ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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こもれ陽の巻 (マルゼンスキー①)

アーサーとサマンサは実の兄妹ではなかった。アーサーはそれを生涯サマンサには

告げないつもりでいたが、妹のほうはすでに真実にたどり着いてしまっていた。

打ちのめされたアーサーだったが、すぐに顔を上げ、興奮状態のサマンサを見る。

 

「・・・・・・そうか・・・・・・わかっていたのか。ぼくたちが血の繋がりのない

 他人同士だということはお前にとってあまりにも残酷だと思い事実を伏していた。

 なるほど・・・それであんなにぼくに迫っていたということか。実の兄妹では

 結婚できないことくらいお前もわかっていた。そうではないとわかった以上

 兄妹という関係ではなくまた別の、それ以上を求めたのだと・・・」

 

「おにいちゃん、わたしは怒ってないよ。わたしのために黙っていてくれたんだもん。

 わたしも初めてわかったときはとてもつらかった。でもすぐにうれしくなったんだ、

 これでおにいちゃんと結婚していっぱい子どもを産むことができるって!だから

 ほんとうのお父さんもお母さんもわからないわたしにとっておにいちゃんが

 ただ一人、わたしのほんとうの家族になってほしいな・・・」

 

アーサーはいまだに沈んだままだった。するとここにハーゴンが割り込んできた。

 

「ふふ、血の繋がりがないとはよく言ったもの。まあ同じ親を持つ兄妹ほど

 血は濃くないから結ばれることには支障はないが、だからといって彼女の

 血統について君ほどの男が何も知らないはずがあるまい、なあ、テンポイント。

 もっとも君ですらそれに関しては全てを理解していることはないのだから

 足りない知識で伝えられるより結果としてはよかったのかもしれないがね」

 

「・・・!!ハーゴン!きみはそこまで知っているのか!なぜ・・・!」

 

「さっき言っただろう、わたしはサマンサと縁があると。わたしを軽んじては

 いけない。わたしはハーゴン、やがてこの世界の王となるからだ。どうせ君は

 このこともサマンサに告げないつもりだったのだろう。きみが言わないのなら

 わたしが代わって彼女に教えてやろう!サマンサ、今からわたしが言う言葉に

 しっかりと耳を傾けるんだ。よーく聞いているんだぞ」

 

「わ、わかった。ウオッカ、その秘密を教えて」

 

サマンサは真剣な顔つきになって椅子に座った。ハーゴンは彼女だけでなく

アーサーにも語りかけるようにしてその物語を話し始めた。サマンサが兄に頼まれ

買ってきた薬草と果物は部屋の隅に放り捨てられていたままだった。

 

 

 

 

 

サマルトリアのサマンサに関する歴史を語るのであれば、まずは百年前のラダトームから

始めなければならない、とハーゴンは言った。野心に満ちた侵略者竜王を倒した

勇者ブライアンは妻となったローラ姫を連れてアレフガルドから船で去っていき、

彼らのたどり着いた新たな地こそがローレシア、つまりアレンやアーサー、セリアという

ロトの血が流れる末裔たちの始まりの地だ。勇者ロト伝説の舞台は移ったのだ。

しかし、実はアレフガルドにもロトの血は残っていた。それも正統な血統が。

 

 

ラダトームのどこにでもいる町娘アマゾン。このアマゾンは幼いときからブライアンと

接していて、彼への密かな想いを抱いていたのだがついに何の進展もないまま

ブライアンが明日にはこの地を去るという夜に彼女は最後にその愛を打ち明けた。

 

『ブライアン、もし私を少しでも哀れに思ってくれるのなら・・・・・・私と寝て』

 

 

ずっと彼女の思いに気がつかずにいた自分の愚かさを悔やみ、せめて一夜限りでも

アマゾンの愛に応えなければならないと彼女を抱きしめたブライアン。

彼の人生、最初で最後の大きな罪だった。この出来事はブライアンがこの世を去る

その日まで、アマゾン、そして妻となったローラへ良心の痛みを抱かせる

ものとなったが、竜王殺しの勇者とラダトームの町娘の一度きりの愛情の行為、

美しく情熱的で、そして哀しい夜のことは現在に至るまで何者にも知られていない。

 

 

ところが、アマゾンが自らの恋を諦め終止符を打つための行動だったというのに

事はそれで終わらなかった。数か月後、たった一度の交わりによって彼女は

妊娠していた。やがてその腹は誰の目にも明らかになるほど大きくなるだろう。

 

『・・・私なんか死んで当然。ルビス様によって一つとなったあの二人の間に

 一瞬とはいえ割って入ったのだからどんな裁きも受けいれる。でも・・・

 この子には私の罪は関係ない。なら私のすべきことは・・・!』

 

アマゾンは当時のラダトームの王から幾度となく好意を示されていたがブライアンへの

思いを生涯貫こうという決意から退け続けていた。もしその自分がブライアンの子を

宿していると知ったら、近頃民の一部を虐げ始めている王が怒りに身を任せて

胎児もろとも八つ裂きにしてくることも想像に難くない。彼女は町を出ていった。

 

身重の身体でありながら主要な都市ではない小さな村を探して、ラダトームから

身を隠すように出産し、親子二人で生きていく決断のもと旅を始め、彼女が

望んでいた絶好の条件に当てはまる村を見つけてからわずか十日後に男児が

産まれた。彼女にとっての悲願、唯一愛する男ブライアンとの夢の結晶は

『フライト』と名付けられた。しかし風の噂では、ラダトームの王の命令により

失踪した自分を探すためアレフガルド全土に兵士たちが遣わされているという。

現にほんの少し離れた集落で兵士たちを見たという情報もあった。

 

 

『・・・・・・フライトはまだ一歳にもなっていない。いまここから逃げようと

 過酷な旅をするなら必ず死んでしまう。どうしていまだに私なんかを・・・!

 王様だったらいくらでも他に相手なんているでしょうに・・・』

 

 

ラダトームのラルス王の執着心に恨み言が出た。しかしアマゾンは知らないことだが、

彼女の捜索は王の独断によるものではない。実のところ王はもう諦めていた。

王を動かしたのは精霊ルビスを崇拝する聖職者たちで、彼らの主張によると、

夢による預言があり、アマゾンはルビスに対し、またルビスが特別な祝福を与えた

ブライアンとローラに対しても許されない大罪を犯したと告げられたとのことだ。

 

信仰心に薄い王は彼らの言う言葉を半分も信じていなかったが、アマゾンを見つけて

連れてきてくれるのならまあいいかと彼らに聞き従い捜索の許可を与えた。

彼らが重い罰を求めたとしても王である自分の権力でそれを拒めばいい。救いの手を

差し伸べた自分に彼女が考えを改め妻になってくれるかもという期待もあったのだ。

 

しかしルビスの熱心な信者たちは王に約束した事柄とは異なり、彼女を見つけ次第

その場で裁きを与えることを決めていた。夢の幻によってアマゾンの罪を知らせた

精霊ルビスは、アマゾンがどのような罪を犯したかということも教えていた。

位の高い一部の者たちだけが全容を理解し、アマゾンの命はもちろんのこと

ブライアンとの子までも『なかったこと』にするために動き始めた。

 

 

アマゾンがブライアンと激しく愛し合った夜には、当然まだブライアンはローラ姫と

正式な結婚に至っていない。もちろん共に寝たりもしていない。よって、勇者ロトの

正統な血統、つまりブライアンにとっての長子はフライトだったのだ。やがて

ローレシアの地で生まれるローレルをはじめとした三人の子どもたちより数年先に

フライトは誕生しており、その存在はルビスにとって除き去りたいものだった。

 

ルビスは勇者ロトの生まれ変わりであるブライアン、そして自らに生き写しの

ローラを祝福し、この二人の子孫こそ新たなる世の始祖となると定めたので、

信者たちを動かし、フライトの存在を無にするために全土に散らせた。

 

『・・・確かにあの子どもに罪はありません。ですがその血は必ずや後になって

 災厄をもたらすでしょう。ロトの血が知らないところで継がれていくことは

 世を分断することになりかねないのですから、大樹はただ一本であるべき。

 さあ、行って災いの枝を刈り取り、花も実も結ばないようにするのです』

 

 

そしてフライトがちょうど一歳となったその日、アマゾンの村にもとうとう

ラダトームの兵士たち、そしてルビスの信者、それも神官や祭司といった

高い地位にいる者たちがやってきた。村の人々はアマゾンの正体を知らないが、

ルビスによって力を与えられた者たちであれば彼女がいかに白を切ろうが

ごまかすことはできないだろう。窮地に追い込まれた。

 

『失礼する!この村にはいないか!とんでもない罪人の女、アマゾンは!』

 

『・・・・・・さあ、そのような名前は全く・・・・・・』

 

『ん・・・ちょっと待て。女、その顔をもっとよく見せろ。こっちにこい!』

 

フライトは箪笥のなかに隠しているが自分が捕まってしまえばこの家じゅうが

捜索され、もし見つからなかったとしても家ごと焼き払われてしまう。

もはやこれまでと彼女は一か八か、大人数相手に戦うしかないと思った。

愛するブライアンとの旅の間に覚えた呪文ベギラマを久々に使う時が来た。

しかし怪しい動きをすれば気づかれてしまうため詠唱も難しい。いよいよ

自分の犯した罪への裁きか・・・諦めの気持ちが過ぎったが、

 

 

『む・・・!?いや、これは失礼!とんだ人違いだったようで・・・!』

 

『おい、祭司長様たちが言っていたぞ!この村からは全くその気配はないと。

 金目当てに誰かが出まかせの嘘を流したんだ!くそ、撤退だ。婦人よ、

 気分を害されただろう、申し訳ないことをした』

 

『・・・・・・え・・・は、はぁ・・・』

 

 

なんとラダトームからの一団は寸前までアマゾンに迫りながらどうしたわけか

ここには探し求めていた者はいないと決めつけて去っていってしまった。

当然喜ぶべきことなのだが、あまりの不自然さにアマゾンは呆気にとられた。

 

『助かった・・・ってことよね。でも・・・普通じゃなかった!どんな力が

 私とフライトを助けてくれたというのかしら・・・?』

 

アマゾンは知るわけもなかった。精霊ルビスの導きによって村にやってきた

男たちを惑わしてしまうほどの力を持つ、ルビスに対抗できる存在を。

その名はハーゴン、まだ人々には全く知られていない無名の存在だった。

 

 

 

『・・・これでよし、か。本来わたしたちが手出しするようなことではないのだが

 どうしても見過ごすことはできなかったのでね。君たちにも世話をかけるな』

 

『いいえ、構いませんよ、ハーゴン様!私もあのルビスは昔から気に食わない。

 これからあなた様が世界を支配するときにも必ずや邪魔をしてくるでしょう。

 ですからいまのうちに私たちの強さを見せつけてやるのもいいかと。なあポリー』

 

『私もキンツェムと同じです。世界の末永き幸福とか穏やかな世界を目指すとかを

 理由に罪のない人を殺したり人の運命まで操作しようとするそのやり方、私は

 決して許せません。戦うのは好きではありませんが私も今回は仲間に加えてください!』

 

二人のしもべ、キンツェムとプリティー・ポリーもハーゴンに賛同し、主を喜ばせた。

その後ろからトシフジ、つまりハーゴンが生まれたときから彼女と共にいる者も

やってきて、やはりその支えとなることを約束した。

 

『たとえ相手が人々から賛美され高められる精霊だとしても、あなたは正しい行いを

 している、そのことに変わりはない。だから胸を張り堂々としていなさい。

 やがてあなたが王となるとき、キンツェムの言う通りルビスは絶対に私たちの

 障害となるでしょう。だからいまのうちに思い知らせてやりなさい!全てが

 ルビスの思惑のまま世界が動いていくなどということはない、その事実を!』

 

『・・・トシフジ・・・ありがとう。ならば始めよう、前哨戦だ!』

 

 

こうして数十年間に及ぶ、人間の世界には決して明らかにならない戦いが始まった。

ルビス側の狙いは後に必ずや世に災いをもたらすであろう、隠れた勇者ロトの血の排除、

ハーゴンと仲間たちは逆にその血統を守ることが目的だった。またハーゴンとしては、

ここでルビスを負かすことができれば後々非常に事がやりやすくなるというところまで

考えていた。それはまさに世界の誰もがハーゴンの名について知ったときのことだ。

 

その数十年の最初のほうでラダトームの町娘アマゾンはまだ若いうちに病によって

静かにその生涯を閉じた。彼女にとって幸福だったのは、一人息子である

フライトはすでに一人で生きていけるように成長していたこと、また唯一愛した男

ブライアンの死よりも遅れた最期であったにも関わらず、周辺との関わりも薄い

小さな田舎の村にいたために彼の死を耳にすることなく墓に入れたことだろう。

 

フライトもまた決して順風満帆な人生ではなく短命だったが、それでも確かに

子を残し、いまだ勇者ブライアンの真の後継となるべき血は生きていた。

やがて女の子がフライトの子の娘として生まれ、成人前にとある貴族の妻となった。

彼女もやはり短い生涯であったが、一人娘を産んでからこの世を去っていった。

 

 

さて、その貴族の名は『マルゼンスキー』卿。妻に先立たれこの日はまだ産まれた

ばかりの娘と二人屋敷の庭にいたのだが、突然外から獰猛な獣の魔物が侵入し、

従者たちを次々と殺害するとついにはマルゼンスキー卿の喉元をも食いちぎった。

 

『・・・が、がは・・・・・・む・・・娘よ・・・』

 

『グルラァ―――――ッ!!グロ―――――ッ!!』

 

声にならない断末魔の最中に首から上を噛み砕かれ、彼は絶命した。あとは

無力な乳飲み子のみが残されていた。野獣に抵抗する術のない赤子では

もはや餌食になる以外に道はないものと誰もが思うだろう。ところが魔物は

赤子のそばに近づいてからしばらくすると、やがて急に落ち着いたかと思うと

背を向けたままどこかへと去っていき、二度と戻っては来なかった。

 

その突然の変化は、まるでラダトームの一団が名も無き村から帰っていった

そのときと同じものだった。そしてこの事件を最後に精霊ルビスは完全に

ブライアンが密かに残した血統から手を引いた。その生き残った赤子こそが

マルゼンスキー卿の娘、もはやいまとなってはどのような名であったかは

わからないが、彼女はマルゼンスキーと付き合いのあったサマルトリアの王に

引き取られ、養子とされた。ついにロトの血は引き寄せられるかのように集結した!

 

 

 

 

歴史の生き証人、そしてこの出来事に大きく関わったハーゴンの言葉を聞き、

サマルトリアの兄妹は共に驚きを隠せずにいたが、その理由は大きく違った。

 

「・・・わたしの・・・おとうさんの名前は・・・マルゼンスキー・・・」

 

「ああ、そしてテンポイントと同じく祖先にはラダトームのブライアンがいるんだ。

 テンポイント、君はすでにそれを知っていたはずではないのかな?サマンサが

 サマルトリアに来た当時は君もまだ幼かった。だが成長してから真実を知ろうと

 独自に調べ上げ、彼女のルーツは理解していただろうにその驚き方は・・・?」

 

「きみの話には決定的な捏造がある!ルビス様がそんなことをするものか!

 人の命と血統を選別して、選ばれなかったほうは根絶やしにするなんて・・・!」

 

「・・・信じられないのも無理はないだろうな。君たちが崇拝する精霊が

 そのような暴挙を犯していたなどと・・・しかしこれが真実だ!今も

 運命や未来を意のままに操り世界を己の望む姿に形作ろうとしている者の!」

 

「きさま~・・・。これ以上はこのぼくですら我慢できないぞ!」

 

 

心を惑わす嘘であると譲らないアーサーと発言を撤回する気のないハーゴンの

睨み合いが始まりかけた。しかし一触即発の空気を変えたのはこの二人が

どちらも大切にしているサマンサだった。一つ間違えたら戦いが始まりかねないのを

知ってか知らずか、二人の間に入り、いつも通りの顔でのんびりと言う。

 

「じゃあわたしのこのアザがおにいちゃんとお揃いなのもそういうわけだったんだね」

 

サマンサにも勇者ロトの子孫、それも数代に一人しかいないとされる力ある者の

証しであるアザがあった。アレンにもセリアにもある、選ばれし者の証明だ。

 

ところがよく見ると、アレンは青、セリアは赤、アーサーは黄色か緑に映る

このアザが、サマンサのものは異様にどす黒く、ハーゴンすらも口を押さえた。

ここでアーサーはセリアに向かって床に散らばっていた果物を指さすと、

 

「・・・ずっと話をしていてちょっと疲れたな。サマンサ、そこの果物を

 二つか三つ、外で洗ってきてくれないかな。できれば食べやすいように

 切り分けてくれるととてもうれしいんだけど・・・」

 

「わかった!おいしくなるようにがんばってあらってくる!」

 

「ナイフを使う時は手に気をつけるんだぞ・・・」

 

彼女らしく勢いよく部屋から出ていったが、ハーゴンにはわかった。アーサーは

これから何かを自分に話そうとしているが、ここにサマンサがいてはいけないのだと。

 

 

「・・・サマンサのアザが関係あるようだね。わたしもあのようなものを

 見たのは初めてだ。あれは・・・?」

 

「・・・・・・ルビス様は災厄や混乱を避けるためにラダトームの町娘アマゾンから

 マルゼンスキーの娘・・・つまりサマンサに至るまでの血をどうにかして

 絶やそうとした・・・だったな。その話、よく考えれば信じることができる」

 

「・・・サマンサが何か災いをもたらしたというのか」

 

 

今度はアーサーが語り始めた。サマルトリアに赤子が引き取られた後のことを。

 

「・・・実はあいつが城に来たその日・・・ぼくの弟か妹か・・・城の賢者は

 おそらく妹になると言っていたが・・・もうすぐ出産を控えていたぼくの母、

 そしてお腹のなかの子どもが突然死んだ!ほんとうに僅かな時間の出来事だった。

 原因はいまだにわかっていない。病でも他殺でもない、突然死だ」

 

「・・・!?」

 

「父はひどく悲しんだが考えた末にサマンサは実の子どもだということにした。

 妻が命と引き換えに産んだ、正統な王女だとしたんだ。サマンサが外から

 もらわれてきたというのは城のなかでもごく一部の人間しか知らないことだ。

 そしてこれから確かにサマルトリアにとって暗黒の日々は続いたんだ」

 

アーサーはまだ自身が幼かった日々の出来事を語る。サマンサがやってきて

一週間後、今度は町を中心に病が流行した。どうにか致命的な事態になる前に

終息したが、抵抗力の弱かった子どもたちが大勢命を落とした。またそれから

四十日後、サマルトリアの貿易船が海賊の襲撃を受け多額の金を失ったり、

本来なら何でもないはずの訓練で急激な悪天候のせいで兵士の一団が全滅し、

一時的にローレシアに守ってもらうためにやはり多くの金を支払うことになった。

 

サマルトリアがいまだにローレシアに劣っているのはこのわずかな期間に

次々と襲ってきた災厄が原因であり、これさえなければいま二国の関係は

どうなっていたかはわからないとする知識人たちも多かった。

 

 

「昔から言い伝えはあったんだ。勇者ロトの血がむやみやたらに広がるならば

 必ず悪い事柄が起きると。だからロトもその子孫たちも一人だけの妻を持ち、

 子どもも最低限しかもうけなかった。まさに三人が限界だ。しかも今回は

 あらぬところからの・・・ルビス様はこの事態を恐れていたんだ」

 

「・・・あのアザを見ていると偶然やこじつけではないとわかるよ」

 

 

口にはしないが実のところハーゴンもその災厄が身に降りかかった一人だった。

呪われし血統に深く首を突っ込んだせいで彼女の計画は大きく狂った。数十年に及ぶ

ルビスの軍勢との戦いがハーゴンに鼻血による呼吸困難という持病を煩わせ、

その病のせいで思うように動けなくなったハーゴンの座を狙う者が内部から出てきた。

それが彼女の言う『神を名乗る者』たち、悪霊の神々であった。

 

しかしハーゴンは黙っていることにした。この病の責任をサマンサに押しつけたくは

なかったからだ。あくまで自分の意志でルビスと戦い、全てを知らなかったがために

身に災いを被った。だがそれは誰のせいでもない。サマンサや彼女の先祖、さらには

ルビスのせいでもないのだ。だからただ話を聞いているだけだった。

 

 

「しかし彼女がサマルトリアに引き取られてからのことはよく知らなかった。

 どうやら頭に病気があるようだが・・・あれは生まれつきのものだったのか?」

 

「・・・・・・ああ・・・原因も治し方も全くわからない。五歳か六歳程度の

 精神だ。身体だけならきみよりもはるかに大人だというのに・・・」

 

「一言余計だ!賢い君らしくもない・・・。まあでもその言葉は正しいか。

 彼女とわたしは正反対だ。わたしはこう見えて君たちが想像もできないほどの

 年月を生きているのだから。とにかくいまはわたしの話ではない。

 サマンサのことだ。どうやらその病気のせいであまり人々の評判は

 よくなかったように思えたが・・・」

 

「・・・よくないなんてものじゃない。そんな評判程度ならどれほどよかったか。

 あいつはこれまでずっと苦しめられてきた。もしきみの話通り『災厄』が

 あるとしたなら・・・あいつが味わってきたことがまさにそれだ!」

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