても、この先彼をローレシアの次期国王、またローレル様と

呼ぶ者はサマルトリアを抜きにしたら稀だろう。しかし彼自身はそれでよかった。

むしろ解放された気分だった。高き身分に固執してはいなかったからだ。

 

アレンは将来の夢を尋ねられたことがある。彼にとって王となることは

夢ではなかった。虎視眈々とその座を狙う弟たちと違い、彼の目標は

そこにはない。『お助けボーイ』として困っている人々、弱い人々を

一人でも多く救い出すこと、それが彼の夢だったからだ。あくまで王という

立場であればそれが果たしやすいというだけであり、だから今回の勝手な

旅立ちで第一王子の座を剝奪されても構いはしないと思っていた。

 

 

「・・・あれはスライムか。あいつらはあまり変わらないな・・・」

 

ローレシアの子どもたちですら恐れを持たない程度の魔物『スライム』。その弾力のある

全身を使って二匹で飛び跳ねていた。どちらが高く跳躍できるか競っていたのだろう。

 

「魔物たちがみんなあんな様子だったら話は違ったんだろうがな。

 いや、いままではそうだったんだ。最近だ。全てが変わったのは」

 

スライムたちはアレンに襲いかかってくることはなかった。しかし別の魔物、

なめくじをそのまま巨大にしたような不気味な『大なめくじ』は違った。

アレンを見つけると、うねうねと鈍い動きでやってきた。逃げようと思えば

じゅうぶん逃走も可能だったが、アレンは大なめくじに向かっていき、

銅の剣で叩きつけるようにして返り討ちにした。ハーゴンの教団が勢力を

拡大していくのと比例するように魔物たちの凶暴性も増していった。

大なめくじも以前はただ見ていて気持ち悪いだけで実害はなかったのだ。

 

アレンは城での剣の稽古に熱心に励んでいたので、この大なめくじや

やはり巨大化した蟻の魔物『アイアンアント』など、ローレシア付近の

魔物であれば難なく倒すことができた。アレンは帝王学にはほとんど

関心がなかった。仕方なく弟たちと共に何時間も座っていたが

隅から隅まで自分で考え理解ししっかりと学ぼうとする彼らとは違い、

大人の兵士たちに混ざり肉体を鍛え剣の腕を磨くほうがずっと好きだった。

 

 

(父上も城のやつらも明らかにいい顔はしていなかったな。これじゃあおれが

 いないうちにバージかラッキーが次の王になっていても仕方がないか。

 でもおれが求めていたものはこれなんだ。王の座に未練はない。

 あれだけ稽古したおかげでここまで危なげなく戦えているんだからな)

 

 

アレンはその日、夜になっても歩みを止めなかった。この辺りの地形は全て

わかっていて、夜でも迷う心配はないと判断したのだ。それに加えて、

『リリザ』という町がこの先にあるということも知っていた。今日夜通し

頑張って歩けば明日の昼過ぎには到着するだろう。その町の宿屋で

ゆっくりと休み、疲れと傷を癒せばよいのだ。大なめくじやアイアンアントは

夜の間はあまり現れない。むしろ好機とリリザへ向かうため歩き続けた。

 

やがて朝となった。アレンの足取りはまだしっかりとしていて、集中力も

維持できていた。これも訓練の賜物だった。彼はまだ十四歳の時に

兵士たちの夜通しの行軍にこっそりと参加したことがあったのだ。

アレンはそのときから大柄で、鎧と兜に身を覆ってしまえば誰も気づかず、

発覚したときにはもう引き返せない場所まで来ていたので最後まで

同行を許さざるをえなかった。なぜこんなことをしたのかと問われたとき、

肉体と精神を更に鍛え理想としている自分に近づくため、と彼は答えた。それを

聞いた父が彼に続けて尋ねたのが、ではお前の理想、夢とは何かというものだった。

 

 

(・・・おれの愛しているローレシアのため、そして世界のために命をかけて

 旅をしている・・・それが夢でなくて何だっていうんだ。そうさ、おれは

 いま夢の道を歩いているんだ。これがおれの目指した生き方だ)

 

ローレシアではすでに彼は強い酒を飲んでもいい年齢とされている。高級な

酒の風呂に入り美女に囲まれている自分・・・確かに夢の光景だがこれを

夢だと言うのはさすがに低俗すぎると思い、己のなかで封印していた。

 

 

この日も魔物たちとの戦いはあったが初日の勢いはそのままに勝利を

積み重ね、ほぼ予想通りの時刻にリリザの町に入ることができた。

 

 

「ようこそリリザに。旅の疲れを癒していくとよいでしょう」

 

声をかけられた。しかしアレンがローレシアの王子であることに気がつく者は

誰もいない。最初の町人も、その次の町人も、どこにでもいる旅人に

接するようにしてアレンと会話をする。極めつけの言葉はこれだった。

 

「噂ではローレシアの王子がハーゴン征伐の旅に出たらしいわよ」

 

本人だとわかっていればまさかこんなことを言ってはこないだろう。これで

完全に自分の身分は知られていないと確信できた。アレンは心が軽くなった。

ただの旅人の一人として扱われるのも自分の故郷を出た証、旅の醍醐味だからだ。

 

(よーし。さっそく宿屋に行こう。自分のベッド以外の寝床は新鮮だろうな)

 

あまり大きくはないが清潔で好感の持てる宿屋に入った。宿代として4ゴールドの

前払いを求められた。これもアレンにとって慣れていない経験で、心を躍らせた。

もしこの町を統治している国の王子だと知れたら代金など求められないだろう。

喜んで金を払い、案内された部屋に向かった。初体験の連続だ。

 

 

荷物を置いてから、部屋の窓に映る自分の姿を眺める。旅人用の青いメットに

目を守るゴーグル。丸一日以上歩き、その間の戦闘のせいで傷んだ服。

確かにこれでは誰も自分の正体をわかるはずがないのも納得だった。

 

「次は・・・気は進まないし入れてもらえるかはわからないがサマルトリアを

 目指すべきか?それまで宿には泊まれないんだ。食糧や薬草の調達、それに

 洗濯もすませておかないとな。まあ時間はあるし、まずはメシにするか。

 明日からはそれも自分でどうにかしないといけないし、今のうちにたっぷり

 うまいモンを食べて腹を満たしておくか・・・」

 

アレンは部屋を出て、食堂と酒場を兼ねているフロアに向かった。どうやら

山菜と肉の料理が一番人気のようだ。海が近いローレシアでは魚料理が

多かったので、この町ならではの名物を楽しむという意味でもそれを注文した。

先にワインが出され、少しずつ口にしながら料理を待っていた。

 

(ふむ・・・城の高価なワインには及ばないのに遥かにおいしく感じる。

 どんな酒を飲むか、よりもどんな状況で飲むかが肝心ってことか。

 雰囲気もいいし、これからいろんな土地で酒を楽しめるのが今から・・・)

 

彼がいい気分になりかけていると、それをぶち壊しにする出来事が起きた。

客は彼一人ではなく、離れた席から男の大きな怒鳴り声が聞こえてきた。

思わずそちらを見ると、ここで働いていると思われる若い女性が

因縁をつけられていた。アレンはじっとそのやりとりに注意を向けた。

 

 

「何だァ!?この豚のメシのような料理は!俺をなめてやがるのか!?」

 

「・・・も、申し訳ありません。お代は結構です。何なら全額お返しを・・・」

 

「そうじゃねーだろ―――がよォ―――――っ!!おい、俺の部屋に来い!

 誠意ある謝罪ってのを教え込んでやるぜ!その身体にたっぷりとなぁっ!」

 

 

若き闘将の怒りが激しく燃えた。理不尽に怒り散らし、逆らえない女性を

自分の好き勝手にしようとしているのだ。すぐに二人の間に割って入った。

 

 

「・・・なんだァ?若造。何か言いたそうな目だな、クズ野郎が・・・」

 

「言いたいことはいろいろあるが・・・お前には豚の餌も勿体ないだろ」

 

「何ィ!?俺を誰だとわかってんのか・・・・・・う、うおおおっ!!」

 

 

男の顔を掴むと、そのまま床に勢いよく叩きつけた。鼻や頬の骨が砕けた。

 

「ぐあああっ・・・!!で・・・でめえ・・・・・・!!」

 

持っていたナイフを取り出したので、アレンは上からの手刀で叩き落とし、

更にその右手をへし折った。確かに骨の折れる音がアレンにも男にも聞こえた。

 

「ぎゃあああ―――――――ッ!!!」

 

「お前が誰か・・・?知るわけないだろ。さっさと消えろ」

 

男は泣きながら逃げ去っていった。捨て台詞すら吐かず、振り向きもしなかった。

どうしようもない男を撃退し、ローレシアの人々のようにこの町の人々からも

感謝や称賛があるだろうと思っていたが、その場は凍りついてしまっていた。

アレンを見る者たちの目は、冷ややかなものだった。彼が戸惑っていると、

宿屋の主人が近づき、その理由を説明した。

 

 

「あーあ・・・やってしまいましたか旅の人。あの方には手を出しては

 いけなかった・・・なんということをしてくれたのですか」

 

「・・・なぜだ。放っておいたらあの人が・・・・・・」

 

「あなたは知らないでしょうがあの方はこの町の有力者。多少のわがままは

 黙認しなければならなかったのです。あの方の機嫌を損ねるのは絶対に

 厳禁だったのに・・・私たちは明日からどうなることか・・・・・・」

 

主人はそのまま頭を抱えてしまった。アレンは一人、何も言わずに部屋に戻り

荷物をまとめると宿屋から出ていった。これ以上ここにはいられなかった。

 

 

(・・・ローレシアの町とは違うのか。いや、城ではこうだったな。

 おれのやっていることを苦々しく見ていたやつらがいた!)

 

悪行を見逃し、公正を捻じ曲げることが正しいとでもいうのか。自分の正義が

世の中とはずれているのか。アレンは怒りと落胆に満たされた。しかし己の

行いが間違っていたとは思いもしなかった。自分だけは自分の味方だ。

 

(そうさ。おれはもともとみんなに褒められたくて『トウショウボーイ』だった

 わけじゃなかった。おれがやりたくてやってるだけだ。この旅も同じだ。

 他のやつに何を言われようが正しいものならここにある!)

 

 

これからも知らない土地を旅していればこんなことは何度も起きるだろう。

それでいちいち気落ちしていてはいけない。自分に喝を入れるようにして

町から出ようとすると、先ほど彼が助けた女性が走って追いかけてきた。

 

「あ・・・あの・・・さっきはどうも・・・ありがとうございました!」

 

「いや・・・あなたのためにやったわけじゃありませんから。それに・・・

 おれのせいでもうあの店では働けないでしょう。これからどうするんですか」

 

「・・・・・・あなたが心配してくださる必要はありません。その気になれば

 何だってできますから・・・・・・」

 

 

女性の言葉と表情に、確かに強い決意の意志が現れていた。しかし、その裏に

悲壮なものがあった。まだ二十代と思われる女性が『何だってやる』と

言っている。どんな仕事なのかは容易に想像できた。お助けボーイと

呼ばれるアレンが彼女のことを放っておけるわけがなかった。

 

 

「・・・・・・それなら・・・おれといっしょにローレシアに来てください。

 あなたが今日から働ける場所があります。おれについてきてもらえませんか」

 

「・・・え、そんな・・・。でもローレシアまではあなたのような若い男性でも

 歩いて一日以上はかかります。しかも最近では魔物が襲ってくると・・・」

 

「安心してください。これで一瞬のうちに到着ですよ・・・キメラの翼。

 実はおれはローレシアからやってきたのです。さあ、行きましょう」

 

アレンがしきりに勧めると、ついに女性もこれに応じ、彼に頭を深々と下げ、

 

「では・・・少しだけお待ちいただけないでしょうか。荷物をまとめたいのです」

 

彼と共に行く決心を固めたようだ。その後ろ姿にローレルはむふふ、と笑った。

 

 

(いきなりなかなかの美人に会った。しかもこんな展開に持ち込めるなんて・・・。

 これはおれ・・・ラッキーかも。この感触、これは・・・・・・)

 

彼は近い将来ローレシアの王となる。当然王ともなればたった一人の妻しか

いないということは稀だ。世界には多くの夫人と側女を持つ王も珍しくなく、

女性に目がないアレンの『裏の夢』でもあった。

 

(おれはトウコウとは違うもんな。無理やり自分のものにしようなんてありえない。

 それに下心があって助けたわけでもない。結果的にこうなったんだ。こうやって

 世界中からおれの女を集めるっていうのも悪くないよなぁ~?ヘヘヘ・・・)

 

 

義憤に燃えた闘将はどこへいったのか。彼の十六という年齢を考えれば仕方がないの

かもしれないが、鼻の下を伸ばしながら妄想に浸っていた。そこに駆け足の音が聞こえた。

 

 

「お、お待たせしました!申し訳ありません、支度に手間取ってしまって・・・」

 

「いいえ、気にすることはありませんよ。俺が言い出したことなのです。さあ、

 さっそくローレシアへひとっとび・・・・・・・・・」

 

 

 

 

 

キメラの翼でローレシアへ帰還したアレン。その顔色は渋いものだった。

帰らないと決めていたのに早々に戻ってきてしまったことによるものではない。

 

 

「おかあさん!ここがローレシア?とっても広いね!今日からここに住むの?」

 

「ええ、そうよ。あなたもこの戦士様にお礼を言わなきゃダメよ」

 

三歳くらいの女の子の手を引いている先ほどの女性。彼女は未婚の母だった。

 

(・・・・・・なんてこった・・・子連れかよ・・・・・・)

 

アレンは肩を落として二人を先導していた。すると女の子がアレンの前に立ち、

 

 

「戦士のおにいさん、どうもありがとう!・・・ございます!」

 

 

彼は何も言わずにこりと微笑み、女の子の頭を撫でてから褒めてあげた。

この母子にとってアレンは救い主なのだろう。だがアレンにとっても

二人の笑顔が大きな力になった。見返りや感謝を求めているのではない。

それでも彼はいま満たされていた。もう落ち込んでなどいなかった。

 

 

アレンの旅はまだ始まったばかり、いや、振り出しに戻ってしまったのだから

始まってもいないと言える。たったこれだけの冒険ですでに彼は何回も

精神の浮き沈みを味わった。これから幾度も季節の流れるなかを旅する

彼は果たして何を感じ、何を見つけるのだろうか。その夢と可能性は

無限に広がっていた。

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