シドーの猛攻の前に意識を失い、夢の世界に落ちていたアーサー。その彼を呼ぶ
声があった。優しく呼びかける謎の声が光の中から語りかけてきた。
『アーサー・・・起きなさい、わたしのアーサー・・・』
「あ、あなたは・・・まさかルビス様なのですか!?」
ところがアーサーの問いに対し、その声の主は大声で笑い始めた。
『あははは!わたしはルビスなんかじゃないよ。むしろその真逆の存在。あんたも
あいつの子孫ならその記録の書ぐらい読んでるでしょ?ならあいつといっしょに
上の世界からこっちに来たアリアハンのラモーヌ、って言えばわかるはずだけど!』
勇者ロトと共に大魔王ゾーマを倒した者の一人であり、女僧侶のラモーヌ。
僧侶でありながら魔物同士を戦わせる闘技場で八百長を仕組んで大儲けしたり、
王家の墓を漁って神々の怒りを買ったりと、確かにルビスとはかけ離れた女で、
先程もふざけた態度でルビスの真似をしている。不敬極まりない行為だった。
「ラモーヌ・・・様ですか。そのお名前は確かに知っていますが」
『そう、シービー・・・いや、今はもう勇者ロトとかいうくだらない名前か。あいつや
仲間たちとこの世界に来てルビスに会ったはいいんだけどさー。あのオバサン
酷いんだって。明らかにわたしだけ嫌って力をくれないんだから』
自分と同じだった。仲間にはその加護を惜しみなく与えるルビスがなぜか自分だけ
無視するかのように祝福を一切与えないのだ。その理由を突如この幻によって
アーサーの前に出てきたラモーヌは知っているようだ。
『あのババアはわたしをシービーの恋人と勘違いしたみたいでね!自分の世界を
救いに来たシービーに惚れちゃったらしいけど、そのせいでわたしにだけ
冷たくするような器の小さいババアが神扱いなんだから変な世の中だねぇ』
「は・・・はぁ・・・・・・」
『そしてあんたはこのわたしにやり方がそっくりだから力をくれないんだよ。
何のとりえもないくせに勇者一行についていったり魔物と戦わずに済むように
したり、正攻法よりもいろんな策や裏道を探したり・・・わたしを見ているようで
嫌だったんじゃないの?あはは、まあでもそんな力なんてなくたってあんた、
ここまで頑張ってきたんだから今さら気にすることもないでしょーよ』
この人物は勇者ロトの旅の最初からの仲間であり、確かにハーゴンが記した書にも
真っ当な人間ではないことが記されている。そして自分もいま、魔族製の呪いの
武具で全身を覆い、しかも肩を並べて戦うのはハーゴンだ。これでは完全に
天から見放されても仕方がない。それはもうわかっている。ならばラモーヌは
そんなことを改めて教えるためにわざわざ自分の前に現れたというのか。
『あともう一押しじゃないの!それなのにあんたがまるでもうだめだなんて顔で
倒れてるもんだからババアの目を盗んで励ましに来てやったのよ』
「いや、手応えは確かに掴みました。ですが敵の体力は無尽蔵!致命傷と思える
打撃を幾度与えても倒れません。アレンたちのための時間稼ぎということなら
もうじゅうぶん役目は果たせました。やはりあの破壊神との決着をつけるのは
それにふさわしい力を授けられた彼らしか・・・」
『あはは・・・相変わらずそんなことを・・・。あんたはそう言うと思ってた。
最初から自分が英雄になろうだなんて意気込みはちっともなかったもんねぇ。
じゃあ方法を変えようかな。ちょっとだけ夢から現実に戻してみるから』
天界のような風景が一変し、ロンダルキアの雪景色になった。火山に近い一面
真っ白な世界だからこそ、すでに落ちた血やいま宙を舞う血飛沫の赤みを目立たせる。
そこではハーゴンがシドーを相手にたった一人で戦っていた。衣服はすでに
ぼろぼろで、イオナズンを使う頻度が明らかに落ちていることからも魔力が
限界に近いのだろう。そこでアーサーの目の前は再び真っ白な夢の世になった。
『・・・あーあ、かわいそうにねぇ。あんたが諦めたせいであのチビっ子まで
このままじゃ死んじゃうか。あの子もルビスに目の敵にされながら負けずに
生きてきたのに・・・どこかの誰かがヘタレなために・・・ああ嘆かわしい!
これがシービーの末裔とは、きっとあいつも悔しがってるだろうにねぇ』
「ハーゴン・・・!くっ・・・」
わざとらしく悲しみの声を出すラモーヌ。それでいてアーサーを煽るような側面も
あったが、アーサーの頭にはハーゴンのことしかなかった。倒れる自分を守るように
戦い、傷ついているその姿。彼女のためにも自分の仕事はこれで終わりと満足
している場合ではなかった。ところが、またどこからか別の声が呼びかけてきた。
『ふふふ。自分のためではなく誰かのために立ち上がろうとする。さすがは
私の愛したあの人と同じ先祖を持ち、そしてあの人の子孫だけあるわ』
「その声・・・!それにその言い方は・・・ローラ様なのですね!?」
しかし、またしてもアーサーの期待とは違う声の主がその正体を明らかにした。
『いいえ、私はローラ姫じゃないわ。それどころか姫の天敵、しかもルビス様には
直々にその命を狙われた大犯罪者アマゾン。ラダトームのブライアンとたったの
一夜、それでも姫よりも一足早く彼と結ばれたためにあなたの妹サマンサの
先祖となった女。すでにあなたは話を聞いていたはずだけれど・・・』
アーサーはハーゴンから聞かされ知っていた。サマンサが義理の妹であることまでは
自分で調べていたが、竜王を倒した百年前の勇者ブライアンがローラ姫以外の女との
間に残した子どもの子孫がサマンサであると。このアマゾンがその女だった。
「ブライアン様と共に戦った記録なら有名ですが、歴史を大きく動かすような事件、
そちらに関してはもはや知るのはぼくとサマンサ、ハーゴンくらいでしょうね」
『ふふ・・・ま、後悔なんかしていないけど。むしろあの頃の自分を褒めてやりたいわ。
まあいまはそんなことどうでもいいわ。アーサー、あなたはハーゴンの危機を見て
もう一度立ち上がろうとしているようだけど、あなたにとって一番大事なのは
サマンサだったはずでしょう!?あの子を一人置いて死ぬなんて許されないわ!
あなたが死んだとなったらきっと絶望のうちにあの子は自分で死を選ぶ。私の
血が流れているたった一人の人間なのよ、サマンサは!早くそこの化物を
倒して迎えに行ってあげなさい!』
「・・・・・・・・・」
サマンサのことを忘れたわけではない。愛の誓いと約束も交わした。しかし自分の
生還の望みが絶望的になったため、あえて考えないようにしていたのだ。その未練が
優柔不断や消極的な選択を生み、よくない結果に至ると思ったからだ。しかしいま、
サマンサを思うと自分の内にこれまでにない燃え滾る力が湧いてきていた。
『そう、それでいいわ。私はあなたとは血の繋がりはないけれどブライアンの子孫では
あるし、サマンサの夫になるべき人間だもの。応援するわ』
『それにわたしたちには共通点がある!みんなルビスに嫌われていたってこと。でも
そんなのはチンケな問題だった!何だかんだでうまくやってきたじゃないの!
勇者としての力だの特別な祝福だの・・・必要ないっていうのを世の中に
教えてやるの、あんたが!さあ、再び戦いに戻りなさい!あ、そうだ!
無事に帰ったらわたしを慕ってたラフレシにもよろしく伝えといてね~』
「・・・アマゾンさん・・・それにラモーヌさん・・・」
『あれ?いつの間にか『様』じゃなくて『さん』になってる。どういうこと?』
『・・・・・・無理もないんじゃないかと・・・』
アーサーが夢から目覚めようとしていた。ちょうど世界のはざまにいたとき、
彼をさらに後押しするかのように声がした。今度は低音に響く男のものだった。
『おい!お前はあんな美人な女たちに幻で励まされ、しかも現世にも愛する女を
待たせているだと!?羨ましい限りだ!お前は先ほど自分もすぐにそっちへ行くと
言っていたが酒がまずくなる!あと数十年は来るんじゃないぞ!それかオレたちの
肉体を食って降臨したクソ野郎の首を持ってこい!それまではこっちへ来るなよ!』
「・・・・・・ベ、ベリアル・・・?」
『案外お前を応援しているやつは多いってことだ!そいつを忘れんなよ!』
アーサーは帰ってきた。現実には短い時間であったが、数十分間は夢の世にいたような
気がした。もし二人、いや三人が励ましを与えてくれなければ永住していたかもしれない。
彼はその足で立ち上がった。そしてまだ使える左腕を頼りに、その手で破壊の隼の剣を
手にした。あと僅かで全ては終わるのだ。
「・・・くくく、ラモーヌお姉さまの気配がしたが・・・きっとどこかにいるんだろうな」
またの名をバラモスブロスというラフレシ、その足元には無数の魔物の死体が
転がっていた。シドーによって放たれた魔物たちを殲滅し終え、彼女は笑っていた。
「・・・・・・おにいちゃん大丈夫かなあ・・・」
サマルトリアのサマンサはというと、愛するアーサーが帰ってきた時のための
花嫁修業だと言って勇者の泉に来ていた。修業の意味を間違えていたのだ。
そこで魔物たちの大群に囲まれた。泉を守っている謎の老人ですら力及ばず
倒されてしまうほどだったが、サマンサがベギラマを唱えるだけで魔物たちは
骨も残らなかった。イオナズンを唱えようものならこの洞窟自体が崩壊した。
それでもたった一人無傷で外に出てくると、アーサーのために祈るのだった。
「ぐ・・・ど、どうやらおれたちの世界は危機を乗り越えそうだが・・・」
「そんな心配をしている場合ではなかった!まさかこれほどまでに・・・・・・」
ハーゴンの残した水晶は、地上での勝利の数々を映し出していた。ローレシアや
デルコンダルの軍が激しい戦いの末に魔物たちを全滅させ、またラフレシや
サマンサが一人だけで数百を超える魔物たちに徹底的な滅びをもたらしたことを。
しかし魔物の数、またその強さにおいてこのハーゴンの神殿の魔物は強力で、
大勢の援軍が駆けつけたにもかかわらずアレンたちはだんだんと追い詰められていた。
「いつまでこいつらは・・・ライデイン!」
「こうなったら久々に使わざるを得ないわ!ギガデイン!」
スライムの世界で勇者と呼ばれていたキンツェム、それに元勇者の人間だったトシフジは
アレンたちの聞き慣れない呪文を唱えていた。ベギラマや雷の杖よりも更に雷鳴を
操ることに特化した強力な呪文だった。どうせ呪文を使えない自分には関係ないと
アレンは目を逸らした。ところが誰が言い始めたか知らないが、彼にもそれらの呪文を
使う資格があるのではないかと言い出す者たちが出てきた。それには理由があった。
「だってあんたは勇者ロトの末裔のなかでも最も力ある、勇者の中の勇者だろ?
だったら全然呪文が使えないってことはないだろう!潜在能力はあるはずだ!」
「それにあなたの使っている剣、あなたは稲妻の剣と呼んでいたではありませんか!
これは偶然ではありません!おそらくは啓示だったのでしょう!」
この状況を打開する新たなる技術、まだ見ぬ力が自分のなかに眠っているというのか。
アレンが意識し始めると、ロトの紋章のアザが青く光り始めた。どうやらルビスも
それをよしとしているようだ。確かにもっと強く念じ続け、イメージを具現化する
ことができれば、念願の呪文を使えるようになるかもしれない。もしくはこの剣
そのものに稲妻が宿り、魔力の込められた強力な剣技となる可能性もあった。
「・・・おれのまだ目覚めていない力・・・勇者と呼ばれる者であれば自然と
操れる雷撃・・・このおれだってできるはずだ・・・!」
勇者ロトもそれらの呪文を使ったと書かれているし、勇者ブライアンが使用した
ベギラマは炎よりも雷に近いものがあったという歴史の書の記述があった。
自分もこの最後の戦いでようやく偉大なる勇者たちに追いつける・・・・・・。
だが、ここでアレンが思い出したのは、邪悪の神アトラスとの戦いだった。
(・・・いや・・・それはおれじゃねぇ。ご先祖様の真似事だ。おれはアトラスと
拳で語り合ったばかりじゃあねえか!何も考えずただ鍛えた体と剣だけで
敵を打ち倒す。あいつといつかまたそう戦おうと約束したんだ!おれは・・・)
アレンのアザの光が消えてしまった。しかし闘志はむしろ満ち溢れていた。
『闘将ボーイ』と呼ばれた若き英雄に、熱く燃え上がる炎が蘇った。
「おれは・・・勇者ロトの末裔じゃない!ローレシアのアレンだ―――――っ!!」
新たなる力の習得を放棄した。そして力いっぱいに目の前の敵をただ斬りつけた。
厚い脂肪に守られた頑丈でタフなはずの巨大なドラゴンも一撃で葬り去った。
「・・・おい!新たなる力はどうしたんだよ!」
「ケッ!すぐ身につくような生半可な技術や呪文なんてむしろ邪魔だ!おれは
今日までずっとこの身体を信じて生きてきた!そしてこれからもずっとな!
よっしゃあ!死にたい奴から前に出やがれ――――っ!おりゃ――――っ!!!」
勢いを取り戻したアレンとは逆に、セリアのほうは後衛に下がってしまっていた。
最初はイオナズンのおかげで数多くの敵を倒せる戦力として前にいたが、祈りの
指輪がついに底を尽き、魔力の枯渇が近づいたいま何もできることはない。
「ハーゴンの騎士団に負傷者が!戦闘から退避させてください!」
「ならばアレンさんが頑張ってくれているうちに余力のない者は怪我人と共に
一度離脱しろ!できれば体力は残っているが敵を倒す力のない者、誰か
そいつらといっしょに行ってやれ!」
それは自分のことではないか、セリアは自分の無力さを噛みしめた。いま敵の
大群のほとんどは、イオナズンなど攻撃呪文の通じない敵か、食らったところで
倒れないため直接強烈な打撃を叩きこむしかない魔物たちばかりが残っていて、
セリアにはもうできることがなかった。あと一発イオナズンを放つ程度の魔力は
残っているが、大人しく撤退したほうが安全であるし皆の足も引っ張らない。
「・・・結局最後はアレンに頼るしかないのね・・・。わたしはここまでだった」
非力な自分を恨んだ。アレンと共に最後まで先頭で戦いたかった。しかしそれは
もう叶わないことだ。このまま下がったほうがアレンも安心するだろう。
そう自分を納得させようとしたとき、セリアの頭にバズズの死に際の言葉が響いた。
『絶対に躊躇うな、そして諦めるな!』
(そうだった・・・わたしはいま諦めようとしていたのね。誰に頼まれたわけでもない、
むしろわがままを押し通して始めたこの旅。この手で世界を平和にすることが
ムーンブルクの無念を晴らす最高の方法!他の誰でもない、このわたしが――――っ!)
このときセリアも手のアザは光っておらず、つまりこの行動はルビスの推奨する
ものではないことを意味していた。だがセリアもまた、それよりも遥かに重要な
自分の信念を貫き、味方たちを押しのけて戦闘の最前線に立った。
「セ・・・セリア!お前・・・まだいたのか!ここはおれやホーリックスのような
頑丈なやつに任せて早く安全な場所へ・・・・・・!」
「ふふ・・・過保護ね、相変わらず。わたしのことを思ってくれているのはうれしいわ。
でもわたしのいるべき場所はあなたの隣、そこ以外にはどこにもないわ!」
セリアは残っている魔力の全てを使って、最後の呪文を唱えた。
「・・・パルプンテ――――――――ッ!!!」
パルプンテ、何が起こるか本人にすらわからない禁断の呪文。セリアが自分の
集大成に選んだのはこのパルプンテで、なんとこれが初めての使用だった。
「・・・パルプンテだと!?血迷ったか!それとも焦ったか!?」
「ま・・・まずい!これではこの場にいるすべての命が消し飛ぶことも・・・!」
魔物たちですらひどく動揺し、恐れていた。そしてその効果が明らかになった。
突然真夜中になったかのように真っ暗になると、大きな轟音と衝撃を伴って
アレンとセリアやハーゴンの使いたちの連合軍とシドーが召喚した魔物の群れの
間に、『とてつもなく恐ろしいもの』が呼び出されたのだ。その姿を見ただけで、
それに触れてはならないとわかる、二体の魔物が降臨していたのだ。
「・・・・・・ここは・・・・・・戦いをしているみたいだけど」
「どうやらハーゴンの城のようです。この様子では・・・まだお嬢様の望まれる
人と魔物の完全なる和解には至らないようです。ハーゴンもそれを欲していた
とのことですが・・・この時代ではなくまだ未来の話でしょう、成就するのは」
キラーマシンよりも更に殺戮に特化したような機械の魔物が最初に呟くと、
それを『お嬢様』と呼んだのは大きな亀の魔物だった。その甲羅には棘があった。
知性のない魔物たちが戦闘を邪魔するなと言わんばかりに殺戮機械に襲いかかったが、
「ギャギャ―――――――!!」
「汚らわしい手でお嬢様に触れるな!下等生物め。ハァ――――ッ!」
亀の魔物が仁王立ちして全ての攻撃を受け止めた。そして傷一つ受けておらず、
攻撃した魔物たちがむしろ傷を負っていた。そのまま空中へ放られると、
「・・・・・・・・・」
「ゴポァ・・・・・・・・・」
殺戮機械が手にする武器を振り回し、魔物たちは瞬時に肉片となった。この場にいる
誰をも圧倒する素早さ、防御力、そして攻撃。たとえ百人で同時に襲いかかっても
皆無事ではすまないという確信。魔物たちはなんと破壊神の意思に背き、異次元の
空間を逆走して次々と姿を消していった。シドーからの制裁や、謎の空間に
再び戻っても一切の安全はないという多くの問題を無視して逃げていったのだ。
「あ・・・あああ!殺される~~っ!キラーマジンガになんか勝てるか~~っ!」
「隣にいるのはランドアーマーだ!俺たちの攻撃なんて通るはずもないんだ、逃げろ!」
ついにすべての魔物たちがいなくなってしまった。戦闘はこれで終了したのだ。
とてつもなく恐ろしいものが呼び出され、敵が一匹残らず逃げたことによって。
それでもアレンたちの緊張は解けない。無数の魔物の軍勢が去っていったのはいいが、
この規格外の強さを誇る魔物二体を相手にどうすればいいのかわからなかったからだ。
ところがキラーマジンガと呼ばれた機械のほうが、アレンたちに背を向けて神殿から
去っていこうとした。そして亀の魔物がその後に続いた。戦う気はないようだ。
「さて・・・そろそろ帰ろうか。この時代にわたしたちの出番はもうないんだから」
「ええ。ですがあの日あなたとラダトームのブライアンが蒔いた種、それは確実に
成長していることがわかりました。いつかそれは全地で花を咲かせるという
希望もあります。そのブライアンの子孫であるアレン、それにセリア。
あなたたちがこれをその末代に至るまで継承していくことを願っていますよ」
その語る言葉は決して感情のない機械や知能に欠けた亀のものとは思えない。
人と魔物が平和を手に入れることをアレンたちに託した二体の魔物が何者
なのかをアレンは知りたかった。ただの恐ろしいものではないとわかったからだ。
「ま・・・待ってくれ!あんたたちはいったい!?ブライアン様を知っているのか!」
「・・・・・・名乗る名前はない。一つだけ言うなら、わたしはかつて竜王の
娘として生きていたけれども精霊ルビスによって醜い機械に変えられた者。
それでもいまだにブライアンと誓い合った夢を抱き続けている旅人だ」
「そして私はその従者。大魔道として数多くの呪文を使いこなしていましたが
全てを奪われこの呪いを身に受けました。なぜ私たちがこうなったのか、
ハーゴン、またあなたたちの仲間アーサーであれば答えられるはずですよ。
ではさようなら。じきにこの世界を左右する戦いも決することでしょう」
二体、いや二人はすっと消えていなくなってしまった。あれはほんとうに
存在していたのか、パルプンテという呪文がもたらした幻ではなかったのか。
その場にいた者たちは互いに論じ合っていたが、アレンとセリアにとっては
どちらでもよかった。勝利をこの手で掴み取った充実感に満たされていた。
「無茶しやがって・・・けど最後はお前に持っていかれちまったな・・・」
「うふふ、ごめんなさいね。でもあなたが魔物の数を減らしてくれなければ
前線まで戻り、しかもパルプンテを唱える余裕があったかどうか・・・」
自然と抱き合っていた。しかし数秒もしないうちにそれを早々に終えた。
「・・・あとはシドーだけだ。すぐに体力と魔力を回復させるぜ」
「ええ。アーサーはまだ生きていると信じましょう」
シドーの召喚した魔物たちは去った。しかし真の脅威はまだ倒れてはいない。
破壊神シドーを倒さないことには世界に平和は戻ってこないのだ。