ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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伝説の末裔たちの巻 (ロンダルキアの洞窟②)

 

アレンたちがロンダルキアの洞窟で手に入れた宝は想像していた以上に素晴らしい

品々で、これまで世界中を探し回っていたのに見つからなかった『ロトの鎧』が

その手にあった。勇者ロトが、またその力ある子孫が身につけた武器と防具が

ついに全て彼らのものになったのだ。

 

「・・・どうだい、せっかくだから剣もロトのものにしてみるのは」

 

「いらねえ。おれは認めてないんだよ、そんなのがほんとうに伝説の剣だなんて。

 むしろこいつだよ。こいつが伝説のロトの剣だというのならおれも受け入れるさ。

 それだけ凄いんだ。お前も試しに手にしてみればわかるぜ」

 

アレンはその剣を『稲妻の剣』と呼んだ。外見がまさに稲妻のようであったことに

加えて、それを手にしたときに感じた衝撃を言い表すのにふさわしい名だった。

 

「ぼくじゃ使いこなせないよ。もちろんセリアもね。きみだけの最強の剣だ」

 

ちなみにアーサーですら、すでに光の剣というものを主要な武器としていて、

その価値を認めつつも最終決戦を前にロトの剣はどこかに預けてきてしまおうかと

考えていた。セリアの愛用する雷の杖のほうが不思議な魔力込みで戦力に

なっている有様だったからだ。しかしハーゴンのこの言葉をアーサーは心に

刻み込んでいた。ロンダルキアに来るときにはロトの剣を持ってくるように、と。

 

「ふふふ・・・悔しいけれどやはりアレン、あなたがルビス様によってわたしたちより

 特別に祝福されているのだとわかったわ。その素晴らしい剣や全身を覆う防具を

 着こなす様を見ているとそう思う。いかにわたしたちが三人で一人とは言っても、

 あなたは特にルビス様に愛されている真の勇者なのでしょうね」

 

「そうだね。仮にぼくたちに何があったとしてもきみが無事なら立て直しは可能だ。

 でもきみにもしものことがあったらもう取り返しがつかない。これからはきみの

 命を守ることを優先して戦うべきなのかもしれないな」

 

決してアレンを妬む気持ちや自らを卑下する気持ちから二人は言ったわけではないが、

アレンにとって二人の言葉は決して快いものには聞こえなかった。自分たちは

あくまで三人が同等であるべきで、そこに優劣や上下は決してあってはならないのだ。

 

「・・・ひとまずほこらに帰るぞ。休んでから洞窟に再挑戦だ。

 あれだけ土台は築いた。次は一気にロンダルキアだ」

 

これ以上アーサーとセリアから称賛を受け取ろうとはしなかった。彼が突然

不機嫌になった理由を二人はすぐに察した。これまで二年余り共に旅を

してきたが、それ以上長い期間に感じられるほど濃密な日々だった。

 

「・・・あら、じゃあ次回は重い岩を動かす必要がないぶんあなたに

 荷物持ちをやってもらいましょう。何なら今もお願いできる?

 ついでに食料も調達してきてもらえると助かるわ」

 

「確かにそんなに神聖な装備に守られているんだ。ぼくたちがわざわざ

 守ってやる必要もないか。むしろますます盾になってもらわないと。

 バーサーカーの攻撃何十発かは回復なしでも耐えられるんじゃないか?」

 

「お前ら~~~っ・・・極端なんだよ!」

 

 

洞窟からそこまで離れていない地点にほこらはある。雨風を凌げるだけでなく

旅人のための寝床もいくつかあり、質の悪い宿よりもよほど快適だった。

そこにはもともと老人が一人で暮らしており、アレンたちに食事を提供してくれた。

 

「こんな辺鄙なところで・・・わたしたちのほかに旅人なんて来るのですか?」

 

「それが不思議なことにそれなりの頻度で戦士や商人なんかが。ですが再び

 生きて帰ってきた方は誰もおられませんでしたがね・・・」

 

「そいつは面白いことを聞いた。だったらおれたちがその最初になってやるぜ」

 

 

洞窟で汚れた体や衣類を清め、再びの出発のために英気を養う。セリアは気を休めるため

水の羽衣などの防具は身につけずに日常着るような布の服で過ごしていたが、

アレンはロトの鎧、兜を装備したうえで盾をも手にしていた。いまのうちに

動きやすいかどうか、長い洞窟での冒険に問題はないか確認しておきたかったからだ。

伝説の装備一式に身を包むアレンをセリアは少し離れたところから眺めていて、

その視線に気がついたアレンは兜だけ外してから彼女のもとに近づいた。

 

「・・・へへへ、どうだ、この姿!思わず惚れ直したか?」

 

アレンは冗談のつもりで言ったのだが、セリアの反応はというと、

 

「・・・・・・・・・」

 

顔を赤くして黙ったまま自分の服、膝あたりの生地を握ってうつむいていた。

これにはアレンもつられるように身体が熱くなっていくのを感じた。

 

「そ、そんな顔されたらおれのほうが困るじゃねぇか・・・」

 

セリアは伝説の勇者たちの装備を見事に着こなすアレンを見て、なんて

素敵なの、と思った。きっと勇者ロトよりもアレンのほうが―彼女は

そんな気持ちに満たされていた。これは数日前、月の光と髪や体から

零れる水によって輝いていた彼女の裸を目にしたアレンと同じ思いだった。

彼もまたセリアのことをルビスやローラよりも美しい者だと感じたからだ。

互いに遥か昔の人々のことなど見てもいないが二人とも心のなかで決めつけた。

その一途で盲目的な熱い感情はまさに恋する男女のものだった。

 

 

ちょうどそこに席を外していたアーサーが来たのだが、二人の雰囲気を察してか

扉の向こう側へ、ほこらの外へと戻っていった。その扉を静かに閉めると、

 

「・・・ぼくはお邪魔みたいだからもう少し外の空気を吸ってくるよ」

 

「お、お、おいおい!誤解するな!ちょっと待て――――っ!」

 

それは決して誤解ではなかったのだが、どうにかして彼に弁明がしたかった。

だが叶わず、再び部屋には二人だけになってしまった。

 

「・・・・・・」 「・・・・・・」

 

しばらく沈黙が続いたがそれを破ったのはアレンで、話題を変えにいった。

 

「しかし何だなァ。アーサー・・・旅が終わったらあいつにもいい相手を

 探してやんないとな。あいつは取り残されたと拗ねるようなやつじゃあ

 ないが婚約相手くらい見つけてやらないと本気で自由で気ままな旅人に

 なりかねないからな。ローレシアの貴族から何人か候補を・・・」

 

「そ、そうね。アーサーもサマルトリアに残ってくれないと困るわ。わたしたち三人で

 邪教壊滅後の世界に安定した平和をもたらしていくのが大切だもの。アーサーが

 欠けるのは大きな損失だわ。確かにあなたの言う通り、責任を自覚させるためには

 あなたのほうから王妃となる女性を紹介してあげることが大切ね。でも・・・」

 

二人が共に不安要素として頭に浮かんだのはアーサーを溺愛する妹サマンサだった。

アーサーが奪われると思って暴走し、アレンと彼の連れてきた兄の妻候補たちに

どのようなことをするかわかったものではない。彼女をどうしたものか。

 

「・・・アレン、あなたなら二、三回くらい刺されても死にはしないでしょう?」

 

「刺されてもってどういうことだよ!まあ事が簡単に運ぶなんて思っちゃいないさ。

 でもあの妹がアーサー以上に好きになる男を見つけてくるよりは簡単かもな。

 こりゃあローレシアに帰ってもしばらくは伝説の武具が手放せねえな」

 

 

アレンとセリアの会話は外にいたアーサーにも聞こえていた。彼は微笑んでいる。

 

(ふふ・・・きみたちがいない間にそのサマンサとぼくがどうなったかを

 教えてあげてもいいんだけれど・・・いまはまだ黙っていることにしよう。

 きみたちの仲を恥ずかしがらずに正直に打ち明けてくれたとき、そのとき

 ぼくもまた真実を告げることにする。いつになるか楽しみだ)

 

アレンたちであってもサマルトリアの重要機密である、アーサーとサマンサに

血の繋がりがないということは知らない。また二人は互いに愛し合っていたので、

やがてふさわしいときが来れば国を抜け出して二人で帰らぬ旅に出ると約束したことも

アレンとセリアにとっては寝耳に水だろう。本来なら親しい彼らにも伏しておくべき

事柄ではあるが、旅の終わりまでには話しておくべきだとアーサーは決めていた。

 

 

「・・・ほほほ、仲のよろしいお二人なことで・・・。このわしも昔を

 思いだしますわい。しかし、若い男と女であるだけで絵になりますのう。

 それでいて誰もが羨む美男美女であればなおさら・・・ほっほっほ!」

 

「はは・・・やめてくれよ。美男ってのはアーサーみたいな男のことだ。

 おれはそういうタイプじゃないだろ、お世辞はやめてくれよ、婆さん」

 

口では否定したが、アレンはまんざらでもなかった。顔がにやけている。一方、

アレンが婆さん、と言ったことで初めてセリアはこの老人が女性であることを知った。

いったいどちらなのだろう、と思っていたが服では見分けがつかず聞くわけにも

いかないので困っていたが、ルプガナの女装した男を見分けたり、アレンの嗅覚は

信用できた。これで自分も気軽に老婆を呼べるようになったと彼に感謝した。

 

「ですがそのようなお二方がロンダルキアへ向かうというのは・・・。悪いことは

 言いません。故郷にお戻りなされ。平穏に結婚式を挙げてかわいらしい子どもたちと

 幸せに暮らされるのがいいでしょう。どうしてあの悪霊の神々たちのもとへ

 命を捨てに向かわねばならないのか・・・この婆にはとてもわからんのですじゃ」

 

その老婆が気遣いの気持ちからだろうが、アレンたちの死地への出発を止めようとする。

これまで似たような言葉は幾度も聞かされている。結婚して子どもと暮らせとまで

言われたのは初だったが、アレンたちの決意を翻すものとはならなかった。

 

 

「婆さん・・・だからこそ、おれたちは行くんだよ。ロンダルキアの悪魔どもを

 これ以上生かしておいたら誰も平穏な暮らしなんてできないんだ。一人残らず

 除き去る。それがおれたちの使命!この世界のために、それに・・・」

 

アレンはセリアを自らのもとに抱き寄せる。そして老婆に力強く宣言した。

 

 

「おれはこいつを愛している!いずれは・・・・・・子どもだって生まれるさ。

 そのとき何も恐れることなく家族みんなで笑顔でいられるためにおれは行く!

 ほんとうならセリアはここに残っていてほしいくらいだが・・・」

 

「ふぉっふぉ・・・あなた、愛されてますな」

 

「・・・今更何言っているのよ。わたしも行くに決まっているでしょう。

 わたしとしてもあなたたちだけで行かせたら不安で夜も眠れないわ。

 平和な新しい世を切り開くのはわたしの手で成し遂げるのだからわたしが

 いなくちゃ始まらないでしょう?最後まで三人いっしょよ」

 

セリアもアレンに続き鋭い目つきで決心を新たにした。老婆は二人の強い意志の前に、

 

「ホーッホッホ・・・ならばもうこの年寄りからは何も言うまいて。

 ではあとは若い二人だけになってもらって・・・わたしは退散退散。ホッホッホ」

 

そそくさと出ていってしまった。アレンとセリアはこの老婆、さらにはアーサーの

期待に反し、その後は何をするでもなくそれぞれの寝床に入った。今はまだ

『その時』ではないと二人の思いは一致していた。あくまで結ばれるのは

世界に真の平和を取り戻してから、そして正式に結婚の誓いをしてから、と

固く思い定めていたのだ。

 

 

(ちぇっ・・・つまんないやつらだな。せっかくその初夜を見届けてやろうと

 思ったのに。ロトの子孫ってのはどこまでも真面目でよくないねェ。

 もうちょっとばかし愛に身を任せる激情とその場に合わせた柔軟さが

 必要だとボクは思うよ。台を重ねるうちにどんどんつまらなく・・・)

 

 

「おい、そこで止まるんだ。お婆さん・・・いや、何者かその正体を隠している者!」

 

ほこらの外に出た老婆はどこかへ去っていこうとしたが、外にいたアーサーに

呼びとめられた。頭をペコペコ下げながら彼のもとに素直にやってきた。

 

「ふぇっふぇっ・・・若いお方、何のことでございましょう。わたしは・・・」

 

「どういう目的なのかはこれから聞くとして・・・もうぼくは知っているんだよ。

 人間とは違う匂いを発しているきみのような種族には何度も会ってきた。

 すっかり舞い上がっているアレンたちのようにぼくまで騙せると思ったか?」

 

すると老婆は曲がっていた背を突然まっすぐにして、姿勢よくその場に立った。

そしてクスクスと笑ったかと思うと、その姿を徐々に変貌させていった。

 

「うーん、匂いが残っていたか・・・ちゃんと体は清潔にしていたはずなのに。

 クスクス・・・いや、そういうことじゃないか。キミの言いたいことは」

 

白髪のなかに僅かにあった紫色が白を飲み込んでいき、ついには髪全てが

濃い紫に変色し、張りのなかった肌が二十歳前のアーサーと同じほど

若々しいものになった。変化したというよりは元に戻った、というのが正しいのか。

 

「クスッ、どうだい、なかなかの美人だろう?このボクの正体!でも残念ながら

 ボクもキミの知っているとかいうモンスター人間たちと同じく数百年を

 遥かに超えて生きているからある意味キミたちにとっては老婆かな?

 しかしさすがはあのハーゴンが注目する男だね、見抜いてきたかァ」

 

「・・・まともなお婆さんなら自分のことをボクだなんて言わないだろうに。

 きみの変装を見破った理由だけど、教えるまでもないだろう。喋り方や

 笑い声、一人称もめちゃくちゃだったじゃないか。ぼくは外で聞いていたけれど、

 あの短い時間でよくもあんなにコロコロと変えられるものだと逆に感心した」

 

 

アーサーはこの謎に包まれた相手が自分の敵ではないと心のどこかでわかっていた。

彼が初めて出会ったモンスター人間、ルプガナの町の二人の祈祷師テイタニヤと

ディアマンテからつい先日目の前に現れたそのモンスター人間たちの総大将

ハーゴンに至るまで、誰も敵意を持って襲いかかってきたりなどしなかったからだ。

今回もそうであるというアーサーの読みは正しく、悪霊の神々の影響が強い

邪教からの刺客ではなかった。

 

「ボクはあのハーゴンが生まれるよりずっと前からゾーマ城にいた。だから

 キミたちの偉大なる先祖と仲間たちが戦ったときそこにいたどころか

 実際にキミの先祖と戦い敗れている、それでも生き残った一人なんだよ」

 

「へー・・・じゃあハーゴンが書いたとかいう勇者伝の本にきみのことも・・・」

 

「それはないね。この書が書かれた当時ゾーマのしもべが生きているなんて知られたら

 まずかった。しかもボクはそのなかでもかなり高い地位にいたのでね。

 ボクのことに関してはその末路は詳しく書かないようにと頼んでおいた。

 クスクス・・・でもよく考えたらボクの本名やこの姿なんて誰にも知られては

 いないのだから堂々としていても何の問題もなかったのだけどね。もしボクが

 当時何と呼ばれていたか知ったらキミもその本から探し出すことはできるだろう」

 

肝心なところは語らないつもりのようだ。アーサーは相手が話したがらないことを

無理に聞き出す男ではない。勝手に口を割るようにうまく誘導することはあるが、

この女が敵ではない以上、別に正体を暴く必要もない。ひとまずそこからは離れた。

 

「ハーゴンより長く生きている・・・か。それに彼女のことを呼び捨てにしている。

 きみはどうやらハーゴンのしもべではなさそうだ。それなのにぼくたちのもとへ

 こうしてやってきた理由は?」

 

「クスッ・・・面白い質問だ。まあ答えは難しくない。中の二人にも言ったが

 ボクはほんとうに遥か昔、恋をしていた。人間である、キミたちの祖先にね。

 だからその末裔と呼ばれるキミたちがどのような人間なのか見に来た、それだけだ」

 

「・・・きみを破り、しかも魔族の野望を打ち砕いた者を愛したと。それは驚きだ。

 そのかたき討ちに来るのならわかるけれど。まあそれは個人の自由だ。

 で・・・どうだい、きみの目から見たぼくたちは。かつての勇者と比べて」

 

紫の女はそこまで考えることをせず、やはりわざとらしそうに笑いながら、

 

「クスス、そんなことはキミたちが一番よくわかっているはずでは?とてもじゃないが

 比較するのも躊躇われるほどだ。その実力も人間としての器も全く足りない。

 三人集まってようやくロトに並べるかどうか。もしハーゴンが体調を崩すことなく

 順調に世界の王となろうとしていたらキミたちなんか何もできないさ」

 

「ふふ、やはりね。ぼくたちもみんな気にしていることだ。だから三人の結束を

 もっと強めなければいけないと話し合っていたところだよ。でもアレン、彼は

 別じゃないか?ぼくなんかよりもずっと勇者に近い。アレンなら後の時代に

 世界を救った勇者としてロトと同じように語られていくはずだ」

 

三人のなかでも特に精霊の祝福を受け、力に満たされた自慢のリーダーの名を挙げた。

しかし女はアーサーのもとにもう少しで顔と顔が触れてしまうくらいにまで

接近すると、その頬に手をあてながらこう言った。

 

 

「・・・いや、ボクの意見は違う。一番近いのはキミだ。使命感や正義感に薄いように

 見えて実は最もそれらに燃えている。精霊に愛されなくとも機転と工夫、そして

 根性で立派に戦えるという生きた証明であること、何よりその分け隔てない優しさ。

 ボクが生涯でただ一人愛した、今でもよく覚えているあの人にそっくりだ。

 そうか、あの人の血はどれだけ時が流れてもちゃんと残っているんだな・・・」

 

「・・・・・・ぼくが・・・」

 

その瞳が僅かに潤んでいるように見えた。それを見られたくなかったのか女は

アーサーから離れた。星の輝く夜空を見つめながら話を続けた。

 

「・・・クスクス、あのハーゴンがキミを気に入っているのがよくわかった。

 ボクが来たのは彼女からの伝言を伝えるためでもあった。『わたしは君を

 ほんとうに守る。あらゆる害から隠す。わたしが君と共にいるのだから

 勇気を出し、恐れてはならない』・・・だそうだ。この先ハーゴンのもとに

 たどり着くまでこの言葉をちゃんと覚えておくんだぞ?」

 

アーサーはハーゴンがサマンサと交わした約束を思い出した。決してアーサーが

死なないようにし、必ず無事にサマルトリアに帰すというものだった。

つくづく自分はなぜか魔の側の者たちから愛されている、アーサーは苦笑いした。

 

「さーて、ボクの用事は済んだ。こんな場所にもういる意味はない。久々に

 思い出のアレフガルド大陸でも旅行してから帰るとするかな。おっと、

 最後に一つ。あのハーゴンは自分は何でも知っているかのように物を

 言うけれど、実はあの子にとって最も肝心なことは知らない。それは

 意図的に隠されている事柄で、あの子だけが知らないことだ」

 

「・・・・・・それは?」

 

「ボクも言うなとあのトシフジから念を押されているんでね。逆らったら

 殺されてしまうよ。でもキミなら必ずいずれ自分でその答えに到達するだろう。

 そして必ず大きな試練があの子を襲うだろう。そのとき・・・キミが

 そばにいてやってくれ。それはキミ自身をも救うことになるだろうから」

 

 

女の体が消えていく。このままいなくなるつもりらしい。最後にアーサーは、

 

「・・・ありがとう。でもきみ・・・いや、あなたとはもう会えない気がする!

 だからあなたの名前を聞かせてほしい!いまのぼくにはそれが必要だ!」

 

そう叫ぶアーサーの顔に、女はまたしてもかつて惚れ込んだ者の面影を見た。

その顔を見てしまったら、もう隠したままではいられなかった。

 

「・・・ボクの名前は『ラフレシ』。かつては世界最悪の大魔王の、それも

 最高幹部として悪を行っていながら、キミの先祖の愛によって救われた者だ。

 その大魔王からは『ブロス』という名を与えられていた。気になったなら

 調べてみるといいよ。ここまで教えたんだ。神の子のこと、よろしく頼む。

 さらばだ・・・・・・ボクの愛したあの人の子孫、新しい時代の勇者さん」

 

 

ラフレシはいなくなってしまった。その残り香だけが漂っているまま。

 

「・・・ブロス?ゾーマの部下でそんなやつが・・・・・・」

 

アーサーはすぐに灯りのあるほこらに戻り、勇者伝の本を開いて確かめてみた。

すると大きなトカゲのような化物の姿が描かれており、その肌や着ている服は

水色または紫である、と書かれていた。『バラモスブロス』という名前であり、

確かにロトとその仲間たちと戦ったことは記されていたが、他の魔族たちと違い

ラフレシだけが生死についての詳しい情報がない。ラフレシという真の名も

一切記録になかった。

 

「・・・・・・この醜い化物と・・・いまのあの人が同じ!?

 うーん・・・どっちがほんとうのあの人の姿だったのやら」

 

頭を抱えるアーサーのもとに、もう眠っていたはずのアレンとセリアが現れ、

 

「おいアーサー、お前外にいただろ。婆さんに会わなかったか!?」

 

「・・・どうかしたのかい?」

 

「まだ帰ってきていないようだわ。こんな暗闇のなか魔物たちがいるなか

 どこへ行ってしまったのか・・・あなた何か聞いていない?」

 

 

どう説明したらいいのか・・・アーサーはますます悩みを深めることになった。

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