「・・・あなた方が謝ることなど何もない。息子は自らの意思で平和のために
命を捧げたのだ。旅立ちを許したときからこうなることは覚悟していた」
サマルトリア王に息子アーサーの死を報告した。すでにルビスによる奇跡的な
方法でアレンはアーサーが破壊神と共に死んでいったことは全世界に向けて
知らせていたが直接それを伝え、故郷に帰らせることができなかったのを詫びた。
そのアレンの謝罪を王は受け取らなかった。アレンを責めたところで何も変わらない
うえに、彼のせいではないとわかっていたからだ。恨みの思いも一切なかった。
「ですが・・・王の血が流れるたった一人の男子である彼を失っては・・・」
「いや・・・それなら心配は無用だ。娘のサマンサ・・・どうしてなのかは我々にも
わからないが突然頭がまともになったのだ。あれならばアーサーの代わりに
女王として私の後を継いでくれるだろう・・・」
アレンもセリアも知らないことだが、サマンサはアーサーの実の妹ではない。養子として
引き取られた『マルゼンスキー』家の娘であり、竜王を倒した勇者ブライアンの血こそ
受け継いでいるもののサマルトリアの外の人間だった。アーサーに何事かが起きたとき、
つまり緊急事態のために用意されていた『予備』だったのだが、現実にそうなってしまった。
「・・・サマンサ王女は彼が亡くなったことを知っておられるのですか?」
「あなた方が邪教を壊滅させ、アーサーが死んだと敵の本拠地から叫んだそのとき、
サマンサはこの城にいなかった。噂によると勇者の泉のあたりで破壊神によって
召喚された魔物たちをたった一人で殲滅したようだが同時にあの洞窟も消えて
なくなってしまった・・・。直接話してはいないが耳に入ってはいるだろう。
間違いがあるといけない。さあ、あなた方はローレシアへ」
「・・・・・・・・・」
国王はアレンたちにはアーサーの死に関して何ら責められるところはないという
結論を下したが、果たしてサマンサが同じ考えに至るかどうか。アレンが前夜
生涯最悪とも言える悪夢の内容もそのことについてであり、正夢となったならば
夢の通りになる前にサマンサを殺害する、とセリアは口にしていた。この場にサマンサが
いないのならとりあえずはここから去るべきだとアレンに言ったが、彼の意志は固かった。
「・・・・・・だったらセリア、お前だけ先にローレシアへ向かってくれ」
サマンサが一人でいるという部屋へ武器を持たずに向かおうとした。全ての負の感情や
復讐の連鎖を自分の死で終わらせられるのならそれでいいという思いからだった。
「・・・何を冗談を・・・わたしも行くわ。それでもあなたが望むとおりに」
アレンの性格からして決めたことを曲げる真似はしない。自分がいくら引き留めても
己の正義を貫くだろう。彼の命を賭けたわがままを認め、そばで見守ることにした。
邪悪の神々との戦闘を凌ぐかもしれない最後の戦い・・・彼の選んだ道を尊重した。
セリアに対しアレンは小さな声で一言、すまないな、と言った。そして部屋の扉を開けた。
「・・・あれ、あなたは・・・どんなご用ですか?」
喋り方、また雰囲気からサマンサが脳の発達が止まり幼いままでいたのはすでに
過去の話で、王の言葉通り年相応の会話ができそうだと感じ取れた。アレンは彼女が
あまりにも普通にしているものだから、アーサーの死を知らないのではないかと思った。
それを知った彼女は発狂して大暴れし、夢のなかのように城じゅうを火の海に変えて
しまう、それを恐れた者たちによって隠されているのではないかと。
「・・・・・・こんにちは、王女。今日はアーサー・・・あなたの兄上に関してお話が」
しかしアレンは違った。王に語ったものと同じ報告をこのサマンサに対しても行った。
サマンサがどう反応するとしても、恨みや悲しみ、憎しみや憤りを全て自分が引き受ける
覚悟を持ってそうしたのだった。自分の命などどうなっても構わない、だからそれで
終わりにしてくれ、そのように頼み込んだ。セリアも彼がこう出ることは薄々わかっていた。
(・・・アレン・・・やっぱりあなたはどこまでも愚直なのね。そんなあなたを愛した
わたしだからあなたがそれを望むなら・・・・・・いや、やっぱり見ているだけなんて
わたしの性分に合わないわ。あの妹が変な動きをしたらすぐに・・・!)
セリアの決断はあっさりと覆った。アレンを守るためにいつでも呪文が発動できるように備えていた。あとはサマンサ次第だ。泣き出すのか、それとも怒りに震えるのか。
彼女がどう出るかで誰が生き続け、誰がいま命を落とすのかが変わってくる。
「・・・あはは、変な冗談、おにいちゃんが死ぬわけないよ」
サマンサの反応は二人がちっとも予期していないものだった。アレンの言葉を
全否定し、アーサーの死を受け入れないどころかありえないことのように
みなし、アレンを相手にしなかった。
「・・・・・・い、いや、ですから・・・・・・」
「だって約束してくれたもん。この旅が終わったらちゃんと帰ってくるって。
わたしを迎えに来てくれて、こんなつまらない城をいっしょに抜け出そうって!」
アレンたちがいないとき、ベラヌールの町でハーゴンの前で誓いを立てた。
あのアーサーがその約束を破ることもまた、サマンサにとっては全く考えられない
絶対に起こらないと言えるものだった。部屋の隅にはまとめられた荷物があった。
「ああ、そうか!こっそり旅立つからきっと死んだってことにしたんだ。さすが
おにいちゃん、きっといまのうちにみんなが知らないところに行くための船も
準備しているんだろうなぁ。二人だけの冒険・・・楽しみだな~」
目を輝かせるサマンサに、アレンはこれ以上何を言うべきかがわからなかった。
一見病気が癒えまともに見えるサマンサだが、彼女はおそらくアーサーの死を
どこかで聞いてしまったのだろう。自分を愛してくれない人間ばかりに囲まれ、
ただ一人愛情を注いでくれたアーサーがもうこの世にいないという現実を
受け入れることを拒み、サマンサは自分で自分を崩壊させたのだ。そして今回
彼女を治せるものは何もないだろう。夢の世界から引き戻すことは誰にもできない。
「あっ!しまった!これはわたしたちだけのないしょの話だったんだ!もうすぐ
おにいちゃんに会えると思うとうれしくてつい・・・。お願いです、どうか
これは聞かなかったことに・・・しばらくしたらわたしたちはいきなり
いなくなっちゃうけどこういうわけだから心配しないでくださいね!」
「・・・・・・ああ・・・。誰にも言わないさ。神に、ルビス様に誓うよ。
旅の無事と成功を祈ってるぜ。アーサーにもよろしく伝えてくれ」
「はい!お二人もいつまでもお元気で!」
サマルトリアを出てからのアレンはずっと沈んだ表情のまま言葉もなかった。
親友の一番の心残りであったはずのサマンサを救うことができなかったからだ。
アレンの落胆の理由はセリアもわかっており、彼女もまた少なからずショックを
受けていたが、このままローレシアに凱旋するわけにはいかないと口を開いた。
「・・・ねぇアレン、もし国王があなたに責任を求めてきて、お前が娘と結婚して
アーサーの代わりにサマルトリアの王となって罪を償うのだ、と言ってきたら
あなたどうしていたのかしら?ちょっと気になっちゃった」
「うげっ!む、難しい問題だな・・・。責められたり殴られたりってのは覚悟
していたがそう来られると苦しすぎるぜ。全く想定してなかった・・・」
「サマンサ王女はわたしよりも美人で女らしい体つきだし、激しい戦いの傷や
後遺症もない。それでいて以前の病も癒えていたとあれば・・・うふふ、
案外あなたはあっさり転んでいたんじゃないか・・・・・・」
空気を変えるためにアレンをからかうつもりでセリアはこんな話題を投げかけた
のだが、言葉の途中で急にそれが遮られた。アレンがその口を自分の口で塞ぎ、
それ以上喋ることを許さなかったからだ。唇を解放するとすぐに彼女を抱きしめ、
「・・・こういう話はこれで最後にしろよ。いいか、おれにとっての最高の女は
これから先ずっと、死ぬまで永遠にお前なんだ。あの人のほうがきれいだとか
二度と口にするな。そんな寂しい・・・悲しい台詞はよ」
「アレン・・・・・・」
「難しい問題と言ったがそれはどう断るかってことだ。お前を捨てて罪を償うか、
それとも何を言われようがお前と生きていくか、そんなもん悩むまでもねぇ。
いざとなったらあのバルクの村だろうがそれこそ未開の地だろうが・・・
生きていく場所や方法なんていくらでもあるんだからよ。ただ・・・お前が
いないんじゃあ全ては真っ暗闇だ。他の全てを失ってもそこは譲れねぇ」
戦いの後始末のため自分の命すら差し出そうとしていたアレンであってもそれだけは
捨てることのできないもの、それがセリアへの愛だった。アレンがあたふたするのを
見て楽しもうとしていたセリアは、逆に照れ隠しをするのが精一杯になってしまった。
「・・・な、なかなか立派なお言葉ね。せいぜい口先ばかりでないことを願うわ。
あとはわたしからもお願いを一つ。自分ひとりで死のうとするのはこれっきりよ。
今日は何事もなく終わったからよしとして、次はちゃんと全部相談しなさいね」
「そうだな・・・わかった。余計な心配をさせてすまなかった。もうしねぇよ」
サマルトリアからローレシアへの街道を並んで歩く。もともとこの辺りはすでに
魔物たちが暴れることはなくなっていたので、平和になったからといってすぐに
旅人たちで溢れかえる他の土地とは違って静かだった。おそらく人々は自分の地で
祭りを楽しんでいるのだろう。ムーンブルクの亡者たちですら興じていたのだ。
ローレシアではいっそう賑やかで熱のある宴が勇者の凱旋を待っているはずだ。
「フフフ・・・だがサマンサ王女の言葉・・・案外間違ってないかもな」
「?」
「おれたちは誰もアーサーが死んだ瞬間も遺体も見ていない。そういう意味では
あいつは死んでいない・・・そう言うこともできるのかなって思ったんだ」
「・・・確かに。ハーゴンの報告と状況から彼が死んだとみなしているだけだわ」
ほんとうは二人ともアーサーの死を疑いようのない事実として受け入れているし、
その現実を背負って生きていく決意でいる。それはサマンサとは違う。しかし
彼女ほどではなくとも同じように夢を追うのもいいのではないかと意見が合った。
自分がいなくなったことを必要以上に悲しむなとアーサーの手紙には書かれていた。
彼の墓の前でうじうじと後悔や謝罪の言葉を述べ続けるのは彼の願いではない。
「じゃあそのうち行われるはずの彼の葬式も・・・思い切って欠席しちゃおうかしら?」
「バーカ、お前!国際問題だよ、マジにそんな真似をしたら!まあ・・・まずは
よそとの関係の前にローレシアとの話をつけないとな・・・・・・」
アレンには自分の国に認めてもらうべき多くの事柄があった。跡継ぎを産む見込みのない
体のセリアを妻にし、しかも子を残すために他の女性を迎えることはせずに自分の弟の
息子たちからアレンの次の王を選ぶということだ。またもう一つ大きな計画があり、
それはローレシアとムーンブルクを一つの国とすることだった。アレンとセリアが
共になるのなら互いの国も共になることで離れた大陸同士であってもこれまで以上に
人や物の行き来を促進し、ムーンブルクの急速な復興とローレシアの更なる繁栄に
つながる。理想の物語ではあるがそう簡単に実現しないのは確かであり、アレンが
次期国王の座から脱落するかもしれない要求だった。
「・・・でも何だか不思議だ。サマルトリアの時ほど緊張感や重圧を感じない。
普通に考えたら無理なことなのに・・・どうにかなっちまいそうな気がするんだ」
「ダメでも命までは取られないという違いじゃない?もしくはこれまでの旅そのものが
無謀そのもの、賢い人間ならやろうとしなかったことを成し遂げてきたからかしら」
なぜか二人は先の困難をそれほど気にしていなかった。他人事ではなく自分たちの
話であるはずだが、特に思い悩むこともなくローレシアに入り、民衆からの熱烈な
歓迎を受けてから城へ、アレンの父であるローレシア国王と権力を持つ高貴な者たちの
前に立った。すると、王はすぐに頭の王冠を外してアレンの返事を聞く前にその
頭に乗せて人々に向かって大きな声でこう言った。
「見よ、皆の者!ローレシアの新しい王がここに誕生した!たった今よりこの者が
この国を治める『ローレル王』の称号を得て人々を導き、裁くであろう!」
王に続いて、貴族や軍の長もまたアレンに近づき、彼に対して自分を低くして跪いた。
「我らは皆あなたに従います!あなたのよしとすることを何でも行ってください!」
「あなたは正義の炎を燃やす闘将。必ず我らの幸福となる事柄を求めるはずですから」
旅立つ前のアレンがローレシアのなかで見過ごされているどんな小さな不正や悪事をも
許し難く感じ、腐敗を除き去ろうと熱く父たちに迫っていたのを誰もが知っている。
世界を支配しようとしていた邪教と魔族たちを倒したことでその実力も証明された。
もはやアレンが王となるのに何の障害もない。ほとんど反対の意見は出ずに彼が
無事帰還したならば即位させるという決定がすでに下されていたのだ。
「・・・あ、あまり心配してなかったとはいえこんなにとんとん拍子に進むと
逆に怖いぜ。だがこうなりゃ勢いに乗るか。おれの望むことをなんでもして
いいのなら・・・こんなのはどうだ?」
セリアとの結婚やムーンブルクとの結合を語った。すると人々は拍手をしながら
『それは素晴らしいことだ』と言葉を揃え、アレンとセリアが夫婦となることは
この場で承認された。ローレシアとムーンブルクが一つの国となることに関しても
計画が速やかに進むように多くの物事がすぐに決められていった。ルビスの見えない
後押しがあったに違いないとアレンたちは精霊に感謝し、実際にその通りだった。
とはいえアレンたち自身の力も民の大きな者から小さな者まで喜んで自らの意思で
アレンたちに従おうとさせるものとなった。強大な敵から世界を救った二人の
勇気に皆感動し、恩返しの機会を求めていたからだ。しかしアレンたちが過度に
崇められ、神や精霊のように賛美されたりはせず、逆に人間離れした怪物として
恐れられることもなかった。世界中の人々の前でアレンが涙ながらに語ったように、
『破壊神には勝てなかった』ためであった。アレンとセリアはあくまで人間として
扱われ、過去の偉業が生きていくうえで重荷とはならずに生涯を過ごすことができた。
アレンとセリアは城の屋上、最も高きところに二人で立っていた。他の人間を
誰も近づけさせないようにして、二人きりの時間を楽しんでいた。すでに夜と
なっていたが、下からは賑やかな声が絶えず聞こえていた。
「・・・こんな幸せ、犬として地面を這ったあの屈辱の日々には夢ですら
想像することはできなかった。あのときのわたしに教えてあげたいわ」
「おれも同じだ。お前よりももっと昔・・・お前がラダトームの王子と婚約したと
聞かされたときに諦めた光景だ。ほんとうにこれ以上ないひとときだな」
ローレシアではこの日から一週間大規模な祭りがある。世界が平和になったことに
加え、アレンが王座に就いたこと、更にアレンとセリアの結婚・・・それらすべてが
同時にやってきた。歴史上最も大きな祝いの日々となった。竜王城やデルコンダル、
その他各地の力ある都市の支配者たちも皆訪れて祝福を惜しまなかった。彼らが
一堂に集結したこの機会をアレンは逃さず、すぐに世界的な同盟を結んだ。
『いま世界のあらゆる地に残っている好戦的ではない魔物たちを不必要に虐げること、
また脅威となる魔物がいなくなったので今度は人間同士で争い世界の王を決めよう
などと思い行動を起こすこと・・・それらを禁じ、破った国は他の同盟国すべてから
敵視され、総攻撃を受ける。民を虐げる悪政を行う者もそれと同じである』
かつて邪神や大魔王と呼ばれる存在を倒した後、世界に平穏が長続きしない理由は
それらにあった。勇者ロトが上の世界に帰還しながらも世界戦争に向かって進む
世を見限ってアレフガルドに降りたのも、竜王亡き後のラダトームが魔物の虐殺を
よしとしたためにハーゴンに目をつけられ、また悪霊の神々となるまでに至った
三体の有力な魔物から恨みを買ったのも、人間たちの欲望が原因だった。早い段階で
平和を乱す野心的な者たちへの抑止力となる条約と律法を他国の王たちに同意させた。
「これまでの勇者たちと同じ失敗は繰り返さない、というわけね。あなたに
しては頭が働いたわね。わたしときたら恥ずかしいことにすっかり浮かれて
そんなところに考えが及ばなかったというのに・・・少し悔しいわ」
「・・・おれじゃねぇよ。アーサーの最後の手紙に書いてあっただろ。これからの
ほうが魔物たちとの戦いの日々よりずっと大変だろうって。ただ剣で斬って
呪文でぶっ飛ばせばいいってわけじゃないからな・・・おれたちが失敗すると
いうよりは溜め息を尽きながら悲しい顔で生きているのがあいつにとっては
気がかりだったんだろうよ。あいつを心配させたくねぇからな・・・」
「・・・・・・」
「それに・・・人間同士だけじゃない、人間と魔物の共存・・・確かに完璧にそれが
実現するのはきっとおれたちの時代じゃあないだろう。だがアーサーはおれたちに
理解されなくても一人努力していた。そのおかげでハーゴンたちとの戦いは避けられた。
だからあいつの思いを継ぐことで・・・少しでも平和が続いていく、何より今でも
あいつがおれのなかで生き続けているような・・・そんな気持ちになれそうなんだ」
いまここにいるのは二人だ。それでもあの遥かなる旅路で苦難を共にしたのは三人、
果てしなき世界で自分たちは家族よりも固く結ばれた一つの体だと誓ったのも三人だ。
アレンとセリアは近々一つになるローレシアとムーンブルクの共同支配者であると
同時に世界の中心となって多くの難儀に立ち向かっていくことになるが、目には
見えない三人目の力が必ずや乗り越える力をもたらしてくれると二人は信じていた。
「・・・見ろよ、この果てしない大空、それに広い大地を。これからおれたちは
死ぬまでずっとこのぜんぶを命がけで守らなくちゃならないんだ。責任は重いな」
「ええ。どんなおきてを定めたところで平然と破る愚か者は絶対に出てくるわ。
いまは全てが順調に進んでいるけれど逆に何もかもうまくいかない日々だって
やってくる。生きることが辛い、苦しいと苦悩することも・・・」
「そうだな・・・でもおれたちはまだまだ若いんだ。力の限りやってやれば自然と
幸運のほうが引き寄せられるに違いねぇ。それでいてロンダルキアの極寒を、
あの凍える吹雪のなかを生き延びた経験もある。最後には絶対にうまくいくさ」
二人が肩を寄せ合うと、まるで二人の新たな門出を祝い、先に待ち構える多くの試練に
打ち勝てるようにと願いを込めたような花火が夜空に打ちあがった。
「まあ・・・きれい!」
「ああ、でも・・・もっと美しいものがおれのすぐそばにあるけどな」
「うふふ・・・相変わらずあなたの言葉はいつでも真っ直ぐね」
穏やかな笑顔で甘く口づけするアレンとセリアを、大きな音をたてて空を彩る
花火が照らしていつまでも続く愛を祝福し続けていた。
ローレシアの王アレンは十九歳で王となり、五十年間その地を治めた。治世の
はじめのころにムーンブルクと一つの国となることが認められ、二つの大陸は
更に栄えていった。十年が経過しても一向に彼と妻の間には子供が生まれなかったが
二人が三十歳になろうかというころに妻は妊娠し、無事に健康な男子を出産した。
最終的には五人の息子や娘を得て、彼らの血統と王権は続いていった。
アレンは妻セリア以外は誰も妻とせず、寝床に迎えることもなかった。ある日彼に
よって妊娠したという女が現れ、アレンが頑なに否定しても『王は酒に酔って私を
襲った』と主張した。だが、アレンは古い親友との誓いを守り酒を一滴も飲まないことを
その女は知らなかった。国をかき乱し金品と高い地位を手に入れようとする者の企ては
それ以外にも幾度かあったがことごとく失敗し、王の支配は盤石そのものであった。
七十歳になる前にアレンは自ら王位を長子に譲り、妻と共に表舞台から退いた。しかし
二人はそれほどの高齢にも関わらず息子や娘たちと同じくらいの年齢だと言われても
納得してしまうほど若々しかった。やがて二人はある日城から姿を消し、町どころか
大陸じゅうどこを探しても見つからずいなくなってしまったのだが、人々はそれほど
悲しまず、心配もしなかった。二人が愛されていなかったわけではなく、身体も頭も
しっかりしているのだから問題はない、きっと若い日々を思い出してまた旅にでも
出たのだろう、もしくはルビス様が二人を自分のもとに導いたのだと語り合った。
いまだに二人の遺体が見つかっていないこともあり、あの勇者たちは死なないのでは
ないかという噂が出始めたのもこのころからであり、民の間で語り継がれている。
勇者ロトの代から歴代ローレシア王の中で最も優れた王とされるアレン王の時代までの
記録を収めた『勇者伝』という書がある。不老不死とされる著者が書き記し続けた
歴史の書、その最後の一文は簡潔だが、これ以上なく明確なものだった。
『こうして、再び平和が訪れたのでした!』
これでエンディングも終わりです。DQⅡといえばやはり印象が強いのは
ロンダルキア、あの凍える真っ白な世界で、となるとタイトルは
『大空と大地の中で』にしよう、と考えました。作品中のサブタイトルにも
幾度もその名曲を歌った北の天才歌手の曲名を借りました。
ですが私がその歌手の曲の中で最も好きな歌が他にあります。アンコールが
終わって更にもう一曲、おまけを用意してくれるのに倣いました。