ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

67 / 79
真の勇者の証明の巻 (シドー②)

 

突如炎と共に現れた物言わぬ怪物。召喚した犯罪皇帝クライムカイザーは『破壊の神』と

呼んでいたが、果たして正体は何者なのか。一つはっきりしているのは、この怪物が

アレンたち、それにハーゴンたちにも殺意を向けているということだった。

 

「・・・こいつが誰かなんてどうでもいい。だが野放しにしたらどんなことになるかは

 目に見えているぜ。ここでおれが叩っ斬ってやるぜ―――っ!」

 

アレンが稲妻の剣を手に襲いかかる。そして怪物の胴体に手ごたえよく斬撃が決まった。

 

「よしっ!かなりのダメージを与えたぜ・・・・・・?」

 

しかしそれほど痛くなさそうだ。怒りを増し加えてすらいない。攻撃自体は完璧に

決めたのにこれでは、かなりの防御力を誇るということか。

 

「・・・直接攻撃するのが駄目なら・・・イオナズン!」

 

セリアが呪文で怪物を討とうとした。だが、こちらは全く効いていない。

 

「全然ダメじゃねーか!でも弱点がどこかにあるはずだ!探して・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

するとついに怪物が反撃に出た。長い尻尾を振り回すと、攻撃したばかりのアレン、

それに弱点を探ろうと近づいていたフレイムのホーリックスが吹き飛ばされた。

アレンは地面に転がり、ホーリックスは壁にめり込むほどに飛ばされ吐血した。

 

「・・・がはっ!!」 「うげ・・・こいつ・・・とてつもなく強ェ・・・」

 

近づくのは危険、それでいて呪文は効かないし相手は激しい炎も吐くのだ。

素早さも常識はずれで、この場にいる強者たちを恐怖させるには十分だった。

 

「・・・・・・スクルト!いや、気休めにしかならないのはわかっているさ」

 

「ああ。こうなったら・・・全員中央に集まれ―――っ!!」

 

スライムからモンスター人間に生まれ変わった、ハーゴンのしもべのなかでも最も

力あるキンツェム、彼女の大きな声に皆は考えるより先に体が動いていた。

傷ついた者も含め全員がそばに寄ると、キンツェムは早口言葉のように詠唱を始め、

 

「一度退く!リレミト――――ッ!」

 

アレンたちが知るリレミトよりも瞬時に空間が歪み、神殿の外に出てきた。

しかしアレンはこれをよしとせずキンツェムに迫った。

 

「おい!まさかこのまま逃げる気か!?放っておくつもりか!」

 

「いや・・・アレン、そうもいかないみたいだ。幸か不幸か知らないけど」

 

アーサーがそう言ったときには、すでにあの怪物の姿が大きくなっていた。

呪文など使わずにすぐに追いついてきたのだ。

 

「・・・これはまずいですね。ルーラ!」

 

今度はキンツェムの相棒であるスライムベスのポリーがルーラを唱えた。

するとハーゴンの部屋、つまり神殿の最上階に戻ってきた。もちろん怪物も

すぐに追いかけてくる。逃がしはしないということか。その執拗な姿に

ハーゴンは初めからしばらく考えていたが、その答えがとうとう出たようだ。

 

 

「・・・破壊神・・・シドー・・・・・・」

 

「破壊神?それは・・・それにシドーという名前・・・知っているのか?」

 

ハーゴンの呟きにアーサーが反応する。他の者たちはその余裕はなかったが、言葉だけは

耳に入っていた。あの怪物の強さを実感しすでにわかっていたことだが、偽物の神だった

三体の魔物たちとは違いあれは本物の神であるということがこれで確定した。

神だと言われても納得してしまう、それだけの圧倒的な威圧感もあった。

 

「実際に見たことはなかったが話だけは。この世を我が物にしようとする魔王とは

 また別の存在と言われていた。それらよりも強さと悪意は上だというが・・・」

 

「・・・しかし神が相手となったら勝ち目はないんじゃないかな?」

 

「いや、わたしがまだ生まれる前よりももっと昔か。やはり邪神と呼ばれる者が

 世に現れたようだが、その時代の勇者がそれを討った。力を持つ勇者であれば

 それが可能だ。だから大魔王ゾーマも竜王も倒されてきたではないか!」

 

ここでハーゴンはセリア、それにブリザードのトリプティクに向かって言った。

 

「攻撃呪文は通じない・・・しかし別の手がある!やつにルカナンを唱えてみるんだ」

 

「・・・ルカナン!?」

 

言われるがままにセリアはルカナンを唱え、トリプティクもそれに続いた。

 

「効いているのかどうか・・・確かめてやる!」

 

回復を終えたアレンがジャンプしてシドーという名の神に再び剣で攻撃した。

すると先ほどよりもシドーの表情が歪んでいるように見えた。攻撃は効いている。

 

「よし!あとはおれたち力自慢がやる!呪文が得意な奴らはサポートに・・・」

 

だがシドーは追撃を許さない。すぐに激しい炎を吐いた。

 

「・・・おおおおっ!!」 「うわっ!」

 

アレンとアーサーがやられた。ロトの防具で身を守るアレンはどうにか堪えたが

アーサーは大きなダメージを受けた。すぐにセリアがベホマを唱えるが時間が

かかりそうで、アレンのほうも簡単にはシドーに接近できなくなった。

 

「ぐああっ・・・なんて炎だ。生きているのが不思議なくらいだ」

 

「ただ防御力を弱めたくらいじゃあダメ・・・くそ、どうすれば・・・・・・」

 

自分は、いや、自分たち三人は精霊ルビスによって選ばれた勇者だ。ハーゴンに

言われるまでもなく自分たちが決着をつけなければならない。自分たちが敗れる、

すなわち世界の崩壊を意味する。世界を支配してやろうという魔王であれば

人間たちを皆殺しにはしないだろう。だがこの破壊神に理性などあるのか怪しい。

全ての生物を破壊し尽くすまで満ち足りることなく殺戮を続けるだろう。何としても

いま倒さなければならないが、勝機など何一つ見えてこない。三人ではとても・・・。

 

 

「・・・アレン、君は勘違いをしている。確かに最後のとどめをさすのは勇者の役目。

 だがそれまではいわば脇役であるわたしたちにもできる。君は少し休んで力を

 溜めていてくれ。機会が来るまではわたしたちに任せてくれないか」

 

「ハーゴン・・・だがあんたらだけでどうにかできるのか?」

 

「ふふふ、わたしたちは多い。どうやら間に合ったようだ」

 

ハーゴンの声と同時に、部屋の外から大勢の足音が聞こえてきた。やがて姿が

見えると、それらは全身をお揃いのデザインの防具で守っている軍隊であることが

わかった。先頭に立つ非常に身体の小さな、それでいて気の強そうな女が叫んだ。

 

 

「お待たせいたしました、ハーゴン様!そしてそこの怪物!ここからは我ら

 『ハーゴンの騎士団』が相手だ!皆の者、このトウメイに続け!」

 

トウメイと名乗る、ハーゴンよりも更に背丈が低い女の声に、ハーゴンの騎士たちは

一斉に突進した。まず初めに二人の者がトウメイよりも先にシドーの間合いに入り、

一人は鋭い切れ味の刃物で腹部を斬りつけ、もう一人は槍で左腕を突き刺した。

 

「よし、いいぞ!コダマ、それにコーネル・ランサー!次行け、次!」

 

すると二人はすぐにシドーから離れ、また別の二人が武器を持っていた。ナイフと

弓矢、いずれも遠距離からシドーの身体を貫いた。

 

「・・・・・・!!」

 

「効いてる効いてる!さすがは人間だったころタニノ王国の若き王だったムーティエ、

 それに弓の達人、アロー・エクスプレス!かつての敵同士も今は息の合った相棒か!

 それもこれも全て新たな命を与えてくれたハーゴン様のおかげってわけですな!」

 

ハーゴンの騎士団の作戦はわかりやすかった。個々の能力はそこまでのものではない。

実際アレンと比べてしまえば大きく劣るといってもいい。だが数に任せて次から次へと

攻撃しては引っ込み、また別の者たちが攻撃しては後ろに退き・・・を繰り返し、

シドーに的を絞られること、それに休むことを許さない。攻守両方に優れた

素晴らしい作戦だった。トウメイの指揮の下、このままシドーを倒してしまうのでは、

そう思えてしまうほどに破壊神相手にダメージを与え続けた。

 

「・・・すげぇ。一撃一撃は大したことないがあれだけ積み重ねたら・・・」

 

「もし・・・もしもわたしたちがハーゴンの敵だったらと思うとぞっとしてきたわ」

 

アレンとセリアは壁によりかかっているアーサーを見た。彼がハーゴンと親密に

なっていなければこの騎士団は全員自分たちの敵となって襲いかかってきたのだ。

当然ハーゴンと五人の特に力あるモンスター人間たちも。いかにアーサーの

働きが大きなものであったか、二人は思い知ることとなった。

 

「こうなったら勝ち方なんかどうでもいい。このまま決めてもらっても・・・」

 

「いや、そうはいかないみたいだ。やっぱり最後はお前ら真の勇者でないと。

 見ろ、騎士団はもう限界だ。そろそろ助けにいってやらないと・・・」

 

キンツェムに言われ、アレンは立ち上がる。すると、ハーゴンの騎士たちの

動きが乱れていた。シドーによる反撃もあったが、それ以上にひどかったのは、

 

「・・・・・・」 「・・・あ―――――・・・・・・」

 

最初に出てきたトウメイと数名の者たちはよかったのだが、残る騎士たちは

骸骨の上に兜を被せて盾を持たせただけであり、腕が取れたり知性が足りないせいで

ぼーっと立っていて何もしなかったりと何の役にも立っていなかった。

 

「トウメイ!これは・・・」

 

「仕方ないでしょう!ハーゴン様がまだ全快じゃあないっていうんだから!

 私たち数人が先行してモンスター人間にしてもらっただけで残りは順番待ち。

 選ばれし精鋭、『ストロングエイト』を組むのにもまだ足りな・・・ギャー!!

 皆さま、お力及ばず申し訳ない!ええい、撤退だ!いったん退け――――っ!」

 

あえなく退散してしまった。シドーは確かに傷ついているが、このまま戦っても

決定的な一撃がない限り倒せないだろう。少しずつ削っていくだけでは先に倒れる。

もちろん捨て駒として自分以外の者たちの命を犠牲にすれば攻撃に専念することで

じわじわとダメージを加えていきシドーを倒せるかもしれない。だがそのためには

何人必要だというのか。そもそもそれでシドーを倒して勝利と呼べるのか。

アレンはもともとそのような結末を望んでいない。もし誰かの犠牲が必要ならば

まず自分を差し出す、そんな男であるのは旅を始めたときから変わっていなかった。

 

 

「だが無意味に突っ込んでも意味はない・・・!珍しく頭を使ってみるか・・・」

 

アレンはシドーに対しどのような攻撃が有効なのかを考えた。ハーゴンの騎士たちが

次々と浴びせた攻撃はいずれも効いていたように見える。ルカナンの効果で

シドーへの攻撃自体は決まる。あとはどうすれば一撃で倒せる、または倒せないまでも

瀕死にまで追い込めるか。呪文が使えないアレンには剣による攻撃しかないので

選択肢は少ないが、斬るのではなく叩くのはどうかという考えもあった。

 

「アトラス相手にはそれがよかった。頭に衝撃を与えたらもしかしたら気絶するかも

 しれん。また拳で殴りかかるか?いや、それは無理だな。さっきの連中の攻撃の

 せいであの野郎の警戒心が更に増しちまった。そこまで近づける隙が無い。

 だったら棍棒か何かを探して・・・・・・」

 

アレンはここで一度立ち止まった。考えるべきはそのような問題なのかと。もっと

大切な何かを思い出すべきではないか、だがそれは一体何なのか・・・。

 

 

「・・・勇者よりも力のあるやつは歴史上珍しくなかった。だが魔王を倒したのは

 選ばれた勇者と認められていた者だけ・・・ただ強いだけじゃ駄目なんだ。

 それじゃあ勝てない。人間の力と特別な力、その二つが一つになった時・・・」

 

勇者ロトの足跡に従い、彼とその子孫が魔王と戦った際に装備した防具を自分も

身にしている。そのアレンに足りないものがあるとすれば、唯一手に入れはしたが

その性能に失望しこれまで一切使ったことのない、その剣が。

 

「・・・・・・こいつを使えっていうのか・・・?こいつはただの古い剣。

 そもそもこんなモンが伝説のロトの剣だなんておれは認めては・・・・・・」

 

だが、言葉や思いとは裏腹に自然と引き寄せられていく。気がつくと自らの腕が青い

光を発しながら、アーサーの持つロトの剣を掴み取っていた。

 

「・・・アレン!これを使うのか?」

 

「いや、そんなつもりは・・・・・・」

 

しかし気がついた時にはロトの剣を手にしていた。そしてシドーに一歩、また一歩と

近づいていくたびに力が増し加わっていくのを感じた。確かに長い年月の末に

劣化したロトの剣。しかしこの究極の場面、世界の命運を決める最後の瞬間、

この一瞬だけであればかつての輝きを取り戻す力があった。それも、ルビスが

特に愛する者であるアレンが強い決意と共に最大の敵に立ち向かっていくのであれば。

 

 

「あ・・・あの光は!?ハーゴン様!」

 

「・・・なるほど。どうやらそろそろ終わる。わたしとしてはアーサー・・・

 テンポイントに決めてもらいたかったが・・・ルビスめ、とことんこだわるやつだ」

 

「ああ、そうでした。ハーゴン様のお気に入りですものね。あのお方は。どうです、

 戦いが終わったらあの方をロンダルキアに迎え入れるというのは・・・」

 

ハーゴンは苦笑いしながらその提案を退けた。もしそんなことをしたらアーサーを

愛してやまない彼の妹サマンサにどんな殺され方をされるかわかったものではない。

 

「それはもういいから、見るんだ。シドーはまだわかっていないようだが・・・」

 

 

アレンはシドーの前に立った。シドーとしてはこれまでの戦いからアレンのことなど

全く警戒している様子もない。一言も言葉を発さないが、自分が倒されるとは夢にも

思っていないだろう。だが、今やそれはアレンも同じだった。ロトの剣を手にし、

ルビスの祝福を一身に受けた彼は規格外の怪物を前にして落ち着いていた。

 

(そうか・・・最初から変な意地を張らずにこの剣を受け入れていれば・・・)

 

シドーが腕を伸ばして襲いかかってくる。その動きには明らかな油断があった。

 

「破壊神・・・お前もやっぱり神とはいっても完璧ではなかったようだな!」

 

アレンが俊敏にシドーの攻撃をかわし、最初と同じく胴体を斬りつけた。

最高の感触だった。並の魔物であれば一撃で身体が真っ二つだっただろう。

 

「グオオオァァ・・・・・・!?」

 

「やっと声を発しやがったな!だがお前なんかとお喋りする気はねえ!このまま

 すべてを終わらせる!くらえ・・・最後の一撃――――――っ!!」

 

 

アレンの全身が青く光った。勇者ロトの紋章の形をしたオーラが出ていた。

 

 

「うおおおおおおお―――――っ!!!」

 

「・・・・・・グガアア・・・・・・」

 

シドーになす術はなかった。アレンの長き戦いに決着をもたらす一振りが決まった。

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

大きな音を立てて破壊神は沈んだ。断末魔はなかった。

 

 

「・・・やった・・・アレンが!とうとうやったのね・・・」

 

「ああ・・・!やっぱり彼がこの時代の勇者だった」

 

 

セリアはアレンに対抗心を抱くこともあったが今やどうでもよくなった。彼のことだ、

きっと三人で掴んだ勝利だと言ってくれるだろう。ならばもう意地を張らずそれを

受け入れることにしようと思った。素直になって共に笑顔で喜ぶほうが楽しいからだ。

 

アーサーはロトの剣を使いこなしたのがやはりアレンで、自分は最後までルビスに

選ばれなかったことを少し残念に思ったが、その『最後』を見届けられた、それで

よしとした。そこまで自分の命が持ったことに感謝する気持ちで満たされていた。

 

 

「よっしゃ――――っ!!破壊神は死んだ!ヤバい感じだったが意外とあっさりと

 倒れちまったぜ!まあ寝起きって感じだったしこんなモンかもしれねえな!

 今度こそ宴会を始められるってわけだ!ありったけの酒と肉を持ってくるぜ―――っ」

 

「・・・ホーリックスとかいったな、お前が倒したみたいに言うんじゃねぇ。まあいい、

 もう細かいことは。セリア、アーサー。おれたちの戦いは終わった。今日は何もかも

 忘れて楽しむとするか!」

 

いまだ興奮と震えが残る手でロトの剣をまた強く握りしめ、それを持ったままアレンは

仲間たちのもとへと歩いていった。ロトの力に包まれた余韻がしばらく消えなかった。

 

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。