ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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エンディング
旅立ち


 

闘将ボーイと呼ばれるローレシアのアレン、彼は無事に悪の根源を打ち倒したならば

長い旅の間ずっと我慢していた酒を解禁するつもりでいた。使命を成し遂げた喜びを

親友と共に分かち合い、永遠の友情を誓う一杯にしようと思い定めていた。

 

グリーングラスの乙女として知られていたムーンブルクのセリア、彼女は次こそ

自分が勝とうと意気込んでいた。男二人の決闘に冗談半分で乱入した前日の敗戦を

実はとても悔しがっており、アーサーを倒してやろうという気合いに満ちていた。

 

しかしそれらはもう叶わない。流星の貴公子、アーサーはもういないのだから。

 

 

 

「・・・・・・・・・は?・・・い、いま何て言った・・・?」

 

破壊神シドーが死んだという精霊の声に歓喜に満たされていたのも僅かな時間だった。

生還したハーゴンから彼の死が告げられると、アレンの表情は固まった。セリアは

青ざめ、その場に座り込んだ。ハーゴンの言葉は真実だと疑いようがなかったからだ。

ハーゴンの様子、それにアーサーが帰ってこなかったことがその確かな証明であり、

シドーと相討ちの形で火山に消えていったと、その最期が皆に伝えられた。

 

「・・・君たちは前日の夜、この神殿のそばでキャンプにしたみたいだね。そのとき

 必要最低限の物のみを持ち、それ以外はそこに置いてきた形跡があった」

 

「・・・・・・それがどうした?」

 

「彼の荷物だけいま持ってきた。わたしではなく君たちが開けてくれ。彼はどうやら

 最初から・・・自分の死は決まっていたかのようなことを口にしていた。最後の

 戦いがどうなろうともそれは避けられなかったと・・・。君たちにもきっと

 黙っていたのだろうが、無責任な人間ではない。何か残しているかもしれない」

 

アーサーは旅の終盤ごろから謎の体調不良に悩まされ、ロンダルキアに着くころには

激しい吐血を伴う重症となっていたが、とうとう二人の仲間相手にそれを隠し通した。

邪神の一人ベリアルと、アーサーから強く死の匂いがすると言ったブリザードの

トリプティク以外には疑いすら抱かせることなく凌ぎ切ってみせたのだ。

 

ハーゴンからアーサーの遺品とも言える荷物を受け取り、二人はその中身を確認する。

するとそれまで着ていたはずの服や古い装備、それらがなかった。ほんとうに彼は

戦いの最終日である今日が体の限界だとわかっていたのだろう。荷物を軽くするため

仲間たちの目を盗んでそれらを捨てて歩き、一足早く荷の整理を行っていた。

 

「・・・・・・・・・ん?これは・・・」

 

荷物が少ないのが幸いし、アレンはすぐにそれを見つけることができた。一枚の紙が

丁寧に袋に入れられていたが、アレンとセリアに向けて書かれた手紙であり、つまりは

遺書であった。その内容はハーゴンやその仲間たちも気になるところであったが、

まずは二人だけが読むことになった。アーサーはこの二人に対して残したのだ。

 

 

「・・・いったいどんなことが書かれているのやら。まあでも・・・」

 

「きっと涙なしには見られないでしょうね、家族以上の絆ともあれば・・・」

 

遺体すら火山のマグマによって失われた彼が遺す言葉にアレンとセリアは大粒の

涙を流しながら手紙を読むだろうと外野の者たちは様子を眺めていた。ところが

予想とは全く異なり、二人はそれを感情豊かに読み進めていくのであった。

 

「・・・うふふっ、あはは!何よこれ、余計なお世話とはこのことね!」

 

「ふざけやがって・・・!自分はもういないからって好き放題書きやがって!」

 

笑ったり怒ったり、外からでは果たしてどのような内容なのか想像もできなかった。

実のところ、セリアに対してはアレンは幾度か浮気をするだろうけど許してやれとか、

アレンには酒や女の誘惑には気をつけろ、それでもきみは失敗するだろうけど、などと

書かれており、それ以外にもお節介やユーモアに溢れた手紙だった。

 

「旅の間の宿屋や料理屋の個人的ランキング、お酒のおいしかった店、将来国政に

 疲れたときに一休みするにはちょうどいい場所・・・あいつめ、旅の間

 こんなものをせっせと作ってやがったのか!暇なやつだな!」

 

「でもかなり細かくて実用性がありそうね。これは参考になるわ」

 

「だからこそムカつくぜ!それでいてサマルトリアの父親や妹にはきみたちが

 うまく話をしてくれ、大事なところがそれしか書いてねー!もともと国を捨てて

 平和になった世界を船で旅行しようとしていたやつだ、どうなってやがるんだ!

 もうそろそろ終わりじゃねぇか。泣くほうが難しいぜ、こんなもの」

 

やがて手紙が終盤に差し掛かった。明らかにここまでとは違う時間、もしくは違う日に

書かれた筆跡だった。これはようやく真面目な事柄が記されているか、そう思われたが、

 

「・・・なになに、きっと二人は結ばれて跡継ぎとなる子どもも産まれるだろうけど

 間違ってもぼくの名は使わないように、これは真剣なお願いだからちゃんと

 守るように・・・ふふふ、どこかズレてるわね、アーサーの感性は」

 

「馬鹿が・・・誰がつけるか!縁起でもねえ、てめぇの名前なんか!」

 

 

思わず遺書を投げ捨てようとしたアレンだったが、まだ遺言は残っていた。

『最後に』と書かれている、二人に宛てた正真正銘結びの言葉だった。

アレンとセリアはそれまでとは違うものを感じ、注意深く声に出して読んだ。

 

 

「・・・・・・『ぼくが最後まで旅を全うできたのも全てはきみたちのおかげだ。

 どう見てもひとり力の劣るぼくを見限ることなく仲間でいることを許してくれた

 その寛大さに感謝するほかない。実のところ初めからぼくはわかっていた。

 きみたちがいかに特別な力を持つ人間であるか、旅の最初の日から』」

 

 

 

アレンとアーサー、二人でムーンブルクを目指し旅を始めた日の途中だった。

魔物たちのいなくなったあたりで休憩中、互いを相手に剣の練習でもしようという

ことになり、そのときアーサーは剣術大会とは違うアレンの実力を感じ取った。

 

『どうだった。おれの腕前は』

 

『・・・そうだね、使っているその剣がいまいちかな』

 

『仕方ねえだろ、お前と違って城から支援もなしに来たんだからよ。剣の品評会じゃ

 ないんだぜ。おれの実力のほうはどうだったかって聞いているんだよ』

 

言うまでもなく素晴らしかった。彼がアレンの持っていた剣に注文をつけたのは

そこ以外責めるところが見つからなかったからだ。腕は申し分なかった。

この男なら世界を惑わす邪教を倒すこともできる、アーサーはそう確信した。

後にセリアの使う魔法の威力の大きさを目の当たりにしたときも同じだった。

 

 

 

「・・・・・・」

 

「『アレン、セリア。この手紙を無事に読んでいるということはロトの末裔に与えられし

 任務を見事完遂したみたいだね。かつて大魔王ゾーマや竜王がいなくなった後のような

 人に敵対する魔物が消えた平和な世できみたちがどう活躍するか、それを見たかった。

 ぼくにはないものをたくさん持っている二人の作る素晴らしい世界を」

 

アーサーはわかっていた。魔物相手に剣や呪文で戦うよりも混乱がようやく終わった

世界で若き二人が直面する問題の数々のほうが、より厄介で難儀であると。それでも

アレンたちであれば必ずや間違った道へ踏み外すことはないとアーサーは信じていた。

 

「『平和な世界を取り戻すという旅はこれで終わりだ。でも新たな旅立ちがすぐに

 始まるだろう。そのときぼくはいない。たった一杯のお酒やただ一言の言葉が

 大きな後悔をもたらすようなことにならないか。意地や自尊心のためにきみたちの

 最も愛する人を傷つけ、それによってきみたち自身をも取り返しがつかないほどに

 苦しめることになりはしないか。気性の激しいきみたちを止められるぼくはもういない。

 若さの勢いに任せたときは過ぎて、次の旅が待っているんだ、二人とも』・・・」

 

 

二人がアーサーの言葉を読み終えたとほぼ同時に再び天からの声が聞こえてきた。

 

『アレン、セリア。よくぞ平和をもたらしてくれました。さあ、あなたたちが

 守った世界に向けて勝利の報告をするとよいでしょう』

 

「・・・・・・ああ、見ろ!いくつもの城や町が・・・!」

 

ルビスの奇跡によってアレンたちがこれまで訪れた城や町の数々、そのなかでも特に

人の多い大都市が空中に映し出された。あちらからもアレンたちの姿が見られるようで、

 

『おお・・・アレン!まさか、とうとうやったのか!ハーゴンを倒したのだな!』

 

ローレシア王、息子の勝利を喜び、その笑顔がはっきりと見えた。アレンの三人の

弟たちもその後ろにいた。シドーによって放たれた魔物たちを殲滅したからか、

どこか頼りなかった彼らもすっかり立派な戦士の顔になっていた。

 

『さすがは勇者ロト、それに我らの先祖を倒したラダトームのブライアンの

 子孫、いや彼らを超えるかもしれない男だ!近いうちに同盟を結ばねば!』

 

竜王の城からも歓喜の様子が伝わってきた。これなら後々敵対することもなさそうで、

彼らとはうまくやっていけるだろう。その他あらゆる地の無数の人々から平和を祝う声や

勇者を称える言葉が響く。しかしだんだんとその声は小さくなっていく。騒ぎ疲れた

からではない。皆待ち望んでいたのだ。いまや世界一の強者となったアレンが何を語るのか。

 

「・・・・・・・・・」

 

「お前が何か言わないと何も始まらないぞ。さあ、早く」

 

世界の各地からこちらの様子もわかってしまうのはハーゴンたちからすればあまり

よいことではない。アレンはもう戦うつもりはないだろうが、ハーゴンと仲間たちが

生きていると知ったローレシア以外の強国が魔族の殲滅のためロンダルキアへ

乗り込んでくる可能性もあるからだ。それらと戦って勝つことは容易だが、

人間と魔物の和解を目指すハーゴンの望みが大きく遠ざかっていくだろう。

ハーゴンが自分にもしものことがあれば後は任せたと言うほどに信頼を寄せる

スライムのキンツェム、彼女がアレンを急かし注目を彼に集めさせた。

 

「・・・ああ、わかった。世界が平和になったことを改めておれの口から・・・」

 

「そうだ。この世の新たな王として勝利の演説を。ルビスもそれを期待して

 こんな舞台をわざわざ用意したのだろうからな」

 

精霊によるこの奇跡は予測できなかったが、世界に平和をもたらし、高らかに

勝利宣言するのはアレンの夢だった。力強く、満面の笑みで己を、そして偉大なる

勇者ロトや力を与えてくれた精霊ルビスを人々の前で高めようと思っていた。

だが、このときアレンの表情はとても最後の戦いに勝った男のものではなかった。

 

 

「・・・おれの故郷ローレシア、それにルビス様の加護に満たされた全地の人たち、

 聞いてくれ。おれたちは世界に破滅をもたらそうとしていた邪神たちを倒した。

 この世界を脅かすやつはもう誰もいない。皆の望んでいたときが来たんだ」

 

『勇者アレンばんざ――――い!ルビスさまばんざ――――い!』

 

群衆の地鳴りのするような声が響く。しかしアレンの顔はだんだんと沈んでいった。

 

「だが・・・だがおれは、おれたちは負けたんだ。最後の敵、破壊神シドー。

 そいつには・・・ロトの剣も雷鳴の剣も・・・僅かな傷しか与えられなかった!

 勇者ロトが遺した剣もルビス様の加護も!ちっとも通じなかったんだ・・・!」

 

世界を平和にしたのに敗北したとはどういうことか。事情を知らない人々は

意味がわからずにいた。アレンは自分や祖先、神や精霊の名が傷つくことになっても

真実を語らずにはいられなかったのだ。その全身が震え始めていた。

 

「・・・だから・・・あいつが!アーサーが・・・シドーと相討ちになったんだ。

 最後・・・たった一人で・・・火山に落ちて!破壊神を道連れに死んだんだ!

 あいつがいなけりゃシドーを倒せなかった。でもそのあいつはもう死んだんだっ!」

 

「・・・・・・アレン、あなた・・・泣いているのね」

 

彼の肩に手を置くセリアもまた涙を零していたが、アレンはそれ以上、まさに

激しく泣いていた。堪えようとしてももはや無駄だった。

 

「うるせぇ、おれは泣いてない!これは涙じゃねぇ、泣いたりしない!」

 

 

アレンは一人でローレシアを飛び出して数日後の雨の降る日に自ら誓っていた。

旅の間、決して自分は涙を流さないと。その後二人の仲間が加わっても、

彼らの前だけでなく自分ひとりでいるときも絶対に泣いたりしないとして、

もしそのような情けないことがあればこの旅を終わりにしなければならないと

決めていた。いま、アレンの旅は終わったのだ。そしてアーサーの言葉に

ある通り、彼も隣にいるセリアも新たな旅立ちをするときが来たのだった。

 

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