ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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流れ星の巻 (大団円)

 

アーサーは立ち上がった。そして戦況を確認する。シドーの前にハーゴンは苦戦を

続けていたが、それでも踏みとどまっていたようだ。爪や尻尾による激しい攻撃、

そして強力な炎をどうにか最小限の被害でこらえている。とはいえ上半身は

ほとんど裸同然で、その白い肌の至るところに傷がある。回復する余裕もなかったと

いうことだろう。アーサーは急いでハーゴンのもとに駆けつけた。

 

「・・・テンポイント!まだ休んでいたほうが・・・ここはわたしが!」

 

「いや、きみはもう十分すぎるほど頑張ってくれた。あとはぼくに任せてくれ」

 

「そ、そうか・・・だがこれは恥ずかしいところを見られてしまったようだ・・・」

 

ハーゴンは恥ずかしそうに胸部を左腕で覆った。しかしアーサーの反応は薄い。

 

「・・・・・・ああ、そうだった!君はずっとあの豊満な身体を持つサマンサに

 抱きつかれていたんだった!わたしの裸などそのへんの子ども同然だったか!」

 

「う~~ん・・・・・・まあ・・・その・・・・・・」

 

返答に困ったアーサーはそれ以上何も言わずに、悪魔の鎧を装備する際に邪魔なので

脱いでいた自分の服をハーゴンに渡した。これで隠せということだった。

 

「・・・どこか引っかかる返事だったがこの心遣いには感謝するよ。いい服だ」

 

「ハーゴン、一つだけお願いがある。ぼくをあのシドーのすぐそばまで移す、

 そんなことはできないか?きみの特殊な力で・・・」

 

「危険すぎる。シドーに致命的な一撃を与えたいのだろうが君もただでは

 すまないぞ!ここは自棄にならずに粘り強く戦い好機を待つんだ」

 

ハーゴンはアーサーが自分を犠牲にしてシドーを倒す気でいることを知った。

いや、初めからそのつもりで二人はシドーとの戦いに臨んだはずだった。しかし

心のなかでは死ぬのは自分だけで、相手は生かして帰さなくてはならない、

アーサーもハーゴンも同じ思いだった。

 

「いや、あいつにあの激しい炎がある限りぼくたちにはどうしようもない。

 きみの魔力も残り少ないというのなら大勝負に出るべきだ。頼む!」

 

己の命であれば進んで差し出せる。だが相手の死につながるような行為は

決してできなかった。ハーゴンが躊躇っているうちに、シドーは二人を

まとめて葬り去ろうと、大きく息を吸い込んでいた。

 

「見ろ!灼熱が来るぞ!ぼくもきみももう耐える体力はない!」

 

「・・・あの炎・・・!あれをどうにかすればいいのか・・・・・・」

 

 

ハーゴンは静かに精神を集中させていた。そして自分という存在について考える。

先ほどアーサーが言いかけた、自分、つまりハーゴンの父親が大魔王ゾーマという

話はほんとうだろうか。仮にそうだとして、ならばどうして自分は彼の圧倒的な

力を受け継ぐことができなかったのか。もしその血が確かに流れているなら、

意地を張らずにその事実を受け入れたとき新たなる段階に達することができるはずだ。

世話役として生まれたときからそばにいたトシフジならきっと何かを知っている。

彼女は自分が神殿を去る前、どうしても言いたいことがあるような様子だった。

ならば全てが終わった後たっぷりと聞こう。いますべきことは炎を防ぐことだ。

 

「・・・・・・わたしの父が・・・あのゾーマだというのなら・・・・・・」

 

「何をぶつぶつ言っているんだ!避けろ、避けろ――――――っ!」

 

シドーの口から炎が放たれた。それと同時に、ハーゴンもシドーに向かって

呪文を唱える。イオナズンではない、彼女も初めて唱えた古の呪文だった。

 

 

「・・・・・・マヒャド―――っ!!」

 

「そ・・・それは氷の呪文!そんなものが使えたのか!だけど・・・」

 

氷など炎によって溶かされてしまうだろう、アーサーは万事休すと目を覆った。

しかし自分の秘密を知り、新たな力に目覚めたハーゴンの新呪文、すでに失われた

呪文であるはずのマヒャドは父ゾーマを凌ぐほどの氷でシドーの炎を食らいつくした。

 

「ああっ!炎があっという間に凍って一直線の刃になっている!」

 

「――――――――――――ッ!!!????」

 

そのまま急速にシドーの口元、炎の主の顔面の下部分まで凍らせたのだ。

これで一番厄介なシドーの炎は封じた。アーサーの無謀な突撃を回避できた、

ハーゴンは自分に眠っていた力のことよりもまずはそちらに思いが向き安堵した。

ところが、実はこれこそがアーサーに道を与えてしまっていたのだった。

 

「・・・どうだ!これであとは・・・」

 

「うん、ぼくがあいつのそばまで行くことができるようになった、ありがとう!」

 

なんとアーサーはシドーのもとに走り出した。シドーの口に続く氷の一本道を

駆けだしたのだ。アーサーが足で踏んでも頑丈なこの氷は砕けずに、彼を

シドーとの正真正銘最後の決着の瞬間へと導いた。

 

 

「な・・・!テ、テンポイント!よせ!」

 

「・・・ほんとうにありがとう。ハーゴン・・・いや、ウオッカ。アレンたちに

 代わりに謝っておいてくれ!いろいろ面倒を残して消えていくぼくのことを!

 ぼくはもともと長くなかった!どの道サマルトリアには帰れなかったんだ・・・」

 

「・・・・・・・・・」

 

「さようならウオッカ!いちばん最後にきみと肩を並べて戦えてよかった!」

 

 

このときアーサーの狙いはただ一つ。決戦の舞台を見たときから考えていた作戦

だった。火山が近くにある。シドーをそこに突っ込ませて跡形もなく溶かして

しまおうという狙いだ。知能がないに等しいシドーをどうにか誘導させようと

したがそれはうまくいかなかった。完全に動きを封じたうえでその最期を確認

するため、自分もろとも溶岩に落ちよう、アーサーはそう決めていた。

 

(・・・ここまでしなきゃこいつは死なない。破壊神なんだから)

 

アレンによって一度は倒されたはずのシドー。しかしベホマを唱えて復活してきた。

その後は使う呪文が変わり、炎の威力が増していたのだが、実はベホマを使えなく

なっていた。だがアーサーは警戒していた。もしかしたらまたしてもベホマを残して

いるのではないか、これで倒したと思った瞬間に傷を癒し絶望を与えてくるのでは

ないかという読みで、破壊神に完全なる死を与えなければならないと思っていた。

 

 

「――――――――!!!」

 

いまだハーゴンに何をされたのかわからず、炎が出せなくなったことと突き刺す痛みに

戸惑うシドーの隙をアーサーが逃すわけがなかった。まだ動かせる左手に剣を持ち、

もはや使い物にならなくなった右腕をどうにか添えて狙うは、すでにダメージを与え

大きく傷つけた頭部のみだった。もう一撃でシドーの命運はほぼ尽きる。もちろん

破壊の隼の剣を呪いを無視して振り抜こうというのだから左腕もこれで終わるだろう。

失敗は許されないが、いまのアーサーにミスなどあるはずがなかった。

 

「くらえ――――――っ!!シド――――――――!!!」

 

「――――――――――――――――――――――――・・・・・・!!!」

 

剣を深々と突き刺した。脳天にまで達しているかもしれない。破壊神の苦悶の

声が、アーサーの鼓膜を破いてしまうほどに響き渡った。氷は砕けてしまったが、

アーサーはすかさずシドーにしがみついた。そして破壊神を道連れに火口目がけて

急降下した。とはいえさすがに相手は破壊の神だ。余力などほとんどないはずなのに

必死の抵抗を続け、自分の動きを封じるアーサーを狙った。尻尾をどうにか

振り回すと、彼の左足を切断した。シドー以上にアーサーの顔が苦痛に満ちる。

 

「あがぁ・・・・・・!あ、あと少し・・・こんなときに・・・!」

 

シドーの不気味な首飾りはなんと66.5キロという重さがある。つまりその手足や

全身は更に重量があるはずだ。それなのに細身なアーサーが両腕を壊し、しかも

左足を失った状態であるのに決して破壊神を離さずにいられる、それは人間の力、

勇者の力が普通を遥かに超えたものを生み出していると言うほかなかった。勇者と

呼ばれる人間でなければ魔王、また邪悪の神を倒すことはできないと言い伝えられて

いるのはそのためだった。シドーがどんなに抵抗しアーサーの左足の傷を更に

抉ろうとしても無駄だった。やがてとうとう観念したのか、破壊神はアーサーを

攻撃するのをやめた。シドーから力が抜け落ちていくかのようにアーサーは感じた。

 

 

「ついに・・・ついにやった!ぼくの・・・ぼくたちの勝利が・・・・・・」

 

血のような汗を滝のように流すアーサーだったが、執念の勝利ににやりと笑った。

だが、その笑みはすぐに失われる。ついシドーの顔を見てしまったためだった。

 

 

「――――――――――・・・・・・!――――――――――――――・・・」

 

「あ・・・ああ・・・・・・!ぼくは・・・・・・なんてことを!!」

 

 

シドーが涙を流している。聴力を失ったアーサーにはわからなかったが、シドーは

悲痛な声で泣いていた。ここでアーサーは自分の大きな失敗に気がついてしまった。

 

(・・・そうだった。このシドーはわけのわからないままこの世界に召喚されただけだ!

 犯罪皇帝クライムカイザーが生贄を捧げて儀式を行い、自分の意思に関係なく

 シドーはハーゴンの神殿に呼び出されたんだ!この異形の姿にぼくたちは動揺し

 攻撃をした。攻撃されたら必死になって反撃するのは当然じゃないか・・・!)

 

シドーにとっては全てが突然のことだった。生き残るために戦い、自分が打ち倒されない

ために破壊し、魔物の軍を召喚して抵抗したのだ。二年以上の旅の間、敵意を持たない

魔物たちをずっと見逃してきたのにどうして最後にそれができなかったのか・・・。

アーサーは悔やんだ。そしてシドーに優しく語りかけた。

 

「・・・シドー・・・ぼくにもしあと僅かでも力が残っていたらきみのために

 いろんなことができた。でも・・・悪いけれどそれは叶わない夢になってしまった」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

シドーはすでに事切れてしまったのかもしれない。全く反応がなかった。

それと同時にアーサーも自分の身体がついに限界に達した感触があった。

 

「がはっ!!ぐぐ・・・ぐはぁっ・・・・・・!!」

 

死の病がとうとうタイムリミットを告げた。アーサーの命運が完全に潰えた。

アーサーはここでシドーを離した。しかしその手に、光る玉を置いた。

ロンダルキアの洞窟ではぐれメタルとホイミスライムから受け取った不思議な玉

であり、後にそれは『復活の玉』として知られる奇跡の結晶だった。

 

「・・・ぼ・・・ぼくはもう助かる道はない。でも・・・きみは・・・これで

 どうにかなるはずだ。シドー・・・もし助かったなら穏やかな地で誰にも

 脅かされることがなくこれからも生きられることを・・・ね、願っているよ!

 何回もきみを痛めつけたことは・・・その玉で許してくれるとうれしいな・・・」

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

シドーは火山とは違う方向へと落下していった。そちらも底なしであり、力なく

落ちていくその姿を見た者ならばここからもう一度舞い戻ってくるとは思わないだろう。

 

「お、おい、見ろ!あれは・・・破壊神シドーだ!谷底へ消えていくぞ!」

 

「真っ逆さまに落ちていったわ!アーサーたちが・・・やったのね!」

 

神殿からその様子を目にしたアレンたちの歓喜の声が沸き上がっていた。

 

 

 

 

「・・・・・・・・・」

 

そしてアーサーは・・・一人火口に飲み込まれようとしていた。すでに死を

受け入れていたし、サマンサやアレンたちとの約束を破ることになるのは

心が痛む事柄ではあったが、こうなっては仕方のないことで、自分は持てる力を

出し尽くし、やりきったのだという達成感に満たされていた。よって、

晴れ晴れとした爽やかな気持ちに包まれていた。それでも何かを悔やむとしたら、

旅のはじめに抱いていた夢である、『汚れきってしまったこの世界にもまだ

楽園と呼ばれる地があるのなら、それを見つける』という願いが果たせずに

死んでいくことだった。

 

 

(・・・め、目が・・・霞んできた。いよいよ・・・・・・)

 

最後に一目、愛する者たちを、また守り抜いた世界を見たかった。そう思ったとき、

アーサーのロトの紋章のアザが緑の光を発して鮮やかに輝いた。これまでずっと

彼に力を与えなかったルビスが、その懸命で壮絶な生涯にとうとう心を動かされ、

奇跡の力を授けた。すでに彼の死はルビスであっても止められない。しかし

ささやかな望みを叶えてやることくらいは容易い。アーサーの目が再び物を映す。

 

 

「・・・これは・・・・・・・・・!」

 

アーサーの目に映るのはロンダルキア、その広く美しい大地。どこまでも純白で、

また確かに感じる生命の輝き。魔界と恐れられていた地だったが、こうして見ると

人の手が汚していない楽園のように見えた。

 

「このロンダルキア・・・まさか敵の総本山と思っていた地が・・・ぼくの

 求めていた楽園だったなんて・・・・・・いや!まだ・・・」

 

だが、アーサーの視界は更に開けた。ロンダルキアの更に向こうにも大陸や

海が見える。いかに視力がずば抜けている人間でもここまでは見渡せず、

奇跡の力によるものだった。それらの地もやはり美しく、銀世界ではないので

ロンダルキアとは別の世界だ。まさかまだ見ぬ楽園だというのか。

 

「・・・・・・ああ・・・そ、そうか・・・・・・!」

 

それはずっと旅してきた、アーサーのよく知る世界だった。故郷サマルトリアを

はじめとして、長い歩きの旅、また船旅で巡ってきた地そのものだった。

この世界は何と美しいものなのだろう、アーサーの目は輝いていた。

 

 

「・・・・・・・・・最高の景色だ・・・!なんて素晴らしい・・・・・・!」

 

 

一切の苦しみが取り去られていた。アーサーの命が安らかなまま消えていった。

確かに勇者であった男は、静かに火山に落ちていき、その生涯を終えた。

 

「・・・テ・・・テンポイント・・・テンポイント―――――――っ!!!」

 

ハーゴンの叫び声だけが死闘の終わったロンダルキアの山々でこだました。

 

 

 

 

 

「あっ・・・・・・流れ星だ!」

 

崩壊した勇者の泉の跡地のそばでサマンサは一人空を眺めていた。すでに夜と

なっていたが、夜の闇とは何かが違う、この世を覆う闇が消えてなくなった

感じがした。このあたりに生息する魔物たちからも邪気が失われ、約百年前に

勇者ブライアンがその妻や彼を慕う仲間たちとこの地に降り立ったときの

平和が訪れようとしていた。そのとき、空に流れ星が輝いた。

 

「・・・きっとおにいちゃんが勝ったんだ!ウオッカの言っていた悪い神さまを

 やっつけたんだね!おにいちゃ――――ん!わたしはここだよ――――――っ!」

 

何回も飛び跳ねながら、返事のない夜空に向かって呼びかけ続けていた。

 

 

 

 

サマルトリアのアーサー、真の名をテンポイントという彼がもういないのを

知っているのはいまはまだハーゴンだけだ。やがてハーゴン以上に彼を愛する

サマンサもそれを知り、苦楽を共にし家族より固い絆で結ばれた仲間たち、

『闘将ボーイ』と呼ばれるアレン、また『グリーングラスの乙女』セリアも

彼の姿を二度と見ることがないという事実を知ることになる。

 

朝はもう来ないのだ。彼はすでに思い出となったのだから。流星の貴公子と

呼ばれたその顔も、穏やかな声を聞くこともできないのだ。

さらばアーサー。お前の流れ星はサマルトリアで永遠に光り輝くだろう。

 

どこからともなく優しい声が聞こえてくる。アレンとセリアのよく知る声だった。

 

「破壊の神、シドーは滅びました。これで再び平和が訪れることでしょう」

 

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