アレンたちの最終目的地、ロンダルキア。そこは常に雪の降り積もる、極寒の
土地であった。これまでの旅で一番辛かったのはムーンブルク大陸の砂漠だと
三人は口を揃えていたが、この寒さもかなり身体に堪えた。
「・・・そういえば雪国というのは初めてだったわ。だから対策ができていない。
すぐにハーゴンのもとにたどり着けたらいいけどそうもいきそうにないし・・・」
果てしない大空と広大な大地が三人を出迎えた。ハーゴンの待つ邪教の大神殿は
まだまだ遠そうだ。アレンたちにとっては厳しい条件の地であるが、魔物たちは
平然としており、まさに彼らには楽園と呼ぶにふさわしい場所なのだろう。
(しかし・・・いい景色だ。これで魔物の総本山でなければ・・・・・・)
アーサーは目に映るロンダルキアの光景をとても美しいと感じた。彼の人生で
一番とも断言できたが、敵の本拠地を褒めるような言葉はアレンとセリアの
前では口にすることはできないので黙っていた。そのアーサーの代わりに
満を持して声を発したのはアレンだった。彼はずっとうずうずしていたので、
隣の二人からすれば寒さのせいで用を足しに行きたくなったのかと思われたが
そうではなく、自身の荷物のなかから笑顔で目的の品を取り出した。
「・・・ふふふ、とうとうこいつが役に立つ時が来たようだな!セリア、
お前のためにこっそり用意していたんだ。さあ、着てみてくれ!」
「こ、これは・・・ミンクのコートじゃない!こんな高価なもの、どうやって?」
「へへ、おれが旅のあいだに集めた個人的な金に加え、一回ローレシアに戻った時に
国の金を持ち出してきたんだ!そうでもなけりゃ手の届くモンじゃないからな」
非常に高価なこのコートはただのおしゃれな着物ではなく、特別な力により寒さから
完全に守られ、しかも防御力にも優れた立派な防具だった。アレンはベラヌールに
向かう直前にこれを購入し、機が熟したときにセリアに贈ろうと決めていたが、
これ以上ない機会がやってきた。彼女の全身が覆われ、ぴったりの大きさだった。
「アレン、きみも変わったね。最初のころは自分の力でどうにかしたいって言って
サマルトリアの金を使っていたぼくを非難していたのに。何がきみを変えたんだ?」
「そうだな・・・あえて言うなら物の見方だ。これはおれ一人の戦いだと意気込んで
いたが、世界各地を旅しているうちに邪教を滅ぼすことはおれだけじゃなくて
全ての善良な人間たちの悲願であると知ったからだ。そんなおれたちが背負う
期待のなかにおれの故郷が入っていないわけがないからな。その思いを
金という形で受け取ってきた、それだけの話だ」
「そういうことか・・・確かにもうぼくたちだけの戦いではないからね。失敗したら
人の住む世界が崩壊するのだから余計な遠慮は無用だ。だからセリア、アレンからの
素晴らしいプレゼントを大事にしなよ」
ムーンブルク王国で生まれ育ち、ありとあらゆる豪華なドレスを着こなして日々を過ごし、
この旅でも世界に二人といない腕のある職人によって織られた水の羽衣に身を包んだ
セリアだったが、今回のミンクのコートはそれらをもしのぐ着心地のよさだった。
「ありがとう、アレン。もう全く寒さを感じない。大切にするわ」
「喜んでもらえてよかったぜ。いや、おれもほんとうなら指輪とかをお前には
贈りたかったんだ。でもこんな旅をしているわけだからな。実用的な品の
ほうがいいだろう。なーに、これからハーゴンたちをさっさとぶっ倒して
ローレシアに戻った時には・・・・・・」
しっかりとアーサーに聞かれているが、アレンはもはやそれでもいいと思った。
隠す必要など何もない。自分が黙っていたところで鋭いアーサーであればもう
関係が変化していることくらいお見通しだろう。生死をさまよったあの洞窟以上に
激しい戦いが待ち構えているのだから、自らのほうから誠実に告げるべきだと
アレンは決めていた。闘将ボーイと呼ばれる、まっすぐな道を好む彼らしかった。
「ん・・・?それはどういうことかな?ぼくの知らない間にきみたちは
いったいどんな仲になったというのか・・・」
アーサーはわざとらしく、とぼけたように二人を追及する素振りを見せた。
本来もっと報告は早くてよかったはずだ、という気持ちからか、多少の
意地の悪さがこもっていた。アーサーの狙い通り二人は恥ずかしそうな顔を見せ、
それでも互いに視線を合わせてうなずくと、いま自分たちがどのような関係なのかを
告白しようとした。決して後ろめたいことではないはずだ、ならばむしろ胸を張って。
「黙っていて悪かったな。このコートと同じだ。なかなか言い出すタイミングが
なかっただけだ。お前ももう察している通り、おれとセリアは・・・」
アーサーは真剣な二人を微笑ましく見つめていた。旅も終わりというところで、
素直になった彼らに関してはひとまず安心か、そう思っていたが、突然
この穏やかな空気を切り裂く大きな声がロンダルキアの大地に響いた。
「ワ――――ハッハッハ!ようこそロンダルキアへ、勇者ロトの子孫たち!
まさかこんなところまでやってくるとはなぁ!意外と根性あるようだな!」
いきなりの大声に三人はびっくりしながら声の主のほうを見た。すると、
凍える世界に似合わない薄着をした真っ赤な髪の女が高笑いしていた。
その隣には、彼女とは正反対の、静かで無表情な眼鏡をかけた青髪の女が共に
立っていた。この二人が普通の人間ではないことはすぐにわかった。
「ハハハ!驚いて小便が出ちまったか!?静かだなぁ!もっと噛みついて
くるものだと思っていた!つまんねーやつらだな、オイ!」
「・・・ふふふ、それは失礼。いきなり頭の弱いかわいそうな愚か者が
現れたものだからどう反応したらいいか黙ってしまっていたわ」
「ワハハハ、何を言うか!俺たちから見ればお前たちこそ愚かそのものだ!
精霊ルビスの操り人形としてやつの意のままに動く馬鹿丸出しのクズどもが
どんなツラをしているのか見にわざわざやってきてやったんだ、感謝しろ!」
激しい言葉の応酬が始まった。敵意をむき出しにする、自分のことを俺と呼ぶ
赤い女。それにまだ視線すら合わせない隣にいる不気味な青い女。
自分たちを倒そうとしている以上、この二人はハーゴンではなく彼女と敵対する
悪霊の神々の配下なのかとアーサーは考え、確かめてみることにした。
「それはきみたちのほうじゃないのか?偽りの神々の手駒として操られているのは!」
すると、もともと攻撃的だった表情がさらに険しくなり、アーサーに返答してきた。
「偽りの神々!?ああ、あいつらのことか!俺たちがあんな連中の手駒だと!?
誰があのような救いようもない反逆者どもの言うことなんか聞くか!」
「・・・じゃあきみたちはハーゴンの仲間、ということか」
「ワッハッハ!その通り!俺たちはあのお方、『神の子』にお仕えしている!
いや、神の子というよりハーゴン様こそこの全世界を治めるべき真の神!
そのお方の使いということは、つまり俺たちも世を導く『天使』!
お前たちのような作られた操り人形とは全く違うレベルにいる存在だ―――っ!」
「・・・・・・ずいぶん品のない天使がいたものだ。なあアレン、セリア」
アーサーは相槌を求めて仲間のほうを振り返るが、二人は話についていけていない
様子だった。アーサーは、またこの女は何を話しているのかと。ここでアーサーは
思い出した。アレンとセリアは、ハーゴンが実は悪霊の神々と敵対関係にあると
いうことを知らないのだ。ハーゴンは邪教の大神官であり、神々に熱心な崇拝を
捧げている、もしくはハーゴンそのものがその神の一人なのだと考えていた。
ハーゴンが世界の各地で、そして今も神の子と呼ばれていることがその理由だった。
アレンとセリアを置き去りにしたままこの女の言葉は続く。
「お前たちごときの無礼な物言いなんか虫の羽音と同じ、全く聞こえないな!
天使である俺たちの使命は神であり王であるハーゴン様をお護りすること!
あの神々どもを殺してくれるぶんにはむしろ存分にやってくれと言ってやるが
ハーゴン様を倒しに来たと言うのだったら・・・どうなるかわかっているな?」
にやりと笑うと一人で近づいてきた。戦いは避けられないようだ。それを見て
アレンがやはり一人で前に出た。アーサーとセリアを手で制し、剣を構える。
「アレン!わたしたちもいっしょに・・・」
「いや、ここはおれ一人でいい。向こうは二人いるのに一人で出てきたんだ。
だったらおれたちも合わせてやるのがせめてもの礼儀ってやつだろ」
「・・・相変わらずきみは・・・そういうところは出会ったころから変わらないね。
でも気をつけて。あれを見た目通りただの若い女性と思わないことだ。彼女は
おそらくモンスター人間、数百年も生きているであろう老獪な相手だ!」
一対一での戦いに臨むアレンにアーサーが注意を喚起するが、それを聞かれていて、
「ワハハ、ハーゴン様が一目置く男にしてはなかなか失礼なやつだなァ!俺は
確かにモンスター人間だがまだ若いんだぜ?人間として二十年、魔物として
数年、そしてこの姿になってからもそんなに経っていない。ハーゴン様の
しもべのなかではけっこう若手のほうなんだ!」
「・・・ほう、なかなか波乱に満ちた生涯なんだね。生まれたときは人間で、
その死後魔物となり、さらにハーゴンによってモンスター人間とされたのか」
「その通りだ!ちなみにこの姿は俺の人間だったときと全く同じ顔に身体だ!
俺の名は『ホーリックス』!燃える闘志は誰よりも熱い戦闘狂だ!だから
戦いで死んだ後もフレイムになって魂は滅びなかったのかもしれないなァ!」
アレンたちが洞窟でも戦ったフレイムのモンスター人間だという、ホーリックス。
戦闘に向けて気合を高めている彼女の背後からは炎が出るかと思われるほどだ。
「ふん、せっかくの自己紹介だけど心底興味がないわ。そうでしょう、アレン」
敵に向けて棘のある言葉を吐いた後、セリアはアレンに近づき耳打ちした。
「・・・アレン、あなたが負けることはまずないでしょうけど、勝ち方に
気をつけましょう。あの女はどうやら声が大きいだけでなくおしゃべりね。
聞かれてもいないことを次から次へと飽きずに語っているのだもの」
「ああ・・・つまり殺さずに生かしておけということだな?有益なネタを
たくさん提供してくれるかもしれないしな。ハーゴンの秘密や偽りの神々の
弱点をぺらぺらと教えてくれるだろうよ」
狙いはホーリックスを捕まえて多くの重要な情報を吐き出させることだった。
「そしてあの女はもう自分に不利になることを口にしたわ。あなたも聞いた?」
「もちろんだ。正体はフレイムとか言ったな。つまり気をつけるべきは炎だ!」
火炎の息、もしくは炎に関わる攻撃にさえ注意すれば勝利は容易いということだ。
アレンは距離をとりながら戦い、相手が焦れて距離を詰めてきたところを
一撃で打ち倒そうという、だいたいの戦闘の流れをすでに決めていた。
「よーし、最初の命知らずが来たか。ならさっそく俺から行かせてもらうぜ!
俺の自慢の武器を受けて果たして無事かどうか見せてみやがれ――――っ!!」
「おう!来やがれ!だがお前の攻撃が外れた時がその名運尽きる時だ!
おれは女には手を出さないが魔物だったら話は別だ!今のうちに覚悟を・・・」
どうせ炎による攻撃だろうと確信していたアレンにとって、ホーリックスの
先制攻撃は対処し難いものだった。なんと彼女は右手に鞭を持ち、
「これが俺様の奥義だ―――っ!お前に見切れるか、この動きが―――っ!」
「炎じゃねぇのかよ!む、鞭だと!?しかも・・・とんでもない速さだ!」
ホーリックスはその鞭をひたすらぐるぐると振り回す。目で追えるものではなかった。
「ワッハッハ―――――ッ!くらえ!風車鞭――――っ!!」
「ぐおっ・・・!だが・・・こんなもん全然効かねえ!いくらでもくらってやるぜ!」
「おお!さすがは人間最強の男だけあるなぁ!強がりでなくほんとうにちっとも
堪えてないみたいだ!ワハハ、そうこなくっちゃな、勇者様よォ!」
風車のように振り回された鞭がアレンの全身を襲ったが、それほどダメージが
通ってはいなかった。しかしホーリックスの狙いは違うところにあった。
その鞭が急に動きを変え、アレンの剣を持つ右腕に巻きついてきたのだ。
「グ・・・むむ!これは・・・・・・!」
「ここだ――――っ!タァ――――――ッ!!」
次いで強烈な蹴りが腕を襲い、アレンは思わず剣を落としてしまった。
それに乗じたホーリックスは同じく地に落ちた自分の鞭に構うことはなく、
アレンが剣を拾うのを許さじと、さらに回し蹴り、更には殴打を加えた。
一撃一撃が重く、しかも流れる動きで攻撃が続くのでアレンは後退していった。
「・・・!!くそ・・・てめぇ、真の武器は鞭じゃなくてその拳法か・・・」
「ああそうだ!俺は人間でいたころから自分の体が最高の武器だった!
剣や槍なんてものよりもはるかに使いやすいぜ、俺は武闘家だからな!
そーらもう一発!手も足も出ないとはまさに今のお前だな――――っ!」
苦戦が続く恋人をセリアは心配そうに見つめていた。これ以上追い詰められる
ようであれば掟破りの乱入で彼を救おうと身構えていた。とはいえ体力があり
頑丈な体とロトの防具で身を守るアレンがあの様子では、セリアがホーリックスの
攻撃をまともに受けたら下手するとすぐに倒されてしまう。横槍を入れるにも
慎重に、絶好の機会を見極める必要があった。
「アレン・・・何をやっているの!確かにすごい格闘技ではあるけれど・・・
あそこまで攻撃をかわせないものかしら!?やられたい放題じゃない!」
「・・・・・・・・・・・・」
アレンの劣勢の理由をアーサーは薄々感づいていたが、それをセリアに
教えることはできなかった。彼女のため、そしてアレンを思うがゆえにそうした。
しかし悠長に戦いを見守ることも難しくなってきたようで、連側攻撃の前に
足がふらついたアレンは地面に投げ倒された。うつ伏せになって倒れた彼の上に
ホーリックスが勢いをつけて飛び上がると、全身を使ってのしかかってきた。
「うぶっ・・・!」
「おっと!降参にはまだ早いぜ!ここからが本番なんだからな、俺の寝技は!」
アレンに乗ったままホーリックスは左手で彼の首を絞めてきた。右手はアレンの
右腕の関節を痛めつけ、そのまま骨を折ってしまおうかという強さだった。
「ぐ・・・ぐぐぐ・・・・・・これしきの攻撃~~~っ・・・・・・」
「どうだ!これでもまだ手加減してやってるんだぜ!?ハーゴン様を倒すなんて
阿呆な考えを捨てて大人しく帰るというなら命だけは助けてやる!」
完全に極まったように見える、ホーリックスの絞め技。アレンが自ら降参を
するはずがない。首を折られ、腕を切断されたとしても戦い続けるだろう。
だがそうなる前に助けに入るのが仲間の役割だ。もう我慢できないとセリアは
救出に入るため呼吸を整えたが、アーサーは彼女の肩を叩き、待つようにと言う。
「邪魔しないで!アレンが・・・!」
「・・・・・・セリア、ぼくは黙っているつもりでいたけれど・・・教えるよ。
アレンの顔を見てごらん。結構余裕がある、というかあれは・・・・・・」
アーサーは目を覆いながらアレンを指さした。セリアが注意深く見てみると・・・。
「どうだ――――っ!苦しみのあまり返事もできないか――――っ!」
「ぐへ・・・ぐへへへ・・・・・・」
アレンは悶絶していたが、苦しみによるものだけではなかった。
「・・・・・・にやけているわ・・・あの男~~~っ!!」
ホーリックスは薄着だった。それでいて豊満な体つきをしていた。つまり、
彼女が拳での攻撃をするたびにそのこぼれそうな胸が揺れ、蹴りを放つと健康的な
太ももがいやでもアレンの視界に入った。そのせいで始めから集中力を欠いていた。
しかもいま、寝技によって身体は密着している。彼は快感に興奮していた。
見るも情けない醜態にセリアは助けに向かうのをやめた。その代わりに、
「こら――――っ!この女たらしの助平男――――っ!!あなた、洞窟で
わたしと交わした約束を忘れたとは言わせないわよ!そのだらしない面構え、
どうやらほんとうに一回『浄化』したほうがいいみたいね――――っ!!」
激しい怒りに満ちたセリアの一喝に、アーサーやホーリックスといった無関係の者が
ついびっくりしてひるんでしまった。アレンはというと、愛する彼女の叫びに
目つきが変わった。我に返ったというほうが正しい表現なのかもしれない。
「へへ・・・そう怒るなよ。おれもようやく目が覚めてきた」
「・・・どうかしら。叶うことならずっとそのままその女の胸や下半身の
感触を楽しんでいたいのでしょう?そのまま極楽を堪能していればいいじゃない」
「拗ねるなって。確かにほんの少しおれも惑わされた。だがなぁ・・・
女に目がないこのおれがこの世で唯一と決めた・・・セリア、お前の
あの美しい身体に比べたらこんなもの――――――っ!!」
アレンの腕のロトの紋章から光が放たれると、彼は大きな雄叫びをあげ、
そしてついに脱出不可能と思われたホーリックスの絞めつけから抜け出した。
「うおっ!!まさかあそこから・・・!なんてやつだ!しかし俺も一日欠かさず
訓練を積み重ねているがそこの女はそれ以上だと!?つまりそいつは
魔法使いに見せかけて実のところ鍛え抜かれた武闘家だったということか!」
「ふん、確かにあんたのその身体も魅力的だろうよ。だがおれにはセリアがいる。
あの満月の夜・・・あの汚れも欠陥も何一つない最高の裸体におれは心を
奪われちまった。今でも頭に焼き付いて離れねえ!あんな女神のような、
いや、それ以上の身体を見ちまった以上・・・おれは揺らがねぇ―――っ!!」
「・・・女神だと!?ハッハッハ・・・これは驚いた。精霊ルビスの駒に過ぎないと
見下していたがどうやら思った以上のチカラの持ち主のようだな!俺も人間だった
ときがあるからよーくわかるぜ!魔族に比べたらたいまつの炎のような命しかないが
そのぶん炎の熱さは灼熱をも凌ぐ!だから魔王や邪神と呼ばれる存在をも
打ち倒しちまう人間が現れるんだってこともな―――っ!そうか女神か!
お前らの主人である精霊を超えちまったとなると・・・どんな筋肉を
そのコートの下に隠してやがるんだ!?」
「コートの中身だと!?そいつはおれだけが知ってりゃあいいんだよ!だがあの
身体は芸術そのもの!乳房も腰も全てがな。見せてやりたいのは山々だが・・・」
アレンとホーリックスの会話は噛みあっていなかった。セリアの身体について
言葉をぶつけあっていたのは確かだが、全く相手の言いたいことがわかっていない。
「・・・・・・・・・」
ホーリックスの仲間であるもう一人の女も呆れ顔でそのやり取りを見つめていた。
「ははは・・・アレンときたら仕方ないね。しかし・・・きみが彼に自分の
裸を見せたとは・・・ぼくが思っていた以上に関係は進んでいたようだね」
「・・・・・・アレン~~~~~~っ!!」
「うわっ・・・!セリア・・・急にどこへ?」
アーサーは苦笑いしながらセリアに近づいたが、彼女はアーサーを押しのけると、
ずかずかと戦いのなかに入っていった。
「おお、セリア!おれはもう平気だ!だから後ろに下がってな。こいつとの
勝負はまだこれからが本番なんだからよ・・・」
「・・・ルカナン、ルカナン、ルカナン」
「おい!聞こえないのか!おれとこの女の一対一の戦いなんだよ!お前が直接
手を出さないからってルカナンでおれを助けたら二対一も同然・・・」
アレンはここで、セリアのルカナンが自らの守備力を奪っていることを知った。
「・・・・・・?どういうつもりだ・・・?おれを信じてくれているのか?
あなたならルカナンによる不利があろうが楽勝できるって・・・」
セリアはアレンを一瞥もせず、なんとホーリックスのもとへと歩いていく。
戦うのかと思えばそうではなく、落ちていた彼女のものである鞭を拾い上げた。
「これ・・・使わないのならわたしに少しのあいだ貸してもらえないかしら」
「・・・ハァ?別に構わねぇが・・・・・・」
鞭を手にセリアはアレンのすぐそばに立った。そして大きく息を吸った。
ここでようやくアレンはセリアが何をしようとしているのかを知った。
「あ・・・あ・・・ちょ、ちょっと待て――――っ・・・」
「たぁ―――――――っ!!」
アレンを鞭の嵐が襲った。ゼロに等しい守備力とされた彼は派手に地面に倒れる。
「ぶげぇ―――――ッ!!何でだよ!浮気はしなかったじゃねぇかよ―――っ!」
「そこじゃないでしょうが!何を考えているのよあなたは――――!!」
セリアはホーリックス以上に真っ赤になりながら、様々な感情を全てまとめて
アレンにぶつけていた。初めて扱ったとは思えないほどの鞭さばきだった。
「・・・ロンダルキアまで来て痴話喧嘩とは・・・・・・」
いつも通りと安心すべきなのかどうか・・・アーサーはまたしても目を覆っていた。