ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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犯罪皇帝クライムカイザーの巻 (悪魔神官)

アーサーがかつて自分の手で倒したと思っていた男、犯罪皇帝クライムカイザー。

彼はどうしたわけか生存しており、しかもこの邪教の総本山で悪魔神官として

活動を続けていた。そのうえこれからアレン、それにセリアと顔を合わせようと

いうのだ。残虐で卑劣極まりないクライムだ。何をしてくるかわからない。

 

「・・・不安かい?君の仲間たちのことが」

 

「いや、それに関しては何の心配もしていないさ。助けに向かう必要もない。

 仮にあの二人が負けてしまうようであればぼくが行っても無駄だろうしね。

 でもそんなことは考えていない。ベリアルにも話したけれど、あの二人こそ

 真の勇者だ。どんな相手だろうが負けて死ぬだなんてありえないことだ」

 

自分とは違い、ルビスの加護と祝福を受けた二人だ。アーサーは三人の悪霊の

神々と戦っている時から彼らが敵にやられてしまうとは思っていなかった。

いまアーサーが最も気にしていることは、彼ら二人がハーゴンと出会ったとき、

どのような展開となるか、だ。何事もなく和解に至るはずはない。彼が数日間

ハーゴンをそばで観察した限り、おそらくハーゴンのほうが自分の首を差し出して

事を決着させようとするだろう。当然アーサーとしてはそのような結末は

断固拒否だ。だが簡単にはいかないだろうと思考を巡らしていると、

 

「・・・真の勇者か。なあテンポイント、君がその真の勇者になってみないか?

 そのためにわたしは君にロトの剣を持ってくるようにと言ったのだ。伝説の

 ロトの剣で世を惑わす邪悪な大神官ハーゴンを討つ!これで君は・・・」

 

「できない。きみがよくてもきみの仲間たちがよしとしないだろう。それに

 ぼくもそのうちの一人だ。きみはぼくの妹の恩人だ。この手で討つだなんて」

 

アーサーはハーゴンの誘いを即座に断った。ハーゴンの仲間であるモンスター人間たちも

彼女がアーサーのことを気に入っているのを知っていたので、もはやどうしようもない

状況なのであれば彼の手で命を終わらせたいということなのかと気が気ではなかった。

ところがハーゴンの思っているところはそうではないらしい。死ぬ気など全くなく、

何やら面白い秘策を考えついた子どものように笑った。

 

「ふふふ、そうじゃないさ。まあ・・・練習が必要だろうね。君の予想を聞きたい。

 あの二人がクライムを倒すのにどのくらい時間がかかると思う?」

 

「さあ・・・だけどそんなに長期戦にはならないだろう」

 

「わかった。ならさっそく始めよう。猶予はないぞ!」

 

 

 

 

 

「・・・無茶しやがって・・・よく生きていたな」

 

「こっちのせりふよ。あなたは呪文も使えないくせに。もしわたしがもう少し

 来るのが遅れていたらどうなっていたことか!恐ろしいわ」

 

無事合流した二人だったが、互いに相手の無謀を責め合い、決して良好な空気では

なかった。愛している相手だからこそ気遣いからこのような言葉が出ているのだが、

そこに気が回るほど余裕はなく、だんだんと険悪な雰囲気になりつつあった。

 

「あなたはいつもそう。ここに来るまでの洞窟で死ぬ一歩手前まで・・・」

 

「あのときはああしなきゃおれもお前も助からなかっただろ!結果的にみんな

 生きていたんだからもういいだろうが。終わった話をいつまでもうるせぇぞ」

 

「はぁ!?うるせぇ?このわたしに向かって・・・!」

 

このまま大喧嘩に発展する可能性もあった。ところが二人は急に口を閉じた。

何者かが前から近づいてくるからだ。それが決してアーサーのものではないことは、

二年以上共に旅をしているアレンとセリアであればわかる。何より邪悪な気に

満ちていて、強力な魔物が発するオーラであるからだ。密かに、ではなく堂々と

迫ってくるのだから、その魔物は相当な自信があるのだろう。

 

「・・・まさかおれたちが倒した神の・・・最後の一人か?三人いると言っていた。

 アーサーがやられただなんて思いたくはねぇが・・・」

 

「・・・・・・くるわ!」

 

そして現れた、犯罪皇帝。見た目はただの悪魔神官と何も変わらなかったが、

このような近づき方をするのだ。そんなはずがない。二人は身構えた。

 

 

「・・・ようこそ、聖なる神殿に土足でやってきた大罪人たちよ。お前たちは

 これまでに犯してきた多くの罪を悔い改めるどころか私の崇拝する偉大なる

 神を殺害した・・・完全に許されることはなくなったのだ。この私、神官

 クライムカイザーがお前たちを生きたまま地獄の火の海へと沈めてやろう」

 

「お前は・・・人間じゃないみたいだな。なら遠慮なく斬ってやれるな」

 

「私を斬る?無理だな。なぜ私がお前たち二人の前に魔物どもを連れずに

 一人でやってきたと思う?私一人で二人を圧倒する力があるからだ!

 私はかつてお前たちの仲間に命を奪われた。しかし神々は私を死から

 救い出してくださり、人を遥かに超える生命力と魔力を授けてくださった!

 私は神々のご意思に従って多くの事柄を成し遂げてきた男だ!これを見ろ」

 

悪魔神官の仮面を外した。するとその顔は、セリアにとって忘れられないものだった。

 

「・・・・・・!!あんたは・・・!」

 

「そう、お久しぶりです、王女様・・・とでも言っておこうか。さすがに覚えて

 いるようだな。それはそうだろうな、私はお前の目の前でお前の父を粉々の

 肉片に変えてみせた者。いまだ脳裏から離れないだろう、あの日のことは!」

 

セリアの父、ムーンブルク国王をその手で殺害したのはこの男だった。過剰なまでの

魔力で言葉通り国王を惨殺し、セリアに大きな絶望と悲痛を与えた。

 

「本来であればお前も私により殺されていたのだ。大神官様が情けを加えなければな。

 いや、大神官様がいなければお前は死ぬよりも屈辱的で耐え難い災難をその身に

 受けていただろう!ふふ・・・私としてはあのとき『食ってしまった』ほうが

 よかったな。いまは成長しすぎてしまった。あの日こそ食べごろだったのに・・・」

 

獣のように涎をだらだらと垂らす犯罪皇帝。セリアは静かに一歩前へ出て、

 

「・・・わたしがやる。アレン、あなたは手出ししないで」

 

自らの手で過去に受けた傷と植えつけられた因縁に決着をつけようとする。しかし、

 

「いや、それは駄目だ。ここはおれにやらせろ。やつからは危険な匂いがする」

 

セリアの前に無理やり割って入り、もともとは人間でありながら邪教に身も心も

捧げ魔物にまでなった邪悪な男を自分が倒すとアレンは言う。どんな攻撃を

してくるのかわからない以上、頑丈な自分であれば一撃は耐えられる分そのほうが

よいという考えだ。しかしセリアは当然それをよしとしない。彼を止めた。

 

「ふざけているのかしら?わたしの旅の目的が何だったのか、まさか忘れたとは

 言わせないわ。あの神たち以上に恨みを晴らすべき相手がいるのにその機会を

 わたしから奪おうとする・・・どうかしているんじゃないの、あなたっ!!」

 

「黙れ!もうお前だけの敵じゃない!おれたちは三人で一つだと何度も確かめ

 あっているのにまだわからねぇのか!だからやつはおれたちみんなの仇敵だ!

 後ろでおれがあいつを斬ってやるところを大人しく見てろ!」

 

 

二人はついに本格的に口論を始めてしまった。クライムは大笑いしながら二人に言う。

 

「私は初めから言っているだろう、二人まとめてかかってこいと!二対一だろうが

 お前たちを圧倒し地に這いつくばらせる。私は一国の軍隊が相手であっても

 決して苦戦することもなく破滅を与えてきた!いかに勇者ロトの子孫であろうと

 私相手に一人で勝とうなどと思うな、この罪人どもめ―――っ!」

 

クライムは更に続ける。二人に対して勝利した後のことまでも語りだした。

 

「そうだな、いつも通りやろう。いつも私はこのような戦いに勝ったときは

 愛し合う男女をあえて生かしておいた。男は両手両足を斬り落として何も

 できないようにしてからその彼の目の前で女を心行くまで犯してやった。

 上半身も下半身も、顔も手足も全てだ。もしその二人に娘がいるのなら

 それも徹底的に辱めた。たとえ何歳であろうが、一歳に満たなかったとしても

 心身が破壊し尽くすまで私はやめなかった!非常な快感だった。

 まさにこの世に生まれてきてよかったと感じたよ。暴虐と殺戮を推奨する神に

 忠実に仕え続けてきた報いを実感しながら私は何度も絶頂を味わった・・・」

 

クライムはすでに勝利を確信し、セリアを嬲ることを考えている。幼ければ幼児や

乳児であっても構わない、むしろ大歓迎だというどうしようもないこの男にとって

セリアはすでに『食べごろを過ぎてしまっている』のだが、それでも精霊ルビスの

加護を受けここまできた勇者を自分の奴隷とすることができるのであれば必ずや

崇拝する神もこれまで以上の祝福を与えてくれるだろうと信じていた。

 

「さあ、私にとっては生を受けたことを感謝する時間がやって来た!お前たちに

 とってはもともと生まれてこなかったほうがよかったと思うときでもある。

 そして精神が壊れたお前たちの肉体はあの三人の神々よりも偉大で力ある

 伝説の破壊神の前に生贄として捧げてやろう!そろそろ震えたか・・・」

 

ところがクライムは唖然とすることになる。視線と意識を二人のほうに戻すと、

 

 

「ほんとうに意固地なやつだな!今までお前が感情に任せて先走るとロクなことが

 なかった!こんなところまで来てまた同じ失敗を繰り返すのか!」

 

「成功だとか失敗だとか・・・そんなことを言っているときじゃないでしょう!

 そこの犯罪皇帝はわたしの倒すべき相手だと、あなたこそ何回言えばわかるの!?

 ああ、忘れてた。あなたのような脳みそまで筋肉に満たされた男じゃあ無駄だったわ!」

 

なんと二人はいまだに口喧嘩を続けていて、クライムのことなど全く気にも

留めていないのだ。彼が長々と自慢げに話した事柄も一切聞いていない。

 

「・・・お、お前ら・・・!この私を無視しているだと・・・いい度胸じゃないか」

 

もちろんこの言葉にも反応はない。クライムは怒りに燃え、剣を手に取った。

セリアの父を殺害した魔力も武器だったが、剣術も人間であったころから抜きんでた

ものを持っていた。手に力を込めてまずはアレンの腕を斬り落とすべく駆けた。

 

 

「偉大なる神とその代理人である私への無礼!後悔させてやるぞ――――っ!!」

 

邪悪な気に満たされた男が繰り出す鋭い一撃。だが、剣がアレンに届くことはなく、

 

「うおりゃああぁぁぁっ!!!」

 

逆にアレンの一閃を胴体にくらい、斜めに、そして深い傷が入り血が噴き出した。

 

「・・・うごがぁっ!な・・・なぜ!?」

 

「もう一撃―――――っ!!」

 

そしてアレンの追撃が決まる。斜め十字の傷となり、かつてアーサーによって

与えられた顔面の傷とお揃いになってしまった。斬撃の勢いで宙に舞う。

 

「・・・そ・・・そんな・・・・・・こんなことが・・・・・・」

 

「ちっ・・・抜け駆けするなんて・・・まあいいわ!とどめはわたしが―――っ!」

 

何もできずに空中にいるだけのクライムカイザーに狙いを定め、セリアは

その呪文を放つ。この局面で唱える呪文は一つしかなかった。

 

「くらえ―――――っ!!イオナズン――――――っ!!」

 

「あ・・・や、やめ、やめろおおおおおォォォ」

 

父や城の者たちと同じ苦しみを憎き敵に与えた。爆発の後、クライムは地に落ちた。

 

 

「・・・全く呼吸をしていない。死んだな」

 

「ええ。これであとはハーゴンのみ!行きましょう」

 

二人は決してクライムの冷静さを失わせるために口論を演じていたわけではない。

本物の喧嘩であったのだが、今はもうそんなことはなかったかのような雰囲気だ。

結局二人で倒すことができたのだからそれでよしというところか。

 

「言いたいことはいろいろあるがとりあえずアーサーと合流しなくちゃな!」

 

「わたしも同じ気持ちよ。後でじゅうぶんに話し合う必要がありそうね」

 

完全に終わったわけではないようだ。しかしこれまで戦った邪教に関わる者たちの

なかでも特に下衆であった男を問題なく葬ったことで二人の怒りは収まっていた。

二人にとってクライムカイザーなど初めから脅威ではなかったのだ。

 

「さて、アーサーはどこにいるんだ?ん・・・見ろ、こいつは・・・!」

 

「アークデーモン・・・いや、それ以上の魔物!きっとそいつが三人目の

 悪霊の神々だったのね。かなりの血が床についているけれど・・・」

 

ベリアルの遺体を目にし、アーサーが戦いに勝ったのだということはわかった。

しかし肝心の彼がいない。見つけられないままとうとう最上階にきてしまった。

ロンダルキアに至る洞窟で一人先行していたときもあったが、基本的にアーサーは

他の二人とは違い無理な前進はせず、ましてたった一人で敵のもとへ向かったりしない。

あまりにも傷がひどく緊急脱出したとしても何かに書き残しておくだろう。

 

「・・・まさか一人でハーゴンの首を取りに・・・?」

 

「ありえない。だが思えば最近のあいつはどこかおかしかったからな。決戦前夜に

 おれと戦いたいだなんて言ったのもちょっと前のあいつなら考えられないことだ。

 それにもしかしたらあの魔物と戦った後で敵に捕まったのかもしれん!」

 

二人は急いだ。このままこの神殿の最後のフロア、大神官ハーゴンが待つ部屋へと

全力で走った。いかにハーゴンの仲間だという者たちやアトラス、バズズが

ハーゴンについて好意的な意見を述べていたとはいえ、二人はまだ実物のハーゴンを

知らない。どのような外見、どのような性格で何を目的としているのかもわかって

いないのだ。クライムのような男まで出てきた以上、もしアーサーが捕らえられて

いたならばどんな残酷な拷問を受けているかもわからない。いろいろと考えるより

先に二人はとうとうその扉の前にたどり着き、それを躊躇せずにイオナズンで破壊した。

 

 

「・・・・・・!あれは・・・・・・」

 

二人の目に飛び込んできた光景は、アーサーが自分たちよりも少し幼く見える

少女と向かい合っているというもので、彼の手にはロトの剣があった。この部屋は

かなり広いので、アーサーのもとへ行くまでは時間がかかったが、アーサーたちは

睨み合いを続けていて戦況は硬直しているようだ。

 

「というより・・・あの女の子は敵なのか!?あいつは剣を構えているが!

 しかも隼の剣でも光の剣でもなく・・・あの使えねぇポンコツを?」

 

「何から何までさっぱりだわ。アーサー!戦いは・・・」

 

ようやくそばまで近づくことができた二人に対し、アーサーは手を前に出してこれ以上

近づかないようにと合図を送ってきた。そして二人から目を逸らし前を見て言う。

 

 

「・・・来るな!こいつとの決着はぼくがつける!ハーゴン、覚悟しろ!

 この世界を惑わし混乱に陥れた罪・・・死以外に償う方法があるだろうか!」

 

「ふふふ・・・やれるかな?お前ごときにこのハーゴン様を倒すだなどと・・・」

 

ほんとうにあれがハーゴンだったのか、とアレンとセリアは顔を見合わせる。

いかにハーゴンの仲間たちに百年以上生きているようには見えない外見をした

者たちが大勢いたとはいえ、ハーゴンのイメージとして中年の男、もしくはもっと

大神官と呼ばれるにふさわしいような服装や風貌があっただけに、これが世の

頂点に立とうとしたこの世代の魔王なのかという混乱があった。

 

「そいつがハーゴンなのか!ならおれたちも加勢するぜ!」

 

これが正真正銘最後の戦いだ。ならば三人で、とアレンは戦闘に加わろうとした。

ところがアーサーはまたしてもそれを止めるような動きを見せ、さすがに

アレンとセリアも彼を疑った。いったい何が起きているのかと。

 

「おいアーサー!確かに見た目は無慈悲に斬るのはちょっとおれでも嫌だなって

 思う女の子だけどよ、ハーゴンなんだろう!?だったらおれたちも・・・」

 

「いや、事はそんなに単純じゃないんだ。ぼくがあと一歩手出しできない理由も

 そこにあるんだ・・・・・・」

 

「何だと!?それを早く言え!いったいどんなわけがあるんだ!」

 

アーサーは苦悩するような表情を見せる。やはり何かわけがあるようだ。アレンは

その言葉を信じ彼の説明を待つが、セリアはこの場の空気に違和感を覚えていた。

 

(・・・おかしいわね。あれほどハーゴンに忠誠を誓っていたあのモンスター人間たちが

 どうして一人もいないのかしら。アーサーが倒したにしても死体すらないなんて。

 こんな局面でまさか他のところで別の仕事だなんてありえるかしら?それに・・・)

 

命をかけた戦いであるはずなのにハーゴンからは少しも殺気どころか敵意や戦意を

感じないのだ。かといって自らの命をくれてやるといったところは微塵もない。

最後の戦いであれば、これまでの全てをかけた激しい戦いになるものだとばかり

思っていただけに、不可解な現象の謎解きから始めなければいけないとは。

アレンには期待できず、アーサーも何かを隠しているか、もしかしたら洗脳

されているのか・・・。セリアは自分でどうにかしなければと頭を働かせた。

 

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