ついに大量の魔物たちが出てくる。その先頭には剣を持つ将軍の魔物がいた。
「お初にお目にかかる!吾輩の名はジェネラルダンテ!どうやらお主も相当の
実力者のようだ。突然破壊の神によって導かれたこの世界だがいきなり
強者との勝負ができるとは!その名を聞いておこう!」
「ああ。おれの名はローレシアのアレンだ!正式な名は・・・」
しかしアレンが言い終える前に、敵の群れをイオナズンが襲った。アレンとの
戦いを望んだ魔物もどこか後方へと吹っ飛ばされていった。もちろんこの
呪文を唱えたのはセリアで、アレンの横に立つと彼を一喝した。
「あなた、相変わらず全体が見えていないわね!こんなに敵がいるのに
一対一の正々堂々の決闘なんかしている場合じゃないでしょう!
あなたはわたしたちの呪文を生き延びた敵を斬ればいいの!わかった!?」
「あ・・・ああ・・・すまない」
イオナズンが効かない敵、また生命力が高く倒れていない魔物を倒すのが
アレンの役目だ。呪文を使えない以上敵を一瞬で大量に片づけることは
できないため、このような仕事になるのは不本意であっても仕方なかった。
「ほう・・・お前はフレイムというのか。オレは炎の戦士、そしてこいつらは
地獄の炎と呼ばれているが、果たして誰が最も炎の名にふさわしいやら」
「戦ってみりゃあわかることだ―――っ!くらえ―――っ!」
フレイムのホーリックスは炎の魔物たちに囲まれていたが、自慢の蹴り技で
地獄の炎という火の玉のような魔物を一掃する。一方ブリザードのトリプティクは
やはり氷に関わる魔物たちを相手にしていた。氷の鳥ホークブリザード、また
氷河魔人と歴史の記録に残っている、この時代、この世界にはいない魔物たちだ。
「ザ・・・ザラ・・・」
「ザラキ!」
敵より先に凍てつく死の呪文が炸裂し、次々と敵は倒れていった。効果のない
相手もいるものの、彼女のザラキはこれだけ大勢の敵がいても一気に数を減らせる
貴重な武器だ。それを知った敵たちに真っ先に狙われる可能性があったので、
すぐに護衛がついた。シドー討伐に失敗したハーゴンの騎士たちが戻ってきたのだ。
あまりにも敵が多い今、実力不足だろうが数を揃えないと戦えそうになかった。
そんななか、ハーゴンの物であった水晶が何かを映していた。キンツェムと
ポリー、近くにいた二人がそれを眺めると、驚きの光景がそこにはあった。
「これは・・・地上だ!どこかの王国か!?」
「ここほどではないにしても魔物たちが大量に・・・!」
シドーはロンダルキアだけでなく、すでにアレンたちの世界にも魔物を
送り込んでいた。破壊神に力の限界はないのか。
「なんですって!?」
「くそ!シドーめ・・・ローレシアはどうなっている!」
「さあ・・・まだ世界の部分的にしか魔物の群れはいないようだ。こうなると運だな。
魔物たちが出てきた地域の人間は不幸だし、更にそのあたりに魔物と戦えるほどの
組織された軍隊がないとなると・・・終わりだろう」
アレンたちに動揺が走る。この白銀の世界だけの話ではなくなっていた。どうにか
ここで食い止めるために戦いを始めたのに魔物が無防備に思える世界ですでに
暴れ始めようとしているのだ。先の見えない戦いに思えてきた。
「ひとまずできるのは目の前の連中を片づけることだけみたいね・・・」
「・・・・・・!」
アレンは深く考えることを放棄した。セリアの言葉通り、襲いかかってくる敵を
一匹一匹斬るしかなかった。
「いやいや・・・思わぬ展開になってしまったね」
破壊神シドーとの決戦に向かうハーゴンとアーサー。命を捨てる覚悟で臨む
勝算の薄い戦いであるはずなのに、なぜかハーゴン、彼女は楽しそうだった。
「・・・やけに余裕があるじゃないか。それに愉快な気分みたいだけど」
「ふふふ、これは失礼。でもわたしは数百年前、ゾーマの城から勇者ロトの旅を
ずっと水晶で眺めていた。そして自分もいつかこのような旅をしてみたい、
そう思っていた。ようやくほんのわずかな時間だろうが夢が叶ったのだ。
君が勇者、わたしは勇者のお供としてこれから世界を救うんだ!」
「魔王の発言とは思えない言葉だね。まあ・・・人間と魔物の協力し合う世界を
目指すというきみの目的やその人間性を知ったらとても魔王とは呼べない。
もう少し時間があればきっとアレンとセリアともわかり合えたはずだ」
早い段階でハーゴンと会い、対話をしたり数日共に過ごしたりすることで
ハーゴンへの敵意を捨てていたアーサー。アレン、それにセリアが彼女と
出会ってどうなるかという不安を抱いていたが、仮にこの先自分たちが
生還できたとして、もうハーゴンを討とうなどとは二人もしないだろう。
自分のようにもっと対話を重ねることで更に理解を深めることができた
はずだった。それが破壊神の出現で道は絶たれてしまったのだ。
「いや、わたしとしてはあれで十分だ。すでに彼らとは・・・・・・」
突然ハーゴンの声が途絶えた。彼女の鼻から出血があった。ぼたぼたと
見過ごせない量の血が地に落ちる。いまだ完治しない持病だった。
「・・・大丈夫かい?拭くものは・・・」
「ありがとう。トシフジが持たせてくれているものがあるから大丈夫だ。
ふふ・・・これさえなければとっくに王として世界を導いていたのに。
もしかしたらあの三人の裏切りもなかったかもしれないし、破壊神の
召喚など許さなかった。けれども・・・そのおかげで君やサマンサと
仲良くなれた。そう思うと悪くなかったな、これも」
ハーゴンは笑った。血の跡が痛々しかったが、人間なら十代前半に見えるその姿に
ふさわしい満面の笑みだった。白い歯を出してほんとうに子どものようだ。
「・・・・・・でもほんの少し緊張はあるかな。死への恐怖も。結局わたしは
何も成し遂げていない。それにどんな人物がわたしの両親なのかもわからずじまいだ。
このまま死にたくない、そんな気持ちが一切ないと言えば嘘になる」
右を歩いていたハーゴンが左の手を差し出した。どうしてほしいのかアーサーは
すぐに察し、自分の右手で優しく握った。それに対しハーゴンは年頃の少女のように
顔を赤くするのではなく、やはり安心感を抱いてほっとする子どもみたいな
穏やかな表情をアーサーに見せた。それが本心からだったのか、それとも本心を
隠してそうしたのかは彼女にしかわからない。
「・・・サマンサには内緒だ。きみの命が危ないぞ」
「わたしもそう思う。このくらいのことでもあの子は怒りそうだ。まあ・・・
問題はないだろう。あれを見て、はたしてこのような話を論じ合う必要は
あるのかということだ。無事に帰るというのは・・・」
シドーの目の前まで到着した。火山のそばで、ロンダルキアにふさわしく天候は大雪、
視界も足元も最悪だが、シドーにとっても動き辛そうなので条件は同じだった。
なぜ破壊神が神殿を出た後、わざわざこの悪条件の重なる場所に留まり続けていたのかは
知らないが、知性があるかどうかも怪しい相手の思考を探るだけ無駄だ。
「どう見ても神には見えない。威厳も風格も何もない、ただの獰猛な野獣だ」
「だからわたしたちの得意な頭を使う戦いは通用しないだろう。ここは・・・」
ハーゴンは破壊神が始動する前に先制攻撃を放った。イオナズンを唱えた。
シドーの顔面付近を中心に大爆発が発生し、目や鼻のあたりを押さえて
悶絶している。大きなダメージを与えたようだ。
「・・・効果がある!視界を遮る狙いだったのだが、呪文は効くみたいだ」
「最初とは違う。セリアのイオナズンを一切受けつけなかったのに。やはり
アレンの一撃はそれだけ強烈でやつの何かが大きく変化させられた、
その可能性はある!ならばぼくも戦法は決まった―――っ!」
アーサーの予測は正しかった。アレンにより一度は倒されたシドーはベホマを
使えなくなった代わりにスクルトやルカナンを唱えられるようになっている。
それが戦況をどう左右するのかはわからないが、呪文による攻撃が通るように
なったのは好材料だった。アーサーもハーゴンに続いた。
「距離を保って戦う!ベギラマ――――っ!」
このベギラマもシドーに苦痛をもたらした。演技ができるようには見えないので
このまま攻め続けるのが勝利への唯一の細い道だと二人は呪文攻撃を繰り返す。
あまり近づくと強烈な攻撃も火炎も怖い。これで終われば言うことなしだ。
「――――――――!!!」
もちろん簡単に倒せるシドーではない。おぞましい雄叫びをあげながら
爆発、稲妻、火炎といった衝撃のダメージを受けても強引に突破してきた。
「・・・速い!あっという間だ!」
「・・・・・・!」
アーサーはロトの剣を手に迎え撃つ構えだった。それは無謀だとハーゴンは
思わず顔を逸らしたが、意外なことにシドーの動きが止まった。惨劇は
回避され、逆にアーサーによる攻撃のチャンスがやってきた。
(そうか、何を考えているのかわからない破壊神だが感情はある!先ほど
痛い目に遭ったロトの剣を目にして警戒したのか!そういう意味では
ロトの剣でよかった。だが・・・・・・)
「くらえ――――っ!!」
アーサーの全力の攻撃。それが不発に終わることをハーゴンはわかっていた。
「・・・・・・・・・」
「・・・くっ・・・全く効いていない!」
なんだ、こんなものだったのか、破壊神はそう言いたそうだ。ならば遠慮せずに
こちらの番だとシドーは腕を振り上げる。これはいけないとハーゴンはとっさに、
「イオナズン!」
アーサーが巻き添えにならない程度の威力でイオナズンを放ち、その隙にアーサーを
抱えて飛んだ。危険な破壊神から再び距離を置くためであり、二人は雪の上に転がった。
積もった雪がクッションになっていたが、衝撃を和らげるために抱き合う体勢だった。
「・・・ふふ・・・さすがにこれは手をつなぐよりもずっと心臓の鼓動が早くなる。
いよいよサマンサには隠しておかないと大変なことになりそうだ・・・」
「そんなことを言っている場合じゃないだろう。やつはすぐに来る!きみは
ルカナンを使えるか?このままじゃ攻撃は通らない、また接近されたときのため
シドーの高い防御力を何とかしないと・・・」
視線を逸らして照れた素振りを見せるハーゴンを現実に戻そうとする。ふざけている
ときではないと。ところが、逆にアーサーのほうが彼女から指摘されることになる。
「・・・それを言うなら君のほうだ。こんなときにロトの剣なんか使っているとは。
その剣にもう力がないのは君もわかっていたはずではないのか」
「・・・・・・あのシドーを倒すにはこれしかない。アレンもそうしていただろう」
「彼には精霊ルビスの加護があったからだろう!言いにくいことだが君には
それがない!そうなるとただの凡庸な剣ではないか!」
自分がどうしたことかルビスに愛されていないのをアーサーは受け入れていた。
それでもいま世界のために命を投げ出す決意と覚悟で最後の敵と戦うのだから
さすがに力を与えてくれるだろうと期待していた。だがその気配は一向にない。
ロトの剣はやはりアレンが使ってこその武器だった。その現実は変わらなかった。
「・・・とにかくそんな役立たずの剣はわたしによこせ!」
「駄目だ!この剣はきみのような魔族には・・・!」
言い争いからついには取り合いになった。すると、ハーゴンに剣が渡った途端、
なんとロトの剣は砕けた。刃の部分が完全に消失し、なくなってしまった。
「・・・な・・・!」
「わ、わたしはここまでするつもりでは・・・!しかしこれで君も未練が
なくなっただろう、別の戦い方と武器を考えるいい機会だ・・・」
数百年以上の歴史を誇るロトの剣が目の前で修復不可能な状態になった。
それも衝撃的な事件だが、ハーゴンがそれを成したことでアーサーは考えた。
(・・・かつてゾーマが一度その剣を破壊したと聞く。竜王はどうやっても
破壊することができず、自分もできなかったとその孫は言っていた。
余程の力がなければできないはずだ。それがハーゴンにもできたということは!)
「ハーゴン・・・きみの親というのはまさか・・・」
彼女が生まれたときからゾーマの城にいるというのも引っかかっていた。無力な赤子が
生活できる環境ではないはずだ。確かにあの大魔王の娘にしては非力にも程があるが、
いまロトの剣を粉々にしてみせたところにその片鱗を見た。
「・・・それはない。そんなことがあるわけが・・・。それよりいまは破壊神を
倒すために何をすべきかだ!やつは接近戦でくる。距離をとって呪文攻撃が
一番だが何回かはあの強烈な攻撃を凌がなくてはならない。どうするか・・・」
「もともと命を捨てる覚悟で来たはずだ。なら策を考える必要はない!」
アーサーは勇ましく光の剣を持ち、上空から再びこちらに狙いを定めてきたシドーに
対処しようとしていた。隼の剣では攻撃が通らないと判断し、また光の剣であれば
マヌーサの効果に近い幻覚をもたらすこともできるので、シドーを足止めできる
かもしれないという期待もあった。そもそも自分たちはアレンたちのための
時間稼ぎが目的だ。どの道倒されるとしてもあっさりと散ったのでは意味がない。
「頼む・・・光の剣!」
シドーに向けて光の剣をかざした。ところが、効いているのかいないのか
わからない。シドーは猛突進をやめなかった。イオナズンやベギラマを食らっても
構わずに突っ込んでくるような敵だ。幻に包まれようが攻撃を中断するはずがない。
「――――――――!!!」
「・・・だ・・・だめだ!この勢い・・・避けきれない」
アーサーは死を覚悟した。破壊神が一直線に自らを貫こうとしていた。
「・・・・・・ぐはっ!!」
「テ・・・テンポイント――――っ!」
ハーゴンはすぐにイオナズンを唱えシドーを一度退かせた。しかしアーサーの腹部を
貫通する一撃だ。彼はすでに絶命してしまった可能性も高い。だが、ハーゴンが
僅かな望みに賭けてベホマによる回復を施そうとする前に緑に輝く光が放たれた。
「・・・!この光は・・・」
「・・・・・・・・・ふ、ふふふ・・・な、何が幸いするかわからないものだね」
アーサーの身体が何ともなかったかのように元通りになっていた。足元には
色を失って枯れ果てた一枚の葉が落ちていた。
「世界樹の葉だ・・・。ぼくのためにアレンとセリアがとってきてくれたものを
いまだに持っていた。あのときは使う必要がなかったから口に含んだふりをして
そのままだった。なるほど、確かにどんな負傷や死の呪いからも癒される」
ひとまず命が助かった。だが、このまま戦いを続けていればまた殺されるだけだ。