ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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幻のローレシアの巻 (アトラス①)

 

アレンの目の前に突如現れた故郷ローレシア。人々も彼の見慣れた顔ばかりで、

王子、王子、と変わらぬ挨拶をかけてくる。武器も防具もなく、戦いで負った傷も

痕までなくなっている。しかしアレンの心中は案外冷静で、何も動じていなかった。

 

(フフ・・・これまでのことが全部夢みたいに思えてくるがあんな濃い二年間が夢の

 はずがねぇ。おれたちはハーゴンの神殿に入ったはずだ。セリアとアーサーが

 どこへ行ったのかは気になるが・・・単純なおれですらわかるんだ。さっさと

 こんな幻から抜け出して合流できるだろう)

 

これは敵の作り出した幻影。偽りの平安に心を許したならば二度と元の世界に

戻ることはできない。どうやらこのローレシアでは世界が平和になったということで

大規模な祭りを楽しんでいた。至るところで王族しか味わえないような美食や酒が

最も立場の低い者たちにまで代金を取ることなく分け与えられていた。

 

「・・・ほんとうに祝勝の祝いをするときもこうしないといけないな。おれたち上の人間

だけが喜んで国民の多くは関心もなく大して笑っていないっていうんじゃだめだ」

 

敵の用意した幻から思わぬ教訓を得たアレンは、寄り道せずに城へと向かった。

祝福の言葉をかけてくる弟たちやよく知る兵士たちを適当にあしらい、父である

国王のもとへ一直線だった。するとそこには、美しい女たちに囲まれた父がいた。

 

「・・・父上、それは・・・・・・」

 

「おお、帰ったか!いやぁめでたいな!それにしても我が息子よ、よくやった!

 ハーゴンとその教えを守る者たちとの友好条約を結ぶとは!これで我が国は

 この先数百年は安泰だ!ほれ、お前もそこの女を二、三人持っていくがいい」

 

「私は新しく大臣に就任したミリエラでぇす。この私をご所望かしら?

 いいわよ、長い旅でお疲れですものね、たくさん癒してあげるわ」

 

どう見ても大臣とは思えない服装をした、娼婦のような女ミリエラがアレンに

迫ってきた。その肌の柔らかさ、甘い匂いはまるで現実の女そのもので、

 

(・・・どうせここは夢の世界。ちょっとくらいなら楽しんでもいいか・・・)

 

アレンは手を取られ、彼女と共に寝室へ向けて歩き出した。もしこの夢のなかで

敵が自分を倒そうとするのならその尻尾を出したときに反撃すればよいだけで

それまでは乗せられているふりをしても問題はない、そう思った瞬間だった。

 

 

『聖なるナイフで切り刻んだ後にイオナズンであなたの肉体も浄化する』

 

その言葉を思い出し青ざめた。セリアはもしアレンが裏切り行為に及んだとしたら

彼の局部を切り刻むと口にしていた。冗談ではない、本気の目だった。

 

(いや、あいつのことだ。ナイフを探す前に手にしている杖で『潰してくる』。

 もしくは犬だったときの経験を活かしての・・・『噛み千切る』!)

 

万が一この幻の中に彼女がいたら、そう思っただけでアレンの足は止まった。

いや、アレンが真に恐れているのは自らがひどい目に遭うことではない。

 

「・・・おれはもうあいつを悲しませない・・・そう誓ったはずだ―――っ!!」

 

セリアの悲しみに満ちた顔、それを見ることこそアレンにとって真の恐怖だった。

自分が他の女と寝たことを知ったなら、彼女は怒る前にまず悲しむだろう。

アレンはミリエラの手を払いのけ、王の間から走り去っていた。

 

 

「・・・・・・ここが幻のローレシアなのはもうわかったよ。十分堪能した。

 ここから出るにはどうすりゃあいいんだ?」

 

その後アレンは城中を歩き回ったが、脱出方法が全くわからない。こうしている間に

現実の世ではどれほど時間が過ぎているのだろうか。だんだん焦りが出てきた。

 

「おいっ!!そこのお前!殺されたくなかったらここから出る手段を教えろっ!」

 

「・・・ひ、ひいっ!!ここから出る・・・?ならそこの扉から・・・」

 

「そういう意味じゃねえだろ!」

 

魔物たちがローレシアの人々を演じているのではないかと睨み、脅してみたが

そうではないようだ。幻はほんとうに幻なのだ。いよいよ困ってしまったが、

 

「まだ行ってない場所、話してないやつは・・・・・・あっ!」

 

アレンはここで突破口を見つけ出した気がした。最愛の母のことを思い出した。

母がまるで精霊ルビスのように助けを差し伸べてくれると直感で感じ、走った。

 

「・・・母上!」

 

「アレン・・・よく来てくれました。さあ、これを」

 

彼の母はアレンの武具、つまり稲妻の剣とロトの防具を渡してくれた。アレンの読みは

正しかった。このまま夢が終わるのではないかと期待していたが、

 

「ところで・・・あなたの父にはもう会ってきましたか?」

 

「はい・・・すっかり別人のようになっていましたが・・・はっ!!」

 

母の様子が急変した。アレンの剣に手を添えてきて、そしてこう言った。

 

 

「あの男・・・実のところはあれが本性であることを覚えておきなさい。いまは

 落ち着いて統治していますが昔はそれはもう酷かった。幾人も隠し子が見つかり

 この私が死の淵を見せたことでようやく愚行を悔い改める気になったのです!」

 

「・・・は・・・はい?」

 

「その剣で懲らしめてきなさい。そうすれば全ては再びもとに戻るでしょう。

 あなたも自らが命をかけて愛すると誓った女性を大事にしないのならいずれは

 同じ結果になる、それをしっかりと知りなさい。わかりましたね」

 

 

アレンは母の部屋からも逃げるようにして出てきた。夢の中であるためこの話が

ほんとうの出来事であるかは怪しい。まさかあの父が若いころは自分と同じ

女好きで、しかも過ちを犯していたなどとは信じがたい。あくまで自分の

教訓のためにこのような話がされたのだと思うことにした。

 

「どうして敵の罠のくせにおれの教育になってんだよ。しかしやはり最後は

 外道のやることだぜ。人間を殺したことのないおれに、しかも父上を

 幻であるとはいえ斬り殺せだと?柔軟ではあっても目的のためには

 何も躊躇わないアーサーならすぐに動いているだろうが・・・」

 

父をこの手で殺すことこそが幻が解ける唯一の方法。気が重いままアレンは

再度王の間に向かった。するとそこでは裸になった国王がやはり裸の美女数人に

囲まれ、頭から酒を浴びていた。ローレシア万歳、ハーゴン万歳、などと叫ぶ。

アレンはしばらく呆然と扉の前で立ったままになっていたが、

 

 

「・・・・・・ははは!これなら父を殺すことに躊躇なし!おれも将来こんな王に

 なったら誰に斬られようが当然だ!覚悟―――――っ!!」

 

アレンは父を容赦なく剣で斬った。その感触を感じる間もなく空間が歪み、

やがてローレシアがハーゴンの神殿へと戻っていく。幻は終わったのだ。

 

 

 

 

「よし、戻れた!おーい、アーサー、セリア!返事をしろ――――っ!!」

 

姿の見えない二人に呼びかける。だが返事はない。その代わり、彼の前から

一つ目の巨人が現れた。ロンダルキアの地で幾度も戦ったサイクロプスか

ギカンテスか。アレンは構えたがそのどちらが発するものよりも強いオーラを感じた。

体も一回り以上大きく、それら以上に怪力を秘めていることは一目瞭然だった。

 

 

「おっ!や、やっとぎたな―――っ!おでの名前は・・・いまは『アトラス』って

 いうんだど―――っ。お前はたじか・・・え――っど・・・・・・」

 

「・・・おれはアレン。てめぇは・・・どう見たっておれの敵だよな!」

 

「そうだど―――っ!おでは三人の神のうちの一人!だがらお前をここで

 倒じでやるからな―――――っ!!」

 

どうにか人の言葉を使っていて、しかも声がかなり大きい。耳が痛くなるのを

堪えながらアレンは先手必勝と言わんばかりに斬りかかった。

 

「くらえ――――っ!おれの動きについてこれるか―――っ!」

 

稲妻の剣による攻撃がアトラスの棍棒を持つ左腕にこれ以上ない手応えで決まった。

 

「よしっ!まずは片腕もらった・・・・・・!?」

 

そのまま斬り飛ばしてやろうという狙いだったが、なんとそこから先に進まない。

その圧倒的な筋肉が剣を止めてしまったのだ。こんな敵は初めてだ。

 

「おおっ・・・なかなか痛ぇな!でも次はおでの番だど――――っ!」

 

右腕をゆっくりとアレン目がけて放ってきた。大きな手が繰り出す強烈な張り手に

アレンは吹っ飛ばされた。自慢の身体能力でどうにかうまく着地したが、

防御したはずなのに全身が痺れ、骨が軋む。一人でいるときは薬草が唯一の

傷を癒す術であるアレンはこれで簡単に前には出られなくなった。

 

(・・・頭は悪そうだがのろまじゃねぇな、こいつ!)

 

呪文を使ってくることはまずないだろう。だが腕力だけが取り柄だという簡単な

相手ではない。アレンは両の頬を叩き、気合を入れ直した。

 

 

「三人の神の一人だとか言っていたな。つまりてめぇがおれたちの倒すべき

 最後の敵のうちの一人だってことだな?苦労したぜ、ここを探すのによ」

 

「おでもいつも迷って大変なんだもんね――――っ。ちょっど動物を食べに

 外に行ったら帰ってくるのに一週間もかかっちゃった・・・」

 

「てめぇが底なしのアホだってことはわかったぜ!そして今度こそ―――っ!」

 

アレンの反撃。今度は足元を狙って剣を振ったが、なんと裸足であるのに

はじき返され、まさにかすり傷程度しか与えられなかった。

 

「ヌウゥ~ッ!足もだめか!」

 

その足で踏みつけてくるアトラス。それを転がりながらアレンはかわす。

 

「くそっ・・・どこから崩していけば・・・隙が見つからねぇ!」

 

「おっ!動きが止まっだな――っ!これでおしまいだぁ――――!」

 

アトラスが棍棒に力をこめてアレンを狙う。しまった、とアレンはここで

死をも覚悟したが、あまりに全力を入れすぎたせいでうまく命中せず、

それが決定打となることはなかった。アトラスは大声をあげて悔しがった。

 

「惜じがったぁ――――っ!!もう少しで勝ぢだっだのに―――――っ!!」

 

(危なかったぜ・・・やつの力だったらあんなに大振りしなくてもおれを潰すには

 十分だった。チャンスだと思って焦ったのか?それともやはり馬鹿なのか。

 だが・・・それはおれも同じだな。こんなタフな野郎相手に一撃で決めようと

 思っていたのが間違いだった。少しずつやりゃあいい。おれだって簡単には

 倒れやしない。ダメージを蓄積させてやる!)

 

アレンは戦法を変え、アトラスの体の各部を順々に痛めつけ、根負けを誘う

作戦に移行した。まずは強靭な腕から破壊したいところだったが、足を攻撃した

ほうが敵の反応が鈍く、反撃に対する防御も容易なので剣で足を浅く斬り続けた。

 

「うが~~~っ!」

 

「・・・よし、効いてる・・・だがこれをあと何回繰り返せばこいつは倒れる?」

 

攻撃が成功しているのに途方もない作業に思えてきた。その気の緩みが災いし、

 

「ここまでだど――――っ!!」

 

「ぐおっ!!」

 

痛めつけていたはずの足で逆襲をくらった。アレンは吹き飛ばされ壁に激突し、

口から血を吐いてうつぶせに倒れた。

 

 

「ごはっ・・・!さすがに強いな・・・力に体力に・・・すべてでおれの一枚上だ。

 あれだけ苦戦させられたギガンテスのなかでも特に強い野郎だけある・・・」

 

アレンはアトラスの強さを素直に認めた。これまで戦ってきた巨人族でも、邪神では

あるが神にまでなった魔物はやはり別格だと。ところがアトラスは、

 

 

「・・・違う!おでは・・・おでの一族の中でいぢばん・・・いぢばん落ぢこぼれで

 ダメなやつだっで言われていだんだ。頭は悪いしうまく人は殺せないし・・・

 いづも誰かと比べられでは馬鹿にされできたんだど!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「でも・・・そんなおでをいっしょに神になったあの二人、そして『神の子』は

 大事な仲間だっで・・・そう言ってくれたんだど!だがらおではお前を倒す!」

 

アトラスがアレンにとどめを刺すべくゆっくりと向かってきた。アレンは彼の

言葉を聞きながら、自らの過去を思い出していた。つい先ほどまでローレシアの

幻を見ていたせいだろうか。

 

 

(・・・・・・そういやおれもそうだった・・・。伝説の勇者ロトの末裔でありながら

 簡単な呪文の一つすら使えないで・・・ずいぶんいろいろ言われたもんだ。だから

 悔しくってひたすら剣の使い方と腕力を鍛えたっけ。なるほどな・・・じゃあやはり)

 

アレンは持っていた剣を地面に置いた。そして深呼吸をして立ち上がる。

 

「・・・おっ、おっ!どうしたぁ!?諦めたが!?なら一撃で殺しでやる―――っ!!」

 

「やはりおれたちは似たモン同士だってことだぜ―――――っ!!」

 

勢いをつけて大きく飛ぶと、なんと拳でアトラスの顔面を殴りつけた。思わぬ

重い一撃にアトラスはよろめき、ついに初めて足以外が地に着いた。

 

 

「うがが・・・や、やるじゃないがぁ・・・」

 

「・・・おれたちみたいな単純な馬鹿は余計なものがないほうが戦いやすいだろ?

 立てよアトラス、お前もその棍棒を捨てて・・・力比べを始めようぜ」

 

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