その昔、一人の女勇者がいた。もはやその名を知っている者はいないが、長い
人類の歴史の中で、またこれから先においても彼女ほど力を持った者は
二度と現れないだろう。たとえあの勇者ロトやその子孫たちであっても。
彼女には共に戦う恋人がいた。名前は『チョーキチ』。若き二人の相性は抜群で、
その時代世界を苦しめた魔王を倒すことすら可能だと二人も周囲の人々も
確信していた。当時世は魔王ゾーマと名乗る魔族によって危機に面していた。
それでも自分たち二人なら――そう思っていたときに悲劇は起きた。
チョーキチが死んだ。魔物との戦いで、ではない。人間同士の戦いに駆り出され、
最終的に敵国の捕虜となりむごい扱いを受けて死んだのだ。残された女は
平静を装ってはいたが、心は暗く冷たいものになっていった。世界に希望を与える
はずの存在であるのに自らは一切の希望や歓喜から無縁の人間となった。
そして世界を救うべく旅立つよう命じられ、彼女はその通りにしたが、決して人を
愛すことはなく、目の前で襲われている人間がいても平然と見殺しにした。
たった一人で旅を続け、その間多くの魔物や人間をこの手で倒し続けた。愛する
チョーキチを死に追いやった人間の世など滅んでも構わない、だが魔物たちを
生かしておく理由もない。どんな相手にも無慈悲、また残酷であった。
彼女を見た人間は、まるで死に場所を探しているようだと口を揃えた。現に彼女は
そのために危険な旅を単独で幾年も続けていた。しかし剣も呪文も史上最強と
言われていた彼女を倒す存在はなかった。その地域を支配する魔物の巣窟にふらりと
足を踏み入れてもちょっとした探検に行ってきたかのように無傷で戻ってきて、
またある村の人々が親切のふりをしながら実は彼女を除き去ろうと企んでも人を
信じない彼女には通じず、逆に村ごと燃やし尽くされ村人全員が惨殺された。
彼女には誰も勝てない。どれだけ大人数で囲み策を弄しても何の意味もなかった。
それほどまでに死を求めるのであれば自ら命を断てばよいではないかと思うだろうが、
そうはいかなかった。彼女に向けたチョーキチの遺言に、絶対に自殺はするなと
書かれていたからだ。愛した男の最後の願いを裏切ることはできなかった。やがて
旅の最終目的地であるゾーマの居城が近づくにつれ、彼女は気分が高揚していた。
いまの自分はとても勇者なんかではない。だからゾーマには勝てないかもしれない。
ようやく敗北と死を与えてくれる者のもとにたどり着けると思うと笑いがこぼれた。
『・・・お前がわたしの部下どもを数多く葬った人間か。このゾーマの城までまさか
たったの一人で来てしまうとはな。しかし勇者よ、お前は何故もがき生きるのか?
ここでわたしによって絶望の深みに落とされて死にゆくだけだというのに』
ついにゾーマの眼前に彼女は立っていた。だが全く恐れはなかった。すでに生きる
目的も希望もない彼女は生に対する執着もない。よってゾーマを恐れる必要はなかった。
『ところで・・・そう言うあなたは絶望したことがあるのかしら?』
『このわたしが絶望という感情に襲われたことはない。ただの一度もな』
『ふふふ、ならおかしな話ね。絶望を知らないのに絶望を与えようというのだから。
しょせん魔王ゾーマもくだらない生き物の一つに過ぎなかったってわけか・・・。
もういいわ、さっさと殺しなさい。あなたじゃ私に絶望は与えられない』
なんと彼女はその場に寝っ転がり、手足を大の字に伸ばした。その態度にゾーマは
さぞ激怒し即座に首をはねるだろうと遠くから眺めていた彼の側近たちは汗を流して
見つめていたが、なんと魔王は突然笑いだし、寝ている勇者のそばに立った。そして、
『はっはっは!これは面白い人間だ!このわたしにほんの少しも恐怖の念を
抱かないどころかまるで自分に対しては無力な者であるかのように言うとは!
よかろう、お前はあえて殺さない。殺さずに・・・お前に最高級の絶望を
与えてやろう。そしてわたしはお前に勝利することにしようではないか』
『・・・好きにすればいい。私にはもう感情はないのだから無駄なことだけど』
最後の希望であった勇者が魔王を倒すことを放棄したのだ。やがてその世界は滅び、
またその後も幾つもの世がゾーマによって滅亡した。そして彼が次に目をつけたのが
アレフガルドと呼ばれる、精霊ルビスによって生まれた比較的新しい世界だった。
大魔王ゾーマについて言えば、魔族の間で絶対的な『神』として彼の支配中は
もちろん、死後も語り継がれている。彼を崇拝し服従していた者から取るに足らない
下級の魔物に至るまで、ゾーマは神だった。ゾーマの前に世を我が物にしようとした
邪神と呼ばれた者、また破壊神シドーのような存在があっても、やはり神といえば
ゾーマのことを指す。それだけの強さとカリスマを持った王だったのだ。
人間たちのあらゆる負の感情を自分の食物とするとまで言われていたゾーマは
精霊ルビスをも圧倒し、難なくアレフガルドを手に入れた。あとは人々から
涙や呻き声を限界まで搾り取って用無しにしてから滅ぼすだけだった。しかし
この時期、一部の側近しか知らないことではあったが、彼はかつて殺さずにいた
元女勇者との間に赤子をもうけた。大魔王と呼ばれる存在は常に一人であり、
死ぬ心配などないのだから跡継ぎも不要だ。絶望を与えるために自身に歯向かう者を
犯すことはあってもそれからすぐに殺害していたので、その子どもは初子だった。
側近たちにとって更に理解できなかったのは、あのゾーマがたったの一度ではあったが、
子どもが生まれたときその妻と子のもとに座り、穏やかな表情を見せたことだった。
『わたしのような大魔王に孕まされ出産に至るとは・・・さすがに絶望したか?
これまで誰も経験したことのない屈辱だ。お前はこの世で最も卑しめられた女だ』
『・・・まさか。何百年たっても相変わらずあなたは私に勝利できていない。
あなたこそいい加減諦めたらどうかしら。敗北を認めて私を殺すといいわ』
このとき彼女はすでにゾーマによって不老不死の『モンスター人間』とされていた。
もちろん致命的な攻撃を受けたり自分で命を断とうとすれば死ねるのだが、いまだに
彼女はチョーキチの言葉を守り生き続けていた。そのため、生まれた子ども、それは
娘であったのだがその子も当然モンスター人間であり、大魔王と元史上最強の人間の
子であるのだから、どれほどの力を持つのかという不安もあったが、側近たちは
ゾーマが僅かに見せた変化に関心を奪われた。このゾーマの一連の行動に関して、
いまだに誰もその心境や理由を筋道立てて説明することはできないでいる。
さて、生まれた子どもは神であるゾーマの子なのだから『神の子』と呼ばれるのは
当然だった。神はその娘に自ら名を授けた。それは『ハーゴン』というものだった。
しかし彼は勇者ロトによって倒される死の瞬間まで自分が父であるとは絶対に
言わなかった。理由はやはり明らかになっていない。また、その母もそうしたのだが、
彼女が言うには、自分のような女が母であると知ったらこの子が悲しむから、だった。
生まれながらのモンスター人間は二通りに分かれる。両親の持つ能力を最大限に
継承し、それを凌ぐ力を持つ者と、体は弱く戦闘能力は低い『失敗作』のどちらかだ。
ハーゴンは後者だった。ゾーマはそれを知ると彼女を城の中で最も安全な部屋に
母と共に移し、城から出ることをほとんど許さなかった。母は彼女の世話役として
常にそのそばにいたが、ある日起きた出来事が、決して自分は母であると名乗り出ては
ならないという決意を固めさせることになった。
『・・・ちっ・・・このボクがここまでやられるとはね・・・くそっ』
紫の髪を掻きながら苦々しい顔で歩いている女の名はブロスといった。一見若い
人間の女の姿だが、もう一つの身体である大きなトカゲの醜い姿が嫌で、戦闘や
ゾーマの前に立つとき以外は人の身体でいた。その彼女は全身から血を流していた。
大魔王の三人の側近の一人であり、残忍さは一番であった『バラモスブロス』で
あっても、油断すればこうなるというのを身をもって知った。
『ん・・・これはまずいなァ・・・あんな雑魚どもと相討ち・・・に・・・』
ゾーマの城まで帰って来たはよかったが、回復呪文を持たないため傷は悪化していた。
傷だらけの彼女を見ても誰も気遣ってはくれない。ブロスが死ねば最高幹部の席が
一つ空くからだ。また、彼女もこれまでそうしてきたので文句を言える立場にはない。
意識が薄まり、静かな場所で倒れた。水溜りのような自分の血を人差し指で掬い、
力を振り絞って壁に文字を書いた。そこには『ラフレシ』と残されていた。
『・・・ボクの・・・ほんとうの名前・・・結局兄貴以外には誰にも教えなかったな』
このまま死ぬのだろうが、案外死というのはあっさりしている、そう感じていた。
それを受け入れようとしていたとき、身体が眩しい光に包まれた。魔族の自分が
天に導かれるはずはないのに、と思っていると、その光の主が眼前にいた。
『ああ・・・よかった!これでもうだいじょうぶだね!』
『・・・・・・あんた・・・いやあなたは・・・ハーゴン・・・・・・様』
ブロスはハーゴンのことを見下し、軽んじていた。ゾーマやハーゴンの母がいない
ところでは平然と呼び捨てにし、自分はいつでもお前なんか殺してやれる、そんな
態度でいたのだ。しかしその幼いハーゴンにいま、命を救われたのだ。十秒も
しないうちに傷は完治していた。誰かがハーゴンにベホマを教えているところは
見たことがない。おそらくは非力な彼女が自然に使うことのできた数少ない
呪文だったのだろう。しかもただのベホマ以上の癒しをもたらしてくれた。
『・・・あ・・・い、行っちゃったか・・・』
ハーゴンはまたどこかへと走り去っていった。この出来事が直接的ではないとはいえ
後々ブロスが勇者ロトとその仲間たちと戦いながらもいまだに生き残っている
きっかけとなったことは確かだった。現に彼女はロンダルキアの洞窟のそばで
アレンたちに食事と寝床を提供し、アーサーにだけその正体を明らかにしたうえで、
神の子であるハーゴンを助けるようにと言ったのだ。
ハーゴンがブロスを救ったことをただ一人見ていたのはその母だった。彼女も
回復呪文はおろか、誰かが倒れていたら助けるようにとは教えていない。
彼女自身が人間だったころ、勇者と呼ばれながらも真に人々を思いやり行動した
ことなど全くなかったからだ。回復呪文も自分のため以外には一度も使っていない。
『なぜ・・・あのような行いを?その必要はなかったはず』
簡潔に尋ねた。すると彼女の娘、ハーゴンは当たり前のことのように言った。
『だってそのほうがいいもん!ケガしているより元気なほうが、泣いているより
笑っているほうが!だから・・・う~ん、うまく言えないなぁ』
人として当然の感情、しかしこの城では一切見られない自然の良心だった。
そしてそれはチョーキチが死んだときに彼女が失ったものだった。自分とゾーマの
強大な力を手に入れられなかったハーゴンはやはり突然変異だったのだ。
生まれながらにしてその両親が捨てたはずの『愛』に満たされた子であり、
破壊よりも再生、絶望よりも希望を求める娘に、その母は何も言わずに小さな体に
抱き着いていた。気がつくと涙が流れていて、しばらく止まることはなかった。
恋人の死を告げられたあの日以来、数百年ぶりの涙だった。我が子を誇りに思う
一方で、自分がいかに道を外れた大堕落者であるかを思い知ったからだ。
『・・・・・・?どうしたの?あなたもどこか痛いの?』
『い・・・いいえ・・・何でもありません・・・何でもないのです』
このとき以降、彼女はそれまでの名を捨てて『トシフジ』と名乗るようになり、
またハーゴンのことを他に誰もいないところでは『ウオッカ』と呼び始めた。
ハーゴンから父と母がどんな人物であったか聞かれても、すでに死んだと
しか答えなかった。自分のような外道が母であると知り、愛と優しさに富んだ
愛娘が絶望しないためだ。そうなると、ゾーマに勝利を与えてしまうことになる。
この葛藤と苦悩に悶えながら生き続けなければならない、ゾーマはそこまで
わかっていたのだろう。何とも恐ろしい大魔王だった。この世で一番愛しい
自慢の娘に母親として接することができないのだ。この絶望は大きかった。
ハーゴンが神の子であることは誰にも文句のつけられない事実であるため、彼女を
快く思わない者たちでもそれを否定しなかった。ハーゴンを裏切った三人、ベリアル
たちもハーゴンのことは『神の子』と呼び続けた。ハーゴン自身はそう呼ばれる理由に、
竜王亡き後の魔族を率いる自分への敬意なのだろうと結論していた。まさか自分の
両親がゾーマと人間界を捨てた史上最強の勇者であるとは思っていなかった。
「・・・そう、ハーゴン様とトシフジ様は親子!その事実を知ることなくいま・・・
あのお方はシドーのもとへと向かってしまわれた・・・!」
「・・・・・・時間を稼ぐということでしたが・・・あの言い方からして・・・」
おそらくは生きて帰ってこられないだろう。ハーゴンのしもべたちは肩を落とし、
トシフジはいまだに顔を押さえていた。しかしアレンはこの空気を切り裂くように、
「てめえらさっきから勝手なことばかり口にしやがって!別に聞きたいと頼んじゃ
いねえハーゴンの昔話もそう、その絶望的な言葉もそうだ。ハーゴンは
どうなろうがおれは構わねえがアーサーまで死んじまうようなことを言うのは
やめてもらおうか!だがてめえらの無駄話の間におれはもう回復した!」
「・・・・・・」
「ただ待つなんてできるか!おれもシドーのもとに連れて行け!お前らだって
そこのトシフジ、それにセリアを世話するための一人だけ残しておれと来い!」
「そ、そうだな!袋叩きにしてやりゃああんな破壊神・・・!」
アレンは剣を手に立ち上がった。ハーゴンのしもべも気持ちを奮い立たせて
愛する主を救うために出ていこうとした。しかし、ハーゴンの愛の表れである
モンスター人間への転生という奇跡の最初の者であるキンツェムが突然
皆を止めると、ある方向を指さして低い声で言った。
「・・・いや・・・やはりハーゴン様たちは正しかった。我々がここに残って
いなければならなかった理由がそこにある!見ろ・・・恐ろしいことが
起ころうとしている。全員すぐに戦えるようにしておけ」
「おおお・・・こ、これは・・・!!」
あのアレンが思わず震えた。キンツェムが指さしたのは、シドーが神殿から
飛び去る前に破壊した壁だったのだが、どうしたわけかそこは謎の空間と繋がり
始めていた。ずっと見つめていると気分が悪くなるような、歪んだ空間だ。
そしてそこから大量の、いや無数の魔物たちが出てこようとしていた。
「どうなっているんだ!?やつがやったというのか!」
「おそらくは。あんなやつでもさすがは神・・・か。足止めなのか破壊を手伝わせる
つもりなのかは知らないが・・・魔物どもをこの世に召喚したのだ」
ブリザードのトリプティクがその空間を覗き込む。すぐに原理がわかったようだ。
「あの魔物たちから命の熱は感じる。しかしそれは不自然なもの。私がよく知る
死の匂いとも違う・・・あれはきっと過去や未来、または別の世界から
破壊神が集めた魔物たち。私たち見たこともない姿の魔物がたくさんいる」
やがてはっきりと魔物たちの姿が見えるようになると、その数はもちろんのこと
トリプティクの言葉の正しさが証明された。まずはアレンが驚きながら叫ぶ。
「あれは・・・!歴史の書に書かれていた・・・ダースドラゴンにキースドラゴン!
もう絶滅して一番弱いドラゴンしか残ってないはずなのに!そうか、まだやつらが
繁栄していた過去から連れてきたっていうのか!」
ただのドラゴンよりも実力は遥かに上であったが、竜王軍壊滅と共に根絶やしに
された伝説のドラゴンたちが現れた。その名前を知っているだけまだよかった。
「あれも・・・見たことがない!もっと大きいぞ!」
未来や異世界から連れてこられたというドラゴンもいたが、これはもう誰も
わからない。相手が名乗ってくれればわかるだろうが、言葉を話す前に強烈な
炎が飛んでくるだろう。下手するとキースドラゴン以上の火力がありそうだ。
「・・・その数も姿もとにかく異常だ!どんな攻撃をしてくるのか、こちらからは
どんな攻撃が有効か・・・全くわからないぞ!どうすれば・・・」
ただのスライムではない、ぶち柄であるうえに大きな体に王冠をつけたもの、また
キラーマシンとは違う機械戦士、マンイーターよりも更に異質の食人植物など、
破壊神シドーはありとあらゆる種類の魔物たちを従える力があるようだ。
魔物たちが異空間から出てくるまでもう時間がない。圧倒されてしまい何から
始めたらよいか金縛りになっていたアレンたちであったが、
「どうしたらいい?そんなこと、決まっているわ!」
アレンを押しのけて魔物たち目がけてイオナズンを放った。魔物たちの間に
絶叫と混乱の叫びが起きていた。有無を言わさない先制攻撃を決めたのは、
意識が回復し頭の痛みをこらえて立ち上がったセリアだった。
「セリア!お前もう平気なのか!」
「できることならもっと寝ていたかったけれどそうもいかないらしいわね。
どうやらシドー一匹を相手にするのと同じくらい苦労しそうだけど・・・
この神殿に来てから、前もって予期していたような戦いにならなくてなんだか
モヤモヤしていたところだった。あの魔物ども相手にそれを晴らせるわ!」
この魔物たち相手であれば遠慮なく根絶やしにできる。最後の戦いにふさわしく
全力を出し切る戦いができるとセリアの興奮と闘志は最高潮に達していた。
「やれやれ・・・相変わらず熱くなりやすい王女様だぜ。だがこうなったら
最後までおれも付き合うぜ。いや、これが最後じゃねぇ。おれたちの人生は
まだまだ長いんだ。そのためにも生きて帰んなきゃならねえしな、もちろん
ただ生き残るだけなら誰でもできる。世界を脅かすやつらの殲滅だ!」
アレンもまたセリアに引っ張られるように闘争心を取り戻し、魔物たち相手に
来るならどこからでも来いという顔つきになっていた。ただ優れた能力を持つ
だけでは勇者ではない。世界の危機、また自らと愛する者の命の危機にも
決して後退することなく、勇気と義の心によって前へ向かうのが勇者だ。
そうなるとやはり自分は勇者ではなかった。大魔王ゾーマの目の前に立ったのに
戦闘を放棄してしまったあの日、いや、チョーキチが死んだあの日すでにもう
自分は勇者ではなくなったとトシフジは改めて結論した。そんな彼女がいまできる
ことといえば、自分とは違いどんな絶望的な状況であっても勇者であろうとする
者たちを支え、共に戦うことだった。
(・・・そしてその血統ゆえにどれだけ勇者に憧れていても決して勇者には
なれないあの子のためにも。ロトの活躍を見て目を輝かせていたあの日々から
どれだけの時間が過ぎたことか・・・いまその夢は限定的ではあるけれど
叶いつつある。しかもこの時代の三人の勇者で一番のお気に入りの彼と共に
戦えるという機会、私は泣き悲しんではいけなかった。もっと祝福して
送り出してあげるべきだったのに・・・。でもまだしてあげられることはある。
一切の邪魔が入らない、破壊神との純粋な戦いを楽しませるためにも、
この魔物どもを命に代えてもここから先へは進ませない!きっとこの場に残った
二人の勇者も同じことを考えている。たった一匹であっても逃さないと!)
トシフジの手に魔力が宿った。シドーによって呼び出された魔物たちを無慈悲に
葬り去るための用意は整った。