二度目のロンダルキアを目指す挑戦が始まった。前回は洞窟のかなり深い部分まで
探索ができ、もう宝探しは十分だ。あとは落とし穴の位置も無限の迷路地獄も
しるしをつけておいたのでずっと楽に進めるだろう。どうしても危ないと
判断したら撤退もあるが、できれば今回決めたいというのが三人の共有の考えだ。
「あれだけ仕込みはやったんだ。長丁場に備えて保存食も多めに持った」
「洞窟の魔物たちの対策だってばっちり。消耗を避けながら進みましょう」
今度は邪神の像を使った儀式的なものは必要がなく、もとから洞窟の入り口は
開かれていた。無警戒ね、とセリアが冷ややかに笑うと、アレンもまったくだと
こちらは白い歯を見せて大きく笑った。しかしアーサーの思いは別で、
「・・・派手にやりすぎたかもね、宝荒らしを。これは警戒がいるなぁ」
「警戒・・・?それが足りてないのがあいつらだろ。扉が開けっ放しなんだぜ」
「だから逆に怪しいと疑うべきだ。これは誘っているんだ。もう隠れたり
罠に頼ったりするのはやめて、ぼくたちを迎え撃つ気でいるのでは?」
下界との門を固く封鎖し、迷彩まで用意していたというのに突然それが誰でも
歓迎であるかのように開かれている。確かに手放しでは喜べない事態だった。
とはいえ様子見を続けているわけにもいかない。いつかは行かなくてはならない。
「だったらもう今しかないでしょう。もしかしたら明日誰かが熱を出すかもしれないわ。
またハーゴンが懲りずに呪いをかけてくることも。延期するだけ時間の無駄よ!」
「・・・ああ、そうだ。行こう、今がそのときだ。ぼくもそう思う」
三人は短くルビスへの祈りを捧げてから洞窟へと入った。いきなり大群に
襲われるということはなかったが、確かに前回とは違う、と早々に知ることになった。
最初に訪れたときとは襲ってくる魔物の種類、というより傾向が異なっている。
不思議な踊りを踊って魔力を失わせる『ダークアイ』であったり、仲間を呼んだり
マホトーンを唱えて戦闘を長引かせるベビルのような消耗させて今日のところは
出直すか、と思わせる敵や、『腐った死体』、そして『グール』。近くに寄られただけで
気分が悪くなるようなゾンビたちがほとんど出てこない。代わりに『オークキング』、
さらにバーサーカーなど、殺意をむき出しに攻撃を加えてくる魔物ばかりが現れる。
「なるほど。もうおれたちを追い払おう、帰ってもらおうというよりは・・・
ここで死んでもらおうというわけか。しかも迷路は攻略されているときた。
だから直接的で一発で息の根を止める可能性のある力自慢ばかりが
次から次へとおでましってわけか・・・こいつはしんどいぜ・・・」
「ベホマ!一応傷は塞がったわ。でも活力まではすぐには戻らない。
あなたが先頭に立って守ってくれるからわたしたちはそこまで痛い思いを
せずにここまで来れているわ。でもこのまま一息つくこともできないと・・・」
「な――に、心配すんなよ。お前たちと二年以上も旅をしてきてついにただの
一つの呪文も使えなかったおれだ。別段特別なものなんて持ってないはずの
父上と母上がこのおれに頑丈な身体と無尽蔵の体力をくれたんだ。
おれの取り柄なんてそれくれいしかねぇんだから・・・もっと頼ってくれや。
お前はオレの後ろで安全に戦ってこうして回復してくれりゃいいんだ」
この洞窟の魔物たちはよほど邪悪な神々によって教育されているのだろう。
本来知性の低い魔物は、人の姿をした祈祷師や魔術師たちによる指揮や
統率がなければ戦いを上手に進めることができず、どれだけ力があろうが
むしろ戦いやすい相手ですらあった。ところがいまは魔物たちだけで
無駄のない動きで向かってくる。ようやく戦闘の波が止まったところだ。
「・・・アレン。わたしはね、あなたに四六時中守ってもらわないと
何もできないヤワな女じゃないのよ。あまり見くびらないで頂戴」
「し、しかしおれはお前を・・・」
「あなたももっと自分の体のことをしっかり考えてほしいのよ。自分のことすら
大事にできない人が他人をじゅうぶんに愛したりはできない、それをぜひ
覚えていてもらいたいものね」
セリアは不機嫌ではなさそうだったが強い口調でアレンに言うと、一人腰掛けて
水を飲み始めた。アレンは渋い顔で困った、という気持ちを表に出した。
「・・・おれは別にそういうわけじゃないんだが・・・」
「アレン、セリアはきみのことが心配なんだよ。当然感謝しているに決まっているさ。
でもあまりにも過ぎた自己犠牲も考えものだ。敵のやり方がいつもと違っても
そんなに恐れずに過保護にしてやる必要もないってことだよ」
アレンが後ろの二人を守ってはいるが彼の傷を癒すために、また群れで襲ってくる敵を
一掃するために魔力の消耗もこれまでになく早い。とにかく敵の攻撃が激しく、
温存などしている余裕はない。ようやく前回撤退した一番奥地までやってきたのだが
これだけ苦戦しているのでは出直しも考えたいところだったがそうもいかなかった。
「・・・この祈りの指輪・・・そろそろ壊れちゃいそうだけど・・・」
「回復しておけよ。指輪を惜しんで命を失ったら笑えないぜ」
そう。これだけ敵の猛攻が続くなかでここまでこの程度のダメージで済んでいるのは
出来過ぎている、と三人とも感じていた。確かに厳しい進軍だが、次回改めて
挑戦しようとしたときに、おそらくここまでは来れないのではないか、と思っていた。
「確かにきついが最初で最後のチャンスだ。このまま行くぜ!」
「・・・それならぼくに考えがある。この先は何のヒントもない。なら・・・」
アーサーは二人に対しある提案をした。それは、一時的な別行動だった。
魔物たちの攻撃はいっそう激しさを増すだろう。まともに進んでも
撤退を強いられる可能性が高い。ならばこれまで通りのやり方ではだめだ。
「つまり、ぼくが一人で先行して正しい道を見つける。一人でいるぶん魔物に
気づかれずに出口までの道のりを調べられると思うんだ。きみたちには
そこそこ後ろで魔物を引き付けてくれれば更にいいかな、と思うんだけど」
「・・・危険すぎるわ。だったらその役目はわたしが・・・」
「いや、待て。ここはこいつに任せようぜ、セリア。おれたちと違いアーサーは
自分から前に出るような奴じゃないがたまにそうするときは決まってうまくいく。
それにこの洞窟に来てからのこいつは特にそうだ。信じてやろうぜ」
決してアレンはセリアではなくアーサーならこの危険極まりない任務を任せても
いいと考えたわけではない。アレンの言葉にまさに偽りはなく、心からアーサーを
信頼していたのだ。今の彼ならやってくれると。気休め程度の聖水を頭から
全身にまいているアーサーの姿がこれまでになく頼もしく見えた。
「おお、ありがとうアレン。このメリットもデメリットも大きい博打に
乗ってくれて感謝するよ。じゃあさっそく行ってくる!少し遅れてから
ついてきてくれ。道がいくつもあるときは赤いしるしをつけておく」
「頼んだぜ。お前にルビス様の加護があらんことを!」
「ええ。必ず生き残りましょう。わたしたちがあなたの背後の魔物たちを
残らず打ち倒すからアーサー、あなたは安心して前だけを見ていなさい」
アーサーは一人先へ向かった。アレンたちは彼の言うように間を空けてから
そのあとに続こうとした。だが、どこに潜んでいたのか魔物たちがまるで
二人と一人になるのを待っていたかのようにアレンたちの前に立ちはだかった。
「・・・こいつら・・・意外となかなか頭を使えるみたいだな」
「どうかしら。ほんとうに賢ければわたしたちに喧嘩を売ったりしないでしょうに」
幸い二人はほんの少し前に二人旅を経験している。アーサーがいないとき
どう戦えばいいかはわかっていた。しかも二人の絆は更に深いものになっている。
アレンとセリアの前に魔物たちは次々と倒され、やはり賢くなかったことを
身をもって知ることになってしまった。
「ふん!楽勝だな、こりゃ!だがこうなると・・・」
「ええ!早く先へ行きましょう!アーサーが危ないわ!」
自分たちと同じように魔物に囲まれているのではないかと彼の身を案じ、
魔物の群れを難なく蹴散らすとすぐにアーサーのもとへと急いだ。
「・・・・・・・・・ここは・・・こっちか」
アレンとセリアの懸念をよそに、アーサーは気配を殺し物陰に隠れながら
ゆっくりと進んでいたが魔物たちに襲われることはなかった。順調に
ロンダルキアへの侵入を阻む迷路を攻略し、後から来る二人のための道標を
残していく。実は彼自身、自分のほうは安全に進めるのではないかという
予感があった。まず一つに、悪霊の神々が恐れているのは精霊ルビスに愛され
この世代で並ぶものはない力を持つあの二人であり、自分は違うと。
(・・・そう。たとえぼくが一人になったところで相手にもされないさ。
どうしてもここで殺しておきたいのは稀代の勇者であるアレンとセリアだ。
ぼくなんか後でどうにでもなるから無視で構わない、邪悪の神たちは
魔物たちにもあの二人を倒すことを最優先にしろと言うだろう)
そしてもう一つ。自分を絶対に死なせないというハーゴンのサマンサとの約束。
それが洞窟のそばのほこらで老婆に化けていたラフレシによって更に
強められていた。邪神たちがアレンとセリアを狙っているとはいえ、ここまで
何事もなく進めているのは、ハーゴンが神々の目を盗み何らかの奇跡的な方法で
保護してくれているからだと気がついた。三人はさすがに無理でも一人なら
あらゆる害、災厄から守るという彼女の言葉は問題なく果たされる。
(・・・・・・とはいえ油断してはいけないな。ぼくが失敗したらアレンたちも
終わってしまう!邪神の作戦やハーゴンの保護に甘えないでおこう)
アーサーが一人でロンダルキアに乗り込むのであれば、もしかするとハーゴンの
力によって神殿まで苦労せずに到着できるかもしれない。とはいえただ行けるだけだ。
悪霊の神々たちを葬り去るには三人がそろっていなければいけない。たった一人で
乗り込んだところで何もできずに敗れる。自分だけ洞窟を抜けても無駄だ。
「おっ・・・こんなところに水が。助かった・・・」
魔の瘴気に満たされているこの洞窟にも、冷たく清らかな水が流れていた。
食料と水をすべてアレンたちに残してきてしまったので、貴重な水場を
見つけたアーサーはそれに飛びつくようにして飲んだ。この点でも
彼が先に進むにあたり危機を感じることは一度もなかった。
だが、アーサーの前に魔物が全く現れないということ、それは彼の予想通り
ロンダルキアの洞窟の全勢力がアレンとセリアを倒すために集結し、彼らに
休む暇も与えずに戦闘を続けているしるしだった。
「フン・・・命が惜しくないやつらが次々と湧いてくるわ」
「雑魚どもめ、おれたちには敵わないとまだわからねぇのか。思い知らせてやる」
アーサーの不安をよそにアレンたちは魔物の軍団を撃破して先へ進む。
だんだんと戦っている相手の種族共通の弱点や癖がわかるようになり、
より戦いを圧倒的に支配できるようになっていた。
「これならあいつに追いつくのも時間の問題だな」
「そうね。もうこの洞窟の底は見えたわ。あとは・・・」
ところが、まだロンダルキアに至る最大の難関は彼らに試練を与えた。
ここに来て、二人は見たことのない魔物たちと対面した。それらこそが
いわば洞窟の主とも言える強者たちであり、バーサーカーやキラータイガー、
オークキングなどという並の戦士では一瞬で物言わぬ肉塊とされてしまう
強豪モンスターですら前座に過ぎない存在だった。
「ほー・・・これはまたどういう攻撃をしてくるのかわかりやすいやつらだな」
炎の玉そのもののような魔物がいた。アレンはムーンブルクで見た人魂のようだと
思ったが、それよりもずっと熱を感じた。まだ距離があるのに暑くなってくる。
負けじと自分も熱く闘志を燃え滾らせる。一匹ずつ、確実に剣で一撃必殺だと
狙いを決めた。もちろん敵はその炎の玉『フレイム』だけではない。
その後ろからはすでにアレフガルドでも竜王の城にいた数匹以外はもはや
絶滅していると思われた『ドラゴン』がゆっくりと近づいてきていた。
「アレフガルド大陸で全く見かけないと思ってはいたけれどこんな洞窟に
引き籠っていたなんて。そんな臆病者がわざわざまあ・・・・・・」
アレンとセリアは完全に見下していた。どうせこのフレイムとドラゴンが
炎を吐く攻撃を主な武器とするのは目に見えていたからだ。炎で攻めて
くるのであれば脅威ではない。アレンたちには炎を打ち消す装備がある。
アレンにはロトの鎧、セリアには水の羽衣。これまで多くの魔物が
自身の吐く炎が全く通じていないことに困惑しながら死んでいった。
「ガァ――――ッ!!!」
「どんどんきやがれ!てめぇらの炎なんか・・・」
アレンは炎を避けるつもりすらなかったが、魔物たちからそれが放たれる瞬間
咄嗟にとった行動は、やはり同じように相手の攻撃を軽視していたセリアの
前に立ち、彼女を守ることだった。そうしなければいけないと本能で動いた。
「・・・!!こ、この炎の勢いは・・・!」
「セリア!おれの後ろに隠れろ!ぐ・・・うぐおおっ!!」
明らかに威力が違う、ただの火というよりは燃え盛る火炎だ。その火炎の息が
二人を焼き尽くさんと襲い掛かってくる。いかに炎への対策ができている二人でも、
「ぐああっ・・・!!」 「きゃあっ」
アレンは大きなダメージを受け、彼に守られていたはずのセリアもその熱から
完璧に逃れることはできなかった。地上で最も優れた鎧であるロトの鎧、
炎をこれまで退けてきた水の羽衣であってもこの火炎は止められなかった。
もちろん、アレンが何の変哲もない普通の鎧、セリアがみかわしの服など、
全く炎への対策をしていなければ生き延びてはいなかっただろう。
「・・・調子に乗りすぎていたみたいだ・・・やはりそんなに簡単じゃなかった。
あの炎を完全に止める手段はない!だったらやられる前にやってやる、だ!」
「・・・・・・アレン!まずはそいつらを片付けて!」
アレンは数匹のフレイム相手に突進した。稲妻の剣で斬りかかると一撃で
倒れた。火力は高いようだが体力はそれほどでもないようで、それが
救いだった。もし一匹を倒すために何回も攻撃する必要があったならば
残ったフレイムに丸焼きにされていただろう。
「こっちはわたしがやるわ!とはいえ・・・・・・」
セリアはドラゴンの群れに目をやった。こちらはフレイムとは違い簡単には
倒れてくれそうにない。彼女のナイフや杖での攻撃はもちろん、アレンですら
一撃必殺とはいかないだろう。加えて、炎を吐くだけでなく爪による攻撃や
大きな体を使ったのしかかりなど、危険度ではフレイムよりずっと上だった。
「おいセリア!無理するな!こいつらを全滅させたらオレがそっちへ行く!
お前のバギやいかづちの杖じゃそいつらは倒せやしねえ!逃げろ!」
「・・・・・・・・・」
決してアレンは自分を見下し軽んじているわけではない。心配だからそのような
ことを言うのだとセリアもわかっている。しかし彼女は気に入らなかった。
自分たちは三人で一人の体だと誓い合ったはずだ。それぞれが体の部位として
補いあってきたのだ。それなのにアレンばかりが『勇者ロトの正当な後継者』、
『真の勇者』であるかのように祝福され力に満たされ、どんどん遠い存在に
なっていく気がしてならなかったからだ。不安や焦り、何より苛立ちがあった。
「・・・・・・気に入らないわ・・・ああ腹立たしい!」
「何だ!?何か言ったのかセリア!よく聞き取れなかった!大きな声で・・・」
セリアを苛立たせる主な原因、それは意外にも『アレンを愛しているから』だった。
彼に差をつけられること自体は仕方ないとしても、それにより彼が手の届かない
ところへと去ってしまうことに危機感を抱き、セリアに不機嫌さをもたらした。
伝説の一つに過ぎないが、勇者ロトを愛した精霊ルビスは彼と結ばれたという
説がある。また、竜王を倒したラダトームのブライアンがローラ姫と共になったのも
ロトの生まれ変わりであるとされるブライアンとルビスの生き写しというローラが
ルビスによって新たな時代の始祖と定められたからだ。そして目の前でフレイムを
次々と切り刻む闘将アレンも、ルビスから特別な愛情を与えられし男なのだ。
ならば自分はどうなのか。セリアは己のことを深く考える。確かに精霊からの
祝福を感じることはある。しかしとてもではないがルビスの生き写しであるとか、
勇者の妻にふさわしいと認められるような人間であるとは思えなかった。
この手でこれまでどれほどの血を流してきたか。また憎悪と憤怒、復讐心を
戦いの力とする自分は戦人としては精霊に認められても、アレンの妻と
されるのはもっと美しい心を持ち、戦いによって汚れていない女性だろう。
「腹立たしいわ・・・!そっちからわたしを惑わしてきたくせに・・・なのに
勝手にどこか遠くへ行ってしまうなんて!なんて自分勝手な男なの!」
「おい・・・だから何を言ってやがるんだ!?もうすぐそっちに行く!」
「うるさいわ!わたしはあなたに守られなきゃ何もできない足手まといでも
勇者のおまけでもない!わたしはいつまでもあなたと並んで歩き続ける!
こんな時代遅れのドラゴンくらい何でもないって言ってるのよ――――っ!!」
セリアのロトの紋章の形をした腕のアザから赤い光が放たれた。その現象は
旅のあいだ幾度もあったが、この度はそれ以上だった。なんと光は腕だけに
とどまらず、彼女の全身を満たしていく。アレンは驚き戸惑ったが当の本人
セリアはそれにも関わらず動きを止めず呪文の詠唱を始めた。すでに
フレイムを全て片付けていたアレンはその呪文について知っていた。
「・・・おい、セリア!そいつは確かまだ練習中だと・・・!実戦ではまだ
試してすらいない・・・そんなものに頼るだなんて!」
「いいえ・・・今ならいけそうな気がするわ!古代より蘇りし呪文のなかでも
最高傑作、わたしにとっても最大の武器となるであろうこの呪文!
あなたと肩を並べるに恥じない・・・・・・」
バギとは比べ物にならないほどの膨大な魔力が溜まっていく。標的とされた
ドラゴンたちもその異質さに気がついたが逃げることすらできなかった。
「死すべき魔の者を無に帰せしめなさい!イオナズ―――ン!!」
目を閉じてしまうほどの眩しい光と同時に、激しい爆発が起きた。ドラゴンの群れの
中心で大爆発が起きたが、確実に彼らだけを巻き込み、洞窟が崩れたりして
アレンたちまで被害を被ることはなかった。やがて爆音がおさまり、その目で
爆発がどうなったのか確認できるほどになったとき、そこにはドラゴンたちの
原形をとどめない死体がいくつも重なっていた。肉も骨も内臓も、全てが
もはや回収すらできない無残な状態になっていた。
「・・・・・・そ、それが『イオナズン』か・・・凄いな。
凄い、という以外おれには言葉が出てこない」
「ふん・・・だから言ったのよ、あなたに過保護に扱われるほどわたしは
弱くないって。魔族に対するわたしの怒りの心が燃え滾る限り
まだまだわたしは強くなり続けるわ!新たな時代の勇者の一人として!」
セリアの覚醒の瞬間だった。彼女は怒りをその原動力だと口にしたが、
ほんとうのところはアレンに取り残されたくないという彼への愛だった。
ルビスやローラのような女性になれないというなら、あくまでその力で
更に高みに至ることによってアレンの隣にいたいという願いが攻撃の
呪文では最高とされるイオナズンの発動を可能にさせたのだ。
騒ぎを聞きつけたほかの魔物たちが続々と戦闘に加わってきたが、敵の数が
どれだけいようが広範囲での大爆発を可能とするイオナズンの犠牲が増える
だけだった。また、彼女に負けじとアレンの動きも切れを増していった。
いかにセリアが守られる必要はないと主張しようがアレンはやはり男として
先頭に立ち彼女の盾であり続けたかった。
(・・・不安なのはおれのほうだ。あんまりセリアに強くなられたら
やっぱり一人で生きていけるからあなたなんていらないって言われかねない
からな・・・。おれもこれまで以上にいいところを見せないと・・・!)
互いへの愛が互いを高めあって、ロンダルキアへの道を阻む精鋭たちすらも
圧倒していく。ちっぽけな人間の男女二人が何倍も大きな体を持つドラゴンを
吹き飛ばし、何十倍もの数を武器に襲い掛かるそれ以外の魔物たちをも
打ち殺していく姿は、戦いの神であるかのように見えたという。
賢明な魔物たちはアレンとセリアを見て、来た道を引き返してこう言い合った。
「・・・あの人間たちに関わるのはやめて平穏な暮らしに戻ろうではないか!」
「ドラゴンやフレイム・・・神々の力を受けた同胞たちですら歯が立たないのだ!
どうして我らが意味もなく命を散らすべきなのだろうか。やめよう!」
戦いを放棄してロンダルキアに行こうものなら悪霊の神々たちの制裁が
待っている。とはいえ下界に降りればやがて帰ってきた恐ろしい二人が
自分たちを生かしはしない。結局残されたのはこの洞窟で細々と
暮らすことだけだったが、命さえあればそれでも構わないと、邪悪で獰猛な
魔物たちでもそのような結論に至るほど二人の姿は恐れを与えるものだった。
「・・・よし、いよいよおれたちの邪魔をする奴はもう誰も・・・」
アレンとしても、恐怖心を植えつけるためにわざと大げさに敵を討った。
戦意を喪失させ余計な戦いを避けることが目的で、多少無駄に力を使ってでも
そうした。セリアも惜しまずにイオナズンを唱えた。アレンたちの狙い通りの
展開になったが、彼らは知らなかった。この洞窟にはそもそも心を持たない、
最終兵器と呼べる魔物がいたことを。イオナズンの爆発の煙のなかから
無傷で現れたその魔物は、アレンたちに死をもたらす殺戮機械だった。