ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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愛が全ての巻 (ベラヌール②)

 

サマルトリアの城に難なく潜入したハーゴン。その姿は誰にも認知されていないのか

目的の場所まで一直線で歩いていた。そしてその部屋を開けたとき、ハーゴンは

自らを覆う魔力を取り払った。部屋のなかの人物に用があったからだ。

そこには王女サマンサが一人で本を読んでいた。彼女の姿を見ると、

 

「こんにちは、美しい王女サマンサ!わたしは君を迎えに来た!」

 

「・・・あなたはだれ?」

 

「わたしの名前は・・・・・・そう、ウオッカ!初めまして、サマンサ。

 今からすぐに君を連れていかなくてはいけない場所があるんだ。

 もう出発、ということになるけれど・・・ついてきてくれるかな?」

 

まさかハーゴンという名前を名乗れるはずがなかった。このサマンサが年齢よりも

心が幼いとはいえ、世界を脅かすハーゴンの名は幼子でも知っている。そこで

咄嗟に出たのが『ウオッカ』だった。これはハーゴンの側近である女悪魔神官で、

アレンたちとローレシアの牢獄で戦ったトシフジがハーゴンを呼ぶ名だった。

他に人がいるときはハーゴンと呼ぶが、二人きりだと決まってウオッカと言うのだ。

 

「ウオッカ・・・ウオッカだね!わかった、すぐに準備するからまってて!

 わたしにはわかるよ、あなたはいいひとだって。だからいっしょに行こう!」

 

ハーゴンが詳しくは事情を語る前からサマンサは笑顔で着替えを始めた。

『いい人』と認めたのは、ずっと城から出られない退屈さから解放してくれるからか、

もしくは直感なのか。全面的に信頼し、共に旅立つことに決めた。

 

(・・・わたしがいい人、か。ふふ、正体を知ったらどうなることか・・・)

 

サマンサを連れ出したハーゴンはなるべく人目につかないように出ていこうとした。

ときどき城の者に見つかったが、サマンサよりも幼く見える少女が邪教の総帥だと

気がつくはずもない。それにサマンサはこの城では疎まれている存在であるため、

彼女がどこかへ知らない誰かと向かっていったところで人々は関心を払わない。

サマンサがどこでどうなろうが別に構わないと思っているからだ。ただ、彼女の

兄であるアーサーから直々に彼女を護るように言われた二人の精鋭の戦士は別だった。

 

「・・・王女、どちらへ行かれるのですか?外は危険です、出てはならないと・・・」

 

「それにそのような者と・・・無害な少女の姿をしながら魔の匂いを漂わせる者、

 他の連中の目はごまかせても我ら二人の目はごまかせない。止まれ!」

 

アーサーが信頼する男女、カブラヤとガビーだった。優れた魔法戦士である二人は

ハーゴンが只者ではないことも瞬時に見破り、その前に立ちはだかった。

 

「あっ、この子はウオッカっていうんだよ!これからいっしょにでかけるんだ。

 だいじょうぶだよ、おべんとうもあるし、着がえの服も・・・」

 

「・・・そうではありません、王女。あなたはこの城から出てはならないのです。

 お兄様とも約束なさったでしょう、大人しく待っていると」

 

 

するとハーゴンは前に出て、二人がサマンサを連れ戻そうとするのを妨げると、

 

「そのアーサー・・・テンポイント王子が彼女に来てほしいと言っているのだ。

 しかも急を要している。サマンサ王女をどうあっても旅に同行させなかった

 王子がすぐにでも、というのだからここはこのわたしに任せてほしいのだが」

 

もちろんそれで引き下がる二人ではない。カブラヤは剣を抜いて、これ以上の

話し合いは無用という姿勢を見せた。いつでも斬る準備があると。

 

「きさまなど信用できるか!王女を我らに渡しさっさと消え失せろ!断るなら

 今すぐここで・・・・・・!」

 

カブラヤは勢いよく叫んでいるように見えたが、彼も実力者だけあり、

ハーゴンとしっかりと向き合うと自分より何枚も上の相手だと悟った。

戦いになれば敗れるのは必定、その上愛するガビーまでも殺されるだろう。

剣を構えながら動くに動けないでいると、ハーゴンは今度はガビーの

もとへとゆっくり向かった。そして彼女をじっくりと眺めていた。

 

「・・・ふむ、信用が必要か・・・ならば・・・・・・」

 

「・・・・・・きゃっ!」

 

ハーゴンは静かにガビーの腹部に手を当てた。そして魔力が白い光となる。

 

「おい!きさま!ガビーに何を・・・!」

 

 

「テスコ・ガビー・・・わたしにはわかる。君は生まれつき子どもを産めない身体だ。

 しかしその運命はわたしによっていま変わることになる!」

 

 

目を大きく開いて力を使う。ガビーは自身の腹から下が熱くなったのを感じた。

 

「こ・・・これは・・・!あなたはいったい何を・・・!」

 

「いまから三日以内だ。その間に君はそこのカブラヤと関係を持つといい。

 ほんの僅かな時間だけ君の胎は開かれた。わたしの言葉を信じる者は

 必ず幸福を得ることになる。さあ、君の望むようにするといい。

 さあ、待たせたね、サマンサ。出発しよう」

 

サマンサと共に去っていくハーゴンを、二人はただ眺めるしかできなかった。

ガビーは自らの身体が確かに奇跡の力によって満たされているのがわかっていて、

見ていたカブラヤも膨大な魔力が放たれたのを感じたからだ。

 

「・・・私たちはまさに奇跡の力を目にしたわ!あれはまさか・・・」

 

「神の使い・・・いや、神そのものだと信じたいものだ。だがあの少女の

 正体が魔の者であることは確実で・・・!もしかするとあやつは・・・!」

 

熟考したカブラヤが真実に到達しかけたが、赤い顔をしたガビーが彼に迫った。

それによって彼も考えるのをやめてしまった。共に理性を失っていた。

 

「・・・・・・カブラヤ、謎解きよりもいまわたしたちがすべきなのは・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

 

二人は自分たちの寝室へと向かった。入るとすぐに鍵をかけ、

何者にも邪魔されないようにした。そして二人の時間が始まった。

 

 

 

 

「うわ~っ・・・たのしいなぁ。ありがとう、わたしをつれてきてくれて」

 

「いやいや、礼はいい。それよりせっかく知らない世界に来たんだ。

 町に入る前にちょっとばかり散歩でもするかな?」

 

「うん!ウオッカ、いっしょに行こう!」

 

 

ハーゴンはベラヌールの町から少し離れた場所にルーラの結界を用意していた。

いきなり町へ飛ぶようにすると、もしロトの子孫たちがまだ仲間の呪いを解くために

町を出ていない場合に鉢合わせになり、ハーゴンもそれは避けたかった。

サマンサとの仲を深めるためにも会話でもしながら町へ向かったほうがよいと

判断し、彼女の話に耳を傾けながら歩いていたのだが、

 

「それでね、おにいちゃんはほんとうにかっこよくて、しかもつよいんだよ!」

 

サマンサは兄であるアーサーのことばかりを次から次へと語り、それは止まらない。

いかに彼を愛しているか、ハーゴンにもよく伝わるほどだった。ハーゴンは

彼女がうれしそうに話しているのをじっと聞いていた。決して聞き流したり

話を遮ったりせず、よい聞き手となっていた。やがて一段落して、

ようやくハーゴンのほうからサマンサに話しかけた。

 

「君がテンポイント王子のことをとっても大好きだということがよくわかったよ。

 ところでサマンサ、ローレシアのローレル王子についてはどう思っている?

 彼もまた君の兄に負けず劣らず強く、正義感に満ちた男だが」

 

するとサマンサはぽかんといた顔でしばらく黙っていた。それからようやく返答した。

 

「・・・えーと・・・だれだっけ、ローレル王子・・・?かんがえたけどわからないよ」

 

ローレル、つまり何度も顔を合わせているアレンのことを覚えていないのだという。

 

「・・・・・・そ、そうか・・・。変な質問をして悪かったね」

 

これにはハーゴンも驚かされた。サマンサの世界はアーサーを中心に回っているのは

すでにわかっていたが、どうやらそれ以上で、アーサーは彼女の全てなのだ。

 

(・・・これほどとは・・・。わたしの計画は失敗するかもしれないな)

 

 

自らが密かに練っている策が崩壊しかけていることを知り、厳しい表情になった。

だがハーゴンにとって更に想定外の出来事はまだまだ続くことになる。

しばらく歩き、もうすぐ町だというところで魔物が草むらから飛び出してきた。

二足で歩く猪の魔物『オーク』が二匹、涎を垂らしながらやってきた。

 

「ふむ・・・こいつらはわたしを見ても襲いかかるつもりか。どうやら

 手遅れのようだな。サマンサ、下がっているんだ。ここはわたしが・・・」

 

自らオークたちを倒すつもりでいたが、なんとサマンサがハーゴンの前に立つ。

 

 

「ウオッカ、わたしだっておにいちゃんのためにいっぱい魔法をおぼえたんだよ。

 だから見ていてね、わるいまものをやっつけるところを!」

 

「お、おい!やめるんだ!やつらは遊びで片づけられる相手じゃない!」

 

 

ハーゴンの制止も聞こえていないのか、サマンサはくるくると回転し始めた。

これが彼女の呪文の発動のための仕草なのか。冗談にしか見えなかった。

オークたちはそんな相手だからと遠慮するような魔物ではない。好機とばかりに

勢いをつけて突進してきた。ハーゴンも慌てて呪文の詠唱を始めた。

 

(・・・!まずい、僅かに遅れる!このままでは間に合わん!)

 

 

「よーし!じゅんびかんりょー!まずはこれから・・・くらえ―――っ!」

 

緊迫するハーゴンを尻目に気の抜けるような声でサマンサは人差し指を突き出した。

赤く光ったので、小さな火の玉でも出るのだろうと対峙するオークもハーゴンも

予想ができた。おそらくはギラだろうがその程度ではオークは倒せない。

 

ところがその予想は間違っていた。炎はみるみる大きくなっていき、気がつくと

大きな火の玉となって近くにいたオークをその熱だけで焼き殺してしまった。

 

「・・・・・・!!そ、その魔法は!もはやこの時代では失われたはずの・・・!」

 

ハーゴンは我が目を疑い、残ったオークは一目散に逃げ始めた。サマンサは

そのオークに向かって全く力を入れないまま炎の球体を飛ばした。

それが着弾すると一瞬で猪の体は燃え盛り、丸焼きになるどころか

骨も皮も残らなかった。まるで何もなくなってしまうほどの炎だった。

 

 

(・・・サマンサ、彼女は・・・・・・!こんな魔法使いは今まで知らない!

 少なくともいまの世代で彼女より上である者はだれもいない!そして

 あれほどの魔法を使った後も何事もなかったかのように・・・・・・。

 ふふふ、このハーゴンも愛と憐れみの『光』と裁きと暴虐の『闇』の二つの顔を

 持つと言われるが・・・彼女に比べたら何と可愛らしいことか!)

 

 

「どう?がんばっておべんきょうしたんだよ?わたしの魔法、うまかった?」

 

「あ、ああ・・・・・・。見事だった。確かにわたしの出る幕はなかった」

 

「ウオッカはずっと旅をしてきたからつかれてるでしょ?だからやすんでいていいよ。

 それにあなた、いいひとだけどあまりつよそうじゃないしね!」

 

「な・・・・・・!」

 

サマンサがあはは、と笑っているとベラヌールの町の入口に到着した。ハーゴンは

アレンたちの気配を探知したが、精霊ルビスの加護を受けし者の反応はなかった。

つまり彼らはもう旅立ったということなので町に入っても問題はないのだが、

たったの一人の反応もないという結果は逆にハーゴンを惑わせた。

 

(・・・わたしの調子が悪いだけならいいのだが・・・確かに疲れは溜まっている。

 だがもしこの探知が当たっていたならば・・・わたしの呪いが失敗したということか!

 結局何も起こらず三人揃ってロンダルキアへ、という話なのか?いやいや、

 そんなはずはない。わたしがローレル王子の部屋に用意したあの呪いは・・・)

 

 

事がうまく運んでいないように思えたハーゴンに、そんなことは全く知らない

サマンサが近づいてくる。サマンサはそわそわとした様子だった。ここでハーゴンは

まだ彼女に大事な事柄をほとんど話していないことに気がついた。

 

「ねえウオッカ!この町なんだよね、おにいちゃんがわたしを呼んだのは」

 

「ん・・・ああ、でも彼がいるというわけではなくて・・・」

 

「・・・え?おにいちゃんはいないの?せっかくこれも持ってきたのに・・・」

 

サマンサが袋から取り出したのは、前回アーサーに伝えた呪文の秘密の研究の

続きだった。あれから後もサマンサは兄のために古代の書の解読を進めていた。

ハーゴンは試しにその中身を読んでみたが、しばらく黙ったまま眺め、

あまりの出来のよさにやがてぽつりと呟いた。

 

「・・・・・・君は天才だ。稀代の怪物だよ」

 

自分が褒められていると気がついたサマンサは子どものような満面の笑みを見せた。

 

「うれしいなぁ。おにいちゃん以外のひとにほめられたことがなかったんだ」

 

「・・・・・・そう、なのか?」

 

「うん。お城のひとたちはみんなわたしのことがきらいだし、ともだちもいないんだ」

 

 

彼女の不遇についてはハーゴンもある程度の知識はあったがまさかそこまで

孤立した立場に追い込まれているとは知らなかった。彼女をとても哀れに思い、

 

「・・・じゃあ・・・どうだろう、今日からわたしと友達になろう!実は

 わたしもそんなに友人は多くないんだ・・・・・・いいかな?」

 

「・・・いいよ!やったー!はじめてのともだち!おにいちゃんにもおしえなきゃ!」

 

「ははは・・・じゃあまずはいっしょに食事でも済ませてからそこへ向かおう。

 君をサマルトリアから連れてきた目的がそこにはあるからね。でもまずは

 お腹を満たしてからにしようじゃないか」

 

二人は食事をしながら他愛のない会話をしていた。二人ともそれを心から

楽しいと思えた。兄が旅立ってからそのような相手がおらず寂しい日々を

耐えていたサマンサだけではなく、ハーゴンにとっても自身の仲間や

しもべたちといるときとはまた違った、心が安らかになる時間だった。

 

だからこそ自分の素性を隠し、彼女を騙し続けていることに心が痛んだ。

だがここまできた以上最後まで押し通すしかないと考えていたところ、

食事を運んでいた店の者たちの話し声が聞こえてきた。

 

 

「・・・昨日の夜三人組のお客さんがいたでしょ?まだ若い外国の方たちで、

 格好いい男の人二人と美しい女の子が。今日になってそのうちの一人が

 ハーゴンの呪いとかで倒れて、宿屋で療養しているみたいね」

 

「ああ。すでに話は聞いている。男のうちのどちらかだったな。その彼を

 救うために残った二人が世界樹の葉を取りに船で出ていったんだと」

 

 

(おっ・・・!なんだ、わたしの企みは成功していたじゃないか。

 あとはこのサマンサを宿屋に向かわせるだけだが・・・うまくいくかな?

 もし失敗して大変なことになれば姿をくらましてしまおうとも思ったが

 友人になった以上そのような不誠実な裏切りはできなくなったな。さて・・・)

 

やがて二人は食事を終え、ハーゴンが呪いを仕込んでいた宿屋へと向かう。

 

「そうか、わかったよ、ウオッカ!その宿屋に・・・おにいちゃんが

 いるんだね!きっとわたしに会いたくて待っていてくれているんだね」

 

「・・・いや・・・さっきも言ったが彼はいないよ。彼は・・・そう、

 彼の大事な仲間が病に倒れて苦しんでいる。その者の世話を君に託したんだ。

 テンポイントはその者が君のことをとても愛しているのを知っている、

 だから君が行かなくちゃいけないんだ。その愛に応えてやってほしい」

 

「・・・・・・むずかしくてよくわかんないや。でもわたしにはわかるよ。

 わたしを愛してくれているのはこの世界でおにいちゃんだけなんだから

 おにいちゃんにもうすぐ会えるってことが!」

 

「・・・・・・・・・・」

 

ハーゴンはいよいよどうしたものかと思い悩んだ。彼女が呪いをかけたのは

アレンだ。サマンサが宿屋の部屋の扉を開いたときそこにいたのが愛する

アーサーではなく、記憶の片隅にも残っていなかったアレンだとしたら

彼女は失望し、あの常軌を逸した魔力でアレンとハーゴンを打ち倒しかねない。

 

 

「でもいまはちがうよね。わたしのだいじなひとがもうひとりふえたよ。

 ウオッカ、ありがとう。ここまで連れてきてくれて」

 

「・・・・・・ま、待てっ!実は・・・・・・!」

 

サマンサは宿の主人から教えられた部屋へ走り、ハーゴンの言葉も聞かずに

勢いよく開けた。あまりの激しさになんと扉は壊れてしまった。

そのままベッドに向かって突き進み、寝ている『彼』に飛び乗った。

 

 

 

「・・・ほら、やっぱりおにいちゃんだった!ウオッカがへんなことを言うから

 どうしたんだろうとおもったけれど・・・おにいちゃん、会いたかった!」

 

サマンサが抱きついているのは他でもないアーサーだった。頬をすり寄せて

喜びを爆発させる妹と、何が起きているのかわけもわからず唖然としている

アーサー。そして理解に困り固まっているのはハーゴンも同じだった。

 

 

(・・・馬鹿な!ローレルではなくテンポイントがここにいるだと!?ローレルが

 呪いのために倒れ残った二人が旅立つというわたしの計画が・・・・・・!

 いや、ひとまずいまはサマンサを思えばこれでよかったかもしれないが・・・なぜ!?)

 

やがてアーサーは部屋の入り口で突っ立っているハーゴンに気がついた。彼女は

視線を逸らそうとしたがもう遅く、彼に部屋に入ってくるように合図された。

 

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