互いに嫌われることを恐れているがゆえにあと一歩が踏み込めないでいる。
突如人の言葉を話せるようになった二匹のしびれくらげによって指摘された
アレンとセリアが抱えている思い。二人は表向きにはそれを否定したが、
実際にはくらげたちに言われるまでもなく心の内では悩んでいた。どうすれば
拒否されることなく更に近づくことができるのか。もしかしたら相手も同じような
ことを考えているかもしれない・・・ふとそんな気持ちが頭をよぎったとき、
船を襲う魔物が空から飛んできた。強敵『ガーゴイル』が先頭になって
後ろに魔物たちを引き連れている。ここでアレンは自然に身体が動いた。
「セリア!こっちへ来い!おりゃあっ!!」
彼女の返事を聞く前に強引に自分のもとに引き寄せてから自身の背中の後ろに
セリアを移動させる。二人の体はほとんど密着していたがそれでよかった。
(どうせおれたちはいま二人しかいないんだ。ならこうしていたほうが敵も
一直線に襲ってくる。セリアを守るのも魔物に反撃するのもこの形が
一番やりやすい!どうせセリアは魔法で攻撃だ。動きにくくても問題はない!)
三人でいたときは敵の狙いを散らすために離れて立つことが多かった。そのとき
セリアを襲いそうな動きをした魔物がいたらアレンはその魔物を優先的に
排除していた。しかしいまは二人だ。離れるやり方は負担が増すだけだった。
アレンもこうすればよいのではないかと感じてはいたのだが、それができなかったのは
くらげたちに言われていた通りの理由、『恐れ』だった。彼が抱いていた恐れは、
こうしてセリアを完全に自分で覆ってしまうことで彼女の自尊心を傷つけて
反発されるのではないかということだった。強気で誇り高いセリアなので、
『軽く見るのもいい加減にしてくれないかしら!わたしはあなたにいちいち
守ってもらわなくちゃまともに戦えないほどヤワじゃないのよ!』
そして意地に身を任せ自分からますます距離をとって危険が増してしまうだろう。
アレンはそれを危惧していたのだが、ここはセリアを信じることにした。
こいつはこんなことでおれを嫌いになったりはしない、と。
「・・・なるほど・・・ならわたしは攻撃に専念できるということね!」
セリアはアレンの肩に左手を置きながら右手で雷の杖を振りかざした。
そして魔物たちが怯んだところにバギを唱えて彼らの群れを半壊させた。
(この場面なら確かにこれが最善ね。アレンがわたしの盾となるつもりなら
わたしとしても遠慮せずにそれに甘えてしまって構わない、そういうことね。
こうして彼に体を預けていると・・・何とも言えない安心感と力が湧いてくる)
セリアもアレン同様、二人離れずに戦ったほうがよいとは気がついていた。
しかしそれを言い出すことはできなかった。体を密着させる恥ずかしさから
ではなく、完全にアレンに依存することを認めることになってしまうからだ。
己の手で、自らの力で使命を果たそうとする彼女にとって避けたいことで、
『・・・これだけ敵の攻撃が激しいんだ。セリア、お前はもう下がっていろ。
ここからはおれがやる。安全な場所まで避難しているんだ』
アレンに『役立たずの足手まとい』だと思われたくなかった。彼は遠回しに
それを伝えてくるだろうが、耐えられそうになかった。自分だって勇者ロトの
子孫であり選ばれし勇者の一人なんだと己を鼓舞してきたのだ。自分を対等の
存在だと認めてほしかった。時には並んで、時には背中を預けて戦いたかった。
「・・・でもそれは間違いだったわ。あなたに守られているからといって
あなたがわたしを必要としていないわけじゃないということがわかったの」
「・・・・・・そいつは・・・どういうわけで?」
「だってあなたがわたしを守ってくれるのはわたしへの信頼への証しでもある、
そうでしょう?後ろにいるわたしが攻撃と回復を期待通りにこなしてくれると
信じていなければわたしの盾になんかなれない・・・違う?わたしたちは
三人で同じ一つの魂なのだから自分をあてにできないなんてありえないもの」
あくまで役割分担であり、負担を押し付けているわけではない。人間が身体の
全ての部位を使って生きるように、アレンたちもそれぞれが違う役割を
しながらも目指すべきものは同じ、未来は一つなのだ。アレンもうなずき、
「・・・そうだな。おれたちはまだ甘かった。アーサーの悩みも全くわかってやれて
いなかったからな。あのまま直接ロンダルキアに向かっていたらおそらく全滅だった」
「おそらくはそうね。変な意地やいらない気遣いがいざというときに足を引っ張って。
でもそれに気づかされたのはハーゴンのおかげ・・・とは間違っても思わないわ。
やつさえいなければそもそも全ては必要のないことだったのだから」
ハーゴンの呪いのせいで二人で危険な船旅をしている。だから当然ハーゴンへの
憎しみは揺らがない。しびれくらげたちが話せるようにしたのもハーゴンの
業によるものだが、アレンたちがそれを知ることはない。それにここで
セリアが言った『全ては必要ない』とは、この二人旅のことではなく、
故郷からの旅立ちそのものを指していた。確かにハーゴンと邪教の魔の手が
世界を襲わなければアレンたちは王族として何不自由ない生活を送っていたのだ。
「・・・そうだな。まあ今さら何を言っても仕方ねえ。船を動かそうぜ。
これがおれたちの運命だ。不幸だったかどうかは後になってからわかる話だ」
世界の平和を取り戻すための旅がなければセリアは当初の予定通りラダトームの
ダイヤモンド王子と結ばれていただろう。アレン自身はどうなっていただろうか。
アレンたちは精霊ルビスによって勇者として定められたのだと誰かが言っていたのを
思い出す。ならばセリアがそうならざるをえなかったムーンブルクの滅びも
ラダトームが道を踏み外して破滅に至ったのもルビスはただ黙って見ていた
だけなのだろうか。定められた運命とは何なのかとアレンは漠然と考えていた。
「・・・・・・・・・」
アレンとセリアの溝が完全には埋まっていないことをくらげたちも見ていた。
夜となった。アレンは外で船の操縦をしながら暗い海の様子を眺めている。セリアは
すでに中に入っている。アレンは一人でいたのだが、そこにしびれくらげの
ヘリオスが近づいてきて、彼の隣までぺちぺちと歩いてきた。
「・・・昼間は見事な戦い方だった。オレたちとは違ってあの魔物たちは邪悪な
神々の影響を受けているせいでとても手に負えない。それをお前たちは
あれ以降全く苦戦らしきものもなく圧倒していたな。大したものだ」
「お前たちの助言のおかげだ。おれとセリアは似たようなことで悩んでいたよ」
「そのことだが・・・オレはまだお前たちの問題は終わっていないと思う。
そう、旅の仲間としてではなく、男と女としての関係が・・・」
アレンは思わず足を滑らせて海に落ちそうになった。話している事柄の内容から
このしびれくらげたちの知能は高いことはわかっていたがまさかこのような
人間の繊細な気持ちまで理解しているとは。今さら『おれはあいつのことなんか
そんな目で見たことはねぇよ』と返したところで無駄であるとわかったので
アレンはただ黙っているしかなかった。するとヘリオスは唐突にこう言った。
「なあ、アレン王子よ。お前は昼間運命がどうとか言っていたが・・・
お前は運命によって世の全てが決まっていると考えているか?それとも
全ては偶然、誰もが自分で生き方を決めていると思うか?」
「ハハ・・・いきなり話が飛んだな。そんな答えの出ないような問題を・・・。
ただおれたちのような特別な境遇の人間は運命で決められていると言われても
まあ驚かねぇしそれを受け入れるしかないんだろうな。運命は『ある』!
そしておれはそれを重責だとか苦痛だなんて思わねぇ。むしろ誇りと・・・」
アレンの答えにヘリオスは無数の触手のうち二本を伸ばすと、やれやれ、と
言わんばかりに左右に広げた。アレンには少し苛つく動作だったが、
決して小馬鹿にしてそうしているのではないということが続く言葉からわかった。
「オレは違う。偶然だからこそ生きている意味がある!運命などで愛する相手も
生きる目的も死ぬ場所も定められていたならなんとつまらない、くだらないことか」
「・・・・・・偶然・・・だからこそ・・・だと?おれたちを舐めてやがるのか?」
アレンは拳を握り立ち上がったが、ヘリオスのほうは全く動かないまま話を続ける。
「もう一つ問題をやろう。アレン、お前はオレたち『しびれくらげ』が
男と女同士で子孫を残すとき・・・そのときいくつくらい卵を産むかわかるか?」
「普通のくらげなら・・・数千か数万と産むだろうな。それでも無事生き残って
親になれるくらげなんて十匹もいないんじゃないのか?」
「オレたちも魔力のないやつらと大して変わらない。結局オレくらい生きる
くらげなんてごく僅かだ。赤ん坊のときなんかそのへんの魚に食われちまう。
だがそのなかでオレが生き残れたのは運命でも何でもない。ただの偶然だ。
もちろんある程度成長してからは生きるか死ぬか、そいつの努力次第だがな」
数万分の十にも満たない確率でこのヘリオスは生き残ったのだ。人間よりも
遥かに厳しい環境でこうして生きているのは運任せの競争に偶然勝ったからだ。
「そしてルビーもそれは同じだ。あいつはおれよりもかなり身分の高い一族の
生まれなんだが・・・それでもほんの一握りしかあんなに生きられないんだ。
そんなオレとルビーが偶然出会い、そして愛し合っている・・・それを
運命だって言うならそれもありなのかもしれない。もう一回やれと
言われても二度とできないような確率でこうなった・・・そう思うほうが
ずっと夢があって素敵な話だと思わないか?」
「・・・・・・うーむ・・・難しすぎて計算できないくらいの確率の末に・・・」
「お前たちは同じ祖先を持ち共に王族という、確かにオレたちよりも遥かに高い
可能性で親しくなれる立場にあった。しかしそれでも数多くの要素が重なって
いま二人でいるんだろう。どうしてその偶然をもっと大切にしないんだ?」
アレンはヘリオスの問いかけにやはり何も答えなかった。要するにヘリオスは
初めからずっとセリアとの関係を発展させろと背中を押しているのだ。
「・・・くらげのくせに知ったような口を~~~~~~~~っ!!」
「ふん、オレからすれば人間の若造が何を偉そうにといったところだがな」
互いに言葉は悪かったが決して険悪な空気ではなかった。ヘリオスの顔は
いつも通りでよくわからないが、アレンはにやりと笑顔を浮かべていたからだ。
だが完全に決意を固めたようではなかった。いまだどうすべきかを決めかねていた。
一方、狭い室内にはセリアが一人でくつろいでいたがそこにもう一匹のしびれくらげ、
ルビーが入ってきた。セリアはその姿に一瞬だけ鋭い視線を向けたがすぐに元通り
身体の力を抜いた。出会ってからしばらくは常に警戒心を抱きながらくらげたちに
注意していた彼女だったが今や船旅の頼れる仲間だと認めていることの証明だった。
「ふふ・・・こうしてみると懐かしいわね。最初に私がこの船に来たときセリア王女、
あなたは私が戦う気なんてないのに全く気にもせず殺しにかかってきたわね」
「・・・それは当然でしょう。敵意がないとか何を考えているとか・・・一目で
わかるはずがないじゃない。すぐに見抜いたアーサーが特別なのよ。あなたが
竜王の命令でわたしたちに接触しようとしていたなんてとてもじゃないけどね。
あなたもあのヘリオスもなかなか命知らずみたいね」
「あのときは使命感みたいなものに動かされていたから・・・。私たち、実は
駆け落ちしてきた身なのよ。そこを竜王軍に匿ってもらっていた。その恩に
無事報いることができた。あとは私たちの自由にしなさいと言われたわ。
だからこうしてあなたたちと旅をしている、ということになるわ」
くらげにも駆け落ちなどいうものがあるのか。セリアがそれについて詳しく
説明を求めるとルビーは快く応じた。しびれくらげの世界にも身分の差があり、
ルビーの家は『華麗なる一族』と言われるほどで、代々しびれくらげ族の間で
王として支配権を行使している選ばれしくらげたちだった。ルビーもそれに
恥じぬ強さを持ち、兄弟たちとの厳しい争いに勝ち抜いてその地位を継いだ。
ヘリオスはというと、どこにでもいる全く特別な背景などない一匹のくらげ
だったが、その実力によってしびれくらげという種族を超え海の魔物全体から
認められるようになった。よってルビーにとってはどこからか現れた雑草のような
ヘリオスは気に入らない存在で、ヘリオスのほうも高慢ちきなルビーが鼻についた。
「・・・はじめは喧嘩ばかりだったわ。でも気がついたら互いに惹かれてた。
でも私たちはそのままだととてもじゃないけど結ばれることはなかった・・・。
だからある日全てを捨てて逃げ出したの。しびれくらげ族の当主としての
責任も使命も地位も名前もぜんぶ放り投げた。いま思ってもやっぱりあの
選択は正しかったって胸を張って言えるわ」
しびれくらげの鼻や胸ってどこなんだ、とセリアは思わず突っ込みたくなったが
黙っていた。セリアが何も言わなかったのでルビーが彼女との距離を詰めて
話を続けた。これまでは自分のこと、ここからはセリアのこと、と言いたげに。
「セリア、あなたもまた与えられた使命とか運命にその身を差し出して戦いの
日々を続けている。命を捧げてそれを果たそうとしているわね」
「・・・ええ。もちろん。それこそがわたしがいま生きている理由!完全に
滅ぼしつくされた故郷でただ一人わたしが命を得たのはこのため!
だからこの命の限りを尽くしてハーゴンとその邪教を徹底的に破壊して
ムーンブルクの復興のために全てを惜しまない決意は最初から変わらない!
あなたのように無責任に放り捨てたりなんて誰がするものですか!」
セリアのなかで決して消えることない復讐に燃える憎悪の炎。そして自身の
生まれた王国復活のためのやまぬ岩のような硬い意志。力強く頼もしいはずの
彼女の言葉のなかに、ルビーは確かに感じとった。その哀しみや冷たい寂しさを。
それはセリア本人も気がついていないもので、もしかしたら言ってはいけないこと
なのかもしれない。それでもルビーは言わずにはいられなかった。意見が合わず
口喧嘩ばかりであったのに気がついたらあと少しというところまで辿り着いていた
セリアとアレンの関係に昔の自分たちが重なったからだ。
「セリア、怒らないで聞いてほしい。もしあなたがルビスの与えた使命から
逃げたとしても・・・ルビスが本気でハーゴンをどうにかしたいと思うのなら
また別の誰かが選ばれる・・・それだけの話なのよ」
「・・・・・・なんてことを・・・!この大事な役割はわたしたち勇者ロトの
血を継いだ人間のなかでも特にチカラを持ったルビス様の祝福を受けた者しか
果たすことのできないこの世でわたしたちだけしか・・・・・・」
「いいえ、私はそうは思わないわ。世界を救うのなんか誰にでもできる。
でも、あなたがほんとうの幸せを掴むこと・・・それはあなたにしか
できないことなの。他の誰が手を尽くしても最後はあなたの歩む道しだい。
そのことを覚えておいて。私が言えることは・・・それだけね」
セリアが何かを言い返す前にルビーはふわふわと去っていった。
「・・・わたしの・・・ほんとうの幸せ・・・わたしの望むものは・・・」
残されたセリアは誰に問うわけでもなく一人呟いていた。
やがてしびれくらげの二人は合流し、互いに『成果』を語り合っていた。
あとはもうアレンとセリア次第だ。結局他の者がどうこう言ったり動いても
本人たちが前へ踏み出さないことにはどうにもならない。アーサーも日々
アレンとセリアのことを気にかけていたが、もう自分にできることは
何もないと思っていた。その総仕上げが自ら離脱することで二人きりの
時間をつくることだった。いまはしびれくらげたちがいるが、やがてそれも終わる。
「おおっ・・・!あの島だ!三日間で見つけられたのが早いのか遅いのかわからんが
迷わずに来れたのは大きいぜ!ここからじゃまだ世界樹は見えないが・・・・・・」
世界樹の島がついに目の前に現れ、船での旅が終わった。アレンたちが完璧な連携を
見せて海の魔物たちを殲滅していったせいで難を逃れた魔物たちももはや彼らに
近づくと命が危ういと知り、終盤はほとんど戦わずして目的の島へ到着した。
アレンとセリアが荷物を持って上陸し、しびれくらげたちはいつも通りの
留守番かと思われたが、今回は事情が違った。彼らとの別れを意味していた。
「・・・お前たちは無事世界樹の葉を手に入れたらキメラの翼を使いすぐに
ベラヌールの町へ戻るのだな?そしてアーサー・・・彼が再び力を
取り戻したならばそのままロンダルキアへ向かうと・・・」
「ああ、そうだ。おれたちの話を聞いていたようだな」
「ならお別れね。あなたたちはもうこの船には乗らないのでしょう?
場合によっては二度と会うこともない・・・かもしれないわね」
しびれくらげたちとも、この船ともここで名残惜しくも最後の別れとなる。
「せっかくあなたたちが話せるようになったというのに残念ね。でもわたしたちが
命を落としでもしない限り永遠の別れという話にはならないわ。この船は
またベラヌールに向けて戻しておいてくれるとうれしいわ。そうすれば
わたしたちがハーゴンを殺して凱旋してきたときあなたたちと最初に会えるもの」
邪教とその総帥ハーゴンを倒す旅、としてはもうこの船に乗ることはない。
だが全てが終わった後にまた船旅を楽しむかもしれない。世界を魔の手から
取り戻し、平和な海を実感するためにまた共に航海を楽しむ可能性はある。
「そうだな。おれたちの国に一刻も早くよい知らせを届けたいとは思うが
ルーラですぐに帰ったんじゃ何だか寂しいからな。これまでの旅を
振り返りながらお前たちとも語り合いたいぜ」
「そう言ってくれると嬉しい気分になるな。ならば握手でしばしの別れだ。
おっと・・・オレたちから手を出すからな。間違った手に触れると
また大変な目に遭うことになってしまう。気をつけろよ」
セリアは彼らとの出会いの初日を思いだした。勢い余って痺れをもたらす触手に
触れてしまい痺れ毒によって眠ってしまった苦い記憶だ。それがいま二年弱
彼らと船旅をし、こうした別れの形になるとは考えもしなかった。
「じゃあまた会う日まで。その日にはあなたたちの関係が変わって・・・
セリア、あなたがほんとうの幸せを掴んでいると信じているから」
「・・・そのことに関してはわからないわ」
しびれくらげたちと別れ、久々の陸の冒険だ。小さな島ではあったが上陸してすぐに
世界樹の目の前、というわけにもいかず、しばらく歩かなくてはならないようだ。
「そういえばさっき、別れ際にルビーはお前に何を言っていたんだ?」
「・・・大した話ではないわ。それにあなたには関係の・・・ないことよ」
二人は周りに気にせず話をしながら歩くことができた。というのも、この島は
無人島だ。魔物たちが僅かにいるものの、全く襲ってこない。これは世界樹の
聖なる気に触れた魔物たちがその邪気や殺意を吸い取られてしまっているのではと
二人は予測した。いまは余計な戦闘はしないに限るので大いに助かった。
「・・・いまごろもう世界樹の葉を手に入れているかしらね、あの二人は」
「さあな。しかしおれたちに奇跡の力を見せたあやつ・・・ハーゴンは
言っていた。あの島の魔物は悪霊の神々の影響を受けていない『わたし側』の
魔物たちだと。だからこちらから余計なことをしない限り戦いには
ならない、とな・・・。いずれ問題なく目的を果たすだろう」
「海の魔物たちが暴れ始めたのもこの十年くらいのことだったわね。
悪霊の神々とやらの仕業だったのね。もっと詳しいことが知りたいわ」
「ウム。よし、この船を戻したらオレたちもロンダルキアに向かうとするか!
そして報告しなければならないな。あやつやアーサーが望んでいる
人と魔物の平和的な関係はオレたちがその第一歩となった、とな。
まあ・・・オレたちが間に合うまでに決着していなければ・・・だが」
しびれくらげの二匹は船をゆっくりと動かし、来た航路をそのまま戻っていた。