ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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あの日の僕等の巻 (最後のTTG対決)

 

ロンダルキアの大地は予想通りアレンたちにとって厳しいものだった。容赦ない

吹雪によって体温と視界が奪われ、一日に進める距離はこれまでの二分の一

以下だった。しかし焦ってしまうほうが危険で、ハーゴンの神殿が近づくにつれ

魔物たちのレベルも最高級と呼ぶにふさわしくなった。ロンダルキアで初めて

見たような種類の魔物たちの、それよりも強い上級の魔物がごろごろしている。

 

怪力自慢の一つ目の巨人、サイクロプスよりも一回り強敵の『ギガンテス』。

炎も魔法も素手での攻撃も、すべてが優等生の『シルバーデビル』が進化した

『デビルロード』。そして悪魔の総大将『アークデーモン』。この三種の魔物には

アレンたちも特に警戒しながら進んでいたが、実はこの三匹こそが待ち構える

最大の戦いの鍵であることなど知る由もなく、いまこのときをどう全力で

乗り切るか、必死の戦いが毎日のように繰り広げられていた。

 

しかし三人のうち誰一人として一回も、『いったんあのほこらに帰ろう』とも

『体勢を立て直そう』とも言わなかった。あの地獄の洞窟以上にロンダルキアは

一度戻ってしまったらもう二度と来れないという気がしてならなかったからだ。

幸いなことにアレンたちは代わり映えのしない景色のなか迷ったりせず、

ほぼ最短距離を通り、ついにハーゴンの待つ神殿が見えるところまでやってきた。

 

 

 

「・・・・・・長かったな。ロンダルキアの旅が、というわけじゃない。

 それぞれの故郷から始まったそれぞれの冒険の旅がって意味でな・・・」

 

「ええ。もう明日には乗り込めるわね。別に恋人や生き別れた親という

 わけではないのにわたしたちはやつに会いたいがために、それだけを目指して

 ここまで来た。出会ったとしてもすぐに死の別れが待っているけれど。

 その顔の原形を破壊しつくす前にどんな面だったかは見ておいてあげようかしら」

 

実はハーゴンと実際に会い、数日間町で行動を共にしたなどとはとても言えない

空気を感じ取ったアーサーは、こうなったら最後まで黙っているしかないと

判断した。いざハーゴンと戦わなくてはならなくなったとしても、あの誰よりも

賢い知恵を持つ天才のことだ。何らかの策は考えてあるはずだ。

 

 

「よし、今日はここで休もう。なぜかこのあたりになって魔物が全くいない。

 しっかりと英気を養っておくには十分だ。最後のキャンプだぜ」

 

「明日の最終決戦に不要なものは天幕ごとすべてここに置いていったほうが

 いいかもしれないね。余計な荷物で動きが鈍らないようにしなきゃ」

 

「そうね。泣いても笑っても明日ですべてが完結・・・なのよね。

 ま、泣くにしても笑うにしても当然わたしたちの勝利、それ以外には

 ないのだけれど。間違っても敗北はないわ」

 

ロンダルキアの日没は遅い。よって、まだ三人には時間があった。邪教討伐の

ための旅が終わったとしても三人の何よりも固い友情は変わらないとはいえ

ひとまずは最後の夜だ。どうやって過ごそうかとアレンとセリアはどこか

そわそわしていた。そのあたりは勇者たちの年相応の一面が見られる

珍しい瞬間であったが、アーサーはすでにやりたいことが決まっていた。

一人立ち上がると荷物から訓練用の剣を二本取り出し、そのうちの一本を

アレンに渡した。これが意味することは一つしかない。

 

 

「・・・どうだい、最後に・・・久々に勝負しようか。いい機会だ」

 

「ハァ!?いい機会なわけあるか。明日には敵の本拠地に乗り込むんだ。

 ケガなんかしたら・・・いや、ベホマがあるか。問題はないな。

 ロンダルキアに乗り込んだばかりのときにセリアと話していたんだ。

 悪いがお前には今後も負ける気はしないってな。疲れが残らないように

 短期決戦で終わらせてやるぜ」

 

「・・・合意、というわけか。ならさっそく始めようか」

 

セリアは二人を止めなかった。男同士の対決、どちらかが重傷や死という結果に

なることもまずありえない。この旅の総決算にやらせてみてもいいだろうと。

 

アーサーの『最後』という言葉を、セリアはあくまで旅の最後に、という意味に

とらえていた。またアレンは、もしかしたら自分がローレシアに戻ったら

王に即位する可能性があることで、王にもなって剣術大会になんか出られないと

いうことなのかと考えていた。

 

「ハハハ・・・そう心配しなくてもいくらでも再戦する機会なんてあるだろ。

 お前がどこか遠くにふらっと旅に出ちまわない限りな。サマルトリアと

 ローレシア、非公式でだって件の稽古なんか飽きるまでできるぜ」

 

「・・・・・・・・・そうだね」

 

しかしアーサーはわかっていた。これが正真正銘、アレンと戦う最後だと。

 

 

「じゃあ・・・ローレシアの『闘将ボーイ』アレンと、サマルトリアの

 『テンポイント』、アーサー!その『TT対決』・・・はじめっ!!」

 

セリアがよく通る素晴らしい声で合図を出した。アレンはそれと同時に

突進した。これがアーサーと戦うときの、彼の幼い時から変わらぬ戦法だ。

 

(・・・こいつはおれが主導権を主張すればあっさり譲る。そのままおれが

 優位に勝負を進めて押し切って勝つ・・・いつもの展開だぜ!)

 

体格差なのか持って生まれた性格のせいなのか、アレンはアーサーとの戦いに

やりやすさを感じていた。必勝法があり、今回もそれがうまくいくと。

しかし今日は違った。なんとアーサーもアレンと同じように突っ込んできた。

様子見だの相手の動きに合わせるだの、そういった気配は一切なかった。

 

 

「ぐっ・・・!こいつ・・・この闘志は!」

 

「ハァ――――ッ!!そこだ―――――っ!!」

 

アーサーは決してアレンに流れを譲らず、食らいついてくる。こんな彼は

アレンもセリアも初めて見た。本気なのだ。絶対に勝つという気迫が溢れている。

 

「おおっ・・・!いいぜアーサー!おれは昔からお前のどこか真剣じゃないような、

 全力でかかってこないような・・・そこが気に入らなかったんだ!お前ごときの

 闘志におれがビビって後退すると思ってんのか!むしろ逆だ――――っ!!」

 

「ああ!すべてがきみの言う通りだ。でも今日は違う!このまま攻める!」

 

細かい戦略や作戦なんていらなかった。ただ、勝利に向かって前進する。

その二人の戦いを眺めていたセリアは、危険だから止めなくてはとは考えず、

どちらかに肩入れすることもなかった。恋人だからアレンに勝ってほしいとも、

一回くらいアーサーにも勝たせてやりたいとも思わなかった。むしろ、

自分のなかのロトの血も彼らによって活性化しているのを感じていた。

そう、勝つのは自分だ、と。

 

 

「たぁ――――――っ!!油断大敵よ!二人とも―――――っ!!」

 

持っていた杖を片手に戦いに乱入した。アレンとアーサーは思わず一瞬静止し、

 

「いきなり危ないだろうが!後ろに引っ込んでろ!」

 

セリアを一喝し下がっているように言うが、彼女は戦う気に満ちていた。

 

「いいえ!わたしだって勇者の一人、それに幼いころ武術の大会で勝ったこと

 だってある!一騎討ちだと思ってるあなたたちの隙を突いてやるわ―――っ!」

 

『グリーングラスの乙女』と呼ばれ愛されたセリアも今やルビスに選ばれし立派な

 勇者ロトの後継だ。これはもはやTT対決ではない。『TTG対決』だ。

 

 

セリアは手加減した小さな爆発を目くらましに使いつつその素早さを利用して

優勢になろうとするが、あくまで二人がやりあっているところをうまく攻める。

アレンは思わぬ猛攻にどうにか怯まないように我慢していたが、少しずつ、

ほんの僅かではあるが少しずつ自らが下がっていることに気がついた。

そしてアーサー。思わぬグリーングラスの後方からの強襲があったが、

彼の眼には闘将ボーイしか見えてなかった。これまで幾度も敗北を味わい、

勇者としての資質も遥か彼方へ差をつけられてしまった因縁の相手を。

 

(別に誰も恨んじゃいない。でも・・・今日だけはぼくが勝つ!)

 

 

それからしばらく、訓練にしては激しすぎる戦いの果て、最初に脱落したのは

セリアだった。息が上がり、もうこれ以上ついていけないと判断し身を引いた。

 

「・・・ハ―――――っ・・・ハ―――――・・・ああ疲れた。もう少し早く

 勝負を決めたかったわ。わたしも体力はついたつもりだったのに・・・」

 

一番初めにムーンペタの町から旅立った時、数時間の速足での歩行で足を腫らしたのが

いまでは信じられないほどだった。それでもアレンやアーサーには及ばなかった。

 

だが、思ったよりもその差は詰まっていた。なぜなら、彼女がリタイアしてから

すぐだった。その決着の瞬間が。

 

 

「うおおおお―――――ッ!!!終わりだ―――――!!」

 

「ぐぉっ・・・!ま、まさか・・・・・・・・・!!」

 

 

全く息の入らぬ激しい打ち合い。それを制したのはアーサーだった。雪の積もる

地面に背中からアレンが倒れた。テンポイントが初めてライバルを超えた。

倒されたアレンがいまだに敗北を信じられないといった様子でいるなか、

その前に立っていたアーサーは彼を見下ろすのではなく、遠くを見ていた。

しばらくそのままでいたが、アレンのうめき声に我に返ったか、その腕を

とって起こした。アレンは初めこそ悔しそうな顔を浮かべ歯ぎしりしていたが、

すぐに笑顔になり、握手を求めた。

 

 

「は――――っ・・・油断していたわけじゃねぇがまさかお前にこんな戦いが

 できるなんてなァ。今日のところは完敗を認めてやるぜ」

 

「アレン・・・・・・」

 

「しかしあの気迫、お前は気にしていないと思っていたがおれに負け続きだったのを

 相当根に持っていたというわけか・・・でも今度はおれがお前を狙う番だ!

 おい、次はおれが挑戦者だ。おれから逃げるなよ」

 

「ははは・・・奇襲とかはやめてね」

 

セリアは戦いにこそ参加したが、男二人の会話には割って入らなかった。

穏やかなほほえみで、ただじっと見守っていた。そして『最後の晩餐』の

支度に入った。残っていた食材は翌朝のぶん以外すべて使い切ってしまうつもりだ。

 

 

「・・・しかし結構燃えたぜ。こんな純粋にお前との戦いを楽しめたのは

 まだ小さかった子どもの時以来だ。余計なことを考えずにただまっすぐに・・・

 もうあのころには戻れないんだろうな」

 

「いや、できるさ。帰ろう、あの日のぼくらに」

 

決してひたすらに遊びまわっていても誰からも怒られることもなかった

無責任なころを愛していたわけではない。しかしいつまでも幼きあの日のようで

いられたら、そして今日までの互いの関係が続いていけば・・・そう願った。

 

 

「・・・ふう、ちょっと疲れた。一回むこうで休んでくる」

 

アーサーは返事を待つこともなくふらふらと行ってしまった。残されたアレンの

もとに遠くから彼らの様子を見つめていたセリアがやってきた。

 

「・・・あの様子じゃ、かなり無理していたようね、彼も。わたしたちには

 言ってくれなかったけれど、あなたと並び超えるというのは夢だったのでしょうね」

 

「そうだな。ひょっとすると感動のあまり一人向こうで男泣きしてやがるかも

 しれないし今はそっとしておいてやろうぜ・・・・・・」

 

突然のことだった。アレンは言葉を止め、セリアも異変を察知した。この魔の

空気に満たされたロンダルキアで、上空からそれを断ち切るような光が輝いた。

空のほんの一部だけが輝きに満たされ、そこから放たれた面積の狭い、しかし

ぶれることなく完璧に一直線な聖なる光のもとへアレンとセリアは並んで立った。

すると天からの慈愛に満たされた優しい声が二人に語りかけてきた。

 

 

『アレン・・・それにセリア・・・聞こえますか。わたしの声が』

 

「この声・・・!わたしたちは幾度も聞いたことがある。あなたはルビス様!」

 

『そう、私はルビス。あなたたちを見守る者。あなたたちはここまでほんとうに

 よくやってくれました。ついに世界を破滅させんとする悪魔たちのもとまで

 たどり着きました。あともう一歩です。彼らを恐れる必要はありません。

 あなたたちに流れる血とその力は無限大の可能性を生み出すからです』

 

その美しい声を聴いているだけで癒されるようだったが、精霊は祝福を続けた。

 

『あなたたちに光があるように。とこしえにその正義の光が悪を滅ぼすように』

 

「・・・お、おお~っ・・・!気力がみなぎってくるようだぜ・・・!」

 

体の至るところに抱えていた慢性的な痛みや張りも消えてなくなり、むしろ

それ以上に活力が二人を満たしていった。これ以上ない保護と援護だった。

 

 

「これで勝てなきゃ嘘だ。そうだろ、セリア?」

 

「ええ。絶対に明日、お父様たちのかたきをとってルビス様のご意思を果たす!」

 

二人は固く手を取り合い、悪魔たちへの勝利を誓った。

 

 

 

 

アレンたちがルビスの祝福を受けていたころ、アーサーは二人の目の届かぬ

ところまで来ていた。これまでただの一回も勝てなかった相手への勝利の

余韻にいまだ浸っていた。

 

「・・・ほんとうに勝ったんだ。ようやく・・・長かった」

 

昔からローレシアは太陽の光、サマルトリアは夜の光と言われていた。属国である

サマルトリアはその力においてローレシアを超えることはできず、アーサーが

アレンに敵わないのもその象徴ではないかとささやかれていたほどだったが、

ついにいま一瞬、確かにサマルトリアの上に栄光は輝いたのだ。

 

「・・・これでもう完全に思い残すことはないな。ならばぼくが死んでも

 ブリザードやグールになって甦る心配はないってことだ」

 

アーサーの吐血はいよいよその量、頻度共に限界を迎えていた。痛み止めのために

飲んでいた酒もついに尽きた。彼にはとうとうルビスからの祝福はなかったが、

彼にとってもはや大きな問題ではなかった。そんなものがなくともアレンに

勝ったのだ。アーサーは満たされていた。

 

 

 

 

翌日、三人は最終決戦には不要だと判断したすべてのものを最後のキャンプ地に

残してハーゴンの待つ神殿へ向かった。不思議なことに魔物は一匹も

襲ってこずに、戦闘がないまま神殿の入り口までやってきた。

 

 

「・・・案外あっさりだったな。現実はこんなもんなのかもな」

 

「いやいや、本番はこれからだよ。まあ言うまでもないことか」

 

「このために多くの苦難を乗り越えてきたのですもの・・・」

 

 

 

神殿の扉を開けるのにそこまで特別な感情は三人ともなかった。

あくまでこの先、仇敵の姿を目にしたところからが真の『最後の戦い』

だからだ。躊躇することは一切なく、敵の本拠地に足を踏み入れた。

 

 

「・・・・・・ここは・・・・・・うおっ!!」

 

「ど、どうしたっていうの・・・・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・!!」

 

その瞬間だった。怪しげな光が視界を奪い、三人の目の前が真っ暗になった。

やがて見えるようになったとき、彼らは離れ離れになっていた。

 

「ぐうっ・・・急に何が・・・!やつらの罠か!セリア!アーサー!

 どこにいる!おれはここに・・・・・・って・・・ここは・・・」

 

アレンの視界には、彼のよく知る故郷ローレシアが広がっていた。

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