ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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涙の向こうにの巻 (マルゼンスキー②)

マルゼンスキー家よりサマルトリア王国に引き取られ、養子でありながら

そのときの状況のために王の実の子、王子テンポイントの実の妹ということに

され、サマンサという名を与えられた娘―。しかし幸福とは程遠い生涯だった。

 

彼女に流れているのは呪いの血、精霊ルビスが除き去ろうとしたほどの災厄を

もたらすと言われる、残されてはいけない勇者ブライアンの隠れた血。

サマルトリアに引き取られたことはサマンサにとって不幸だった。その言い伝えを

何も知らない、勇者ロトと無縁の者に育てられていたならば・・・。

 

 

サマンサがサマルトリアに来てから立て続けに起こった災いの数々、王や

重臣たちは彼女がもたらしたものだと理解し、旧友の遺した子であったが

彼女を引き取ったことを後悔し始め、

 

『・・・殺してしまおうか。どうにかうまく事故に見せかけて・・・』

 

『それはいけません。すでに民にも王自らの子であると公に宣言した

 ばかりではありませんか。それにいかに正統な血でないとはいえ、

 勇者ロトの血が流れる者を手にかけたとなれば更なる災厄が

 襲いかかると言われていることを王もご存じでしょう!』

 

『ムムム・・・!』

 

サマンサを殺害することまで考えたが結局それはとどめられた。しかしそれ以降

彼女はとても王の娘とは思えぬほど人々から憎しみの目を向けられ、また

待遇も仮に養子としての扱いであると考えても酷いもので、王をはじめとした

城の者たちから厄介な腫れ物であるかのような視線や、ときには直接的な

言葉もあった。彼女はまだ幼いからわかるはずはないと考えていたのだ。

 

そのような嫌がらせはしばらく続いていたが、ある時を境にそれは止み、

むしろ人々はサマンサにできる限り触れないようになった。なぜなら、

彼女は化物だったからだ。

 

 

『・・・これは・・・!いったい誰が!この焼け跡は・・・・・・!!』

 

『それは・・・』

 

 

城の中庭が大規模な火災の後であるかのような有り様だった。しかしそれが

本物の炎ではなく呪文によって起こされたものであることを人々は匂いで

わかっている。それもギラ程度による炎ではなく、更に上の威力の魔法だ。

本来ギラの呪文すら使える者は少ないのだが、その炎の主はというと、

 

『・・・サマンサだと!?あれがやったというのか!お、恐ろしい・・・!』

 

なんとまだ五歳にも満たないサマンサがやったのだ。なぜ彼女がこの行為に

及んだのかはわかっていない。単なる気まぐれだったのかもしれないし、

冷たく接していた人々がこれを見て褒めてくれると思ったかもしれない。

 

しかし膨大な魔力が宿っていた彼女に人々が抱いた感情は、歓びや希望

ではなく、恐怖だった。まさか勇者ロトの子孫で力に満たされた者が

生まれたときから皆に期待されていた王子テンポイントではなくこの

サマンサであったとは。そのあまりに大きな力を人々は世界を救う力だと

認識することはなく、一国を滅ぼしかねない怖ろしいものだとして彼女を

これまでよりますます部屋から出さずに隔離し、魔法を教えようともしなかった。

 

そんななかで彼女の素質に目を留め、これは素晴らしい大物だと思ったのは、

兄であるテンポイント、つまりアーサーだけだった。自らよりもずっと

高い才能と底知れない魔力を持つ彼女を高く評価していた。力を競う武術大会に

参加させその名を周辺のローレシアやムーンブルクといった国にも広めたいと

考えたが、その提案は父たちによって一蹴された。このときすでにサマンサの脳に

異常があることがわかっていたので、何か問題を起こすかもしれないというのが

その理由だったが、どこかで彼女がほんとうの子ではないことが発覚するのを

嫌がり、なるべくサマンサを外に出したくなかったのだ。

 

 

『賞金や賞品なんかいらないんだ。対戦の組み合わせだって一番不利な大外に

 したってかまわない。とにかくあいつを大会に出してやってほしい。

 そうすればあのローレル王子やその弟たち、またセリア王女と比べたって

 誰が一番強いかわかる。あいつの不遇の時代も終わるんだ』

 

哀れマルゼンスキー家最後の娘。もし僅かに生まれた時代と境遇が違えば

きっとお前が世界を救う勇者となっていたかもしれない。そのあまりの強さが、

また外から持ち込まれた血であることが彼女の道を閉ざしたのだ。

 

 

 

「・・・そんななかでテンポイント、君だけが彼女のそばに居続けた・・・その意味は?」

 

「放っておけなかっただけだよ。運命とか血統とかで差別されているのが

 気に入らなかった。ぼくだけでも味方になってやりたかったんだけどそれが

 まずかった。あまりにもぼくに依存するようになってしまって・・・。でも

 ぼくがいなくなることであいつが認められる時代が来る!その力もないのに

 期待だけを集めたこのテンポイントがいなくなることでサマンサは・・・」

 

 

アーサーが熱く語り始めたがそのタイミングが最悪だった。自身がそのうち

サマルトリアから姿を消すという計画を聞かれてはいけないその者がすでに

部屋に戻ってきていたからだ。どこから聞いていたのか知らないが、

 

 

「・・・そんな・・・・・・おにいちゃん・・・どうして・・・・・・」

 

「サマンサ・・・!いや、もう隠すのはよそう。ぼくはもうサマルトリアには

 帰ることはない。そうなればサマンサがぼくの代わりに栄光と名誉を得る。

 お前にもやっと幸せが手に入るんだ」

 

「いや!いやだ!おにいちゃんもわたしのこと、好きだよね!?どうして

 いなくなっちゃうの!?わたしたちは結婚できるんだよ!なのに・・・」

 

 

サマンサの感情が高まっている。普段は幼い子供のような彼女なのに、

先ほども一瞬だけその激情は見え隠れしていた。実はアーサーも知らない

ことだが、サマルトリアに彼らが戻っていたとき、アーサーが不在の間に

セリアからアーサーとの結婚は絶対に無理なことだと言われた際にその手からは

炎が無意識のうちに放出され、もう少しアーサーが戻ってくるのが遅ければ

大惨事を引き起こしていた可能性がある。暴走を制御できないのだ。

 

アーサーも彼女の危うさに関しては薄々わかっているので慎重に言葉を

選ぶべきなのはわかっていたが、この場をうまく切り抜けるだけで

平和にこの場を終わらせるよりも、厳しい気持ちで臨むことにした。

もうサマルトリアに帰る気はない。仮に気が変わり帰りたくなっても戦いの末に

命を落とし叶わないかもしれない。サマンサと会うのはこれが最後になるのだ。

だから彼女のためにもしっかりと決別しそれぞれの人生を歩むことに決めた。

 

 

「・・・いや、やはり結婚はできない。血が繋がっていなかったとしてもやはり

 ぼくたちは兄妹なんだから。誰にも賛成してくれなければ祝福もされない。

 サマンサ、よく考えるんだ。お前がぼくを好きなのはたまたまぼくだけが

 お前に優しくしたからだ。これからお前がぼくに代わってロトの血をひく

 サマルトリアの正統な者となれば必ず・・・」

 

「他の人なんてどうでもいい!わたしはずっと・・・・・・!!」

 

「サマンサ!冷静になれ!きっといつかは・・・」

 

サマンサのアザから光が放たれたが、アレンやセリアのような輝かしい色ではなく、

どす黒さのなかに赤が見える、まさに災厄をもたらす怪物のものだった。

しかもいつその魔力を暴走させるかわからない。アーサーは考えられる全ての

危機にどうにか対処しなければと全神経を集中させていたが、もう一人

この部屋にいたハーゴンはずっと座ったままこの騒ぎには関わらず、

ただサマンサの精神のことを考え続けていた。アーサーの話も考慮に入れ、

静かに結論を下し、すっと立ち上がった。

 

 

「・・・そういうことだったのか。サマンサ、君はその病気ゆえに皆から

 迫害されていたわけではなく・・・虐げられていたせいで幼い子どものままに

 なってしまったのだ。考える力を自ら失うことで悲しみを感じないように・・・。

 わたしは数十年とその血を守るために勝手に介入していたというのに

 肝心なときに何もできなかったなんて・・・・・・」

 

そしてゆっくりと歩き出し、いまにもその膨大な魔力を感情のままに

解き放すのではないかというサマンサに近づいて抱きつくと、

 

 

「・・・・・・ウオッカ?」

 

「・・・きみの失われた十年以上の月日はもう戻ってこない。しかしこれからは

 それを補って余りあるような幸せなときを過ごせるように・・・できることは

 何でもさせてくれ・・・・・・」

 

 

サマンサを抱きしめているハーゴンの閉じられた両目から涙がこぼれていた。

突然の抱擁にサマンサも驚いてどす黒い光は静まっていったが、この少女が

邪教の総帥だと知るアーサーはその涙に更なる驚きを隠せなかった。

 

「お・・・お前・・・泣いているのか?」

 

アーサーの言葉にもハーゴンはそのままの姿勢を崩さず、涙を指摘されても

それが恥ずかしいことであるとは思っていなかった。

 

「・・・友だちなんだ!友のために涙して何が悪い。サマンサがこれまでどんなに

 辛い日々を送ってきたかわたしにも痛いほど伝わってきた。そのサマンサの

 望む、君との愛の成就のためにわたしは力を貸すさ・・・・・・」

 

 

勇者ロトの子孫であれば特に愛読するロトやブライアンたち、世界の救い主の

物語の書がある。数多の世界を滅ぼした大魔王ゾーマや新たな時代の覇者を目指した

竜王といった悪の親玉たちは当然として、その下で悪事を働いていた者らの

記述も事細かに記録されている。アーサーは自分の生きているこの時代に

世界を脅かす魔王ハーゴンに関してもそれらと同じだと思っていた。

彼らには良心も情もない。まさに悪魔と呼ぶにふさわしい死すべき存在だった。

 

ところがいま目の前にいるハーゴンは取るに足りない存在であるはずの自分の妹に

憐れみ深く接し、同情心から涙を流している。それは騙すための演技にも

大げさなパフォーマンスにも見えない。このような者は魔王どころか人の世の

王ですら長い歴史を通じて思い当たらない。高い立場にいる者は苦しむ者を

真に理解しようとはしない。それをこのハーゴンは心から同情の念に駆られて

サマンサのために感情を露わにしている。アーサーの理解は追いついていなかった。

 

 

しかし真にアーサーに衝撃を与えたのはこの後だった。ハーゴンに抱きしめ

られていたサマンサを中心として、一瞬ではあるが鮮烈な輝きが放たれた。

先ほどのどす黒いものとは真逆の、どこまでも美しい白き光が。

 

「・・・・・・うわっ!こ、これは・・・・・・!」

 

その瞬間、アーサーは全てを理解した。妹の様子がこれまでとは全く違うことに。

僅かな付き合いであるハーゴンですら密着した状態でそのことを実感した。

サマンサを覆っていたよくないものがいま砕け散り、呪いが解かれた感覚があった。

 

 

 

「・・・ウオッカ・・・ありがとう。あなたの気持ち、伝わったよ」

 

「サ、サマンサ・・・!お前・・・・・・!!」

 

 

周囲の人々からの虐げや圧力のせいで壊れかけていた彼女の精神をギリギリの

ところで守って踏みとどまらせていたのはアーサーだった。そして誰も

味方になってくれないその兄との愛を後押ししてくれる初めての存在が

現れたことで、ついにサマンサの心と頭は年相応のものになったのだ!

 

「ウオッカ、それに・・・おにいちゃんも。今までずっとありがとう。

 わたしをずっとそばで愛していてくれて・・・・・・」

 

記憶などに異変はないようだ。原因不明と言われていた病が突然癒され、

その後も語彙の少なさなど止まっていた約十年間の後遺症はあるものの、

明らかにこれまでとは違うサマンサがそこにはいた。

 

「・・・ハーゴン、きみが不思議な癒しの業を行ったのか!」

 

「いや、いまわたしは何もしていない!真の奇跡が起きたのだ!」

 

ハーゴンはサマンサから離れると、彼女に今度はアーサーと好きなように抱きつけば

いいと促す。すぐにサマンサは近くにいた兄の胸に飛び込んだ。そのアーサーは

やれやれ、と困ったような表情を浮かべた。

 

「・・・お、おいおい・・・これじゃあ以前とあまり変わらないような・・・」

 

「うむ・・・どうやらもともと甘えたがりらしいな、病気は関係なかったようだ。

 ただテンポイント、君もそろそろ自分を開放したらどうなんだ?いつまでも

 このわたしの前で心の内を隠し通せると思ってはならない」

 

アーサーは鋭い刃で突き刺されたような感覚になった。目の前の『神の子』の指摘に。

 

 

「・・・隠す?きみは何を・・・」

 

「ごまかさなくてもいい。わたしにはわかっている。君は・・・いや、君『も』か。

 君もサマンサと同じだ。妹としてじゃない、一人の女性として彼女を心から

 愛している・・・間違いないだろう?」

 

父である王をはじめとした城の者たち、またアレンとセリアにも知られることの

なかった秘密が露わにされてしまった。アーサーは厳しい目つきでハーゴンを見る。

 

「しかしさっききみが言ったように実の兄妹ではないがやはり公には兄妹なのだから

 結ばれることは決してない。だからサマルトリアの地を一人離れることで

 その愛を捨てようとしたのだろう。サマンサを想うがゆえに」

 

「おにいちゃん・・・!やっぱりわたしたちは好き同士なんだね。安心した・・・」

 

 

サマンサは嬉しそうな顔でアーサーに抱きつく腕の力を強めた、アーサーはずっと

黙ったまま、つまりハーゴンの言葉を否定していないのだ。その二人の姿を

笑顔のまま見つめているハーゴンに対しこのままでは負けてしまうと意地を張り、

 

「・・・きみは狡猾だ。こんな短い時間にぼくたち二人を信者にしようとしている。

 そうでもなければこんなことをしてきみに何の得もないんだ・・・」

 

あくまで全て自分の心を惑わせるためだと主張するがハーゴンはそれを否定する。

 

「わたしが欲しいのは友情だ!信仰ではない。友人であるサマンサの兄アーサー、

 君とも友情を築けると信じている。さて、君たちについてだが、わたしは

 一つの提案をしたい。このままサマルトリアにいては結ばれないのは確かだ」

 

「じゃあどうすればいいの、ウオッカ?」

 

「二人で国を捨てて移住するのだ。本来ならわたしの地ロンダルキアを紹介

 したいのだが・・・あの地は魔物と魔族、また人でありながら邪悪の神に

 魂を売り渡した者でなければとてもではないが長くはいられない場所だ。

 それにいまはわたしを裏切った勢力の勢いが増している危険な土地だ。

 よって、名もない小さな村に身を隠すことを勧めよう。かつてラダトームや

 精霊ルビスの使いから逃げるために町娘アマゾンがしたように」

 

「・・・ぼく一人ならとにかく二人は目立つ。アマゾンとは違いぼくたちは

 王族だ。捜索隊の規模も大きく何が何でも見つけ出そうとしてくる。

 しかもサマルトリアは貿易が盛んだから世界の至る所を知っているんだ」

 

駆け落ちの成功する場所などないとアーサーは諦めたような声で言うが、

ハーゴンは更にニヤリと笑う。とっておきの秘策があるのだ。

 

 

「心配ない、君たちはこのわたしへの改宗者となればいいんだ。ルビスの教えから

 背教し、わたしのことを世界に広める伝道師として旅立つ旨を書にでもして

 サマルトリアに残して来ればいい。それで君たちは自由の身だ」

 

「何だと!?やはりぼくたちを邪教の信者にするつもりだったのか―――っ!」

 

「違う、あくまで建前だ。宣教なんかしなくていい。考えてみるんだ、

 ただの駆け落ちや失踪であれば君たちは追われる。しかしルビスを捨てた

 邪教の崇拝者など・・・果たして探しに向かうだろうか?むしろ

 自分たちのほうから縁を切りたいと思うのではないか?」

 

ハーゴンの案は完璧だった。後継者として自らに期待を寄せている父である国王が

どう動くか、アーサーはハーゴン以上に把握している。もしサマンサと二人で

駆け落ちの旅であるなら、必ずや執念の捜索の末に自分たちを見つけ出し、

息子を唆したとしてサマンサを処刑してしまうだろう。しかし邪教に

身を堕としたとあれば熱心なルビスの信奉者である王は親子の縁を絶つ。

 

アレンとセリアに関しても同様のことが言えた。ただ自分がいなくなった

だけならば必ずや普通を超えた力で見つけ出してくる。ところがそれが

ハーゴンの仕業だとわかったなら、自分を探すよりもハーゴンと邪教を

滅ぼしたほうが手っ取り早いと判断し、そちらに向かっていくだろう。

原因をなくしてしまえば正気に戻った友人は勝手に帰ってくるだろうと。

アーサーはハーゴンの知恵の深さを改めて実感していた。

 

 

「・・・確かにいい案だ。だがそれはきみにとっては命を短くすると警告するよ。

 アレンとセリアはきみへの憤りと恨みをさらに数倍にしてロンダルキアへと

 やってくる。ルビス様の怒りも力にして、だ。今以上にきみは危うくなる」

 

「そうかもしれないな。しかしわたしは勇者ロトの子孫には死んでほしく

 ないのでね。特に友人の兄ともあればなおいっそうそう思う。あの二人との

 和睦はもはや不可能に近いが君はそうではないと確信した。だから

 君だけでも死地であるロンダルキアに足を踏み入れ邪神どもの餌食に

 なってはもらいたくない。サマンサと二人平穏に暮らしてほしいという願いだ」

 

「さっきから聞きたかったが・・・きみもぼくたちの偉大な先祖と関わりが

 あるようだ。ルビス様ほどではないけどこの血に固執している理由は?」

 

 

ハーゴンはアーサーの寝床のそばに置かれていた厚い本を指さした。それは

勇者ロトとその子孫ブライアンについて記録されている書で、彼らの子孫とも

あればその書物のどこに何が記されているかは空で言えなければいけないほどだ。

その末裔たち三人のなかではもともと偉大なる先祖に信仰心すら抱いている

アレンが最もこの書を何度も読み返し、深い研究をしていた。

 

「・・・その本は・・・そんな重いものを持って旅をしているのか、君たちは」

 

「最近は船での移動が多いしルーラの呪文もある。だからだいぶ前に

 サマルトリアに帰ったときに持ち出してきた。この本の内容は・・・」

 

アーサーが説明しようとしたがハーゴンはそれは結構と手で制す。そして、

 

 

「・・・ふふふ、それならよ―――く知っているさ。なぜならその本の著者は

 このわたしなのだから!勇者ロトの時代から生き彼らの活躍を見てきた

 わたしが残した記録だ。愛読してもらえているようで何よりだ」

 

「・・・・・・なんと・・・きみがこれを!これまで誰が書き記したかは

 確かに謎に包まれていたが・・・まさか魔族のきみが!」

 

ロトの伝説を永遠に語り継がせるために神や精霊が特別な方法で書かせたものだとさえ

言われていたこの書物が、正反対の存在であるハーゴンが残したものだったとは。

 

「こんなに長いお話の本をウオッカは一人で書いたの?」

 

「まあ完璧に一人でってわけではないかな。そのことに加えそっちのアーサーは

 いろいろ聞きたそうな顔だ。わたしと勇者ロトの思い出も交えて話そうじゃないか」

 

 

アレンたちほど偉大な先祖を崇拝する熱心さはないアーサーだが、正しい歴史を

知ることには興味がある。その生き証人の話を聞こうとする彼がハーゴンに

向ける目はもはや倒すべき敵の親玉の顔を見るものではない。それが

ハーゴンの狙いであるとは知らずに、彼女の昔話に耳を傾けようとしていた。

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