ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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殺戮機械と蘇生呪文の巻 (ロンダルキアの洞窟④)

 

セリアのイオナズンを無傷で耐えきりアレンとセリアのもとにガシャン、ガシャンと

迫ってくるのはこの洞窟で最強の殺戮機械、『キラーマシン』という魔物だった。

どのような仕掛けで動いているのかわからないが、魔の力によって操られて

いるのだから細かい説明を求めるだけ無駄なのだろう。

 

「イオナズンが効かないか・・・ならおれがこの手で壊してやるか」

 

似たような機械の魔物、メタルハンターの性能を考えたらそこまで苦戦せずに

倒せそうだとアレンは稲妻の剣で斬りかかった。ところがその金属の体は

アレンの重量級の攻撃をものともせず、逆にアレンの手が痺れた。

 

「・・・アレン!その魔物・・・」

 

「なんて硬さだ!しかも呪文もだめだとなると・・・」

 

 

「ピピピ・・・・・・ガ――――」

 

アレンが考える前にキラーマシンは持っていた武器を激しく振り回してきた。全身を

ロトの防具によって固めるアレンだったが、盾を軽々と突破し、胴体に被弾した。

 

「がっ・・・!!」

 

更に頭部にも追撃が入る。目の前が一瞬真っ暗になったがすぐにアレンは

意識を取り戻し、再び身構えようとしたが片膝をつき動きが止まってしまう。

 

「・・・ベホマ!」

 

「おお・・・ありがてぇ。だがいまだにフラフラするぜ。ロトの防具の

 どれか一つでも欠けていたら死んでいたかもしれないな・・・」

 

回復呪文の援護をもらい、さて立て直しだ、とアレンが剣に力を込めたが、

キラーマシンが今度はボウガンで遠距離攻撃を仕掛け、アレンの足を射た。

 

「ぐああっ!隙が・・・・・・ない!」

 

「アレンっ!ならもう一度・・・イオナズン!」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

セリアはキラーマシンに向かってイオナズンを唱えた。だが今回も効果がない。

こうなるとイオナズンは全く通じないと思ったほうがいいだろう。セリアは

直接攻撃からアレンの補助に切り替え、彼にベホマをかけた。

 

「・・・おれの攻撃もどれだけ効いているのかわからん!何せ表情がなければ

 感情もない敵なんだ。だが地道に攻撃を重ねていくしか方法はない!」

 

「ならわたしは・・・・・・」

 

ところが、このキラーマシン一体相手に集中できる状況ではなくなった。

殺戮機械が優勢に戦いを進めている状況を見て、息を潜めていた洞窟の魔物たちが

この機に乗じてアレンたちを打ち倒そうと意気込んで再び襲い掛かってきたのだ。

この魔物たちであればイオナズンがよく効き、一撃で葬り去れる。

 

「・・・そっちは頼むぞ!雑魚どもをこっちに近づけるなよ!」

 

「ええ!あなたの邪魔はさせないわ!こんなやつらわたし一人で・・・」

 

 

乱入してきた魔物の群れは怖くない。セリアがイオナズンで一掃できる。

真に問題なのは、セリアがもうアレンの援護に回れなくなってしまったと

いう点にある。ここで彼女は先ほどの自分の選択を悔やんだ。

 

(・・・失敗だったわ。イオナズンが効きそうにないことくらい最初から

 わかっていたのに・・・つい自分で決めようとしてしまった)

 

かつてバギの呪文ばかりを唱えていたセリアが、それより数倍の破壊力と

殺傷力を誇るイオナズンを自分のものとしたのだ。以前の悪癖が戻ってきて

しまったのも無理はない。しかしいまはそれが取り返しのつかない失敗だった。

彼と分断され、やり直しがきかない状況に追い込まれていたからだ。

 

(一回しかチャンスがないなら・・・イオナズンではなくルカナンの呪文を

 唱えるべきだった!あの魔物の鉄壁の守りを崩せたかもしれないのに!)

 

自分で決めようとしたのが間違いだった。あのキラーマシンはアレンでなければ

倒せなかったのだ。だがいつまでも失敗を悔やんでいてもいいことはない。

セリアは両頬を右と左のそれぞれの手で音が出るほど叩き、自らに喝を入れ

気合を入れ直し、魔物たちめがけてイオナズンを唱えた。幸いなことに、

この魔物たちにはイオナズンはよく効き、一回はかわされるか堪えられるか

したところで二発目には例外なく残らず沈んでいった。

 

 

「ガガガガ・・・ガガガ・・・・・・」

 

「くそ・・・やっぱり楽にはロンダルキアに行かせてくれないか!だが・・・!」

 

アレンとキラーマシンの戦いは、ただ互いに物理攻撃を行うだけの極めて単純な

ものだった。アレンの生命力とキラーマシンの耐久のどちらが先に尽きるかだ。

一見根比べに見えるが機械は痛みも疲れも無縁だ。アレンは不利に思えたが、

 

「・・・だがこいつは根性とか闘志というものに縁がねぇ!学習は

 しているようだがずっと戦ってりゃあおれの燃える炎のほうが上だ!」

 

もちろんアレンに炎を操る術はない。闘将ボーイと呼ばれる彼の特性のことだ。

強い敵と戦えば戦うほど心は燃えあがり、それを支える生まれつきの、そして

欠かさぬ鍛錬によって得られた強靭な肉体と体力。何より彼は戦いが好きだった。

キラーマシンとの先が見えないはずの一騎打ちにも血が煮え滾っていた。

 

「動きが鈍ってきたなァ!腹でも減ったか―――――っ!?」

 

やがてアレンが傷を負いながらもキラーマシン相手に優勢になっていく。

機械戦士は一度不利になってしまうともうひっくり返すことができない。

人間の強みを見せたアレンがとどめと言わんばかりに剣を突き刺した。

 

「ガ――――――――・・・・・・・・・」

 

「・・・・・・よ、よし!やっと鉄くずになったか・・・なかなかしんどかったぜ」

 

 

アレンも無理して戦っていた。死と隣り合わせの緊張感から解放され、

その場に座り込んだ。冷静になって自分の体を見ると至るところから

出血しているうえに骨が折れていたり足を貫かれていたり、これほどの

怪我に気がつかずに戦っていたのだ。いかに戦闘に熱が入っていたかがわかる。

 

(おれは戦闘狂ってわけではないと思っていたが・・・こうなるまで我を忘れて

 戦っていたってわけか・・・気をつけないとな)

 

 

その彼の姿を見たとたん、セリアが目の色を変えてアレンのもとに駆けてきた。

すでに魔物の群れは全滅させた後のようだ。すぐに彼にベホマを唱える。

 

「・・・おお、助かったぜ。だが・・・さすがのベホマでも全快までは

 ちょっと時間がかかりそうだ。お前があんなにたくさんの魔物を一人で

 やっつけてくれたのにおれときたらこのザマだ。情けねぇ・・・・・・。

 こんなにぼろぼろになってやっと一体破壊できた。恥ずかしいぜ」

 

「何を言っているの!数しか取り柄のないあの雑魚どもとあなたが戦った

 魔物は別格だったわ!あなたでなければ倒せなかった。わたしがはじめに

 冷静になってルカナンを唱えていれば・・・」

 

「まあいいじゃねぇか。無事に終わったんだ。ひとまず反省会は後で・・・・・・」

 

 

戦いは終わった、と思っていたそのときだった。アレンの右肩に矢が突き刺さる。

完全に貫かれ、骨が砕けているようだ。肩から全身へ痛みの衝撃が走った。

 

「・・・・・・!!あ、あれは・・・・・・!!」

 

「ピ――――――・・・・・・ガガガ――――――」

 

その矢が射られた先には、アレンが倒したキラーマシンと全く同じ姿の機械が一体。

あの強敵がもう一体残っていた。アレンは肩を抑えながら立ち上がる。

 

「アレン!その身体じゃ・・・・・・」

 

「おれがやらなきゃ誰がやるってんだ!お前は後ろに隠れていろ!またどこかに

 伏兵の魔物が潜んでやがるかもしれない。あの機械野郎はおれに任せろ!」

 

 

アレンは手負いであることを感じさせない動きでキラーマシンに向かっていった。

 

「うおおおおおお―――――――っ!!」

 

「アレ――――――ン!!」

 

 

 

 

 

「・・・・・・よし、これだけ目印をつけておけば十分だろう。魔物の気配も

 まったくない。ここで二人を待とう。ここまでうまくいくとはね」

 

アーサーはなんとついに一度も戦うことなくアレンたちと合流するのに都合のよい

場所までやってきた。水場で回収した水もまだまだ残っている。何の背景も

なければこれは精霊ルビスの祝福と言っていたところだが、彼はなぜこれほど

苦労なくこの洞窟を単独で進めたのかを知っている。

 

(・・・ハーゴン・・・きみの力なら何でもできるというのか)

 

そのハーゴンがどうにもならない相手、悪霊の神々とは果たしてどれほどの

強敵なのか。まだ見てもいない相手を今から恐れていても仕方がないので

アーサーはそれ以上考えることをせず、座りながら仮眠をとった。

 

安全が約束されているからか、つい寝すぎてしまったとアーサーが慌てて

起きたのは五時間後だったが、それでもまだ二人は到着していなかった。

 

(・・・・・・遅すぎる。何かあったか・・・!)

 

戦闘のざわめきは全く聞こえない。まさかあの二人はすでに倒されてしまったのか。

ハーゴンはアーサーならばどんなことがあっても守ると約束したが残りの二人には

関心を失っている様子すら伺えた。その危機を救ったりはしないだろう。

 

(・・・とはいってもアレンとセリアが勝てない相手のもとにぼくが向かった

 ところで勝機はないな。ただいっしょに死んでやるだけの無意味な行為か。

 でもアレンたちは死ぬどころか簡単に負けるようなことすらありえない。

 だからぼくが二人のところへ急ぐことは無駄ではない!)

 

アーサーはそう信じ、自らがつけた目印をもとに来た道を戻っていく。やはり

洞窟は静かなままで、魔物の気配は感じられない。しばらく駆けていると

目の前から歩いてくる人影が二つ見え、アーサーを安心させた。

 

 

「・・・おお、二人とも・・・なかなか遅かったじゃないか。もしかしたら、と

 思ったけれどきみたち相手には無用な・・・・・・」

 

アーサーは二人を迎えるしぐさを見せたが、すぐにただならぬ事態であることを

察した。なんとセリアがアレンの肩を抱えながらどうにか前へ進んでいる。

そのアレンは目立った傷こそないが、顔からは全く生気を感じられなかった。

彼に意識があればまさかセリアに自らの体を預けたりはしないだろう。

 

「・・・・・・アレン!これは・・・・・・!!」

 

「アーサー・・・!アレンが、アレンが・・・死んじゃう!」

 

セリアの顔は泥だらけだったが、溜まった涙がぼろぼろとこぼれ落ちるその姿が

衝撃的だった。彼女が泣いたのを見たのはこれが初めてだったからだ。決して

弱いところを表に出さないセリアが感情を露わにしている。アレンの状態が

いかに深刻であるか、彼女の涙がそれをアーサーに教えた。

 

「ベホマで傷は治したの!でも・・・ぜんぜん目を覚ましてくれないの!

 このままじゃアレンがわたしのせいで・・・アーサー!アレンが・・・!」

 

「・・・・・・とりあえずそこに寝かせよう」

 

落ち着くように言ったところでいまのセリアは聞く耳を持たないほど取り乱している。

かつて目の前で父を失った忌まわしき記憶を思い出してしまったのか。そうでなくとも

愛するアレンが死にゆくのに平常心でいられるはずがない。アーサーですらどうにか

沈着冷静でいるように自らに言い聞かせているのだ。

 

 

「アレンはわたしをかばってあの機械の魔物と戦って・・・!でも傷が酷くて、

 だからベホマを唱えて傷は治したの!でも・・・目を覚ましてくれないの・・・」

 

泣きながら先ほどと同じことを言うようになってしまった。アーサーとしても

原因を知るよりまずはアレンの回復が先なので話ができなくても問題はないが、

自分が楽に洞窟を進んでいる間、二人はこれまでの旅で最大の戦いをしていた

ことにアーサーは僅かな疎外感を覚えていた。正義と悪の壮絶な死闘を

繰り広げていた裏で呑気に昼寝をしていたことに情けなさを感じてしまった。

 

 

「・・・そうか、ベホマですら傷を治すだけで失われた生命力を戻すことはできないと。

 だったらあの呪文に賭けるしか・・・魔力はまだ残ってる?」

 

「それももうやったわ!あなたから教えてもらった『ザオリク』のことでしょう!?

 でもだめだった。このままじゃアレンが・・・・・・」

 

死から蘇らせる呪文とされているザオリクであってもアレンを完璧に癒すことは

できず、これでは外傷のない遺体にするための処置にすぎなかった。それだけ

アレンがキラーマシンとの戦いによっていかに致命的な傷を負わされたか、

しかしそれでもなお勝利しセリアを守った彼の精神力が素晴らしいものであるかを

物語っていた。アーサーはまた一段とその表情を引き締めると、いまは横たわる

アレンの胸に突っ伏して泣いているセリアの肩にやさしく手を置くと、こう言った。

 

 

「・・・この全ての戦いが終わって無事に下界に戻れたならばセリア、きみは

 サマンサ・・・ぼくの妹に心からの感謝を伝えないといけない」

 

「あなたの・・・妹?どうしてそんなことをこんなときに・・・・・・」

 

「あいつがこの古代呪文の真の力を見出してくれたからだ!僅かに命の灯が

 残っていたならば、完全に死んでしまったのでなければ・・・・・・

 ザオリクという呪文は完全なる回復をもたらすものだったそうだ。とても

 弱まっているとはいえアレンは生きている、まだ間に合う!」

 

アーサーは『真の』ザオリクの詠唱を始めた。力なく倒れているアレンが聖なる

光に包まれ、ついに清い輝きが洞窟じゅうを満たした。

 

「・・・きゃあ!目が・・・!」

 

「・・・・・・・・・!!」

 

呪文の詠唱が終わりアーサーがアレンから手を離した後も光は弱くなる様子を

見せず、アレンを満たし続ける。そしてこの眩しさに眠りを妨げられた彼が

目のあたりを手でこすり始めた。死の寸前から魂が生還したのだ。

 

 

「・・・・・・ん・・・ここは・・・ああ?洞窟!?なんでこんなところで

 おれは寝てたんだ?そうだ、思い出した!魔物の群れは・・・」

 

「ふふ・・・まだ寝ぼけているようだ。でもそのまま眠っていられちゃ

 困るんでね。だけどきみを危機から救ったのはぼくじゃあなくて・・・」

 

ようやく心も戻ってきたアレンに対してアーサーは彼のために比較的

ゆっくりと話した。アレンの復活を心から喜びながらも興奮を抑え、

体に異常がないかどうかを注意深く調べようとしていた。しかしもう一人、

アレンが帰ってきたことに感動していた彼女はアーサーのように冷静ではなかった。

 

 

「・・・・・・ぐおっ!!」

 

ようやく体を起こしかけていたアレンに向かって飛びついた。アレンはまたしても

地面に倒れた。予想外の衝撃に何事かと目を回したが、すぐにその顔が見えた。

 

「・・・セリア・・・悪かったな・・・おれが弱いせいで心配させたな」

 

「・・・・・・全くその通りだわ!わたしの制止も振り切って勝手な真似を・・・!

 あなたまで目の前で殺されてしまったらわたしはもう・・・・・・」

 

やはり彼女のなかで父の命を奪われたことと重なっていたようだ。アレンが

目を覚ましたことに、先ほど以上の大粒の涙を流していた。そして彼に

抱きつく力を更に強めた。離れたくないという気持ちが前面に出ていたが、

 

 

「・・・アレン・・・アレン!ああ・・・・・・」

 

「セ、セリア・・・その・・・もう少し緩めてくれ・・・・・・うれしいんだが

 首が絞めつけられて・・・・・・き、聞こえてねえのか?首が苦し・・・・・・

 ・・・・・・・・・ぐえっ」

 

アレンはセリアに絞め落とされる形になり、再び全身から力を失った。

 

「あっ・・・また死んだ」

 

「アレン!?ちょっとアレン!しっかりしてちょうだい!急にどうしたのよ!?」

 

今回はザオリクを唱えずともしばらく待てばアレンはまた意識を取り戻した。

後にアレンが言うには、愛する女に抱かれながら呼吸ができなくなっていくという、

至高の心地よさと苦しみを同時に味わっている感じだったとのことだ。

 

 

「・・・・・・ごめんなさい。わたしがすっかり我を忘れていたせいで・・・」

 

「そんなしょぼくれるなよ、お前らしくもないぜ。それにお前をそこまで

 追い詰めたのはおれに責任がある。まだまだ強くならなくちゃならねえ。

 素晴らしい武具に守られていたことで慢心していたのかもしれないな・・・」

 

「わたしも同じだわ。イオナズンの呪文は確かに強力だけれど過信しては

 いけない。絶対に効かない相手もいるというのを覚えておかないと・・・」

 

二人は心身ともに落ち着いていた。それを見たアーサーは一人で立ち上がった。

 

「アーサー・・・どこへ?アレンにはまだ休息の時間が必要だわ」

 

「わかっている。だからぼく一人でもう一度この先の様子を見てくる。

 さっきは全くいなかった魔物たちが今になって出てきていないか確かめに

 行ってくる。気配からしてたぶん平気だと思うけれど念のためにね」

 

「おお、そういうことか。なら頼むぜ。というかここから先には魔物はいないのか!

 だったらもう楽勝だな。だが油断はするなよ」

 

アーサーは無言でうなずくと歩き始め、その姿が見えなくなった。

アレンとセリアは残される形になり、二人きりになった。

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