ドラゴンクエストⅡ 大空と大地の中で   作:O江原K

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長い夜 ナイトエンジェル

 

二人の正体をこの村で唯一知る、村長バルクが迫ってきた。確かに一目で彼が優れた

戦士であるというのがわかり、ローレシアの兵士たちの中でも彼以上はいない。

バルクは二人を警戒しているため、たとえこの村を去るように言われたとしても

真実を語らなければ血が流されることになりかねないとアレンは判断した。彼が

アレンたちに戦いを仕掛けてきたら、殺すつもりで戦わなければ勝てないだろう。

仕方なく二人は全てを話した。世界を揺るがす脅威が去ったことも含めて。

 

 

「・・・おれたちは大事な仲間を失った。あんたもきっと町々で話を聞いていたなら

 どうしておれたちが三人ではなく二人なのか最初疑問に感じていただろう」

 

「ああ、サマルトリアのアーサー・・・だったか。お前たちの話では最後の敵を

 倒すためにその命を失ったとか。確かにそいつはどこにいるのかとは思った」

 

「少し静かな環境で休みたかった、おれとセリアの望みはただそれだけだった。

 おれたちが一度訪れたような町じゃあきっと大騒ぎされて祭りが始まっちまう。

 しばらく落ち着きたかった。戦いの疲れを、そしてあいつの死の悲しみを癒すために」

 

ローレシアに帰ることも他の強国に向かうことも後回しに気楽な旅をする、このような

ことは当然ルビスの意思に反している行いだろう。しかしいまアレンとセリアは意図的に

そうしていた。ロンダルキアに降り立ってから最初に彼らを出迎えたのはハーゴンの

仲間であり、フレイムのホーリックス。彼女の言葉が今になって響いていたからだ。

 

『俺たちからすればお前たちこそ愚かそのものだ!精霊ルビスの操り人形として

 やつの意のままに動く馬鹿丸出しのクズどもが・・・』

 

精霊の加護を受けてはいたが、旅立ちから今に至るまで確かにその通りだった。

一方でルビスから愛されなかったアーサー、ある意味で彼は自由だった。アーサーが

どのような気持ちで自分たちと旅をしていたのか、二人はそれを知りたかった。

多くを語らなかった彼が抱えていたものを少しでも理解することで、その死を悼み、

別れを告げる段階へ進もうとしていた。それがこのあてのない旅の目的だった。

 

 

「・・・・・・なるほど・・・」

 

バルクはしばらく考え込んでいた。アレンたちは全てを嘘偽りなく説明した。

あとはバルクが信じてくれるかどうか・・・彼の様子を注視していた。

ところが彼が時間をかけていたのは二人を無害な存在か、この場で打ち倒すべき

相手か、それを見極めるためではなかった。バルクは勢いよく立ち上がると、

 

「話はわかった。そういうことならばお前たちがいるべきはこの小屋ではない。

 ふさわしい場所に連れて行ってやる。荷物をまとめてついてこい」

 

自分の後についてくるように言って小屋を出ていった。アレンとセリアは外にいる

バルクに聞かれないような小声で話し合った。これは罠ではないかと。村の男たちを

集めた場所におびきよせ、二人を除き去ろうとしているのかもしれない。

 

「さて、どうするかな。このまま村を出ていくか?何十人に囲まれようが負ける気は

 しねぇがあのバルクってやつは別格だ。やつかその周りにいる連中を間違って

 殺しちまったら後味が悪いぜ」

 

「ラリホーで眠らせるから大丈夫よ、もし彼らがその気ならね。わたしたちは何も

 悪いことをしていないのだから逃げる必要なんてちっともないわ」

 

ここでいなくなるほうが後々不信感を買うだろう。悪霊の神々や破壊神の召喚した

魔物たちとの戦いに比べたらなんてことはないはずだ。バルクの後についていった。

だんだんと村の中心から遠ざかっていき、いよいよ邪魔者を始末するにはもってこいの

寂しい場所に到着した。伏兵はいないようだが、いつ戦闘となってもいいように二人は

心構えをしていた。しかしバルクが指さした先には、星がよく見える高いところに

建てられた立派な建物があった。そして足を止め、アレンたちだけで入るように言う。

 

「ここからは二人で行け。おれは邪魔者だろうからな」

 

「・・・どういうことだ?話がわからない。あの建物はいったい何なんだ?」

 

「なんだ、ほんとうに全く何も知らないでこの村に来たのか。お前たちが正体を

 隠していた理由・・・これが目当てというわけではなかったのか」

 

アレンとセリアが真に偶然から訪れた客だったと知り、バルクは小さく笑った。

そして二人をここに案内した理由を説明し始めた。

 

「あそこからの景色は最高でな。魔物が暴れる前は毎日のように遠方からも旅人が

 やってきて泊まっていった。あれほどの広さがあるが一度に一人、もしくは

 一グループしか泊めないから遠慮なく羽を伸ばせる。そのぶん値は張るがな」

 

「なるほど、手入れもされているようね。王族であるわたしたちへのもてなしの

 つもりかしら?そんな特別扱いはいらないわ。さっきの小屋でも不便は・・・」

 

「ハハハ、心配せずともちゃんと金はとる。平和になった世界での営業再開、

 お前たちは記念すべき最初の客だ。それにおれはお前たちが王族だから

 連れてきたのではない。互いを愛しあう男女だったから紹介したのだ。

 心身の傷を癒すための旅というのであればなおさらだ」

 

バルクの笑みが何やらいやらしいものに変わっていく。その理由はすぐに明らかになった。

 

「これだけ静かで他に人もいないとあれば遠慮なくやれる・・・というわけだ。いくら

 もう二度と会うことのない他人だらけの村とはいえ、さすがに気が引けるだろう。

 だから村人たちもときどき掃除ついでにここを利用するんだ」

 

「遠慮なくやれる・・・・・・ま、まさか!」

 

「お前たち若い男と女が二人きり、おれが口にするまでもないだろうが。しかも

 この場所で『契る』と子宝に恵まれる確率が高いと言い伝えられている。

 まあおれはあまり信じちゃいないが・・・年寄りどもはみんな言っているな。

 じゃ・・・このあたりでおれは帰るぜ。明日の朝の遅い時間に料理を届けに

 いくからそのときは服を着ていることを勧める。長い夜を楽しんでくれよ」

 

 

全ての意味を知り、緊張と動揺から戸惑う二人を置いてバルクは行ってしまった。

 

「・・・なんて品のない男なの!ま、まあ・・・確かにいい場所ではあるわ」

 

「そう、だよな。せっかく案内してくれたんだから今日はここで寝ようぜ」

 

星降る夜に誘われて、二人は室内へと入っていった。手入れが行き届いた

清潔で居心地の良い空間であり、これまで宿泊した大都市の宿屋と比べても

こちらのほうが上だと断言できるほどだった。しかも貸し切りであり、ちょうど

夜空の星を最もよく鑑賞できる位置に大きなベッドが配置されていたのだった。

 

「ベッドは・・・・・・一つしかないのか。これだけ広くて大きい建物に・・・」

 

「そうね。ま、まあどうするかは先に体を洗ってから考えましょう。汚れを落とさないと」

 

「ああ、それがいい!結構歩いたからなァ、ははは・・・」

 

ベッドに水浴び・・・意識しなくても自然と思いがそちらに向いてしまう。

互いに今日が初めてではなかった。抱きたい、抱かれたいと思ったことは。

世界の危機が去ったこと、親友を失ったこと・・・様々なものが二人を後押しした。

食事をしていても二人の気持ちが逸れることはなかった。

 

「そういやあのとき・・・ラダトームでは危なかったなぁ、セリア。おれがあと少し

 遅かったらあのゲス野郎に傷物にされていたところだった。こっちの方面での

 危機はあれがいちばんだったんじゃねぇか?」

 

「・・・そうね。あなたが王族の奴隷の処女とやらの誘惑をもっと早く退けていれば

 あれほどのことにはならなかったわ。鼻の下を伸ばして興奮していたとか」

 

「・・・・・・正体はハーゴンの仲間の一人だったけどな。危うく何百歳も年上の

 人間ですらない相手に食われるところだったぜ。だが・・・」

 

アレンは立ち上がると、スプーンを手にしていたセリアの右手を力強く両手で

掴んだ。そこから熱い思いが伝わってきて、スプーンは床に音を立てて落ちていった。

 

「正しい決定をしたおかげでいま、胸を張ってお前だけに愛を誓える」

 

「・・・・・・アレン・・・・・・」

 

 

 

 

 

ベッドのなかで並んで見る真夜中の星空は二人を祝福しているかのようだった。

あの星たちの一つに、かつて流星の貴公子と呼ばれ、ほんとうの星となったアーサーも

いるのだろうか。もしいるのならどれがアーサーなのか、アレンは指で探し始めた。

 

「・・・あいつに見られていたと思うと気まずいな。こういうのを親友にじっくりと

 見物されていたっていうのはなかなか恥ずかしいぜ」

 

「ふふ・・・彼はこっそり覗き見するような人間ではないでしょ?」

 

「それもそうだな。だが・・・・・・とうとうやっちまったな、おれたち。

 もしかしたらローレシアには帰れなくなっちまうかもな、こりゃあ・・・」

 

正式に結婚していない男女がこのような行為をするのはルビスの教えでは大罪と

されていた。道徳が退廃しきっていたラダトームなどではそれも軽視されていたが

ローレシアでは固く守るべき律法の一つで、王族であっても例外はなかった。

 

「あら・・・黙っていればいいじゃない。それともこのわたしを自分のものに

 したことを国中で自慢して言いまわりたいのかしら、あなた」

 

「・・・冗談話じゃないぜ。いや、その・・・あれだろ、場合によっては・・・

 証拠が残るだろ?だから・・・お前の腹が大きくなるとかよ」

 

それを聞くとセリアの表情が固まった。だが少しすると寂しそうな笑いをこぼした。

 

「・・・それなら心配はいらないわ。その可能性は絶対にない」

 

「絶対に・・・?断言はできないだろうが」

 

「いいえ・・・わたしは子どもを宿せる身体ではないから。戦いの傷のせいでね。

 いい機会だわ・・・あなたにも話しておこうかしら」

 

悪霊の神のうちの一人バズズとの戦闘でセリアは下腹部に重い一撃を食らった。

勝利を諦めない心の強さゆえに回復呪文を唱え、戦いに勝利を収めたのだが

バズズの言葉、それに自分自身の直感から、傷は治したものの内部の破壊を

完全に癒すことはできず、生涯妊娠することはできないとわかっていた。

 

 

「・・・そ、そんな・・・・・・!」

 

「だからあなたの跡取りを産むことはできない・・・つまりあなたの妻にはなれないって

 いうことなのよ。ふふふ・・・今日の長い夜はわたしの一夜限りの思い出に・・・」

 

この事実を聞いてアレンは愕然とした様子でいたが、すぐにいつもの頼りがいのある

逞しい男の顔に戻った。一番悲しいのはセリアなのだ、自分が情けない腑抜けな面構えで

どうするんだ、と強い気持ちで自らを奮い立たせ、セリアをそっと抱き寄せた。

 

「・・・それは確かにショックな話だったぜ。だがお前がおれの妻になることとは

 全く関係のない話だな!いっしょにされちゃあ困るぜっ!」

 

「な、何を言うの。あなたはローレシアの王となる人間でしょう。その血を、王家を

 後の世代にも末永く継がせるためにも・・・」

 

「へへへ、知らねーよ。おれが生きている間、おれが国王だったらそれでいいんだ。

 次の王はおれの弟たちの息子から選んだっていいじゃねーか」

 

アレンはこのとき、ただ子を残すための『第二夫人』や『側女』の存在を一切頭に

入れていなかった。旅のはじめは世界中で何人嫁や愛人を手に入れられるかという

下心に満ちた欲望も抱いていた彼が、全くそんな考えを捨て去っていたのだ。

 

「・・・あなたがよくてもあなたの周りは簡単には認めないでしょうに」

 

「だったら気楽にこの村で暮らすってのもありかもな。この場所は子宝に恵まれるとか

 どうとかさっきバルクが言っていたのを覚えているだろ?腰を据えて治療しりゃあ

 そのうちよくなるかもしれないぜ。こんないい場所で静かに休めば・・・」

 

先祖代々の名誉ある王座すらアレンは平気で投げ出そうというのだ。それほどまでに

自分を愛してくれていることにセリアは嬉しくなり、彼の胸の中に飛び込んだ。

 

「ふふっ・・・あなたってばそんなにわたしのことが好きなのね。しょうがない人」

 

「ふん、お前だって似たようなモンだろうが。まったく素直じゃねぇ女だ・・・」

 

二人の長い夜はまだまだこれからだ。夜が明けるまで二人きりなのだ。無数の星空の

数だけ互いに愛の言葉を語り合うのだった。

 

 

 

抱き合いながら二人は眠りについていた。短い眠りであったはずなのだが、幻と呼ぶのが

ふさわしい夢をそれぞれが見た。精霊ルビスによってもたらされたものであった。

ルビスが目の前に現れ、二人に対してこれからの命令を指示してきた。

 

 

『アレン・・・あなたは起きたらすぐにローレシアに帰り父から王冠を受け取りなさい。

 そしてわたしはあなたにふさわしい、立派な息子を何人も産むであろう妻を与えます。

 わたしの命令に従う限りあなたの治世は祝福されたものとなるでしょう。末永く

 勇者ロトの名を、そしてあなたの名を人々は語り継いでいくことになります』

 

 

『セリア・・・あなたは目覚めたら一人でムーンブルクの地に向かいなさい。

 勇者ロトの子孫として、ムーンブルクの復興にその生涯を捧げるのです。あなたは

 夫も子も持つことはありませんが、それより遥かに大きな家族を得るでしょう。

 わたしに聞き従い、故郷の再生に全てを費やすことを誓えば、の話ではありますが』

 

 

邪教を壊滅させた後の二人の夢はまさにそれであった。ルビスが後押しし、それを

実現させてくれるというのだ。アレンもセリアもそれを聞いて一瞬だけ考えた。

しかし、その返事は早かった。神のように崇拝する者が相手であっても揺らがなかった。

 

 

『いや・・・おれの妻はただ一人、すでに決めたやつがいますから結構です。

 愛する女一人も守れないような男が王国を支配するなんて無理な話ですから。

 たとえあなたの加護を失うとしてもおれの道はおれが決めます』

 

 

『申し訳ありません、ルビス様。わたしには別の幸せが見つかってしまいました。

 それを捨ててムーンブルクの再興に命を捧げたとして、わたしはおろか人々にも

 真の幸福を与えることはできないでしょう。ロトの名を汚すとしてもわたしは・・・』

 

アレンとセリア、示し合わせたわけではないのに全く同じ瞬間に言葉を返してきた。

その内容まで同じときた。ルビスは優しく微笑むと、そこから先は二人に対して

全く同じ言葉を述べて去っていったのだった。

 

 

『・・・わかりました。あなたたちの決意、確かに聞き届けました。これでわたしも

 ようやくこの世に干渉するのを終えることができそうです。勇者ロトの血もいつかは

 薄れ、精霊ルビスの名もやがて廃れていくことでしょう。ですがあなたたちの愛、

 それは永遠に残ります。あなたたちの未来が光に満ち溢れたものとなりますように!』

 

おそらく二度とルビスを見ることはないだろう。しかしアレンもセリアも後悔はなかった。

そのルビス自身が二人の言葉を確かによいものとして受け取ってくれたからだ。

 

『しかし・・・あなた方は旅のはじめと比べ、彼に似てきたようですね。宿命や

 使命よりも大切なものがあると信じ、自らの手で未来を探し出そうとする・・・

 やはりあなたたちは三人で一つだったということでしょうか』

 

最後の最後、ルビスはどのような思いからこの一言を付け加えたのだろうか。

アレンとセリアは今日の互いの夢に関して相手に語ることはその死ぬ日までついに

一度もなかった。この最後の言葉の謎についても自分だけが聞いたものと思い

それぞれ一人でいるときに静かな場所で深く考えたり推察したりするのだった。

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