ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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男達の唄の巻 (アトラス②)

 

『なるほど・・・君たち三人は昔から仲がいいのか。よいことではないか』

 

『でもおではばかで戦いもへただがら・・・あの二人にはおでがいないほうが・・・』

 

悩む巨人に、『神の子』は二本の鉄柱を指さした。すでに廃墟となっている町の

瓦礫であった。どれだけ堅固に守られている都市でも、神の子の裁きを免れられなかった。

 

『あれを・・・二本まとめて壊してみるんだ』

 

『そんなもんおでなら楽勝だもんねー・・・うおりゃあっ!』

 

自慢の怪力で粉々にした。すると今度は三本の鉄柱を神の子は目の前で重ねてみせた。

その小柄で非力な姿でどうやって軽々と鉄柱を操っているのだろうか。奇跡の力を

持つと言われるその者は、これをも一気に壊してみせるように巨人に言った。

 

『二本が三本になっだぐらいで―――っ!!』

 

力の限りを叩きこんだ。ところが今度はなんと一本も破壊できず、手を痛めてしまった。

 

『あがぁっ!!ど、どうじで~っ・・・』

 

『三本の柱は二本の柱に一本が加わったものではない。その強度は数倍と化す。

 つまり君もあの二人にとってそのようなものだ。君がいるからこそ彼らも

 ああして健在でいるということだ。恥じることも劣等感を抱くことも必要ない。

 君たち三人、いつまで助け合い、支えあい、強くありなさい』

 

一つ目巨人がまだアトラスと呼ばれる前のこと、まだ三人の邪神がハーゴンに

忠実であったときの、とある快晴の日の昼の出来事だった。

 

 

 

 

「はっ・・・お・・・おでは夢を・・・?戦いの途中なのに・・・!」

 

「休んでる暇はねぇぞ!二発目いくぜ――――っ!」

 

「うがぁっ・・・・・・!ご、ごのやろ・・・!」

 

またしてもアレンの拳がアトラスをよろけさせる。今度は顎に命中した。どうにか

反撃しようと棍棒を振るが、波に乗ったアレンはそれを余裕をもってかわした。

 

「ふん、だから言ってやっただろう!そんなものを捨てて殴り合おうぜってな!」

 

「お、おでがばかだがらって・・・そんなごどしないんだど―――っ!」

 

武器を捨てるだなんてとんでもない。アトラスはアレンの誘いに応じずに、ずっと

振るっていればいつかは当たるだろうと棍棒を強引に振り回す。ところがアレンの

身のこなしが軽く、全く当たらずに自分の疲労が増すだけだった。一方で剣を

持たないアレンの拳は一撃一撃が重く、剣での攻撃の際には皮、深く食らっても

せいぜい肉が斬られるだけだったのにいまは骨や内臓にまでダメージがくる。

そしてまたしても接近してくる。ここでアトラスは気がついた。殴るほうが早い。

 

「お、おでは神さまだど―――っ!調子に乗るなぁ―――!」

 

「・・・・・・!ぐっ・・・!なんて風圧だ!」

 

アトラスの一撃はロトの兜を僅かに掠めるだけだったが、それでもアレンの顔を

つーっと赤い血が流れた。まともに受けると一撃で死んでしまうことも覚悟する

必要を再認識させられたアレンは一度アトラスから距離を取った。

 

 

「お・・・?おでの力に怖くなって逃げだなぁ?そのまま帰ってもいいんだど!」

 

「怖い・・・?そんなわけあるか。おれはこの旅で何度も死にかけた。だがお前たち

 魔物を怖いとはもう思わねぇ!お前たちから逃げ出して惨めな負け犬になる、

 それが一番怖いんだ!ルビス様の加護を受けしロトの勇者としてなぁ―――っ!!」

 

アレンの叫びと共に彼のロトの紋章の形をしたあざが光る。その力に満たされた証だ。

 

「おれはルビス様や偉大なる先祖たちは当然のこと、おれの命より大事な二人の

 仲間、それにおれたちにこの世の命運を託し信じてくれている大勢の人たちの

 ためにも負けるわけにはいかねえんだよ!もう一発くらっておネンネしな!」

 

アトラスのあばらを砕く、強烈な打撃。しかしアトラスもその程度では倒れない。

 

「うが・・・だ、だげどおでもお前に勝たなくぢゃいげない!ここだぁ―――!」

 

「・・・ぐあっ!!ひ、左はもう使えないか・・・こりゃあ」

 

左腕が粉砕されただけならまだましという、アトラスの強烈な報復の一撃だった。

彼にもアレンと同じほど強い気持ちがあった。ここで勝利するという強い意志が。

 

 

「おでは・・・いつも生まれてこなきゃよかったとか生きてる価値がないとか・・・

 ずっと仲間たちにそう言われて育ってぎだ。でも・・・そんなおでと・・・・・・

 ベリアルとバズズは友だぢでいでくれだんだ!」

 

「・・・・・・・・・」

 

「そしてあの神の子よりも神にふさわしい一人だど・・・そう言ってくれだ!

 ここでお前を倒してあの二人といっしょに魔族のための世界を・・・・・・」

 

アレンとアトラスは互いににらみ合うが、相手を見れば見るほど自分とそっくりだ、

そう感じていた。仲間たちのために、天から授かった馬鹿力を使い敵を倒す。

その思いに加え、どちらが強いか決めたいという闘志も漲っていた。

 

「どっちがこの世で最も力が強くタフか・・・」

 

「おでの勝ちに決まってるもんね――――――っ!!」

 

その後も殴り合いが続いた。互いに相手の攻撃の直撃をまともに受けてやるつもりは

ないが、防御よりも前進を重視している。アトラスの巨体ぶりをアレンは利用し

死角を突くが、相手が腕をぶんぶんと振り回すだけでもかなりの衝撃が発生する。

それでも二人は全身の骨が少しずつ悲鳴を上げていくのも気にせずに接近戦を

繰り広げ、血を吐き出すことすら快感になり、興奮が高まっていた。

 

 

「面白いな――――っ!おではずっとこんな戦いがしたがっだ――――!

 呪文だとか作戦だどがそんな細かいことはなしでなぁ―――――!!」

 

「ああ!おれも同じ気持ちだ――っ!!何も考えずただこの鍛えた体と剣だけで

 敵を打ち倒す!やっぱりそいつが一番楽しいよなぁ――――っ!!」

 

アレンの百年前の先祖ブライアン、そこから数百年前の勇者ロトは呪文と剣技の

両方を駆使し戦った。またロトから更に年代を遡ると、いまでは廃れてしまった、

人の力を超える多くの特技を使いこなして勇者たちは戦っていたのだという。

だが彼らを羨む気持ちはもう消えた。彼らより劣っていたとしても構わない。

 

「だってこんなに血沸き肉躍る戦い・・・おれたちにしかできないもんな―――っ!」

 

「そうだど――――っ!うが―――――――っ」

 

 

同時に二人は倒れた。すでに本来であれば戦うことはおろか、立ち上がることも

無理であろう傷を全身に負っている。それでも二人は戦いをやめたりはしない。

少しでも長くこの時間を堪能し、そして最後には勝利したかったからだ。

ただ、互いにあと一発決定打が入れば今度こそ沈むだろう。決着が迫っていた。

 

起き上がろうとするアレンの目の前には稲妻の剣、アトラスのそばには愛用の棍棒。

ずっと拳による打ち合いを楽しんでいたが、ついに二人は再び武器を手にした。

 

「・・・今ならこの剣でお前に致命的なダメージが入れられる」

 

「おでの棍棒でお前をぐちゃぐちゃにする・・・その準備ができた」

 

 

瞬きすらせず、しばらく二人は動かない。そのとき、僅かに一瞬、二人の呼吸が合った。

 

 

「うおおおおー――――っ!くらえ―――――――っ!!」

 

「死ね―――――!!これでとどめだぁ―――――っ!!」

 

 

肉眼で見る限り、二人の攻撃は同時に思えた。だが、アレンがほんの少しだけ速かった。

アトラスの棍棒がアレンの脳天を兜ごと砕く寸前、胴体を斬られとうとうその臓腑までも

斬り離されたアトラスの動きが止まった。アレンへの攻撃が届くことはなかった。

 

「・・・・・・やった!」

 

「ウ・・・・・・ヌガァ~~~~ッ・・・・・・」

 

アトラスの口、また胴体から大量に噴き出る返り血に染まるアレン。当然目にも

入ったが、アトラスが倒れ勝負が決するまで閉じることはなかった。ついに

巨人が仰向けに倒れ、動けなくなるのを確認してから勝利をかみしめた。

 

「うおおおおおー――――――――っ!!」

 

勝利の雄たけびをあげた。両のこぶしを握り締め、天に向かって吼えた。

すると、微かに何かが聞こえてきた。アトラスが小さな声で言葉を発している。

もはや勝負は終わったとはいえまだアトラスに息があったことにアレンは驚いた。

 

 

「・・・・・・あ~あ・・・おでの負けかぁ・・・勝てると思ったのになぁ」

 

「・・・一瞬の差だった。もう一回やりゃあ勝つのはお前かもしれない」

 

「そうだなぁ・・・負けたのは悔しいな・・・・・・なのにお前との

 戦いはとっても・・・とっても楽しかったぁ。これだけやったんだから

 ベリアルとバズズも許してくれるかなぁ・・・・・・・・・がはぁ~っ!」

 

アトラスからは爽やかな達成感すら感じとることができた。彼は単純で素直だ。

その全ての言葉が本心からのもので、負け惜しみや何らかの時間稼ぎのための

罠など一切ない。彼の生き方そのものが嘘偽りのないものだったからだ。

 

「負けたってことは・・・おではやっぱり神さまじゃあなかったってことか。

 でもそんなことはもうどうでもいいや。えっど・・・アレン・・・だったか」

 

「ああ、おれの名はアレン。やっと覚えてくれたようだな・・・」

 

「・・・いまはもう戦えねぇ・・・。でも約束・・・してほしいんだど。

 今度こそおでが勝つ。だがらまた戦ってぐれ。こんなに楽しかったんだ。

 次はもっと面白い勝負になるがら・・・いいよなぁ―――っ?」

 

アレンはアトラスのすぐそばにまで来て、彼の目をしっかりと見て答えた。

 

「もちろんだ。心行くまで殴り合おうぜ」

 

「・・・ははは・・・・・・あじがど――っ・・・ア、アレン・・・・・・・・・」

 

 

アトラスの一つ目が閉じられ、力が抜けていった。その口元は笑っていた。

アレンはそれをしばらく黙ったまま見つめていた。やがてアトラスが完全に

事切れたのだと頭が理解したとき、アレンは憎んできたはずの敵に向かって叫んだ。

 

「アトラス――――――――っ!!!」

 

敵の死を看取り、それを悲しむというのは長い旅でも初めてだった。しかもこの

アトラスはアレンたちにとって、これまでこの世を惑わしてきた最大最後の敵、

悪霊の神々の一人だったというのに。それだけこの戦いは心が震える熱いだった。

その戦いの末にアトラスがやがて他人のようには思えなくなり・・・。

彼の相棒である棍棒をそっと彼の眠る隣に添えてやった。

 

 

「アトラス・・・・・・この旅が終わったなら必ずおれやお前みたいな不器用なやつでも

 自由に胸を張って生きられる世界にしてやる。だが・・・このおれも少し疲れた。

 ここで休ませてもらうぜ・・・・・・」

 

アレンは壁にもたれかかり、意識を失った。彼もまた重傷を負っていたからだ。

ほんとうならセリアやアーサーのもとにすぐにでも駆けつけたかったが、さすがに

体は限界だった。二人の仲間を信頼しつつ、休息に入った。

 

 

 

 

 

アレンと同じように、セリアもまた神殿に突入した瞬間に幻の空間に誘われた。

そこはローレシアではなく、セリアにとっての『都合のいい夢』の空間だった。

彼女の故郷であるムーンブルク、それも栄華を誇っていたときそのものだった。

 

「・・・これは・・・・・・何もかもあの時のまま・・・・・・」

 

アレンとアーサーの配慮により、滅ぼされた後のムーンブルクを一度も訪れていない。

見るも無残な廃墟となっているのは確実で、たまたま旅人たちの話が耳に入ったとき、

魔物たちの住処ですらあるということも知った。愛する故郷は変わり果てたのだ。

その復興が現実的には不可能であるのもセリアは薄々受け入れ始めている、そんな矢先に

この幻が現れたのだ。吸い込まれるようにして彼女は城の中へ入っていった。

 

「細かいところまで同じだわ。このわたしも・・・・・・」

 

セリアもアレンと同様、武器も防具も何も持っていなかった。戦いを知らない

幸せな、しかし退屈な毎日に飽き飽きしている王女のときに戻っていた。

誰もが笑顔でいつもと変わらぬ生活を過ごしている。その人々たちも現実には

魔物たちに殺されたのだ。胸が痛くなっていくのを感じながらセリアは

城の奥に進んでいく。やはりそうだった。目の前で惨殺された愛する父も、

精悍な顔つきで玉座に座っていたのだ。しかし何かが違う。説明できないが

やはりこれは幻覚なのだということがわかる、本物ではない父だった。

 

「おお、我が娘よ。どこに行っていたのだ?心配したではないか」

 

「・・・・・・お父様・・・・・・」

 

「そうだ、唐突だが・・・無性にお前の踊りが見たくなった。グリーングラスの

 乙女と言われたその華麗な舞いを・・・一つ頼めないか」

 

「・・・・・・ええ。ではあの緑の芝生で」

 

セリアはゆっくりと、昔を思い出すように舞い始めた。あれからすっかり踊りの

練習などしていない。代わりに魔物の倒し方を覚えた。ナイフで急所を狙い、

呪文で跡形もなく消し飛ばし、復讐心から次々と命を奪ってきた。もうこの先

世界が平和になろうと、昔の自分には戻れないのだとわかっていた。

ならばこのまま夢の中で眠り続けるのもそれはそれでいいのかもしれない。

 

「フム・・・素晴らしい。これもハーゴン様と偉大なる神々のおかげだ」

 

「・・・・・・・・・」

 

「あの方々に敵対し魔物たちを積極的に狩っていたこれまでの行いを恥じているよ。

 生き方を改め忠誠を誓ったならば偉大なる神々は奇跡の力を人間の益のために

 用いてくださった。我らもこうして蘇ることができたというわけだ。窮地を

 救ってくれなかったルビスよりもはるかに崇め、讃えるべき真の神々だ!」

 

ハーゴンと偽りの神々を賛美する父を見て、セリアは緑の芝生から降り、父のもとへ

近づいていった。自分がここで何をすべきかわかっていたからだ。

 

「・・・お父様、残念です。わたしもずっとこうしていたかったのですが・・・」

 

涙をこらえ、魔力を満たす。イオナズンの準備が進んでいた。

 

「・・・・・・そうか。それでいい。ルビス様の加護を祈っているぞ」

 

誇れる父、ムーンブルク国王はその瞬間だけ生前の父そのものだった。

 

 

「・・・・・・・・・さようなら、お父様。イオナズン」

 

魔物たちによって破壊された城を、いまは自分の手で爆発し、燃やす。燃え盛る

炎のなか、徐々にハーゴンの神殿へと戻っていく。幻は終わったのだ。

 

 

「・・・・・・絶対に許さないわ。外道に・・・必ず死を!」

 

セリアはついに零れた一粒の涙を拭うと、誰にも悟られないために完全に涙の痕跡を

消してから先へと進んだ。人の心を弄ぶ魔族を絶対に許さないという憤怒の炎が

燃え上がった。すると一体の獣が彼女を待ち構えていた。

 

「あらあら・・・思ったより早かったじゃない。どんな内容の幻だったのかは

 知らないけどそのまま戻ってこないかと読んでいたのに・・・」

 

「デビルロード・・・とは違うわね。段違いの力を持っているのもわかる。

 あなたが三体の悪霊の神々のうちの一匹・・・わたしの倒すべき相手ね」

 

「その通り。アタイの名はバズズ。この世界を支配する新たな神の一人。そして

 アタイたちにとってルビスの手先の一人であるあんたは倒すべき相手・・・

 さて、真の神に逆らう貧弱な罰当たりを懲らしめてやろうかしら」

 

「懲らしめられるのはそっちよ、汚らしい獣め!」

 

セリアは殺意を隠さずにバズズを睨みつけた。バズズのほうはにやりと笑うと

その鋭い白い牙がむき出しになった。どちらかの死以外に戦いの決着はない証だった。

 

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