ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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明日のためにの巻 (ロンダルキアの洞窟⑤)

アーサーが一人で洞窟の先へと向かっていった。アレンはまだ横になっていた。

すぐそばに座っていたセリアに対し、自分用の荷物入れを指さして言った。

 

「なあ・・・あれを出してくれ。あの薬草だ。一服したい」

 

彼が旅の初めから愛用している、傷を癒す薬草とは別の種類の薬草だった。

この薬草は気分を高揚させる効果があり、痛みを鎮める役目もあった。

ただし身体に有害な成分があるとも言われていて、依存性も指摘されている。

アレンもそれはわかっているが、どうしてもやめられない旅のお供だった。

 

「・・・・・・おい、どうした。早くくれよ」

 

「・・・前から言いたかったの。もうあれを使うのはやめにしたほうがいいわ。

 ムーンブルクの研究でも早死にや脳への悪影響が確かなものとされていた」

 

「確実じゃないだろ。おれ以上の愛好家で八十歳を超えてなお元気な爺さんが

 ローレシアにはいるぜ。とにかく無性に今あれが欲しいんだよ・・・」

 

アレンは手を伸ばしたが、セリアはそれを払いのけた。いつもの厳しいセリアが

戻ってきたか、と思われたが、今日のセリアはやはりどこか違っていた。

そのまま彼を起こすと、自らの胸もとにゆっくりとその頭を抱き寄せた。危うく彼を

窒息死させそうになった先ほどとは異なり、とてもやさしくそうしたのだった。

 

 

「・・・・・・・・・」

 

「ねぇアレン。わたし、自信過剰かしら?もしそうなら早めに遠慮なく言ってほしい。

 でも、いまだけは傷ついたあなたをこうやって癒したい気分なの・・・・・・」

 

アレンはもちろんセリアを拒絶しなかったが、照れ隠しのような口調で言った。

 

「へへ、お前も罪な女だぜ。おれのこの旅の楽しみだった酒はすでにアーサーとの

 約束で旅のあいだは一滴も飲めねぇってのに残った薬草と女までも奪おうってのか」

 

「・・・・・・?」

 

「最初にローレシアを出たとき、ムーンブルクの調査が表向きの理由だったが

 実はすでに邪教壊滅まで考えていた。だがその更に裏の目的がおれにはあった。

 将来おれの妻や側女となる女たちをこの目で選んで世界中から連れてこようと

 考えていた。これくらいの役得はあっても天罰はないと思い・・・」

 

「まあ・・・呆れた。女性に目がないのは知っていたけど一番初めから

 下心の塊だったのね。よくまあこれまで事件の一つも起きずに済んだわ」

 

アレンはここでもう一度セリアの胸に顔をうずめた。その感触や匂いを

味わいたいというよりは、これから先の自分の顔を見られたくなかったからだ。

 

 

「・・・だが・・・死んだはずのお前に出会ってから計画は狂っちまったよ。

 旅も大詰めなのにいまだにただの一人もいないじゃねぇか、そんな女は。

 いったいどうしてこんなことになったのやら・・・・・・」

 

「あら、あなたわかっていないのね。すでに見つけたでしょう。一人は」

 

 

互いにその言葉のなかで直接的なところを言わなかったが、しっかり届いていた。

アレンの顔の温度はみるみる熱を増し、セリアの心臓の鼓動は高まっている。

それが密着している二人には伝わっていて、自分だけではないのだとわかった。

 

「・・・まあお酒や薬草ならたまにならいいとわたしは思うわ。でも・・・

 もしこれから本能と性欲のままに妻や側女探しに励み、その過程で汚れた

 行為に及んだとなったら、あなたの局部を聖なるナイフで切り刻んだ後に

 イオナズンであなたの肉体も浄化する。覚えておくといいわ」

 

その恐ろしい忠告に、アレンの真っ赤だった顔が一瞬で青くなっていた。

 

 

 

この世界に混乱をもたらす邪教を壊滅させ彼らの野望を阻止すべくローレシアから

旅立ったアレン。その途中、ムーンブルクの滅びを生き残ったセリアが自らも旅に

同行したいと強く願った時、初めは反対していたアレンはついにその熱意に

心を動かされ、それを認めた。その際アーサーとの約束で、彼女を仲間とする

代わりに、この旅の間は酒を一切飲まないということを決めてしまったのだ。

 

これで彼に残された楽しみは、依存性の強い、精神に快感をもたらす薬草と

世界各地で自らの妻や側女となる女性たちを見つけることであったが、

その二つも今、セリアによって完全に断たれることになった。

 

「・・・おいおい、そいつはさすがに冗談だろ?あのイオナズンをまともに

 くらったら浄められるどころか灰になっちまうよ」

 

「ふふ・・・わたしは本気よ。さあ、いまはアーサーが戻るまで休みましょう」

 

 

これはとんでもない女を選んでしまったかもしれないとアレンは冷や汗をかいたが、

あのセリアの愛や嫉妬を一身に受けるという今の状況は、共に冒険を始めたときには

思いもしないことだった。それはアレンにいっそう責任感を与えるものとなった。

 

(どうあれこの洞窟を抜けてロンダルキアにたどり着き、おれたちの旅の最大の

 目的を果たさなきゃいろんな誓いも決意も全ては意味がない。ただこいつを

 守るだけじゃだめだ。おれたち三人全員で生きて帰らないといけない!)

 

「ところで・・・あと少しで死んでしまうというのは・・・どうだったかしら?

 歴史に残る勇者である先祖様たちやルビス様に止められたりした?まだあなたは

 こっちへ来てはいけないとか・・・」

 

「・・・いいや、特に何もなかったぜ。ただ、そっちへ行けばもう戦わなくてもいい、

 辛い思いはしなくていい・・・そんな誘惑はあったような気がするな。でも

 おれはまだこっちでやり残していることがたくさんあるからな」

 

「それはそうよ。わたしたちの特別な使命を抜きにしても、二十歳前なのに

 この世の中に未練がないっていうのは寂しすぎるじゃないの」

 

アレンにはまだまだ死ぬわけにはいかない理由が多くある。邪教を滅ぼすことも

もちろんとして、やはりセリアに関することがその半分以上を占めていた。

かつて正義と秩序のためにこの命を捨てても構わないと思ってたアレンに、

自分でもわかるほど大きな変化が生じていた。

 

 

 

 

そのころアーサーは、もうあと僅かで洞窟の出口だというあたりまで来ていたが、

今その歩みは止まっていた。魔物による襲撃ではない。完全なザオリクという

最高位の呪文を唱えたことによる反動か、それとも近ごろ彼を襲う症状か。

小さな血の池ができるほどの吐血に、両膝と両手が地についてしまっていた。

 

「・・・・・・!!危ない危ない・・・アレンを死の淵から蘇生させても

 ぼくが死んでしまっては・・・いや、彼と命の交換ができるのならそのほうが

 いいのかもしれないけれど、まだ先は長い。ここで力尽きるわけには・・・」

 

この状況で魔物たちと鉢合わせになったらまず終わりだろう。とはいえこれまで

アーサー一人でいるぶんにはそんなことはなかった。今回も大丈夫だろうと

ようやく彼が力を入れて立ち上がると、目の前には二匹の魔物がいた。

 

 

「さっきまでいなかったはず・・・いつの間に・・・・・・?」

 

アーサーは剣に手を伸ばしたが、その二匹の姿を確認すると警戒を解いた。

一匹はローレシア大陸にもいる弱き魔物ホイミスライムで、もう一匹は

『はぐれメタル』と呼ばれるすぐ逃げてしまうこともある魔物だったからだ。

 

実はこの二匹でコンビを組まれると非常に厄介だった。アーサーの攻撃では

硬い身体と比類なき素早さを持ち、呪文は一切効かないはぐれメタルに対して

ほとんど傷を与えられない。辛抱強く少しずつそれを積み重ねていっても

ホイミスライムが癒してしまう。ならばホイミスライムから倒してしまおうと

思うと、はぐれメタルには火力もある。ベギラマの炎が襲ってくるのだ。

 

(ただ、この洞窟のほかの魔物たちに比べたらかわいいものだ。ホイミスライムを

 打ち倒してはぐれメタルが勝手にいなくなるのを待つのが最善か・・・?)

 

今までアーサーは冒険を始めた時からずっと、見逃すべき魔物だと判断したなら

とどめをささずに、もしくは傷を一切与えることすらなく戦いを終わらせていた。

だがこの洞窟に入ってからそのようなことはまるでない。悪霊の神々の影響を受けた

殺意に満ちた魔物たちばかりだからだ。それに加えアーサー自身に相手の本質を

見極めるほどの余裕がなくなっていたという要因もある。敵の攻撃が激しく

なっていること、そして自らの体を蝕む何かのせいだった。いま目の前にいる

ホイミスライムとはぐれメタルに対しても正しい見方ができずにいた。

それを察したか、なんとその二匹のほうからアーサーに対して呼びかけてきた。

 

 

「わたしたちを殺さないでください!わたしたちもあなたと戦うつもりなど

 ないからです!どうかこのまま素通りしてはもらえませんか!」

 

「人の言葉を・・・!まあ今更珍しいものでもないか。きみたちはぼくに

 危害を加える気はないと・・・。だがぼくの仲間に対してはどうかな?

 それにきみたちが直接手を出さないとしても・・・その背後に強力な

 魔物が控えている、そんな裏がある話かもしれないな」

 

自分だけではなく、アレンとセリアの命もかかっている。簡単に誘いに

乗ることはできなかった。数多くの罠が用意されていたロンダルキアへ

向かう洞窟の最後の最後に大きな落とし穴があってもおかしくないからだ。

 

しかし、その二匹から感じ取れたのはこれまでアーサーが見逃してきた

魔物たちと同じ雰囲気であり、斬るべきではない相手だった。ムーンペタの

そばの森で家族を守っていたマンドリル、いつの間にか船に乗りこんでいた

二匹のしびれくらげ・・・言葉すら話せないその魔物たちの心の奥すら

読み取るアーサーがいま、このホイミスライムとはぐれメタルの真意を

間違えるはずなどなかった。そして剣を構えるのをやめた。我ながら

なんて甘いんだ、と呆れ笑いが漏れたが、突然二匹は何かを出してきた。

 

 

「・・・・・・それは・・・何なんだ?文字・・・なのか!」

 

「これは・・・もう数百年以上前、わたしの先祖のはぐれメタルがあなたの先祖、

 偉大なる勇者ロトと契約を結んだ証です!互いに認め合い、その子孫の代に

 至るまで定めなく平和な関係を築いていくようにとの・・・!この文字の

 右側はあなたの先祖が書いた文字であるとされています」

 

アーサーはこのはぐれメタルの述べた過去の出来事が真実であることを知っていた。

勇者ロトの仲間には確かに自然と魔物と仲良くなれる者がいて、『上の世界』では

もちろんのこと、大魔王ゾーマの影響力が強いアレフガルドですらそれを

可能にしていた。アーサーの持つ『勇者伝』にもそれは記録されていた。

 

「そういえば書いてあったな。そうか、きみがあのはぐれメタルの子孫!」

 

「それだけではありませんよ。こっちのホイミスライム・・・これはもっと

 凄い!なんと、勇者ロトの旅の一行だったホイミスライムの子孫です!」

 

「はは・・・そ、そうなんですよ。どうも・・・・・・」

 

頭をぺこりと下げるそのホイミスライムに、アーサーは思わずお辞儀を返した。

やはりロトの旅立ちのときからの仲間であり、魔物と親しくなることに

長けていた者が、自らが回復呪文を使えないことの穴埋めとして一匹の

ホイミスライムを連れてきていた。結局最後の戦いまでそのホイミスライムは

勇者ロト一行として彼らと共に戦ったことは、ハーゴンが書き記した書以外にも

多くの書物や歴史的な資料から事実だということは揺るがない。

 

 

「・・・そのきみたちはどうしてこんなところにいるんだ?」

 

「わたしたちは人間からも魔族からも追われているからです。人間は他の魔物たち

 以上に血眼になってわたしたちの種族を倒そうとしています」

 

「それは魔族も変わりません。わたしたちを獲物と見ていますし、それに加えて

 特別な力を持つわたしたちに無理やり子を産ませようとするのです!

 ですからわたしたち二人逃亡者として過ごし、落ち着く日はありません。

 ようやくいま、ここでしばらく休むことができると思っていたのです。

 こんなことならホイミスライムとはぐれメタルではなく、姿の似た

 しびれくらげやバブルスライムに生まれたほうがどれほど幸せだった

 ことでしょう。痺れや毒を恐れて誰もが寄り付かないからです」

 

戦いを望まない二匹の考えはよくわかった。他の魔物たちと繋がってもいない。

ならば体調不良に苦しむアーサーとしても何事もなく終わるに越したことはなかった。

 

「そうか。ぼくも勇者ロトの時代からそんな縁があるきみたちを傷つけたくないな。

 何か助けになりたいと思うけれど・・・どうすればいいのかな?」

 

「ただわたしたちを見逃してもらえるならそれでよいのです。あなただけでなく、

 魔族相手に決して容赦をしないあなたの二人の仲間からも!」

 

「なるほど・・・それがきみたちの狙いか。確かにあの二人は話すら聞いて

 くれないだろうね。しかもさっき死にかけたところだ、油断や配慮なんて

 一切なく、目に入った魔物をすぐに殺しにかかるだろうから・・・

 わかった。ぼくがどうにか彼らの注意を逸らしておくからあそこの岩にでも

 隠れていてくれ。決してそれ以外の行動をとらないで、ぼくを信じてほしい」

 

 

二匹はそれに応じ、言われた通りにした。アーサーとこの二匹は互いに

相手を全面的に信頼した。もしそうでなければアーサーはすぐに

ホイミスライムだけでも倒すか、会話などせずにアレンたちのもとに

戻ればよかった。魔物たちのほうも、はぐれメタルがベギラマを放てば

アーサーの足を止めることができ、その隙に逃走することもできた。

 

それをしなかったのは、まさに今出会ったばかりの違う種の生き物を

信じたからに他ならないが、実はアーサーのほうは二匹に関して、

ある『不誠実さ』、つまりその言葉に嘘があったことを知っていた。

 

(・・・あの誓いの書・・・あれはこの場で作った偽物だ)

 

ロトの仲間とはぐれメタルの一族が契約を結んだ出来事は確かに記録に

残されているが、その誓約書は人間側が所持しており、アーサーは

ハーゴンによって滅ぼされる寸前に訪れていたラダトームの城で

実物を自分の目で確かに見ていたのだ。全くの別物であった。

 

それだけではない。このホイミスライムが勇者ロトと旅をしたホイミスライムの

子孫であるという証拠は何もない。しかもそれはもう一匹、隣にいた

はぐれメタルがとっさに思いついた出まかせであることは、本人であるはずの

ホイミスライムが戸惑ったような声と仕草であったところで容易にわかった。

つまり、この二匹の語ることは本来信頼に値しないものなのだ。しかし

それでもアーサーが騙されたふりを続けていたのは、

 

(でも、肝心なこと・・・人にも仲間であるはずの魔族にも追われ、どうにか

 心の休まる場所に行きたいという切なる願い、生きるために必死であること、

 それは嘘じゃない。ならばそのささやかな希望を守ってあげないといけない!)

 

 

アーサーはアレンたちのもとに戻る際、いま起きた事柄の意味を察した。

はじめはこの洞窟が最後に用意した『罠』ではないかと疑った。邪悪な神たちが

それまでとは一味違った落とし穴を仕込んでいると。だが、これは別の存在、

つまりハーゴンが罠というよりは自分を試すためにあの二匹を洞窟の終わりに

誘い、自分と会うようにしたのだと考えるようになった。

 

(ぼくが自分の状況に関わらず、ほんとうに種を越えた平和を求めている、

 彼女が親友と呼ぶにふさわしい人物であるか・・・その試験だったんだ。

 救うべき二匹の魔物相手に憐れみを示すかどうかを見たかったのだろう。

 ふふ・・・魔を許容しないルビス様を裏切っているが・・・ハーゴン、

 きみの期待に応えてやることにするよ!)

 

ようやく体力と気力に満たされたアレンはいつでも出発できる状態になった。

そのアレンとセリアの待つ地点に戻ったアーサーは、この先にも魔物は

いなかったと報告し、今のうちに一気に洞窟を抜けてしまうのがいいと

主張したので、二人もそれに賛成し速やかに荷物をまとめて歩き始めた。

 

 

さて、問題の場所にやってきた。ホイミスライムとはぐれメタルが息を殺して

死角になる岩場に隠れていたが、アレンとセリアはその嗅覚によって、

 

「ん・・・?魔物がどこかに潜んでいるか?警戒を怠るなよ」

 

「ええ。数は少ないけれどわたしたちの情報を伝える役目の魔物かもしれない。

 確実にその命を奪ってから先へ進んだほうがいいわ!」

 

二匹からすれば生きた心地がしなかった。アーサーはどう約束を果たすというのか。

すると彼は遠くを指さした。そこには規則正しい段差があり、人型の魔物や

理性を持つ魔物が通行の利便を図って用意し、利用していた階段だった。

 

「よく気がついたね・・・あれだよ。魔物はいないと言ったけれど・・・

 あの先は何か怪しい。だから実のところ、一人では近づけなかったんだ。

 こうして三人そろえばきっと問題ない。返り討ちにできるはずだ」

 

「そういうことか・・・だがあの機械野郎のような危険な気配はないな。

 セリア、お前のイオナズンで一掃できるぜ。残った敵はおれが倒す」

 

「ええ。でもこの空間からも僅かな魔物の匂いが・・・・・・」

 

「・・・ならぼくが背後を注意して見張っている。きみたちは階段の先へ!

 すべての方向からの攻撃に対処できるようにするんだ!」

 

 

アーサーの言葉に同時にうなずいた二人が、階段のほうへ駆けていく。

すっかり姿が見えなくなったとき、アーサーは岩場のほうへ笑顔を向けた。

もうアレンとセリアは戻ってこない。安心するように二匹へ合図を送ると、

自分も先に行った二人に合流するために歩き始めた。すると二匹は姿を現し、

 

「・・・ありがとうございます!あなたはまさに優しさと愛に満ちた方であると

 わかりました!どうかこれを・・・受け取ってください!」

 

不思議な光を放つ、手のひら程度の大きさを持つ綺麗な玉を差し出す。

礼などいらないとアーサーは拒否しようとしたが、あまりにも二匹が

引き下がらないので、アレンたちが引き返してくる前にそれを受け取った。

店で売ればかなりの値になるだろうが、それ以上の特別な力が感じられた。

 

「ならぼくもきみたちに・・・。すでにこの洞窟には凶暴で邪悪な魔物たちは

 いなくなった。あの二人が大暴れしてくれたようだからね。でもきみたちも

 いつまでもここにいるというわけにもいかないだろう。持っていくといい」

 

アーサーは二匹に対し、持っていたキメラの翼と個人的に所持していた金を

渡した。まさかロンダルキアに店はないだろうから金はもう要らないと

いうことだ。この二匹が今後下界に向かったとき、窮地脱出のための

キメラの翼と人の世で通用する金を気前よくあげてしまった。

 

「・・・こんなに・・・!あなたはどうしてわたしたちにここまで・・・」

 

 

はぐれメタルがアーサーに尋ねた。だが、彼はその口で返事をするのではなく、

突然大量の血を吐いた。膝ががくがくと震えているが地につくことはなく、

何とか踏みとどまり、アレンたちの後を追うために再び歩み始めた。

 

 

「・・・そ、その血・・・・・・!!とてもこの先に行ける状態じゃない!」

 

「・・・・・・おそらくぼくにはそれほど時間がない。いま渡した金には

 きみたちにこれを黙っていてもらう意味もあると思ってほしい。アレンたちにも、

 ぼくらの倒すべき敵にも、そしてハーゴンにも。見なかったことにしてくれ」

 

「待って!そのことはハーゴン様も知らないというのならあなたは・・・・・・」

 

アーサーは振り返らずに足に力を入れて進み、アレンたちと合流した。

 

 

「遅かったな。魔物はそっちにいたのか?ならおれたちを呼んでくれても・・・」

 

「いや、魔物なんかいなかったよ。さあ、先を急ごう」

 

「いなかった・・・?それは驚いたわ。わたしの嗅覚が外れるなんて初めてだわ。

 この洞窟に長くいたせいでおかしくなったのかしら。さっさと出たほうがいいわね」

 

 

ついに最後にして最大の難関であるロンダルキアの洞窟の終点が見えた。

そして久々に外の空気が吸えるとあって、疲れや痛みを押して三人が早足で

太陽の光のもとに降り立つと、そこは雪の積もる銀世界、魔物たちの楽園だった。

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