ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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天才対天才の巻 (ベラヌール③)

ハーゴンの仕掛けた呪いをアレンの身代わりとして受けたアーサーのもとに、

彼の妹サマンサがやってきた。アレンとセリアが出発してまだ二時間も

たっていない。しかもサマンサは見慣れぬ少女を連れているのだ。

 

「サマンサ・・・よくここまで来たな。どうやって?そしてぼくが倒れたことも

 どうしてわかったんだ?」

 

「ふふふ・・・それはね、このウオッカがぜんぶおしえてくれたんだよ!

 おにいちゃんがすぐにわたしにきてほしいって言ってたって!紹介するよ、

 この子がウオッカ。わたしのはじめてのおともだち!」

 

アーサーに挨拶するように促され、ウオッカと名乗っていたハーゴンは

渋々前に出て軽く頭を下げた。状況の理解に追いついていない彼女は

一刻も早くこの部屋を出て頭を整理したかったのだがそうはいかず、

 

「おにいちゃん、だいじょうぶなの?たおれたって・・・」

 

「ん?ああ・・・もう平気さ。でもあともう一息ってところかな。そうだサマンサ、

 宿を出てしばらく西に行くと薬草の店があるからそこで上等の薬草を買ってきてくれ。

 ついでに何か果物でもあればうれしいかな・・・」

 

「わかった!じゃあ行ってきまーす!」

 

 

アーサーはサマンサを使いに出してしまった。これで部屋にはアーサーと

ハーゴンの二人きりだ。どうしたらいいのかわからずにひとまず水でも飲むかと

彼女が動いた瞬間、その首元には剣があった。アーサーの持つロトの剣だった。

 

「・・・・・・!!何をする!」

 

「・・・・・・・・・お前がただの女の子・・・いや、人間ですらないのは

 わかっている。お前・・・・・・ハーゴンだな?ぼくの命を奪いにきたか」

 

「ハ、ハーゴンだって!?わたしはウオッカ、サマンサから聞いただろう」

 

いきなり正体を見破られたハーゴンはどうにかこの場を切り抜けようとするが

アーサーは剣を納めようとはしない。すでに確信は揺るぎなかった。

 

「ふっ・・・そのウオッカという名前だよ。それが致命的だった。ローレシアで

 ぼくたちと戦った悪魔神官のトシフジ、その去り際の言葉を思い出したのさ。

 『力をつけなければ私やウオッカには勝てない』という言葉をね。誰のことかと

 いつも考えていたが・・・お前のもう一つの名前だったのだといまわかった!」

 

「ああ、そうか・・・彼女が言ったのか・・・それなら納得が・・・・・・」

 

 

アーサーはここでロトの剣に血がついていることに気がついた。まだ剣は

ハーゴンの肉を斬ってはいない。朝に吐血したアーサーだったがいまは

それも治まっている。その血はどうやら流されている途中のようで、

その出元を追うと、ハーゴンが鼻から出血していた。呼吸も乱れている。

 

「お前・・・その鼻血はどうした!しかも苦しそうだが・・・」

 

「・・・・・・これは持病だ。最近出てこないから油断していたんだが・・・

 ゼー・・・ゼー・・・少し休めばよくなるんだ・・・・・・。

 力を使う機会が続いていたからか・・・はぁ・・・ふぅ―――っ・・・」

 

苦しみだしたハーゴンを見てアーサーは剣を置いて彼女のために椅子と

冷たい水を用意した。ハーゴンはしばらくぐったりと座っていたが

やがて言葉通り症状は落ち着いて回復し、呼吸も安定していた。

 

 

「ふーっ・・・やはりまだ完調ではないということか・・・。失礼した。

 しかし君は何だ?見逃してもらって言うべきことではないのだが・・・

 仮にもわたしを倒すために二年以上も旅をしてきたのだろう?

 この絶好の機会を逸するとは・・・。今ならわたしを討ち取れたぞ?」

 

「いや、それを言うならお前のほうこそ真剣にぼくたちの命をとるつもりが

 あるのか?それに世界各地で情報を集めてもお前は謎だらけだ。その目的も

 真意もわからない。ぼくは余計に考える人間だからね、答えを得ずに

 殺してしまったら全ての謎は永遠に迷宮入りだ。いろいろ聞きたいんだ」

 

 

共にルプガナの町で祈祷師の二人から、相手に似ていると言われた者同士だ。

アーサーとハーゴンは探るようにしてその言葉の正しさを確かめようとした。

共に天才的な頭脳を持つ二人の言葉での戦いが始まった。

 

 

「ふむ・・・謎を知りたい、か。ならわたしも聞きたいことがある。わたしは

 ローレル王子に呪いをかけたはずだったが・・・まあ君が身代わりになったと

 いうことだろう。しかしその呪いの効果がもうないように見えるのだが」

 

「あまり重い呪いではなかったのだろう?少なくとも命まで奪うものでは

 なかった。それならぼくがサマンサに教わっていた呪文のなかに解呪の

 ものがあってね。勇者ロトの時代には使われていたものらしい」

 

サマンサがその呪文を復活させたと聞くとハーゴンはくすくすと笑い始めた。

 

「・・・なるほど。それなら頷ける。あの子は天才だ。確かにこの呪いは

 別の狙いがあってやったもの。だから命に影響のない強さでやった。

 君もどうしてわたしがこのタイミングでこれを仕掛け、しかもローレルに

 狙いを定めたか知りたいだろう。どうせ破綻した計画だ、教えてあげよう」

 

 

もしハーゴンと一対一になったのがアレンかセリアであったならばどう転んでも

このような展開にはならなかっただろう。宿屋であろうが構わずに激しい戦闘が

始まるほかにない。ハーゴンの真実を知るとしても、戦って死の寸前まで

追い込んでから吐かせようとしただろう。アーサーならではだった。

アーサーだからこそ、世界の誰もが名前は知りつつもその正体を理解していない

ハーゴンの真実に迫れたのだ。

 

 

「どこから話そうかな。友人の兄相手だ、何も隠すことはないだろう。

 とはいえあまり話が膨らみすぎても要点がわからなくなる、まずは

 百年前、野心に満ちた竜王が滅ぼされた後にわたしが立ち上がった

 ところから始めよう。竜王が死んでようやくわたしの時代が幕を開けたのだ」

 

「世界が平和になったと思われていた裏でもお前のような者が暗躍していたのか」

 

「ひとまずは基盤をつくり、準備から始めた。決して人が到達することのない

 ロンダルキアの地を聖地としてそこから支配をすることに決めた。わたしの

 目指す世界に賛同してくれる者たちもわたしのもとに多く集まっていよいよ

 本格的に事を始めようとしたのだが・・・さっきの鼻出血だよ。病に蝕まれた

 わたしは酷いときはずっと寝たきりで何もできなかった」

 

「・・・魔王のくせにそんなことがあるのか」

 

「このわたしは両親どちらのことも知らないが、魔物と人の間に生まれた

 モンスター人間!この種族は腕力、頭脳、体力においてずば抜けた怖ろしい

 怪物、まさに魔王となるにふさわしい者が生まれることもあれば体質の弱い

 普通の魔物以下の子が出ることも珍しくない。君たちが崇拝してやまない

 竜王殺しの勇者ブライアン、彼を暗殺したとされる竜王の娘、あれも

 実のところ戦闘能力に関しては何一つ見るべきところはなかったようだがね」

 

「なるほど、よくわかった。つまりお前は後者のほうだったということか」

 

痛いところを突かれたな、とハーゴンは舌を出して笑う。それを見たアーサーは

苦虫を嚙み潰したような顔になり、呆れたように両手を広げた。

 

「ちぇっ・・・そんなことだったらやはりさっき斬ってしまえばよかったかな。

 まさか悪霊の神々と接触を持つ邪教の総帥があんな簡単に倒せるだなんて

 思ってもみなかった。謎とか真相を明かしたいって悪い癖もよくなかった」

 

「ははは・・・!そうだね。わたしは敗れていただろう。せっかく数多くの

 呪文を持っていたところで全盛期に比べて体力が落ちて勘も鈍り、しかも

 発作の最中ときたら・・・君の勝利する確率はかなり高かった。とはいえ

 今からでも真っ向勝負を始めたら勝機は半々といったあたりか・・・どうする?」

 

「・・・そんな気はもう失せた。あの機会を逸した時点でもう流れは変わったよ。

 それより続きを聞きたいな。モンスター人間としていわば失敗作だった

 お前がまさに世界を支配しようとしたとき病に襲われたこと、それが

 今回アレンに呪いをかけようとした行為とどう繋がりがあるのか」

 

ロトの剣はすでに寝床の横に置き、すぐには手にできない場所にあった。

ハーゴンのほうに戦意が全くないので、万が一のための備えは必要ないと

アーサーは剣を後ろに置いて会話に集中することにしていた。それが功を奏し、

気を許したハーゴンから非常に重要な情報が飛び出してきた。

 

 

「そう、わたしが動けないのをいいことに、かつて仲間であったのに突然

 わたしを裏切った者たちがいた!彼らは自らのことを神と名乗り、

 わたしに代わって世界を支配する立場を欲した。彼らの力は強く、

 しかもわたしを人質としたためわたしに忠実なしもべたちも彼らに

 手が出せなかった。そして彼らはわたしの名を汚し続けた、それは

 君たちも知っての通りだ。破壊と殺戮をわたしの名の下に行い、

 自分たちは世から存在を隠す形で暗躍し続けていた・・・というわけだ」

 

「・・・!お前の言う『神』を名乗っているその『裏切り者たち』!それが

 噂の悪霊の神々というわけだったのか!そいつらもロンダルキアにいるのか」

 

「ああ。わたしとしてもどうしようもなかった。しかしここで事態は急変する!」

 

ハーゴンは立ち上がり、両手を高々と上げたかと思うと、右の人差し指で

アーサーを力強く指さした。少女のような外見には似合わぬ迫力だった。

 

「君たち、ロトの末裔たちの登場だ!打倒邪教のために立ち上がったと聞いて

 わたしの心は燃えた。彼らはわたしにとって救いとなると。必ずや厄介な

 あの者たちを打ち倒すだろう。そして全ての真実を知ったとき、このわたしと

 手を組んで共に未来を築いていけるのではないか・・・と」

 

「それでぼくたちの旅をこれまで妨害もせずに見逃してきたというのか。

 しかしいまになって呪いなんかを持ち出してきた理由は?」

 

「・・・状況は常に変わる。わたしの体調は回復してきた。試しに何回か下界に

 出てみてそれを確かめてみたが、問題なかった!これならばあと・・・

 十年程度あればわたしの時代が始まる。それまで待てばよいのだ」

 

「・・・それがルプガナの町や世界の各地でお前の見せた奇跡!」

 

アーサーは知らないが、つい昨日もハーゴンは彼の故郷で癒しの業を行った。

子どもが産めない身体のテスコ・ガビーの運命を変え、彼女の胎を開いたのだ。

ハーゴンの力が絶頂期を迎えたら確かに世界の頂点に立てるだろう。たとえ

モンスター人間としては失敗作だとしてもこの世の王となれるだろう。

 

 

「だからまあ・・・身勝手な話だが君たちが来られては困るということに

 なったんだ。君たちのことを観察してみたが、魔族と悪を心から憎む

 闘将ボーイのローレル、復讐に燃え、そのために生涯を捧げようという

 王女セリア・・・どうやら和睦なんて生ぬるい結末にはなりそうにもない」

 

「ふーん・・・それでいよいよお前は本性を露わにしたというのか。

 この呪いでぼくたちのうち最も力あるアレンを倒れさせることで

 旅を断念させようという魂胆だったんだな」

 

「・・・少し違うな。さっきも言ったように今回の呪いは手加減されたもの。

 放っておいてもそのうちよくなる。しかし世界樹の葉の噂まで流して

 君とセリア王女を二人旅させたい理由がわたしにはあった。その旅の

 結果、君たちは旅を中断することになるのだ。平和的なかたちでね」

 

「・・・・・・?まるで意味がわからない。要するに何がしたかったんだ?」

 

 

聡明なアーサーですら全く答えが浮かばない。するとハーゴンはまるで

劇場の役者のように大きな身振りをつけて語り始めた。その言葉にも

力が入っているようだった。

 

 

「そう、若き男女の二人旅・・・必ずや恋が芽生えるだろう!数々の危機や

 苦難を乗り越え世界樹の葉を手にしたとき、二人はもう結ばれている!」

 

「・・・・・・・・・は?」

 

「君は鈍いな。わたしは君とセリア王女を一つにしたかったのだ。それに何の

 意味があるかって?答えは簡単だ。君のような柔軟な人間なら彼女を

 説得できると思ったからだ。復讐だけに若き日々を費やすのはむなしい、と。

 これからはぼくたち二人、少しばかりそれを休んでもいいのではないかってね!

 やがて子どもが生まれたりとかすればもう打倒邪教の旅はしばらく中断だ。

 心が穏やかになった後のセリア王女ならば話し合いの余地もあるはずだろう」

 

一連の話の内容と彼女の動きにアーサーは苦笑いした。返す言葉が出てこない。

それでも何とか思いついた質問といえば、

 

「・・・アレンじゃだめだったのか?」

 

結果的に今そうなっている、アレンとセリアの二人旅ではいけないのかという点だ。

 

「彼か?だめに決まっているだろう。仮にあの二人が固い愛で結ばれたとしても

 わたしを倒す熱意が増すだけだ。将来を誓い合ったところで何をするにせよ

 まずは邪教を滅ぼしてから、その決意はますます揺らがないものとなる。

 彼らほどそれに固執していない君だからこそ・・・だったのだがね」

 

 

一通り語ったハーゴンは再び椅子に座り、水を一気に飲み干した。アーサーが

知りたかった今回の事件の真相はこれで全てのようだ。ハーゴンへの憎しみが

三人のうち最も強いセリアの態度を軟化させるために、一番使命感に薄いと

思われるアーサーを用いようとしたのだ。そのためにアレンを離す必要があった。

 

「しかしぼくの妹はどうして連れてきたんだ」

 

「・・・君たちが結ばれてしまったら一人残されてしまった彼がかわいそう

 だからね。その彼のために用意したつもりだったのだが・・・。君だって

 彼ならばサマンサを任せられると思うだろう?」

 

ハーゴンのやり方が残忍な邪神の神官という世間の評判とはまるで異なっている

うえに、人並み外れた知性のなかにどこか幼さが残るようなその策は、

アーサーが彼女相手の敵意を削がれていくのには十分だった。

 

「ふ――――っ・・・心底呆れたよ。とても世界を我が物にしようという

 魔王のやることじゃないな。向いていないよ、きみは」

 

「まあそう言わないでくれ。わたしとしても勇者ロトの子孫は殺したくないのでね。

 かつて大魔王ゾーマの時代、彼とその仲間の活躍をこの目で見ているだけでなく

 彼らにはいろいろと世話になった。恩を仇で返すわけにもいくまい」

 

「・・・・・・大魔王ゾーマの時代から!?ただの人間でない以上見た目通りの

 年齢ではないと思ってはいたけれど・・・そうか、ラダトームにいた

 キンツェム・・・彼女も長生きしているようだった。薄々彼女がラダトームの

 滅びに関わった『神の子の使い』だとは予測していたけれどね。あのときだって

 ぼくたちを除き去ることもできたはずなのにそうしなかった」

 

アーサーが思った以上にハーゴンは昔から存在しているようだ。しかも先祖である

勇者ロトと関わりがあるようで、これはもっと話をしてみたいと思うようになった。

どうせ互いに戦う気はもう完全になくなっている。時間もたっぷりとあるのだ。

 

 

「ふふ、とはいえいくらロトの子孫とはいえ裁きに値すると判断したら

 遠慮はしない、そこを勘違いされては困る。まあ君に関してはそんな心配も

 していないし、サマンサと友人になったいま君には危害を加えられないな」

 

「友人・・・か。あいつも言っていたけれど、生まれてから初めての友だちだ。

 そこのところは素直に感謝したい。さっききみをロトの剣で討ち取るのを

 躊躇わせたのもそこにあるのかもしれないな。たとえあいつをここに

 連れてくるための方便だとしても・・・」

 

「方便?そんな不誠実なことをするものか。わたしは実は彼女とはちょっとした

 縁があってね。彼女と出会うずっと昔から続いていたものなんだ。だから

 彼女にもまた幸せを得てもらおうと願っていたわけで」

 

「・・・気になる言い方だな。どういうわけなんだ?」

 

ハーゴンの言葉が引っかかったアーサーはそこに食いついたが、これまで

何でも話していた彼女の様子が変わり、両手を目の前で交差させながら、

 

「それは話せないな。彼女を置いて旅に出て寂しい思いをさせている上にいずれは

 国を捨てて自由の身になってしまおうなどと考えている男には」

 

「・・・驚いた。そこまで知っているとはさすがは『神の子』とか呼ばれている

 だけある。しかしサマンサを旅に同行させなかったのはしっかりとした

 理由があるのだからただ非難されるのもいい気分にはならないな」

 

「サマンサがただの足手まといであれば論ずるまでもない。しかし彼女は天才だ。

 もし彼女を含めたロトの末裔四人で旅をしたならば誰も手がつけられなくなる

 圧巻の進撃を見せてくれただろうに。あの素質に加え身体もなかなか頑丈だ。

 危険だからとかいう理由は当てはまらない、わたしはそう思うのだが」

 

「・・・・・・確かに実力は申し分ないさ。ぼくもそれはわかっていた。でもぼくは

 あいつに血を流させたくなかった。数え切れないほどの魔物に加え、時には

 人間すらこの手で殺害する必要だってあると予想し、実際その通りだった。

 ぼくですら剣や炎によって奪った命、地面に流れる血を思っては打ちのめされる

 毎日だ。アレンたちのように強い心を持っていればよかったのだろうけど。

 とにかく、サマンサには余計な重荷を背負わせたくなかったんだ」

 

 

それを聞くとハーゴンの表情は柔らかくなった。アーサーの人間性を更に理解したからだ。

 

「・・・君のその気持ちは決して失ってはいけないものだ。大切にするといい。

 君はわたしの話を聞いてわたしのことを魔王には向いていないと言ったがわたしは

 そうではない、君はむしろ誰よりも勇者にふさわしいと認めようではないか。

 人間だけでなく違う種族の者たちのことまで考え、できれば和解の道を歩みたい

 というその思い・・・全ての生きる者が君のようであればとうの昔に人間同士の

 戦争はもちろん、人と魔族の戦いにも終止符が打たれていただろうに」

 

相手が邪教の総帥であろうが、裏のない心からの称賛を受けてアーサーは悪い気分では

なかった。しかし、彼を持ち上げる発言をして置いてすぐにハーゴンはまたしても

声色を変え、糾弾するかのような言い方になった。

 

 

「だからこそ君に関して見過ごせないのはやはり君の妹サマンサのことだ!

 なぜサマンサの愛に応えない?彼女の気持ちに背を向けるような不誠実な

 行為を続けるのか!君は大きな罪を犯そうとしている!」

 

「・・・・・・よく言うよ。きみはサマンサとアレンを結ぼうとしていたくせに」

 

「最初はそうだった。でもサマンサと短い時間ではあったが旅をしているうちに

 それは無理だと悟った。彼女はほんとうに君の話ばかりをする。彼女にとって

 君以外の人間など何の興味もないどうでもいい者たちばかりなのだろう。

 ローレル・・・いや、わたしもアレンと呼ばせてもらおう。君とセリア王女が

 共になりアレンが寂しい思いをしたとしても彼を癒してくれる女性など

 海の砂の数のようだ。しかしサマンサを幸せにできるのはただ一人だけだ!」

 

「・・・ぼくとあいつは兄妹だ。結婚して子を残すことすら恋仲にだって・・・」

 

 

 

「・・・・・・なれるよ!!わたしたちは恋人に、そして夫婦に!」

 

突然の大きな声に部屋の二人は驚きながらそちらを見ると、お使いを終えた

サマンサが戻ってきていた。彼女がどこから話を聞いていたかはわからないが

彼女がいつも発している緩やかな気配はなく、アーサーと自分がどうあっても

結ばれないということに真っ向から立ち向かう気迫に満ちていた。

 

「・・・・・・サマンサ、一回落ち着け・・・と言ってもだめみたいだな。

 サマンサ、それは無理だ。だってぼくたちは・・・」

 

 

「おにいちゃん、わたしは知っているんだよ!わたしとおにいちゃんが

 ほんとうの兄妹じゃないことはもうずっと前に!なのにどうしてそんな

 酷いことを言うの!?おにいちゃんだってわかっていたはずなのに・・・!!」

 

 

これまでこの世で最も知恵に満ちた賢い者を相手にしながら打ち負かされることなく

話を続けてきたアーサーだったが、サマンサの言葉に激しい衝撃を受けた。

力自慢の『ヒババンゴ』や『首狩り族』といった魔物の攻撃をもろにくらってしまった

そのとき以上の痛恨の一撃をアーサーは妹から与えられたのだ。ずっと隠し通せていると

確信していた重大な真実はとうの昔にサマンサには筒抜けだったのだ。

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